これは初めに言っておかないとならないかなと。
ただまぁ心といえばペルソナみたいなね。
作者の脳がそうなってたので。
もうサブタイトルはこれでいいかなってなったわけです、はい。
それはそうといまさらながらに思うこと。
あれ、大賀って微妙にルイズより年下じゃね?
ルイズとギーシュが飲んだホレ薬を解除するためには、ガリアとの国境の境にある“ラグドリアン湖”の“水の精霊”から手に入る“水の精霊の涙”が必要とのことで、大賀たちは馬に乗ってはるばるその地へとやって来た。
「おおー! 綺麗な湖だな! それにデカイ!」
面倒な状況であることは間違いないが、今回は任務とかではないので、大賀は観光気分でラグドリアン湖の美しさに感嘆の声を上げた。
小高い丘から見下ろすラグドリアン湖の湖面は陽の光を受けてキラキラと輝いている。
その大きさは元の世界で言えば琵琶湖とかそれくらいだろうか。
「あれ、大賀。ここら辺マンドレイクが生えてるかも」
「え、ほんとかルーシー?」
頭に手を当てて何やら感覚を集中させているらしいルーシーの姿に、大賀は湖から視線を外してルーシーを見つめる。
「うん。なんかちょっとリンクしたっぽい」
「ってことは、それを見つけて栽培できればまた“マンドレイクネットワーク”を構築することも……」
「可能かも」
「おお! そりゃー助かるぜ。まぁ何かある度にこんなに移動してちゃさすがに距離の問題で繋がらないだろうけど、携帯がない世界だしな。何がいつ役に立つかわからねー。いまはちょっと無理だけど、帰りには忘れずに探していこうぜ」
「そうだね!」
大賀の言う“マンドレイクネットワーク”とはマンドレイク間で行えるテレパシーを利用した情報網のことだ。
元の世界では学校内で栽培し、クラスマッチの時などは前もってその場所に埋めておくことで、他生徒たちの動向を知り、そのイベントを乗り切るために役立てたりもした。
情報の大切さは身に染みているし、ルーシーも最近は大賀が“プレート魔法”を使えるようになってしまったために、手伝いの場が減ったことを残念に思っていたので、これは二人にとって朗報と言えるものだった。
「うーん……」
思わぬ収穫が得られそうなことに喜んでいた大賀たちだったが、一方でモンモランシーは馬上で何やら難しい顔をしていた。
「どうした?」
「なんか変なのよね……」
「変?」
大賀の問いにモンモランシーはスッと湖面を指差した。
「ほら見て。あそこに屋根が見えるでしょ。湖の中に沈んでるけど、あれはここにあった村よ。ラグドリアン湖の水位が上がってる……」
「水位が上がってるって……何か自然現象的なアレか? 湖だから関係ないだろうけど、温暖化でどっかの氷が溶けたみたいな」
大賀の言葉の意味がイマイチわからなかったのか、モンモランシーは軽く首を傾げると、馬を降り、丘も下りて、湖の水にその指を触れさせた。
その後に続こうとした大賀に、同じ馬、大賀の後ろで二人乗りをしていたルイズの声が待ったをかける。
「だっこして」
「はいはい……」
もうこれまでの道中で色々と面倒になっていた大賀は、その言葉通りにルイズを抱っこして馬から降ろす。
大地に足をつけたルイズは満足そうな顔で大賀の服の裾を掴んだ。
大賀は溜息を吐いて、モンモランシーの下に向かう。
「ふが! ふがふが……ふごっ!!?」
その後ろで未だに簀巻き状態のギーシュは、モンモランシーと二人乗りをしていたその馬から何とか自分も降りようとして、落馬して、のたうち回っていた。
顔面から落ちたのでとても痛そうだ……鼻血もたらりと垂れた。
「水の精霊は、どうやら怒っているようね」
「怒るって何でだよ」
「それは……わからないけど。誰かが失礼なことでも言ったのかも」
「そんなことで村を沈めたりすんのか。水の精霊ってのは」
「前に父上が領地の干拓を行う時に実家に招いたことがあったんだけど、“歩くな。床が濡れる”って言って怒らせて、干拓は失敗したわ。それまで何代も任されていた水の精霊との交渉役も降ろされて、当然のようにモンモランシ家も零落」
モンモランシーは乾いた笑いを漏らした。
「いや、そりゃ完全にお前の父親のせいじゃねーか」
「……そうだけどね。そう言った悪口に普通に怒るってことよ」
「なるほど……」
精霊とかイメージでは神秘的な存在に思えるが、案外俗物的だったりするのかも知れない。
「そういや、お前ってモンモランシー・モンモランシっつーの? 佐倉桜とか結城勇気みたいな名前だな」
「退学してる人には言われたくないけど、フルネームは“モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ”よ」
「あ、そう……(また長い名前だ。覚えられねーっつーの)」
大賀が気になって尋ねたことだったが、その答えに内心で愚痴る。
そんな大賀はぶっちゃけルイズのフルネームに関してもきちんと記憶しているか怪しかった。
「でよ、どうすりゃその水の精霊ってのに会えるんだ?」
「それはわたしの使い魔の出番ね」
そう言ってモンモランシーは腰に提げた袋から、鮮やかな黄色に黒い斑点がいくつも散っている小さなカエルを取り出した。
「カエル!」
カエルが嫌いなルイズがぴょこんとその場で飛び跳ねて、より一層に大賀の服の裾を掴む手に力を込めた。
「お前の使い魔ってカエルなのか」
「そうよ。名前は“ロビン”」
大賀はそうかと頷いたが、さすがにカエルとキスして契約するのは嫌だなと思った。
モンモランシーは続いて取り出した針で自分の指を軽く突き、ぷくりと浮いた赤い玉を、その血を、ロビンに一滴垂らした。
「いいこと? ロビン。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟主の一人が、わたしが話をしたいと言ってることを伝えるのよ」
魔法で指の傷を治療したモンモランシーがその指を立てて、ロビンに言い含めている。
ロビンはその内容を理解したのか「ゲコ」と一声鳴いて頷くと、ぴょんとラグドリアン湖の水中へと消えていった。
「ロビンが水の精霊を呼びにいったわ。見つけたら連れてきてくれるでしょう」
「どうなることかと思ったが、これで問題は解決だな」
「ええ、まぁ……」
「何でそんな歯切れが悪い感じなんだよ」
「……水の精霊は怒ってるって言ったでしょ。そんな状況で“水の精霊の涙”を貰えるかわからないじゃない」
「ああ……そういや、んなこと言ってたな。まぁでもよ。ちゃんと頼めば大丈夫だって!」
「そうかしら?」
そんな風に話していると少し離れた場所の水面が眩く輝き出した。
水が山のように盛り上がり、とぷんとその繋がりが切り離されると、水の球体が宙に浮かんだ。
その球体は、しかし尚もうねり、球体というかアメーバのようにぐねった不思議な状態で、ふよふよと大賀たちに近づいてくる。
「これが?」
「ええ……ありがとう。きちんと連れて来てくれたのね」
水の精霊より早く水中から上がってきたロビンを、しゃがんで迎えたモンモランシーがその頭を撫でてお礼を言う。
そして再び立ち上がると両手を広げて、水の精霊に語りかけた。
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。わたしの血をまだ覚えているのなら、わたしたちにわかる言葉で応えてちょうだい」
果たして水の精霊は――ぐねぐねとうねる身体をモンモランシーのそれへと変えて応えた。
大賀は氷の彫像ならぬ水の彫像のような状態になった水の精霊に少し驚いたが、姿をコピーするような魔法生物は前に“ライヤーゼリー”という食虫植物を見たことがあった。
アレの方が色だけでなく服までコピーしていたので、その精度は上だ。
なのである程度平静を保ったまま、水の精霊との交渉に入ることができていた。
水の精霊は変化したその身体の表情を確かめるように、微笑み、怒り、泣き顔になって、最後に元の無表情になると口を開いた。
「覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」
「よかった。今日はお願いがあって来たの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」
大賀たちが求める“水の精霊の涙”とは水の精霊そのもの――その一部のことであった。
精霊が宿っていた水は、あらゆる薬の材料となり、ホレ薬の効果を打ち消す解除薬にも姿を変える。
「断る。単なる者よ。我は覚えている。貴様の血に連なる者が我を侮辱したことを」
モンモランシーは水の精霊のその言葉に呻いた。
握りしめた拳がプルプルと震えていることから見ても、内心では父親を物凄く罵倒しているのかも知れない。
「いや、そこを何とか頼む! お願いします! 困ってんだよ! 俺のダチが心を見失ってんだ! 治してやりたいんだよ!」
モンモランシーの交渉じゃダメっぽいと感じた大賀は、その場で土下座をして水の精霊に頼みこむ。
ついっと大賀に意識を向けたらしい水の精霊の身体がざわりと波立つように震えた。
「知っている。知っている。我は貴様のことを知っているぞ、単なる者よ。――いや、クズミタイガ」
「はっ?」
それは歓喜の震えだったのか。
水の精霊は大賀の周りをくるくると回ると、モンモランシーの姿から大賀の姿にその形を変えた。
「嘘……精霊がちゃんと名前で呼ぶ人間なんて……」
そんなのおとぎ話の中の“イーヴァルディの勇者”くらいだとモンモランシーは呆気に取られながら呟く。
「遠い過去か遥かな未来。我は確かに貴様と会った」
「い、いや、そー言われてもよ。わりーんだけど、俺は精霊と会った記憶なんてねーぞ」
土下座の態勢から立ち上がった大賀がそう言うものの、水の精霊は気にしていないかのようにポコンと大賀をもう一体作り出した。
「いっ……!!?」
分裂するように増えた自分自身の姿に、大賀はさすがに声を上げた。
しかし分裂大賀はそれで終わらず、ポコンポコンと見る間に切り絵の繋がり飾りのように増えて、無数の大賀がその周囲を取り囲んだ。
「「「それでも構わぬ。貴様の望みを叶えよう。我は貴様と約束をした」」」
「や、約束?」
無数の大賀が一斉に喋ることで重なり反響する声に、自分自身を模した存在に囲まれるというその状況の微妙さに、大賀は頬を引き攣らせながら尋ねる。
「「「成し遂げるべきことを成し遂げる」」」
「!」
「「「貴様がそれを成し遂げるための力になると我は約束した」」」
「な、成し遂げるって、俺は何をすりゃいいんだよ!」
大賀の事情に触れるその内容に、大賀は泡を食って声を上げた。
「「「その答えは全なる者が知っている」」」
「全なる者?」
「「「世が落ちるとき、全なる者は再び貴様の前に姿を現す。そして貴様は成し遂げるべきことを成し遂げるのだ」」」
水の精霊はそれだけ告げると、言うべきことは言ったとばかりに、再び元の一体の大賀に戻り、人差し指を突き出した。
大賀が首を傾げた次の瞬間には、ぴっ、っと水滴のように、その身体の一部が弾け、大賀の目の前でふよふよと浮いていた。
「……あ! それが“水の精霊の涙”よ! 壜、壜」
呆けたように大賀と水の精霊のやり取りを見守っていたモンモランシーが、そのことに気づいて慌てて自分の荷物を漁り、取り出した壜の中にそれを収めた。
「あ、えっと、サンキューな! 助かったよ」
大賀は水の精霊に聞きたいことが色々あったが、とりあえずお礼を言った。
「我は汝、汝は我……」
「は?」
「困ったときはお互い様。かつて貴様が我に言った言葉だ」
「あ、ああ……そうな。俺たちほんとに困ってたんだ。ありがとな」
大賀の言葉に無表情だった水の精霊大賀がニコリと微笑んだ。
「あ、そーいえばよ。お前なんか怒ってんだって? 何か助けられることなら今回のお礼に俺が何とかしてやるけど」
水の精霊の微笑みに何となく気安い相手だと感じてしまった大賀は、友達と喋るような感じで尋ねる。
「盗まれたのだ。我が守り続けた秘宝。“アンドバリの指輪”。我はそれを取り戻したい」
「え、もしかしてそれで、水位を上げていたの?」
「どーいうことだ?」
「ほら、水の精霊は基本的にこの地に根付いているから、誰かに招かれるようなことでもなければ動けない。自分で探し回ることはできないのよ。だから自分の領域であるラグドリアン湖を広げることで、その秘宝を探そうとしてたってわけ」
「その通りだ。単なる者よ」
大賀はその途方もなく遠大な計画に呆れた。
「はー……じゃあよ、その秘宝だかは俺たちが探してやるからよ。水位は元に戻してくれよ。村とか沈んでるし、たぶん困ってる人たちがいると思うんだよな」
「貴様がそう言うならそうしよう。クズミタイガ。全て貴様に任せる」
「おお! で、何だっけ? アンドーナツの指輪みたいな」
「……“アンドバリの指輪”よ。前にあなたたちが探しに行ったとかギーシュが話してた火系統の“ブリーシンガメル”に匹敵する、水系統の伝説のマジックアイテム。確か偽りの生命を死者に与えるとかそんな効果のある物だって聞いたことがあるわ」
「偽りってゾンビ?」
そりゃまたファンタジーなアイテムだなと大賀は思った。
「なんか手がかりみてーなもんはないのか?」
「持ち去ったのは貴様たちの同胞。個体の一人は“クロムウェル”と呼ばれていた」
「ん? どっかで聞いた名前だな」
大賀は水の精霊の告げた名前に自分の脳内を検索するが、出てきそうで出てこなかった。
その様子を見て微妙な表情をしていたモンモランシーが口を開く。
「……あなたが知ってそうなクロムウェルならアルビオンの新皇帝の名前ね」
「ぶっ!!? 犯人王さまかよ!!?」
モンモランシーの言葉に大賀は噴きだした。
「し、知らないからね。わたしは約束してないから。したのはあなた」
「お前そういうこと言うか!!?」
「わたしはあなたたちと違って、冒険大好きなんて性格じゃないの。争い事だって嫌いだし、平穏に暮らしていたいのよ」
俺だってそうだよと大賀は思いながらも、目があるのかはわからないが、水の精霊のじとーと擬音がつきそうな視線のようなものを感じて、約束しちまったしなと頭を掻いた。
「ま、まぁ……世の中には同姓同名の奴なんてたくさんいるしな。な、何とか探してみっからよ。気長に待っててくれよ」
「わかった待とう」
水の精霊はやはり大賀には素直だった。
そして水の精霊は用は済んだと水面に戻ろうとしたが、ふと思い出したように止まった。
「そうだ。そのことに関わりがあるかはわからぬのだが」
「お、何だよ」
「最近、毎夜のように我を襲撃してくる者たちがある。我はこの地と同じだけの大きさを持っている故、気にするほどのことではないが、一応貴様にも教えておこう」
「襲撃者ね……」
それだけ言い残すと水の精霊は今度こそ水面に戻り同化して消えた。
襲撃者とやらの存在に大賀が思いを巡らせていると、モンモランシーの何かを言いたげな視線を感じてそちらを見た。
「あなた、何者なのよ……?」
「……俺に聞くなよ」
それはいま大賀自身が知りたいことでもあった。
過去だか未来だかの自分は一体何をしでかしたのか――あるいは成し遂げようとしているのかと。
そして夜……本来ならすぐにでもルイズたちを元に戻すために学院に帰って解除薬の生成に取りかかってもらいたいところではあったが、襲撃者のことがあったので一応確かめてみることにした。
学院に一度帰ればまたここまで来るのは面倒だということもある。
なので、マンドレイクを採取したりしながらその時を待った。
しかし襲撃者なんて言っていたが、それは大賀たちのよく知る人物であった。
「お前ら何でここに……?」
「それはこっちの言葉よ、ダーリン。あ! もしかして学院にあたしの姿がなかったからはるばる探しに来てくれたの?」
そう、キュルケとタバサの二人である。
「違うって……これを見ればわかるだろ」
「何これ」
大賀に引っつくルイズの姿に、キュルケは不思議な生物を見るような目を向けた。
「モンモランシーが作った魔法薬のせいでこうなっちまってさ。治すための材料を採りに来たんだよ」
「はぁん……。よくやるわね、あなた。ホレ薬って普通に禁制でしょ」
「しーしー! な、内緒にして! お願い!」
「どうしようかしら~」
キュルケは得物を見つけた蛇のように笑った。
使い魔カエルのモンモランシーには、なす術がない。
「でよ。そっちは、何でこんなことしてんだよ」
「タバサの家がガリア側にあるのよ。それでこんなことになってるでしょ? だからその異変を解決しようって話なわけ。水の精霊を倒すかすれば解決するかなって」
「へえ……なるほど、納得だな。でもそれなら俺らにも声をかけてくれりゃよかったのに。そうすりゃいつも手伝ってもらってるお返しもできるし、こんなアホみたいな状況にも巻き込まれずに済んだんだぜ」
「あはは、ゴメンなさいね。貴族は見栄を張る生き物だから、実家の問題とかが関わってくると、なかなか頼み辛いものなのよ。ねえ、タバサ」
キュルケの言葉にタバサはこくりと頷くだけで返した。
とにかくそれならと、大賀は水の精霊との交渉の内容を二人に話した。
「あら、じゃあこんなことしなくても、もう解決しちゃったってわけね」
「そういうこった。まぁ俺は一応秘宝探しが残ってんだけどよ」
「大丈夫よ。精霊なんて人間と時間の流れが違うんだから。どれだけ時間がかかっても気にしないわ。何せ伝説とかそういう時代から存在してるって話よ」
「伝説の時代ねえ……」
大賀は何となくルイズを見た。
ルイズはその視線に気づいて自分が大賀に見られてると頬を染めた。
「はぁ……ま、これでこの何か調子が狂うメンドくさいルイズを元に戻せるな」
「メンドくさくないもん。タイガのことが、す、好きなだけだもん」
「だー! だからそういうことを言うなっての! お前はそういうキャラじゃねえんだよ!」
「わたしはずっとこんなだもん。タイガがちゃんと見てくれてないだけだもん」
大賀の服の裾を掴みながら、こうなってからずっと、変わらずにそんなことを言い続けているルイズに、大賀はもう何度目かわからない溜息を吐いた。
「何かスゴイことになってるわねえ……。これって記憶残るのかしら。残ったら爆笑ものなんだけど」
「やめてくれ……」
「あ、そういえばあっちのアレもこんな感じなの?」
キュルケが指差した先には最早ぐったりとしている簀巻き姿のギーシュがいた。
いまさらだけどよく考えれば、別にギーシュは連れて来なくてもよかった気がしている大賀である。
「まぁ……これをうるさくした感じだったな。ただギーシュの場合はいつもがいつもだから別に記憶が残ろうが問題ないと思うけど」
「それもそうね」
結論を言えば……ルイズの記憶は残った。
奇声を上げて悶え転がり、学院を巻き込んで伝説の“虚無”の魔法で盛大な自決をしようとしたルイズだが、それを発動するには精神力が足りなかったらしくパタリと倒れた。
そして目覚めて“という夢を見たのよ”と夢オチにしようとしたが、ホレ薬うんぬんはともかく、大賀に引っついていたことは学院で噂になっていた。
無い胸で使い魔を誘惑しようとしていた少女と、そんな不名誉な称号を得たルイズは自室に引きこもった。
それからルイズが自室を出るまでには1週間以上の日数を要したのだった。
――伝説の“虚無”の使い手の一人がそんなどうしようもない日常を送る中でも、世界は色々と動いている。
暗躍する影も然り。
そんな魔の手はトリステインの新女王の下にも伸ばされた。
「誰? 名乗りなさい。夜更けに女王の部屋を訪ねているのです。名乗りもしなければそのまま牢屋行きですよ」
「僕だ」
その声を耳にした瞬間、アンリエッタの顔から表情が消えた。
「僕だよ、アンリエッタ。この扉を開けておくれ」
アンリエッタは、その手に杖を握ると、扉を開けた。
あるいは軽率な判断かも知れないが、相手の正体を確かめなければならない。
果たしてそこにいたのは――いまや空賊王となった、ウェールズ・テューダー、その人だった。
「……ウェールズさま。なぜここに?」
「今日は君を迎えに来たんだ」
「わたくしを?」
「そうだ。アルビオンを解放するためには君のように心から信頼できる人が必要なんだ。僕と一緒に来てくれるね」
「……お言葉は嬉しいですが、無理ですわ。わたくしはもう女王なのです。この肩の上にはこの国とそこに住む全ての人たちの未来がのっているのです。ウェールズさまと同じように」
しかし、ウェールズは諦めない。
さらに熱心な言葉で、アンリエッタを説き伏せにかかる。
「無理は承知の上だ。でも、勝利には君が必要なんだ。僕たちに勝利をもたらしてくれる“聖女”の力が」
「これ以上、わたくしを困らせないで。お待ちください、いま、人を呼んでお部屋を用意させますわ。このことは、また明日にでも他の者たちを交えて話しましょう」
ウェールズは首を振る。
「明日じゃ間に合わない」
それからウェールズは、アンリエッタがずっと聞きたかった言葉をあっさりと口にした。
「愛している、アンリエッタ。だから僕と一緒に来てくれ」
その瞬間、ウェールズの熱心な言葉とは逆に冷めていたアンリエッタの瞳が、完全に据わった。
アンリエッタが杖を振ると、大量の水がウェールズを押し流し、壁に叩きつける。
「あ、アンリエッタ。なぜ……」
「さて、どこの手の者か――いえ、この程度の策を実行に移すなど、あの無粋なる簒奪者レコン・キスタなのでしょうが、あまりわたくしたち、王族という存在を舐めないで欲しいですね」
「何……?」
「あの方からの伝言はすでにわたくしが信頼できる者から窺っています。“いずれ必ず日の当たる場所で、君に胸を張って会って見せる”あの方はそう言っていたそうです」
夜闇に包まれた部屋の中、魔法のランプで灯された部屋の中で、アンリエッタの瞳が光る。
「こんな日も当たらない時間に、恥知らずにも助力を頼むようなことは、わたくしの知るあの方ならば絶対に致しません。姿形が同じであればいいというわけではないのです! 勇敢に気高く生きるその意志を持つ者にこそ、わたくしは惹かれるのです!」
アンリエッタは杖を振り容赦なしに、ウェールズの姿をした刺客を打ちつけると大声で人を呼ぶ。
「――誰か! 誰かあれ! 賊です! 賊が侵入しました!」
その言葉と、それ以前の魔法による衝撃音とで、城の衛士たちがバタバタとアンリエッタの下へと駆けつける。
「陛下! ご無事ですか!!?」
「――貴様は、ウェールズ殿下!!? 亡国の皇太子がなぜ!!?」
「その者は姿形を真似ただけの偽者です。おそらくはレコン・キスタの刺客。恥知らずにも、王族の姿を真似たこの者をひっ捕らえるのです!」
「「「はっ!」」」
衛士たちがウェールズの姿をした刺客を一斉に取り押さえにかかるが、刺客はにゅるんと、その姿をゲル状に変えると、その場から逃げだした。
「――水の魔法生物? 逃がしてはなりません! 相手が魔法生物ならば、情報を訊き出すことは難しい。二度とこんなことを起こせないように確実に殲滅しなさい!」
「「「はっ!」」」
わずかな衛士を護衛に残し、魔法生物を追わせる。
アンリエッタは指示を出し終えたあとに、一つ溜息を吐いた。
「わたくしは、こんな形であの方の姿を見たくはなかった。……許しません。レコン・キスタ」
黒き者、覚醒……的な。
いや、そんなでもないですけどね。
とりあえずルイズのディスペルはまだ要らないかなっていう。
だって、どうやっても“M0”と被るんだもの。
ちなみに偽ウェールズの正体はライヤーゼリーを指輪で動かしたとか何かそんなの。
喋ってるのは吹き替えとかじゃないですかね。
まぁ一応書いておこうかなって感じの部分だったので。