〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
「センくん。君は『田中家』と言うのを知っているかい?」
「田中家?知らない...なんだそれ...」
「あれぇ?田中トウシって奴に、聞き覚えがあるかなぁって思ったんだけど、勘違いだったかな」
「田中...トウシ...っ!ははは...まさかここで一本噛ませられるとは思わなかったぜ。田中トウシ、田中トウシね...まさか、あいつがお前に立ち向かったっていうのか?」
センは記憶にあるソイツを引っ張り出す。あのいけすかない顔をして、自分とおんなじなのに、常に一歩先をいく。なのに、自分よりも賢くて...
そんな、中坊の思い出。
「ああ、そういうことさ。彼の正体は、大いなる田中家という、いわば世界を牛耳るエリート集団...そのトップさ」
蝉原は笑いながら、『田中家』について話す。
「彼らは実に面白くてね。様々な方法で俺を殺しにきたり、世界征服の妨害工作をしたりしてきた。その中には、君を用いた作戦なんかもあったりしたんだ。実際効果は発揮した」
すごいよね、と、蝉原は笑って言う。
「でも、そんなエリート集団も当然、俺には敵わなかった。全員殺したよ。まあ例外はあるけどね。別に、脅威があったわけじゃないんだけど、向こうも万策尽きたっぽくてさ。つまんなくて殺しちゃった。けどね、田中トウシだけは違った」
「トウシ...だけは?...どういうことだ?」
「これを見てみなよ」
そうして、蝉原はセンに、自分の腕を見せた。
そこには、小さく紫色になっている部分が見えた。
「っ!まさか」
「そう、そのまさかさ。彼は俺にすら通用する毒を最後に作り上げ、俺に喰らわせた。すぐに治せるけど、まあ、世界一の天才の末路ってことで、そのままにしてある」
「......それを俺に見せて、何がさせたい?」
蝉原はセンの質問には答えず、自身の話をする。
「...この俺の洗脳能力にも、実は、本当に、一つだけ弱点があるんだよ。なんと、びっくり、強い心を持っている者には通じないんだ」
センの耳がピクリと動く。
「.........ウソくさすぎる……ということは、まさか……事実か?」
「あははっ、流石、俺をよく分かってらっしゃる。――そう。事実だよ。実は、俺、君の事をずっと操ろうとしていたんだ。でも、一度も出来なかった」
「......」
「一万人に一人くらいの割合で、操れないくらい心の強いヤツがいた。けど、どいつもこいつも、ちょっと追い込んでやったら、すぐに操る事ができた。心の強さって絶対のものじゃなくて、【力を入れている時の腹筋】みたいなもので、くすぐってやれば、簡単に緩むんだ。でも、君は今の今まで、最後まで操れなかった」
...自分でも、何故今諦めていないのか、セン自身わからなかった。この世に諦観し、絶望し、自分が思う世界でいちばんの天才、田中トウシすらも死んだ...なのに、それでも諦めなかった何か。
「......」
「今のところ、この世で君と...あと一人だけだよ。何をしても操れなかったやつは」
「......」
「ぶっちゃけちゃえば、君達とのゲームは、どのくらいで君と後もう一人の子のことを操れるようになるかっていう検証だったんだよ。けど、君は最後の最後まで操る事ができなかった。今もだ。つまり、君は、この期に及んで、まだ諦めていないってことなんだろう。すごいね、尊敬するよ」
「......」
「俺は、生まれてこの方、誰かを尊敬した事はない。けど、君の事は本気で尊敬する。そんなヤツと幼馴染でちょっとした因縁もあるっていうのは、なんだか、冗談じゃなく、本当に『運命』というものを感じてしまうよ」
「......」
「センくん、二つ目の質問の前に一ついいかな。君がお巡りさんになろうと思ったのは、俺が原因じゃないかと予測しているんだけど、そのへんどうかな?」
センは限界を迎えようとしているのが、自身の感情だから、よくわかっていた。だがそれを否定する、いわゆる勇気や底意地と言われる感情もあり、センはそんな何故か迸る自身の感情を謎に思いながらも、もう、諦めてしまいたい気持ちでいっぱいだった。
「……ああ、お前が理由だ。お前に対抗できる立場になって、お前が何かヘマをしたら捕まえてやろうと思った。……あの時、お前は、そのぐらい俺を怒らせた。もし、あの経験がなかったら、たぶん、俺は、経済学部に入り、外資系の企業にでも就職して、投資銀行家かコンサルタントをやっていただろう。警察よりも、そっちの方が俺にはあっている」