〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
「ゴンズおじさん……いってらっしゃい」
「ああ、帰ったら、また一緒に修行しような」
「……」
「なんや?黙って?」
「……私は、死に行くものを止めはしない。けど、せめて行く末を見せて……」
ゴンズは、自らの死を受け入れている。ならば、私が参上するのはお門違い。だが、これも蝉原がいなければなかった死と考えると、腸が煮え繰り返りそうになる。
「それは無理やなぁ。蝉原はワイら一族を多分、知性レベルの低い順に一人ずつ呼んで、的確に殺しとる。お前を除いてな。今のお前の能力がどれくらいあるのか、ワイにはわからんけど、多分蝉原の目は誤魔化せんのやろ?やったら、ええわ。くんな。迷惑や」
「……じゃあ、せめて、ゴンズおじさんが送る『未来』だけは見せて……それが私の……」
私は、無理を承知でゴンズに、その未来を見せてもらうことにした。昔に、蝉原を倒せなかった私にその責任があると思ったから。今日のことだったら、4年前のあの時より、高精度で見れる。
田中家が全滅するのは、私の責任だ。蝉原をあの時に倒せなかった、私の責任。
「……まあ、それならええか。それじゃあ、みい」
私は、ゴンズの胸に触れる。もう96となるのに、筋骨隆々とした体つきをしていた。そんな頼れる胸に触れ、そして、
私はゴンズが送るだろう未来をみる。
__________
ぎゅっと、白の道着の帯をしっかりと巻き終えたゴンズは、指示どおり、広々とした草原に出た。そこで相対するのは、一人の男だった。
「えーっと、アンタが田中・イス・権豆でいいのかな?今から死んでもらうけど、大丈夫?」
「死の覚悟なら、武に携わった時から、とうにできとる。なにも恐ることはない」
「……アンタも、洗脳失敗か……はぁ、死で脅したら大体の連中は絶望して、洗脳出来るんだけど……まいっちゃうね。俺のカリスマって、結構高いと思うんだけどなぁ」
「所詮は与えられた力を気ままに振り翳す悪党が貴様だ、蝉原。チンピラ風情が、ワイに勝てると思うな」
「死による交渉は失敗と、それじゃあさ、俺の部下になりなよ。高待遇で、楽しい生活が待ってるぜ?女も金も、好きなだけやるよ。死にふせる前の老体とはいえ、使い道はいくらでもある」
「断る。ワイは金も、女もいらへん。ワイに必要だったのは、嫁はんと、お前なき世界や」
「結局、女いるんじゃないか。……そうか、そうか。アンタの仕留め方がわかったよ。ほんと、君たち田中家ってやつは、俺にとって都合のいい人間たちだ」
「……どう言うことや?」
「ん?ああ、滑稽で面白いって意味さ。君たち田中家はもう20人ぐらい接してるけど、全員が、全員、そう言う態度をとっては死という絶望を拒絶し、そして最後には結局絶望に染まるんだ」
「絶望なんて、してやらへんよ」
「ん?あっ、そう。それじゃあショータイムの始まり、始まりー」
蝉原は興味なさげに、そう言うと、
「限定空間ランク10」
蝉原はこの草原よりも広い、特殊カスタマイズされた空間へ、ゴンズを引き寄せた。
そこは、東京ドームがまるまる収まるほどの、巨大な限定空間。そこで、ゴンズはあいまみえる。
大勢の人間がナイフや銃を構えてこちらを見ていた。
声が聞こえる。
ーーーそれじゃあ、スタートーーー
ゴンズもその声に合わせてというわけではないが、動き出す。
怒涛の発砲音。しかし、ゴンズは全ての引き金、角度を計算し、銃弾のアラレを、完璧に捌ききる。
そうして接近戦に持ち込んだゴンズは、ナイフや小銃を持っている者たちと対峙する。
ゴンズの鈍い一撃で敵の頭が割れる。ゴンズのニ撃目で敵の体が宙に舞う。だが撃たれる銃弾、それをひらりと回避する。ゴンズは戦闘続行しながらも、銃弾を避け続けるという修羅の如き振る舞いをみせる。
虚数アルファ現最強の修羅。田中・イス・権豆の動きは、誰にも止められない。
血飛沫が舞う。どうしても掠めた銃弾が身体を削る。それでも、ゴンズは止まらない。
銃弾を避けるために動き続ける。避け続ける。一発でも重要な器官、血管に当たればお陀仏……だが、それがどうして、諦める理由になるのだ。
そう言わんばかりに、果敢に、攻める。攻める。
ゴンズの頭脳は弾き出す。このままでは、自身は体力切れになって、死ぬ。
今でも、もうすでにガタが来ているこの肉体でどこまで戦えるのか、それはゴンズにもわからない。だが、脳裏にあるのは、嫁と、弟子であるドウナ、そして娘ともいえる彼女の姿。
「うおおおおおおおっ!!!!!」
ゴンズは許さない。この世界を穢す邪悪は、この自身が討ち取る。もうこれ以上、生きとし生ける生命を穢させない。そのために、この人生で鍛えた体、技術、そして根性。その全てを総動員する。
そうして、また一人、潰し終える。その死体を盾にし、タックル、そうして鬼の拳を繰り出す。
一人、また一人と潰していく。
そうして、殺した数は1000人を超えた。
もうゴンズの体は死屍累々。体は血に塗れ、白の胴着は真っ赤に染め上がる。筋肉は断裂寸前で、田中家の優秀な頭を持っていても先を読みすぎてクラクラする。
つい足を止めたくなる。
「ワイには……無理なんか……?」
「……だ……が……」
ゴンズは思い出す。
『怖い時や苦しい時は、それでも、叫び続ける勇気を!って言うんですよ』
『……それに、なんの意味があるん?』
『え?いや、まあ、そこは私にもわかりませんけど……とにかく、すごい覚悟を感じませんか?』
『なんやそれ』
急に脳に湧いてでたのは、愛弟子との記憶だった。
……そうか、それが、絶望へのお前の立ち向かい方か。
今、わかった。
ゴンズは死にかけ寸前なのにも関わらず、構えを解かない。そうして、駆け出す。残りの500人を撃破するまで、
筋肉は既にボロボロ、全身が筋肉の炎症を起こしており、多量の失血のせいか眩暈までする。だが、それでも、
「たし……か、こうやったか……」
ゴンズは唱える。それは諦めることを許さない鎖。
「……それでも、叫び続ける勇気をっっっ!!!!」
愛弟子との思い出、そうして目覚めるのは、
「……プラチナ、スペシャルっっ……」
ゴンズは獣と化して自身の可能性を開花させる。だが、それは携帯ドラゴンが使えないゴンズには無用な長物。だけど、証として刻まれた。
それは、この理不尽な世界に抵抗すると言う立派な証だ。
「はあああっ!!!!」
「せいやっっ!!!!」
殺す、殺して、コロシ続ける。
武の獣と化したゴンズはそうして、蝉原の尖兵、1500人全員を殺し切ることに成功した。
その場にある死体達に埋もれて、ゴンズも倒れた。だが、その場にあった死体が一斉に消える。
「へぇ、倒し切るんだ……俺の予想だと、1000人殺し切るあたりで限界を迎えると思ってたんだけど」
パチパチと無感情な拍手をしながらゴンズの目の前に降り立ったのは、蝉原だった。ゴンズは死にかけの老体に鞭を打ち、そして、
「蝉……原……勇吾……貴様は……ワイが……」
ゴンズは立ちあがろうとする。だが、立ち上がれない。もう体が悲鳴を上げ続けて仕方がない。
だが、それがどうした?その程度で、田中・イス・権豆は屈さない。
「ワイが……貴様を……殺すっ!!」
ゴンズは限界を超えて、更に超えた。そうして、立ち上がると、構えをとった。全ての行動が遅く、もうすでに死に体だったのがよくわかる。
「そっかぁ、俺をアンタが、ね。それは素晴らしいことだ」
「……………………貴様を、このテで……」
「うんうん、素晴らしい闘気だ。尊敬に値する……とは流石に言わないけど、『面白い男』ぐらいの評価は下してあげる」
「………………コ……ロス…………」
「それじゃあさ、俺を殺す前にさ、もう一回だけ戦ってみようか次の敵は一人だよ。しかも女性さ。俺はなにも手出ししてないし、だから、問題なくアンタなら倒せるさ」
蝉原は笑いを必死に堪えたような声でそう言うと、彼女を呼び出した。
「来なよ、田中・
そうして、蝉原に召喚されたのは、ナイフを持った、あの日の女性だった。まだ若々しく、会ったばかりの初々しさを想起させる。
「お、オマエは……」
「じゃじゃーん、なんと俺の声に応答して来てくれましたー、貴方の妻、寿美礼さんでーす。拍手ー」
ゴンズが初めて戦場出した感情らしい感情は、その震えた声に詰まっていた。そうして、そう言うと、
「ん、んなわけないやろ……そんな、死者の蘇生すら……」
「ん?ああ、やっと俺の配下にでもなる気がおきた?俺はね、死者の蘇生すらできるよ。バグの力を使ってね」
「あ……ああ……」
「まあ、嘘だけどね。完全な死者蘇生とか、多分誰にも出来ないんじゃないかな?神の如き力を持つ今の俺が全力を出しても、ゾンビ状態で復活させるのがやっとだった。完璧な死者蘇生なんて、きっと誰にも出来ないよ」
「ゾンビ状態……やと?」
「ああ、俺と言う魔に甦らされたせいで、彼女は絶望の縁にいる。さあ、救ってあげてよ、愛妻家のゴンズさん?」
スミレがナイフをもってして襲いかかってくる。ゴンズは、
「む、無理や……ワイに、ワイにこの女を、スミレを殺すことなんて出来へんっっ!!!」
なんとか死に体で躱わすものの、ゴンズは動揺したまま動けない。明細な頭脳が機能を停止してしまったかのように。
「たすケて……あなた……」
「っっっっっ!!!!!」
「こ、こんなの、ニセモンやぁ!!」
「残念、魂と外殻だけは完璧に入れ込んだから、ソイツは殆ど、アンタが愛した妻さ」
ゴンズは寿美礼の目を見て、ナイフを一度食らった。それだけでもわかった。コイツは、この人は、正真正銘、自分が愛した人、その人だった。
そのスミレの発した一言一言に、ゴンズは絶望の表情をちらつかせる。そうして避けきれずに足の力が抜けた時ーーー
ーーー心臓を愛する妻に貫かれた。
「あっ……あああ……」
その事実が、身体中の気血を抜かしてゆく。
そうして、ゴンズは理解した。先ほどの戦闘で、絶望を理解していた気になっていた。いや、実際、田中家の鋭い頭脳で絶望がなんたるかは理解した。だが、それでは足りない。真の絶望には、まだ、足りない。
愛した妻が死んだとき、胸が裂けそうなほど辛かった。
その時も絶望した。
けど、違う。
これは、これは違う。
愛する人に殺されることが、いかに辛いかを知ったゴンズはーーー
ーーー「ああ、蝉原……」
「んー?なに?」
「……洗脳、してもらってええ?」
「そっかぁ、でもしてやらない。だって、今のアンタは絶望しきってて、面白みがーーー」
「頼む……もう、嫌になった……この世界は貴様にぐちゃぐちゃにされ、終わる。それがようわかった……」
「あれぇ?でも、アンタって報告書によれば、ムラハネちゃんを鍛えてくれてるんだよね?その子はどうでもいいの?」
もはや走馬灯のように流れてくるのは、ムラハネとの修行。
『けっ、稽古を、修業をつけてください!』
『...どうやったら解消できるかどうか...わからないんです』
『っ!はい!今日もありがとうございました!』
「ああ、ああ……」
抜けていく、抜けて抜けて、空っぽになる。
「あっはっは、はははははははははは!!!!」
蝉原は笑う。嗤う。ゴンズの無様を嗤う。
「君たちみたいなさぁ、俺は絶対に折れてやらないみたいな面して、いざこんな状況になったらすぐ簡単に折れる……それが田中家、大いなる田中家さ!!!ふはははは!!無様、無様だなぁ!!!!!」
蝉原は笑って、そう言いながら、
「ふう、まあ、アンタみたいな老体でも使う価値はあるし……洗脳開始っ」
ゴンズの頭の中から大事な、大切な記憶がどんどん消えていく。消えて消えて、そうして最後に残ったのは、洗脳の恐怖でも、死への恐怖でもなく、『愛』だった。
『ああ、俺と言う魔に甦らされたせいで、彼女は絶望の縁にいる。さあ、救ってあげてよ、愛妻家のゴンズさん?』
妻はいま、絶望の縁にいる。
いずれ、この悪魔とドウナや娘は、衝突することになる。
ーーープラチナスペシャル『不屈の魂魄』が芽吹く。ーーー
ムラハネから貰ったソレは、ほんのちょこっと、ほんのちょこっとだけ、ゴンズを奮い立たせた。
ーーー今、ここで、ワイがやられたら、今度は弟子達がーーー
だから!!!
「うおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!」
心臓を穿たれた死屍累々のゴンズは立ち上がり、スミレを、
「……ごめんな」
「いいんデス……お願い……シマス……貴方」
ゴンズは目を閉じて、キリッと開けてから、寿美礼の首に手刀を入れた。そうして、寿美礼の首をスパリと、人生最高の神技で切り落とした。
ーーーアイシテルーーー
その告げられた言葉に、朦朧としていた意識は全て吹き飛んだ。
「蝉原……お前を殺す……ワイの武をここに捧げる」
超スピードで駆けるゴンズ、戦いは一瞬だった。圧倒的数値差で、蝉原はゴリ押そうとした。ただのパンチ、それだけでゴンズは吹き飛ぶはずだった。
だが、蝉原のパンチを躱わしたゴンズ。そのままスンと音がないぐらい綺麗に懐に入ったゴンズは、
「これがぁ!!!ワシの!!!全部やああぁ!!!」
心臓は貫かれ、身体はぐちゃぐちゃで、道着はズタボロ。敵は自分より格段に強大。それでも、
それでも、
「叫び続ける勇気をぉぉぉ!!!!!」
全力の正拳突きを蝉原に放った。それは、生涯をかけたその技は、音速を遥かに超えて、蝉原に突き刺さる。
「本当に、『おもしれー男』……くくっ」
蝉原は笑いながら、
「まあ、『ゲーム』は俺の『勝ち』ってことで」
意味深に、そう言った。
未来視はそこで途切れた。
_______
「ほな、行ってくるから」
「……」
地面に膝を付いたまま、わたしはつい、遠ざかるゴンズに腕を伸ばしかける。
だけど、それを我慢して、
「いってらっしゃい……」
頑張って笑顔で、送り出した。
ソレをみて、ゴンズは、
「いってくる」
二度は振り返らなかった。