〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
センは目を覚ました。見知らぬ場所に座らされており、手には錠をかけられている。
センは気づいた。自分が売られたのだと。ニュースは見ていた。自身が蝉原の元へ赴けば、バグスペシャル32の放出は停止されると。
世論は言った。センエースを差し出せと。
政府は言った。センエースを囮にしろと。
企業は、警察はーー
だが、そんなのなんて正直どうでも良かったんだ。センは本当なら、まだ抵抗する気があったんだ。センは目の前の1億人より、蝉原に抵抗し続ける地獄の日々を選んだ...はずだった。
全部、知っていた。センは世間知らずではないのだから。
一つ知らなかったことと言えば、自分が『蝉原対策チーム』に売られたということ。
センはとてつもない虚脱感に塗れた身体で、顔をあげた。
テーブルを挟んだ、そこには、『悪』の帝王。恐ろしすぎる大魔王、蝉原勇吾が豪華な玉座で足を組んでいた。
「ーーーいやぁ、センくん、ようこそ。まあ、まあ、座って、座って。ほら、鍵。手錠なんか、外して、外して。え? 拘束するように命じたのはお前だろうって? そんな細かいところは気にせずに、まずは飲もう。じゃーん、君と飲もうと思って用意させたシャンパン。グー・ド・ディアモン。御値段、なんと2億5千万円。頭おかしいよね、はは」
蝉原は座ったまま、テーブルにあるグラスにシャンパンをジョボジョボと流していく。
センのグラスにも注いだが、センは手錠をかけられている。それを理解した上で、嗜虐的笑みを浮かべながらグラスに口を付け、蝉原は言う。
「いやぁ、なんていうか、本当に『運命』ってヤツの存在をバシバシ感じるよ。中学の時、唯一、俺にさからった君が、今も、こうして、真正面から、この俺に逆らっている。なんだか感慨深いじゃないか。まあ、全部無駄に終わったワケだけれど」
「......」
「でも、まあ、当たり前だよね。俺は不死身で、人の心を操る事ができる。実際、無敵さ」
「......」
蝉原はグラスをぐるぐると手で回しながら、優しげにそう呟く。
「俺は完全なる王になった。ただのヤクザじゃない。有言実行。俺は、ちゃんと宇宙一のヤクザになった。世界の暴君。誰も逆らえない闇の帝王」
「......」
「どんな気分だった?センくん。外堀をどんどん固められて、政府も、企業も、警察も、世論も、みんながどんどん、君の敵になっていく恐怖は」
「......」
「ついには、君が唯一信頼していた俺対策チームまで君を見放した。最も信頼していた連中に売られた今、君は、どんな気分なんだい?」
センの手に力が入った。今なら、この手錠だってそのまま破壊できそうな気すらした。それをみて、蝉原はぷぷぷと笑ってから、
「なにかこたえてよ、センくん。つまんないじゃん」
そう、言った。
センはゆっくりと、それでいて虚無感に溢れた顔をしながら言う。
「蝉原」
「ん?なになに?」
蝉原は、それをニヤニヤと楽しそうに、心底楽しそうに見る。
「お前は、どんな気分だったんだ?」
「はい?」
蝉原の顔は心底わからない様にも、それでいてセンが言いたいことは全てわかっている様な、不思議な顔をしている。
「俺にはどうしても理解ができない。どうして、お前は、平然と、あんなマネができた……どうして……」
「あんなマネ?それって、どれのことを言っているのかな?バグスペシャル17で盛大に10億人を標的に超強化して、なかなか死なない結核にしたこと?それとも、バグスペシャル21の致死率100%の梅毒より酷い症状がでるやつで君の同僚だったトト何とかちゃんが死んじゃったこと?それともーーー」
「全部だ」
「なーんだ、ぜんぶかー。あははー」
蝉原は惚けた様に笑った。