〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
私は、死亡届が出されたのを確認したあと、闇夜を駆ける。
今までは蝉原の妨害に全ツッパしていたが、これからは自身の力量を上げることに着手し始める。
どうやって強くなるのか...それは、
「そんな現状、概要すらようわからんものを吸って強くなろうとしている訳か」
「巨大なそれらを用いたら存在値1000にすら匹敵する力が得られる」
それは、世界中に存在する。それらの力を吸う事で、自らを強化しようとしているのだ。
「...まあとりあえず、存在を捜査せんことには始まらんな」
そう言って、トウシと私は調査を始めた。
ある場所はもうわかっているのである。だから、そこを調べれば...
「あっ、なんか反応ある。魔力のような...これはマナかな?不思議な反応...」
そうして、それを発見した私達は、その力をストックできるアプリを開発することにした。
これが長かった。とても長かった。きっとトウシ単体だったら10分もかからず出来た事なのに、私を仲介したことで、三年の月日がかかった。日中夜問わず、トウシに教えてもらいながら、ようやく...
「完成したぁぁ!!!」
「おめでとさん...」
トウシは徒労感を醸し出す目で私を見ていた。
そうして、私は、世界中を旅する事になる。
もちろん、修行も忘れずに、蝉原への妨害もし続ける。バグスペシャル9が発表されている今でも、ゴンズは元気に技量を磨いているため、私はそこで修行をつけてもらっている。
もう私も10年間はここに通っている。ゴンズも92歳とかその辺りなのに、よくやってるなーと思っている。今日も元気に張り切って地獄の修行を終えた時だった。
「死期が近い...」
「え?」
「ワイは、武道を介してか、お前とずっと修行をして来たからか、それとも田中家の力なのかはわからないが...やが、多分もうじき、ワイは...ワイ達田中家は全滅する」
「......私が防いで見せます。命にかけて」
そう、たとえ『運命』相手でも、私は負けないのだ。だが、原作に、記述はあったか?虚数アルファの田中家は全滅するなんて...
私は『未来視』の力をこの10年でかなり磨いてきた。だから、見通せる。そして、見通す先で『タイジするシガナイ運命』を用いるという無法コンボで、それが『運命』かどうかを判定した。
「っ!!!ゴンズおじさん!!!」
私は相手の未来を見るために、相手の胸に触れながら、1年、2年、3年と『未来視』を続け、数々の分岐点を通りながらも不確定な未来をみる。
そして4年後、ゴンズが約1500人程の銃を持った蝉原の用意したのだろう特攻部隊を相手に奮闘し、1000人を倒した未来が見えた。だが、最終的に体力が尽き、ボロボロとなったゴンズは心臓を銃で穿たれ、死んでしまった。
そして、それは『運命』ではなかった。変えられるということだ。『運命』だとしたら私が踏ん張り、運命だとしたら普通に変えればいいのだ。
「変えられますよ!ゴンズおじさん!ゴンズおじさんは奮闘して、死んじゃうけど、でも変えられる!」
私はそう言うが、ゴンズはいいやと首を振る。
「ど、どうしてですか!?死なないで済むんですよ!?」
「ワイは蝉原っちゅう奴がしとることにはうんざりしとる。この世界の連中もボロボロ死んでいっとる。なあ、一つ聞かせて欲しいんやが」
「な、なんですか?」
「お前が修行を乞うた理由は、アイツが原因か?」
「は、はい...」
突然、何を聞いているんだ?
「なら、ワイはそれで結構や。ちょうど、死に時を探していた所やったから」
「そ、そんなこと言わないでください!ゴンズおじさん!」
「...ムラハネ...お前がもっと幸せに生きれる世界やったら良かった。修行なんてせずに、必要にも駆られず、のびのびと暮らせる社会やったら良かった...」
「ご、ゴンズおじさん...?」
「ワイはお前を孫の様に見ている。やから、幸せになってくれ」
ゴンズおじさんはいつもの寡黙で無表情な顔を、ニカッと笑わせた。
私は気づいた。本当に死ぬ気であると。
「ご、ゴンズおじさんっ!!!!」
だったら、言わないといけないことがある。
「私は確かに苦しい時もあったけど、決して、修行を嫌に思った事はありませんでした!だから!」
「い、今までありがとうございました!」
その言葉に、ゴンズはふっと笑った。
「ーーー免許皆伝や」
_______
裏の世界にまで蝉原は侵食してきた。洗脳の魔の手なのか、直々に手を下しているのか、それはわからないが……300人委員会すら、蝉原の色に染まりかけている。
裏の世界を支配し始めた蝉原が始めたことは、300人委員会やIS機関、その他の機関で遊ぶことだった。
蝉原はここが人類の最終ラインと言うことを理解しているのだろう。手の内で遊ぶように私達を弄んだ。
当然、IS機関は最後の最後まで隠し通されることとなった。大いなる田中家こそが、この世界を救う最後の希望であると、理解しているのがこの世にいる賢者の総意だった。
だが、侵食開始から四年後。蝉原はーーー
ーーー田中家を殺し始めた。
『やっほー。みんなお馴染み、恐怖の混沌を叶える悪魔……蝉原勇吾だよぉ』
テレビでは視聴率60%を超え、同接は全世界5億を超えるその配信にて、蝉原は言った。
『今日からね、大いなる田中家を皆殺しにしようと思うんだ。あはは、大半の視聴者はわからないかな?まあわからないなりに聞いてくれよ、俺たちの仲じゃないか』
『えーっと、まずは知性レベル3の、田中シグレ。君からだ』
シグレ……?いま、コイツはシグレを指名したのか?それからも少し話をしていたが、私は唖然としてしまい、耳には入って来なかった。
「ーーーそれじゃ、いい夢見てね」
クソッタレな悪夢をか?
違う。そんなことを思っている場合じゃない。とにかく、シグレの元に行かないと。
私は自室から即刻転移して、シグレの家に向かった。
「シグレ姉さん!」
久しぶりに、4年ぶりに会ったシグレはまだまだ若々しかった。
「ん?ああ、なんやムラハネか……やっぱ生きとったんやな。お前が自殺なんてことするタマじゃないのはあたしが1番知っとる」
衝動的に来てしまったが、そういえば世間的には見れば私って死んでたんだった。やっべと思いつつも、なんかなんともなさそうなので話を続行する。
「ほ、放送みてた?」
私がそう言うと、シグレはため息を一つつきながら、
「当然やろ。とうとうウチらの家系が目をつけられたんやなって思ったわ」
「そんな他人事じゃないだろ!こ、このままだと、し、死ぬんだぞ?蝉原に何されるのかもわからないんだぞ?」
「んなこと怖ないわ。あのクソチンピラがあたしにできることなんてたかがしれとる。安心せえ」
「っっ!!バカぁぁ!!!」
「……お前が裏で蝉原の事でコソコソやっとるのは昔から理解しとった。やから、お前は抵抗してくれたんやろ?」
「き、気づいていたの?」
「当然やろ。もう30幾つやけど、まだまだ老眼にはなっとらんわ。お前はそれこそ、高校時代から蝉原を追ってるんちゃうん?」
「……うん。そう」
「やっぱそうよなぁ。やったら、あたしとしてはええわ」
「ど、どうして?どういうこと?」
「お前が必死こいて頑張ってくれた結果、今があるんやろ?なら、あたしはその結果を受け入れるし、なにより若者...というか子供やな。が、人質取られとる。行かない手段はない。もうあたしも30前半のおばさんやからなぁ」
「そ、そんな……そんなことを……」
「ああ、あと、こんな事いうと敗北宣言に聞こえるかもやけどなぁ……」
シグレはあえてニヤリと笑ったのがわかるぐらいの作り笑顔で、
「ようやく、異世界転生できるかもしれん」
私は絶句した。
_______
それから6年が経って、私を除いた全ての大いなる田中家が死んだ。
姉、シグレが死んだ。
師匠、ゴンズが死んだ。
相棒、トウシが死んだ。
親戚、全員が死んだ。
私は、私は私は私は私は私は私は私は私は、
『たくしたで』
まだ、
がんば、れる。