エム×ゼロの使い魔   作:第7サーバー

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原作でルイズの実家に行くのは夏季休暇が終わってからですが。
夏季休暇なんだから、帰省すればいいじゃないと少しだけ早くしました。
まぁ今回の内容はサブタイトルの通り。
ゼロ魔最強クラスの相手に大賀もかなりチートっぽい戦闘をします。
いや、ここまで戦えるんだなーって感じですね。


BM17:VS烈風

「さあ、どうしました?」

 

そんな声にごくりと喉が鳴った。

産毛が逆立ち、首筋がいやにちりちりする。

脳内はアラート一色で、眼前の相手からの撤退を勧めている。

……この感覚は知っていた。

高熱を出して理性を失いリミッターが外れた姉を相手にするような暴挙。

大賀は“烈風”を巻き起こす相手の射竦めるような視線を一身に浴びながら思う。

どうしてこんなことになっているのかと。

 

原因はやはりルイズ。

 

なぜならこの相手はルイズの――。

 

 

 

 

 

「実家に帰省するわ」

 

その世にも恐ろしい“烈風”との邂逅の始まりはルイズのその一言であった。

 

「実家に? まぁいいんじゃねーの。夏季休暇はまだ残ってんだしよ」

「……あのね。何を他人事みたいに言ってんのよ。当然あんたも一緒に行くのよ」

「いや、それは微妙じゃねーか? いくら俺がお前の使い魔のフリをしてるからって、その家にまで行くなんてよ。お前の家族になんて言えばいいんだよ」

「もちろん普通に使い魔だって紹介するわ」

「マズイって……」

 

夏季休暇なのだからルイズが帰省するのは全然構わないが、それに自分も付き合うとなれば話は別だと大賀は躊躇いを見せた。

ルイズの使い魔にというのはあくまでフリだし、学院内などではそれはもう普通のこととして扱われているが、それがルイズの家族に紹介されるとなると話は違う。

要は「あなたたちの娘さんのペットになりました」とでもわざわざ言いに行くような状況だ。

はっきり言ってかなり嫌なイベントである。

 

「気まずいのはわたしだって一緒よ。いままで手紙とかでは誤魔化してきたけど、平民の使い魔を召喚したって紹介しなくちゃならないんだから」

「だったら、そこら辺で猫でも捕まえて連れて行くとかよ。何なら、タバサに風竜を借りて行ったら、お前の家族も驚くんじゃねーか?」

「……それができる間だったら、よかったんだけどね」

「何だよ、その嫌な前フリ」

 

大賀が尋ねるとルイズがはふーと溜息を吐いた。

 

「父さまがお城に行った時に世間話的な感じで姫さまにあんたの話を聞いちゃったみたいなのよ。それでとにかく帰ってこいって」

「おいおいおい! 何か厄介事が起こる時はいつもお前かあのお姫さまが原因だな!」

「そんなこと言わないでよ! 姫さまだって、あんたがメイジで使い魔のフリをしてるって漏らしたわけじゃないんだから。単純にわたしが頼りになる良い使い魔を召喚しましたねって。そんな感じで褒めてくださったらしいのよ」

「だからってよ……」

 

ここまで嬉しくない褒められ方も珍しいと大賀は思った。

今回のこれは少し前にお偉いさんの逮捕に協力した結果だろうか。

フーケを捕まえた辺りから続く、大賀を巻き込んだ負のスパイラルは、未だに途切れることなく効果を発揮し続けているようだ。

そのフーケなどはとっくに脱獄して、自由の身になってしまっていると言うのに。

 

「とにかく、それでたぶん姫さまは使い魔のフリだっていうことは一応隠して、平民の同年代の男の子って感じで伝えたみたいで、平民とはいえ、陛下が絶賛するくらいに良い使い魔なら一度連れてきなさいってさ……」

「それ、俺にとっては死刑宣告だろ! 間違いねーよ! 急に娘の周りに男が現れた父親の行動だって!」

「し、知らないわよ……仕方ないじゃない。無視するわけにも行かないんだから」

 

別にルイズとそういう関係になったわけではないが、娘を持つ父親の行動は柊父で経験済みだ。

普段はともかく、愛花に近づこうとすれば、いちいち割って入ってくるし、場合によっては魔法を使って強引に引き離されるレベルだった。

厄介事になるのは目に見えている。

 

「行きたくねー」

「わたしだってそう思うけどダメよ。これに応えないと余計マズイことになるに決まってるもの」

「マズイって何だよ」

「……父さまの言うことを聞いてるうちはまだいいのよ。でもそれを無視すると、母さまが話に加わるの。母さまはほんとダメ。死ぬわ」

「死!!?」

 

ルイズはあくまで真顔でこくりと頷いた。

そのルイズの雰囲気に押されたというわけでもないが、これはどうやらゴネてどうにかなる問題ではなさそうだと大賀も理解する。

家族間で死を感じるというのは相当のことだ。

それこそ自分が姉に反抗した場合と同等の恐怖をルイズは感じているように思う。

ならばその忠告は素直に受けるべきだろう。

 

「ええ。そういうわけだからこれは決定事項よ。あんた以前にわたしにも拒否権はないの。それにそう……あの時のアルバイト対決はわたしの勝ちだったんだから、タイガはわたしの言うことを聞かなきゃいけないのよ!」

「まだそんなこと言ってんのかよ……(そもそもお前が勝ったのは俺が渡したチップの分だっつーの。つーか、最初のギャンブルの負けで普通にマイナスだよ)」

 

ルイズの最後の言葉は蛇足であったが、どちらにしてもであった。

そうして……大賀はルイズの実家であるラ・ヴァリエール領へと向かうことになったのである。

 

 

ルイズの実家は無駄にデカかった。

何せその領地を屋敷まで馬車で移動するだけで、半日かそれくらいの時間がかかるというのだから。

前にギーシュに尋ねた時にトリステインでもトップクラスの大貴族だと言っていたが、なるほど納得である。

こんなの日本ではまぁあり得ないだろう。

それこそどこかの街を丸ごと自分の家の庭だとか言うような状況だ。

 

「タイガ、お願いだからわたしの家族の前では完璧に使い魔のフリをして。実はメイジだとかバレちゃダメよ」

 

ルイズは再三そうやって忠告をしてくるが、魔法を使わずに乗り切れるかすでに自信はない。

こんな場所に住んでる大金持ちが、自分に対してどういう対応を取ってくるのか予測がつかないからだ。

そんな思考はネガティブに繋がって、大賀の脳内ではあっさりと自分を排除して、新しい使い魔を召喚しなさいと言うまだ見ぬルイズの両親たちが妄想として現れている。

 

 

「た、ただいま戻りました……」

 

ルイズに続いて足を踏み入れたその本邸も、屋敷というか完全に城で、下手すればトリスタニアの城よりもデカイのではないかとも思える立派なものだった。

その屋敷に入るにあたってゴーレムの守る跳ね橋を通る必要があったりと警備も仰々しい。

とはいえ、大賀も普段から魔法学院で生活しているのだから、多少は耐性も付いていそうなものだが、これが普段から傍にいる相手の家だとか言われたら、家って何だ……とかその定義から考えてしまう。

何せこの場所においては、元の世界の自分の家など、ペットの家以下の扱いになりそうで、いい加減このネガティブを断ち切らないと、自分が使い魔扱いされようが、それも仕方のないことじゃないのかという思考に陥ってしまいそうなくらいであった。

 

「――ルイズ。よく戻りました。お父さまがお待ちです。荷物は“ジェローム”に任せておいて、わたくしについて来なさい。……そちらの使い魔もね」

「は、はい……」

 

ずらりと出迎えの使用人が並ぶ中で現れたのはルイズと同じ桃色がかったブロンドの髪をアップでまとめた目つきの鋭い女性であった。

この女性がルイズの母親の公爵夫人なのだろう。

すぐに踵を返したこともあって、大賀が公爵夫人の視線に晒されたのは一瞬だったというのに、それでも感じられたひやりとした冷たい威圧感からは、ルイズが怯えていた理由もわかるというものだ。

 

 

「あ、あの、母さま……ちいねえさまたちは……」

 

大賀と共に早足で自分の母親の後を追いかけたルイズは、恐る恐ると言った具合に、その背中に尋ねる。

公爵夫人はきりりと前を向いたままそれに答えた。

 

「“カトレア”は変わらず、自分の屋敷で療養しています。あとで顔を出して上げなさい」

「はい」

「“エレオノール”はあなたがいる間に一度顔を出すと言っていたわ」

「そ、そうですか……」

 

大賀もルイズの家族構成はすでに聞いていた。

両親に二人の姉、そしてルイズ。

そのうち、次女のカトレアは優しくてルイズもかなり懐いているようだが、生まれた時から身体が弱く、魔法でもそれを治せないために、ラ・ヴァリエールの領地内でずっと療養生活を続けているらしい。

まぁ正確にはその領地は分け与えられており、ラ・フォンティーヌ家の当主だとかいうことになってるらしいが、そこら辺の細かいことはどうでもいいだろう。

それに対して長女のエレオノールは厳しいから苦手だとルイズは言っていた。

もっとも、だからと嫌いだというわけでもなく、王立魔法研究所――アカデミーで働いてるエリートなのだと少し自慢げでもあった。

 

いまのルイズたちの会話内容からすると、その二人はとりあえずはいないようだ。

果たして家族全員一挙御対面と、個別に対面するのとどちらの方がマシなのだろうか。

そんなことをぐだぐだと考えている間に、長い廊下の目的地、ルイズの父親が待つというその部屋へと辿り着いてしまった。

 

 

「……お前がルイズの使い魔になった平民か」

「は、はい」

 

ルイズと一通りの挨拶を交わしたラ・ヴァリエール公爵は、それまでまるで無視しているかのようであった大賀にようやく視線を向けて、威圧感たっぷりに口を開いた。

 

「つまりお前はルイズと“コントラクト・サーヴァント”したのか。どこの馬の骨とも知れぬ平民の分際で」

「い、いや、それはしてな――くもないよーな。したよーな」

 

白くなりつつある金髪に立派な髭、左目に嵌めたモノクルに豪奢な衣装と、これぞ貴族といった風貌のラ・ヴァリエール公爵。

しかし彼は娘を持つ父親。

やはり気にするのは何よりそこかと大賀は否定したかったが、ルイズの視線が痛い。

 

「どっちだね?」

「それは……そう、事故! 俺はルイズの使い魔ですけど、それはまぁ俺が召喚されたことでわかる通り、事故のようなものだったので、俺は契約の瞬間は召喚された衝撃で気絶してたんで、わかんないッス!」

「んなぅっ!!?」

 

全てをルイズに押しつけた大賀に、ルイズが裏切り者とその手をプルプル震わせている。

だがこの圧力に曝されるより、あとでルイズに爆発でもさせられた方がマシだと思ってしまうのは仕方のないことだと思う。

 

「では、ルイズ。彼を使い魔にしたということはしたのか。最近ではわしにも頬にしか許してくれないというのに!」

「そ、それは――いまは関係ないじゃないですか!」

「いや、関係ある! 陛下が絶賛なされた以上この男がいかに平民であっても、それなりに有能な働きをするのは間違いないだろう。わしもこの国に仕える身である以上、そうであるならば真っ向から否定はし辛い」

 

ラ・ヴァリエール公爵は渋い顔で大賀を示した。

 

「だからこそわしはこうして本来ならば隠しておきたい本音を口にしているのだ! なぜだルイズ! なぜせめて平民の少女を召喚しなかった! それであればまだ許せたというのに!」

「そ、そんなの知りません!」

 

ルイズは普段とはだいぶ違う父親の物言いに真っ赤になって声を上げる。

 

「……あなた。さすがに本題からズレていますよ」

「カリーヌ……」

 

それまで黙っていた公爵夫人――カリーヌが、父親として暴走気味のラ・ヴァリエール公爵に代わって口を開いた。

 

「ルイズ、今回あなたを呼んだのは他でもありません。あなたがわたくしたちに隠していることを詳らかにするためです」

「か、隠していることって……タイガのことならいまこうして……」

「それだけじゃないでしょう」

 

まさか“虚無”のことに気づいているのかとルイズの顔にこれまでとは質の違う緊張が走った。

 

「……ワルドのことです」

 

しかし、カリーヌの口から出てきた名前にルイズはぽかんとして聞き返した。

 

「え、ワルド?」

「あなたの婚約者だったのです。本来ならあなたはどうあっても事情を知りたいはず……それなのに、何も聞いてこないのはなぜですか?」

「なぜって……」

「それはすでにあなたが事の顛末を知っているから。そうでしょう?」

「は、はい……その通りです」

 

ルイズはカリーヌがなぜいまさらそんな話を蒸し返しているのかと困惑気味だった。

ルイズにとってワルドの裏切りはすでに乗り越えた過去の出来事だったからだ。

 

「では、なぜ魔法学院というある意味で隔離された場所で生活しているあなたがそれを知っているのですか?」

「え、そ、それはその……」

 

そう質問されるに至ってルイズの中でようやくカリーヌの意図が見えてきた。

そして自分の返答の浅慮さに焦りだす。

 

「まさかとは思いますがルイズ。あなたはワルドが裏切る瞬間をその目で見た。つまり戦場の傍にいたのではないですか?」

「い、いえ! ま、まま、まさかそんな、そんな危険なことを母さまたちに何の相談もなしにするはずが……」

 

「(それじゃバレバレだぞ、ルイズ……もう少し頑張れよ……)」

 

つまりはそういうことであった。

“虚無”以前に隠しておかなければならない極秘任務の方が掴まれていたのである。

アンリエッタのお願いだったとはいえ、あの時ルイズはルイズの意思でアルビオンに行った。

だが、それはラ・ヴァリエール公爵家の人々にとっては許されることではない。

何も言わずに戦場に赴く、家族会議が開かれるのも当然の非行であった。

 

「そもそも陛下が一介のしかも平民の使い魔を絶賛するというのがおかしいのです。絶賛するということは何か陛下のためになることを為したということ。そしてこの情勢で陛下が絶賛するとなれば、戦争に関わる何かであると推測されます」

「ち、ちが……違います……」

「ルイズ、あなたが否定しても意味はありません。わたくしたちはすでに関わったとした上で話をするためにあなたを――いいえ、あなたたちを呼んだのですから」

 

「ひぃ……」

 

ルイズの口から微かに悲鳴が漏れた。

しかしその気持ちもよくわかる。

 

「(こ、コエー……なんだこのオバサン、放つプレッシャーがハンパねえ……俺の気が弱ければこれだけで気絶してるぞ……)」

 

冷や汗をかきながら大賀は、話の行方を見守っていた。

 

「もしもがあってからでは遅いのですよ」

「も、もしもなんて起こらないわ! タイガが守ってくれるもの!」

 

「……え? (そこで俺に振ってんじゃねー!)」

 

見守っていただけとはいえ、家族会議間における異物としてプレッシャーを受け続けていた大賀だ。

しかし、ルイズは先程大賀が全てを押しつけたお返しというわけでもないのだろうが、大賀の存在を理由に家族を説得にかかる。

 

「陛下が認めてるとはいえ、平民にどれだけのことができるというのです」

「ど、どれだけだってできるわ! タイガは凄いんだから!」

 

「(だから、お前は余計なことを言ってんじゃねー!!! こっちに闘気だか覇気だか、殺気だかがビンビンに飛んでくんだろーが!!!)」

 

これは良くない流れだと、必死に出来もしないテレパシーをルイズに送るが、ルイズにそれを察するだけの余裕はない。

 

「……わかりました。そこまで言うなら彼を試してみましょう」

「た、試すって?」

「彼にルイズを守る力があるというのならばそれを見せてもらいます。ただしなければそれまで。ルイズにはわたくしたちの目の届く範囲、ラ・ヴァリエール領から出ることを禁じます」

「え、それって学院は……」

「当然、退校してもらいます。環境を変えることで何か得るものがあればとこれまで通わせていましたが、その結果として危険に飛びこむことを許していたのでは本末転倒です。魔法ならばまたわたくしが教えましょう」

 

カリーヌの言葉にルイズは抗議の声を上げた。

 

「そんな! そ、そうだ! 手紙にも書きましたけど、わたし、学院に通うことで“コモン・マジック”が使えるようになったんです。だから、このまま学院で習った方が……」

「確かにそのことは学院に対して感謝してもしきれないことです。ですが、キッカケを得られたのならそれで充分。それ以上は危険と天秤にかけてまで望むところではありません」

「でも!」

「しつこいですよ。彼にほんとに力があるというのならそれを示せばいいだけではないですか。やはり何もないというのであればわたくしたちの判断を受け入れなさい。運命に抗うには相応の力が必要なのです」

 

ぴしゃりと言い切ったカリーヌ、ルイズは弱々しい視線を大賀に向けた。

 

「タイガ……」

「いや、俺を見られてもよ……」

 

大賀にしてもこんな展開になるのだけは嫌だと思っていたものがまんま叩きつけられたような状況だ。

自分自身、何かあれば拳で解決するような脳筋タイプの人間だという自覚はあったが、だからとこの流れで決闘は勘弁して欲しかった。

娘さんを僕にくださいとか言ったわけでもあるまいに。

 

「待ちなさいカリーヌ。彼と決闘をするというのならそれはわしの役目だろう」

「いえ、わたくしがやります。あなたは見ていてください」

「……うむ」

 

「(弱ーーーっ!!! いや、つーかルイズの母ちゃんが強すぎる。普段はルイズの父ちゃんを立ててるっぽいのに、邪魔する者があれば全て吹き飛ばすかのようなあの威圧はヤベエ……)」

 

ラ・ヴァリエール家の内情に微妙に同情を覚えなくも大賀だったが、それがいまから自分に向けられようとしているのだから同情などしている場合ではない。

 

「あなたも覚悟を決めなさい。何も命を奪うとは言いません。ルイズが学院を退校することになったら、あなたにもラ・ヴァリエール領内で屋敷の一つも与えましょう。これからはそこで暮らせばよろしい。なに不自由のない生活ができますよ」

「なに不自由のないって……(不自由しかねーっての! ルイズの実家に引きこもってりゃ元の世界に戻れるわけでもあるまいし、外との関わりがなくなるなんて、俺にとっては最悪のBADENDじゃねーか!)」

 

生涯ヒモとして暮らす。

ある種の人間には確かにこれ以上はないような厚遇なのかも知れないが、あいにく大賀はそういうタイプではなかった。

自分の道は自分で決める。

無理を通して道理を蹴っ飛ばす。

だからこそ今回も戦わなければならない。

久澄大賀という人間は、いつだってそうして生きてきたのだから。

 

 

「た、タイガ。難しいとは思うけど、魔法はなしで、何とか……」

 

もはや避けて通れぬ決闘の流れに、ルイズは自分でもそれはないと思いながら大賀に注文をつけた。

 

「いや、無理じゃねーか……?」

 

大賀は当然のように渋い表情だ。

すでにその身にこれから襲いかかる最大級の危険を察しているのだろう。

 

「わたしも無茶なこと言ってる自覚はあるわ。あんたが魔法を使っても正直……というか、母さまに勝てる人間なんているのか不安になるレベルだから……」

「たとえば伝説でも?」

「……たとえば伝説でもよ」

 

自分たちの会話の結論に、二人して盛大な溜息を吐く。

屋敷の外に出てしまえばそこはもう決闘場だ。

先に外に出て待ち構えるカリーヌに、大賀はもうやるしかないんだなと嫌々覚悟を決めた。

 

 

――そして、現在。

 

「さあ、どうしました?」

 

そんな声にごくりと喉が鳴った。

産毛が逆立ち、首筋がいやにちりちりする。

脳内はアラート一色で、眼前の相手からの撤退を勧めている。

……この感覚は知っていた。

高熱を出して理性を失いリミッターが外れた姉を相手にするような暴挙。

大賀は“烈風”を巻き起こす相手の射竦めるような視線を一身に浴びながら思う。

どうしてこんなことになっているのかと。

 

「(おいおいマジかよ……こりゃワルド以上……魔法なしでこのオバサンに勝てってのか……? そりゃさすがに……魔法なしで杖を奪える気がしねーよ。つーか、姉ちゃんが魔法を使ってるみてーなプレッシャーを感じるぜ……)」

 

「何か手があるのならそれを見せてみなさい。それともわたくしが仕掛けるのを待っているのですか?」

 

カリーヌは軽く杖を振った。

大賀は迫る風に対して反射的に横に飛び退く。

恐る恐る振り返れば、いままで立っていた場所は地面にとてつもなく巨大な剣で斬り裂いたような跡がはっきりと残っていた。

 

「ひ、ひぃいいいいいいい!!? 無理無理!!! ゼッテー無理!!! ターイム!!! タイムお願いします!!!」

 

それの直撃を受けた時のことを考えて大賀は飛び上がった。

真っ二つとかいうレベルですらない。

もう大賀が存在する空間そのものを斬り裂けるとか言われても不思議ではない。

大賀は全身を使ってタイムを表現すると、ルイズに駆け寄った。

 

「ルイズ、無理だ!!! 魔法なしでお前の母ちゃんに勝つのはゼッテー無理!!! 俺に勝って欲しいならメイジだとバレるのは諦めろ!!!」

 

最低でも“M0”がなければ身を守ることすらできない。

しかしこんなレベルの相手にこっそり“M0”を使うなんてこともできない。

“M0”で魔法を消せば、当然何かしらの魔法を使ったと思われるのは間違いないだろう。

少なくとも平民が走って逃げたとかそういう話で済むわけがないのだから。

 

「うー……わ、わかったわよ。魔法を使っていいから、勝って! 学院を辞めさせられて屋敷に幽閉されるなんて絶対にイヤ!」

「よしっ! なら任せろ! 俺だってそんなBADENDはゴメンだからな! それだけはゼッテー阻止してやる!!!」

 

大賀はルイズのOKをもらって、再びカリーヌと向かい合うと、見せ用の携帯用の杖を構える。

カリーヌは眉を上げた。

 

「その杖はどういうつもりですか? まさか実はメイジでしたとでも言うつもりですか?」

「わりーけど、そのまさかだ! 俺は事故でルイズに召喚された! その際の衝撃で俺は気絶してたから、ルイズは俺をメイジだと思わずに契約しちまったってわけだ!」

 

何となくそれっぽいことを言う大賀にカリーヌは、なるほど……と若干呆れたように溜息を吐きながら頷いた。

 

「あの子が隠そうとするわけですね。平民ではなく同じメイジを、しかも異国の人間を使い魔にするなど……場合によっては大問題に発展するところです」

 

場合によらなくても俺にとっては大問題だよと大賀は内心でツッコむ。

もっともそこら辺の事情は、未来の自分が関わってたり、いまや無駄に複雑な感じになっているのだが。

 

「ええ……ほんとに……あなたがそれを問題にしないでくれたことには感謝します。しかし、それとこれとは話が別です。あなたがメイジであっても、それがすなわちルイズを守れるということと同義ではありません」

 

メイジだということを告げるだけで話が終わるような、そんな儚い期待は、やはり儚いものとして消えていった。

どうあっても戦闘は避けられないらしい。

 

「メイジの敵はいつだってメイジなことがほとんどなのですから」

 

そう、だからこそ、メイジとしての実力を示して見せないことには、結局大賀が解放されるということはないのである。

 

 

「“ホッチャー”!!!」

 

大賀はとりあえずと“ホッチャー”を出した。

しかし周囲を渦巻く風に、その姿はいきなり掠れ気味だ。

煙である“ホッチャー””には相性最悪。

けれど、一人であの風の的になるよりはマシだと大賀は杖を構えながら魔法香を擦り、そのまま複数体の“ホッチャー”を生み出していく。

 

「なるほど。どうやらほんとにメイジのようですね……。しかしわたくしの魔法と相性は良くないようですが……果たしてそれでどれだけのことができるのか。見せてもらいますよ!」

 

自分に向かってくる“ホッチャー”をカリーヌは簡単に初歩の“ウインド”一つで吹き消してしまう。

それでも大賀はバカの一つ覚えのように“ホッチャー”を出し続けた。

カリーヌはまさかこれしか出来ないのかと訝しげに思いながらも、上空から迫る“ホッチャー”をまとめて風で薙ぎ払う。

その瞬間、カリーヌの立っている地面がグモっと盛り上がった。

カリーヌはとっさの判断でその場から飛び退くが、その先の地面もまた盛り上がる。

 

「何です?」

 

盛り上がった土の中から現れた黒い半球状の生物らしきナニカがカリーヌに襲いかかった。

“土坊主”……十勝坊主という化石構造土を元に考えられた“プレート魔法”だ。

ジャイアントモールに襲われるかのような状況だが、これも魔法なのかと、カリーヌは――しかし冷静に“エアハンマー”を使いモグラ叩きのように二体の“土坊主”を押し潰しにかかる。

 

上に意識を向けておいて下――そしてまた上と、“土坊主”に気を取られたカリーヌに再び生み出された“ホッチャー”が迫った。

 

「少しは考えているようですが、まだまだこの程度では――」

 

カリーヌの言葉はそこで止まった。

何者かにその手に持つ杖を握られている。

 

上に意識を向けておいて下――そしてまた上、だがそれらは大賀本人の行動に注意を払えなくする布石。

 

「アクセス――“魔手(マジックハンド)”!」

 

大賀が出した“ホッチャー”は囮だった。

大賀は他にも様々な“プレート魔法”が使えるのに、風で吹き飛ばされることを承知で“ホッチャー”を出し続けていた。

それは全てこの瞬間に決めるため。

 

「――なっ!!? 杖が!」

 

見えざる手がカリーヌの杖を奪い取った。

空間把握さえできれば、“ホッチャー”よりも確実性が高い、メイジ殺しの“プレート魔法”だ。

一瞬動揺したカリーヌだが、相手が風の魔法か何かを使って杖を奪ったのだと判断。

生身の身体能力で、押さえ込みに掛かった“ホッチャー”の追撃を躱すと、予備の携帯用の杖ですぐに詠唱を始める。

だが大賀はそれをも奪い、“ホッチャー”が続く。

 

――ぼふん。

 

遅かった。

魔法はカリーヌの手に杖があった一瞬の間の高速詠唱で完成しており、大賀の波状攻撃に対応するための“偏在”が無数に現れる。

前にワルドが出したそれよりも多い。

これだけの数が相手では最早“魔手(マジックハンド)”も有効的な手段とは言えない。

見れば、地面に転がっているはずの杖もすでに回収されていた。

 

「……なるほど。ルイズが大口を叩くだけはありますね。まさか、わたくしに“偏在”を使わせるほどの使い手だとは。それほどの使い手のあなたがなぜ素直にルイズに従っているのかわかりませんが、異国のメイジ、実におもしろい」

 

不意に大賀の姿が消えた。

限りなく透明な私(クリアクリーン)”によって姿を消したのだ。

カリーヌは風を読むことで大賀の位置を割り出そうとするが、無駄に動き回る“ホッチャー”がその集中の邪魔をする。

ならばと全てのカリーヌが全方位に風を吹き荒らそうと呪文を唱えるが、それよりも早く、最大限の慎重さで一人のカリーヌの背後に近寄った大賀が行動を起こした。

それは本体を狙ってのことではない。

確率でいえば“偏在”、その“偏在”を“チャージ”するための行動であった。

 

「“魔法解除(マジックアウト)”――“チャージ”! “オープン”! “偏在”! アクセス――“影縛り”!」

 

それだけの連続行動を、大賀は一瞬にやった。

“影縛り”は発動しているが、“偏在”も消えてはいない。

賭けに勝った。

“偏在”はこちらの世界の魔法なので、“プレート魔法”と同時に効果を発動できたのだ。

もちろん“プレート魔法”はプレートを持つ本体にしか使えないが、これで大賀にも手数が一人増えた。

 

そして一人で終わらせる気などない。

 

“偏在”の大賀に“影縛り”で動けない“偏在”のカリーヌを押さえ込ませ、“影縛り”を解除、本体のカリーヌが状況に対応するより早く、ひたすらにその“偏在”のカリーヌを使って、“チャージ”と“オープン”を繰り返す。

これにより、本体のカリーヌがその“偏在”を自ら消すまでの間に十数人の“偏在”の大賀が出現した。

先の通り“プレート魔法”を使えるのはプレートを持つ大賀本人だけだが、まるでどこかの忍者が影分身の術を使ったかのように、その数だけはカリーヌの倍以上になることに成功したのである。

 

「これほどの数の“偏在”を……ま、まさかあの少年はわたくし以上の風の使い手だとでも……」

 

そんなはずはないと思いながらもカリーヌは驚愕に震える。

カリーヌはすでに大賀を“ディティクト・マジック”によって調べていた。

それによる魔法力の反応は平民並――あるいはそれ以下であった。

しかし、現に目の前に存在する大賀は様々な魔法を駆使して自分と互角に戦っている――そしてついには自分以上の数の“偏在”を繰り出すに至った。

異国のメイジの手の内がまるで読めない。

ここまで相手のことがわからない戦いを経験したことは“烈風”時代にもありはしなかった。

ルイズは一体何を召喚し、自分は一体何と戦っているのか。

その不気味さに臆しそうになる心を、けれどカリーヌは勇気で抑えつけて微笑んだ。

それは自分が全力を出しても構わない相手を見つけた強者の笑みであった。

 

一方で大賀も綱渡りの状態が続いている。

カリーヌが“偏在”でやたら増えたためにどうにかしなければと、一か八かの賭けに勝ったのはよかったが、それでも“偏在”の大賀は魔法が使えない完全に素の大賀である。

相手が強力な使い手であるために、プレートの効果制限を受けていても、この戦闘中は充分に持ちそうな感じはあるが、さてここからどうするべきなのか。

 

「(いや、ここまで来たらとにかくやりきるしかねー。こっちの弱み……本体の俺しか魔法が使えないことがバレる前に一気に片をつける……!)」

 

そう考えた十数人の大賀は一斉に駆け出した。

カリーヌが空にいると“偏在”の大賀では手が出せない。

“ホッチャー”に“プレート魔法”にとあらゆる手段を駆使して、大賀はカリーヌを地面に縫い止めるように戦った。

本体しか魔法が使えないことがバレないように、“偏在”に“プレート魔法”の効果を使ったりの小細工もちょくちょく行う。

対するカリーヌの風は変わらず強力で、それが本家“偏在”の力によって、ほんとに四方八方から襲いくるのだから、まさしくそこは“烈風”の領域とでもいうべき、風のフィールドへと姿を変えていた。

その中を魔法を無効化する“M0”があるとはいえ、ギリギリでも切り抜けられている大賀が凄いのか、単純にそんな状況を作り上げることができるカリーヌが凄いのか、傍目にこの戦いを見ているルイズたちにも判断などつかない。

 

「おぉおおおおおおおっっっ!!!」

「はぁあああああああっっっ!!!」

 

互いの気迫がぶつかり合う。

もうどっちも凄いで終わりで良いのではないかと思えるくらいに、戦いはこの世界における魔法戦闘の極致とでもいうべき、どちらかが死ぬまで終わらない類の、危険な領域へと踏み込もうとしていた。

 

「も、もう……もう、やめてぇえええええええっっっ!!!」

 

しかしである。

それを止めてしまうのが、ある意味で空気の読めない規格外――伝説なのであった。

 

光が爆発し、戦いの熱が掻き消される。

 

……ここに腕試しであったはずの決闘が終わった。

久澄大賀は知らない。

カリーヌに引き分けるということが、どれほどの快挙なのかということを。

彼は知らないままに戦いを挑み、知らないままに戦いを終えて、知らないままに安堵した。

 

カリーヌ――“カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール”――“烈風のカリン”としてトリステイン国内、いや国外にまで広く知られた、歴代でも最強クラスと名高い凄腕のメイジ、その人物と戦っていたという事実を。

 

 

 

 

 

「まぁ……わたくしが熱くなっていたことは認めましょう。そして彼の力も。しかし、あのまま続けていれば勝っていたのは間違いなくわたくしでした」

「カリーヌ……」

 

戦闘を終えてなお、完全には熱が冷めきってはいない様子の公爵夫人にラ・ヴァリエール公爵は咎めるような視線を向けた。

ルイズにしてみればとても珍しい出来事である。

 

「少し落ち着きたまえ。いまのきみは昔の顔が覗いている」

「……その自覚はあります。ルイズのことで取り乱すあなたほどではありませんが」

 

ラ・ヴァリエール公爵は鼻を鳴らした。

 

「きみのせいで必要以上に彼が戦える人間であることがわかってしまった。おかげで彼をイビる口実が減った」

「(おい……)」

 

大賀の内心のツッコミも、“烈風”を妻としている彼にとってはほんとにどこ吹く風のようだ。

そしてカリーヌはルイズと向き合う。

 

「ルイズ、どうやらあなたは運命に抗う力を手に入れたようね」

「……母さま」

「だからきっとあなたはこれからも冒険をするのでしょう。それこそかつてのわたくしたちのように。けれど……決して忘れてはなりませんよ。ここがあなたの家であり、わたくしたちはいつでもその帰りを待っているのだということを」

「はい」

 

何はともあれ、大賀の力は認められ、ルイズの行動もとりあえずは許される方向に話は落ち着いたようだ。

ルイズはこれで心配事はなくなったと顔を輝かせているが、実は大賀にとってはこれからが本番の苦難の日々なのであった。

 

何しろ残る夏季休暇の間、訓練と称したイビリを筆頭に、ルイズをも超えるかもしれないラ・ヴァリエール家の人々の我儘に振り回されることになるのだから。




いやー、うちの大賀はほんとやれば出来る子ですね。
今回はかなり頑張ったんじゃないですか?
完全決着とはなりませんでしたが、影分身もどきまでやっちゃって。
烈風さんに“偏在”を使わせたらそんな行動を思いついちゃって作者ビックリですよ。
ほんとはワルド戦くらいな感じで使う予定だったのに。
まぁそのせいで烈風さんも本気になっちゃって。
いつものように杖を奪うかして勝つ感じだったのに、戦闘を止めちゃいました。
腕試しであって、殺し合いじゃないですからね。

ただ、そろそろチートタイムは一旦終了になりそうです。
才人がガンダールヴじゃなくなるみたいな感じで。
いや、それだと結構すぐに元通りかな。
まぁでも、1日の回数制限くらいはつけても良いかなって感じがしますね。

しかしこれ、1回目ならどう勝ったんですかね。
それこそ“M0”のゴリ押しくらいしか思いつかないなー。
一応1回目でも記憶魔法は使えますけどね。
ただ、プレート魔法なしでそんなことしてる余裕があるのかなーって感じですね。
だって烈風さん怖いんだもの。
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