〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
「...蝉原勇吾の手により、私達の世界は混沌と化している。もはや、私たちが立ち上がるしか、道はないんや」
IS機関代表の田中・イス・カルゲが老体を無理して動かし、場を扇動した。
それに応えるのは、現状の蝉原を邪魔だと思っているまともな思考を持つ田中全員だ。
トウシはとても疲れた目でそれらを見る。
その優秀な頭脳でもうすでに気づいているのだろう。この集会...会議が無意味であることに。
そう、ぶっちゃけここにいる田中を全員を足してもトウシの足元にも及ばないのだ。だから、トウシもそこらへんに関しては諦観している。
会議は続く。
暗殺はどうか、どの様な暗殺なら通じるか、洗脳にはどのように対応するか、どの様に各々が行動するかなど、会議は多岐に渡った。
そして、その実行は私や『蝉原対策チーム』に押し付けられた。まだ、IS機関までもが蝉原に侵食されているわけでは無い。このまともなIS機関が、私たちの最後の砦なのである。
だがもうすでに、様々な国家が蝉原に支配されている為、このままではIS機関ですら蝉原色に塗り替えられてしまうだろう。
現状では、私の動きによって、『原作』であった『ロシアに核を落とさせたこと』や『日本の総理にサミットで自爆テロさせたこと』は未然に防止している。だが、このままでは蝉原に裏から乗っ取られて、私たちの世界は根本から死滅するだろう。
私が表面上では活躍し、なんとか未曾有の大被害を出さないようにしているため、世間での蝉原の評価は、『定期的にバグスペシャルと言う恐ろしい悪夢を出してくる、世界を乗っ取っている魔王』程度に収まっているらしい。もう大学を卒業し、一般企業に就いているウラスケがそう言っていた。
逆に、『蝉原対策チーム』からの蝉原への評価は、『恐ろしすぎる大魔王、蝉原勇吾』である。その各国を支配する恐るべき手腕や『悪』の総統としてのカリスマが蝉原の評価をぐんぐんとあげている。
...この世界はもう、終わりに近づいている。
「ねえ、トウシ」
私はトウシの部屋で密談を交わす。ジュリアもルシファーの世話で手一杯で、今は寝ているらしい。
「あ?なんや」
「私、諦めて、いい?」
「...お前らしくないな」
もう、トウシとの付き合いも10年来を超えている。
「...もう疲れた」
「...ワシもや。この世界は、多分、終わる。どう計算しても、どう都合よく解釈しようと、世界は蝉原に乗っ取られ、おもちゃにされ、終わる」
「...だよね?もう、諦めてもいいよね?」
私は今日、トウシに泣きつきにきたのだ。もう、この非情な現実に耐えられないのだ。何をしても無駄な虚脱感が、いつぶりか、いや、ずっと感じていたものが膨れ上がる。
「私さぁ、めっちゃ頑張ってきたんだよ?努力もしてきた。トラウマも少しは克服して、成長してきた。たくさんのことを、してきた。なのに、なのに、なのに...ずっとしんどい...」
トウシも、さまざまなことをしてきたのは知っている。コンピュータを使いハッキングを何度も繰り返して、私に世界を守るための指示を繰り出したり、蝉原への対策を私と同じぐらい、誰よりも頑張ってきたのを知っている。だけど、それでも文句を言わずにはいられなかった。
「......」
「もう諦めて、楽になりたい……」
トウシはそんな泣き言を、私と共に見つめる。
私は、『センエース』のことを考える。辛い時に、いつも考えるんだ。『原作』の事を。
だから、
「……そ、それでも……………………」
私が続けようとした一言に、トウシは、
「…………それでええ」
そう、感情を抑えた声でそう言った。