〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
「んー、どんな気分かって言われてもなー、ちょっとやってみたって感じでしかないからねぇ。だから、あえていうなら、ユーチューバー気分かな。タイトルをつけるなら、あえて世界を壊してみた(笑)的な。あはは」
「……無駄だと思うが言う。もう、やめろ。その力を世界のために使え。そうすれば、お前は神になれる」
「なりたくないよ、退屈な神様なんて」
「蝉原……っ」
センは怒りかけて、そして、やめた。心に空いた穴から感情が流れていく様に、するりと、抵抗の意思が剥ぎ取られていく。
その様子に蝉原は、センの頭を撫でた。それは、勝利宣言。
「これからも、俺は、この世界で遊ぶ。俺を選んでくれたバグと共に、俺は、永遠に、この世界を穢けがす狂気の具現であり続ける」
センにはもう、抵抗の意思はない。
「......」
「たぶん、これは、運命だったんだよ、センくん。俺と君の繋がりも、何もかも、すべて。世界は、俺という混沌のために存在した。だから、俺は、これからもずっと、運命が命じるままに、他の奴には出来ない事を平然とやってのけていく。どうだい。痺れるだろう。憧れるだろう」
だが、最後に聞きたいことがあったのか、センはゆっくりと言う。
「――蝉原。その力があれば、完璧な秩序の統合や人類の倫理的な完成すらも可能だった。お前はバカじゃない。他人の痛みが分かる賢い人間だ。バグの力が使える今のお前なら、誰もが理想とする本当の完全世界だって創れた。完全なる王になれた。誰もが崇め奉る、究極を超えた真の神にだってなれた! なのに! ……どうして……なんで、わざわざ無益な混沌を撒き散らす? その行為に、いったい、なんの意味があるというんだ」
そんな、最後のセンの慟哭に対し、蝉原はにっこりと微笑ってから返した。
「俺にとっては、現状が完璧な世界さ。この世の誰もが、この蝉原勇吾に恐怖している。蝉原勇吾という無秩序な恐怖に染まったこの世界こそが俺の理想。ヤクザの一等賞で終わるはずだったこの俺が、今や、恐怖の大王そのもの。いやぁ、ノストラさん、すごいよね。俺の登場を予想していたなんて。まあ、時期はちょっとずれているけど」
「......」
その返答に、センは絶望に染まり......
「今の俺なら、この世界を滅ぼす事だって容易い。すごくない? すごいよね。最高だ。現状こそが、これ以上ない理想郷だ」
そう言う蝉原を、最後の想いを振り絞って反論する。
「何が理想郷だ……今の、この世界は、ただの地獄だ」
「そうさ。ここは、地獄という名の理想郷。みんな、俺にいなくなって欲しいと思っている。俺の力で甘い汁を吸っている連中ですら、本心では俺に恐怖を抱いている。本当は俺を殺してやりたいと思っている」
「そりゃそうだろう」
センは見てきた。蝉原対策チームとして活動するさながら、同じ『悪』すらも、蝉原にはとてつもない恐怖を感じていることを。
「それほど恐れていながら、嫌っていながら、でも絶対に逆らえはしない。――どれほどの残虐な悪魔であろうと、底を知らない欲深な鬼畜だろうと、恐れを知らない感情が死んでいる闇人形でさえ、俺の事だけは心底から恐れる。俺を前にすれば、誰も彼もが、例外なく、神に祈るだけの矮小な羽虫になりさがる。これぞ、俺が理想としていた世界。一切の妥協がない、蝉原勇吾という、この世で最も罪深き【恐怖の象徴】に支配された世界」
「......」
「これから先も、俺は、この世界を、生かさず殺さず、ジックリと壊していく。誰一人、幸福になんかしてやらない。世界は、俺という恐怖に溺れていく。素敵な話だと思わないか?」
それを聞いたセンは、ははは、っと乾いた笑いをしてから、まるでなぞなぞの答えを教えてもらうかの様に聞いた。
「………………蝉原……二つ、聞いていいか?」
「ん?二つも?おいおい、センくん。君ってば、随分なよくばりさんなんだね。んー、でも、まあいいよ。では、一つめをどうぞ」
「直接触れなくても操れるという事を……どうして隠していた? 操れる人間の数も、本当は無限なのに、なぜ一万人限定だと嘘をついた……右目を潰せば洗脳を解く事ができるという嘘を……なぜ……なぜ、お前は、その能力に限界があるようなフリをした」
「だって、この能力が完璧だって事が知られたら、抵抗する気がなくなるじゃん。でも、デスノートばりに弱点があれば、どうにかしてやろうって思うだろ? 実際、君たちは必死になって俺に抗った。おもしろかったよ。無駄なのに、必死になって、色々と対策方法を考えて。くくっ」
蝉原はセンに言った。
「センくん。君は『田中家』と言うのを知っているかい?」