あ、でもフーケやアルビオンくらいまでなら今月中に投稿できるかもしれない。
あくまで“かも”なのだけど。
――朝。
九澄大賀の異世界生活は、自分に宛がわれた使用人用の部屋のベッドの上で目覚めることから始まった。
あの後、大賀は少しルイズと話をした。
使い魔のフリをするにあたっての確認とか、そんな感じだ。
そこでこの世界のことやこの世界の魔法についても何となくだが聞いた。
だが、大賀自身は“M0”については秘密にしていた。
“M0”はどう考えても生命線だ。
その後、この部屋で試してみたら使えたことからも、その判断は間違っていなかったと思った。
どうやらこの世界は、日常的に魔法を使うだけあって、世界そのものが“魔法特区”のようになっているのだと思われた。
“M0プレート”は大賀にしか使えないように登録されているが、それでもこの世界では珍しい物だ。
取り上げられたりしたら堪らない。
使用する状況になれば、“BM0プレート”にしてからそうしてるように、胸ポケットに隠したまま使用するのがよさそうである。
一応短めの携帯用の杖も貰っており、必要があればそれで演技する必要もあるだろう。
何だか、柊父に任せていた時のことを思いだして苦笑した。
“
ただ、問題は“魔法ポイント”を溜めようがないと言うことだろう。
加えて、こちらの世界の魔法を“チャージ”できるかもわからないので、使用は控え、切り札とするのがいいだろう。
“チャージ”に関しては早急に調べたかったが、ストックしてある“
「ふぁ~……おはよぉ、大賀」
「ああ、おはよ」
妖精か小人のように擬人化したマンドレイクであるルーシーが大賀の用意した急造の寝床――植木鉢に水を張ったもの――から起き出してふよふよと大賀のそばに浮かび上がる。
「それで今日はどうするの?」
「どうするっつってもな……。あのルイズって奴のとこに行って使い魔のフリをするしかねーんじゃねえか? 少なくとも魔法が使えない俺じゃ元の世界に戻る方法なんてさっぱりなんだしよ」
「そっかー。私も一緒に行っていいんだよね?」
「そりゃ来てもらわないと困るぜ。何させられるかわかったもんじゃねーからな」
そう言って大賀は身支度を整えると、前日にルイズと話をした時に入ったルイズの部屋に向かった。
「おーい、ルイズ、起きてっか~」
ドンドンとルイズの部屋のドアをノックしていると中から寝起きの少しばかりの不機嫌そうな声が聞こえ、しばらくゴソゴソと身支度を整えるような音がした後にルイズが出てきた。
「……おはよう、タイガ」
「おはよ……ってか、人の顔を見るなり溜息を吐いてんじゃねえよ」
「仕方ないじゃないの。あんたの顔を見たら、昨日のことが夢じゃなかったんだって実感しちゃったんだから」
「あのな。溜息を吐きたいのはこっちだっての」
「はいはい、わかってるわよ。この言い争いが不毛なことはもうわかってるから、とっとと行くわよ」
「あ、おいっ!」
先行するルイズの後を追い掛けようとタイガが足を踏み出し掛けたところで、隣の部屋のドアが開いて、中から赤毛で褐色の肌をした豊満な身体の女子が出てきた。
「おっと……」
「あら、おはよう。ルイズ」
「おはよう、キュルケ」
ルイズは大賀に向けていた顔よりも、さらにもう一段階上の嫌そうな顔をしながらその女子に挨拶をした。
“キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー”、ルイズの同級生で、家系的にもずっと張り合っている家の娘だった。
「あなたの使い魔ってほんとに彼になったのね。あっはっは! “サモン・サーヴァント”で平民を喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。さすがは“ゼロのルイズ”」
「(“ゼロのルイズ”……?)」
大賀はキュルケと呼ばれた女子が口にした言葉が少し気になった。
ルイズの頬に朱が差したところを見ると、ルイズ的には好ましくない呼ばれ方のようだ。
「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。“フレイム”!」
「おわっ!!?」
キュルケがその名前を呼ぶと、のっそりと部屋から真っ赤で巨大なトカゲが現れた。
大賀も魔法学校で色々な経験をしてきたが、あからさまなまでにモンスターといったその姿に驚いて反射的に飛び退く。
「ふふん、どうこの尻尾。これだけ大きなものは間違いなく火竜山脈の“サラマンダー”よ。ブランドものよー」
「そりゃよかったわね」
横目に大賀を見てから苦々しい声でルイズが言った。
「はー……(おいおい聞いてねーよ。いくら異世界つってもよ。ここはこんなモンスター然としたのが普通に存在してんのかよ。これが使い魔って……そりゃルイズも俺を召喚してガッカリもするわ)」
「そういえば、あなたお名前は?」
「いっ、俺? 俺は久澄大賀っつーんだけどよ」
「クズミタイガ?」
「ちなみに久澄が名字な」
「へえ。ってことはタイガクズミ?」
「……続けて読まないでくれ」
大賀は自己紹介する度に“退学済み”と言われるこの状況に若干凹んだ様子を見せた。
実際このままの状況が続けば出席日数とかが足りなくなって、退学はともかく留年くらいはしそうだから困る。
というか、柊父はこれ幸いとばかりに自分とその娘であり大賀の想い人でもある“柊愛花”を引き離しにかかるのではと不安に思っていた。
「ま、いいわ。あなたもルイズなんかに召喚されて災難だろうけどせいぜい頑張りなさい。それじゃ、お先に失礼」
そう言うと、炎のような髪をかきあげ、颯爽とキュルケは去って行った。
キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締める。
「く、くやしー! 何なのあの女! 自分がお目当てのモノを召喚したからって自慢して! ああもう!」
「まぁ確かになんかスゲーの連れてたよな。ここの奴らってみんなあんなの連れてんのか?」
「ふん、あれはアタリよ。今年は“タバサ”が風竜を召喚したから2番目だけどね。っていうか、あんたが召喚された時にも色々いたと思うけど」
「そういやいたような……」
あの時は元凶のルイズたちを除いて、周囲の者は全部魔法で生み出された風景だとか思いこもうとしていたから気にしていなかったが、振り返ればドラゴンっぽいのとか他にも色々……そんなのがいた気がしなくもなかった。
「はぁ……何でわたしはあんたなのかしら。別に使用人が欲しいわけじゃないのに……」
「使用人ってお前な」
「わかってるわよ……あんたもメイジだってんでしょ。メイジがメイジを召喚するって何よ。意味不明よ」
「こっちの台詞だっての(つーか、メイジじゃねえけど……)」
トリステイン魔法学院の食堂は“アルヴィースの食堂”なんて名前がついた豪華絢爛な場所だった。
大賀は学校が城だと知った時点で思っていたが、その豪華さに圧倒された。
ルーシーも他の者には見えていないが大はしゃぎしている。
「うーん……あんたはどうしたらいいのかしら?」
「どうって何だよ」
「だってほら、あんたがメイジだってのは秘密じゃない。この食堂は使い魔は入れちゃいけない決まりなのよ」
「げっ、そうなのか……つっても、人間の使い魔ってそもそも俺だけなんだろ。他の使い魔なんかはどうしてんだよ」
「使い魔の厩舎とかで生肉でも食べてんじゃないの」
「おいおい、そりゃさすがに勘弁だぜ……」
「……そうね。考えるのが面倒だからもういいわ。誰かに絡まれるようなことがあったらあんた自分で対処しなさいよ。メイジなんだから。あ、でもメイジだってバラさないように対処するのよ」
「全部俺に押し付けてんじゃねーよ……」
どうにも厄介事の予感しかしない不穏なことを言われたが、大賀としても生肉を齧りたいわけではないので、ルイズの後に従った。
しかし本来の立場のままでいられる――立場的には気楽な状況かと思えば、メイジとバラさずメイジとして対処するとか、難易度が上がってる気がしないでもなかった。
要は平民、一般人に見えるようにしながらも、わかる人間には魔法で対処したよと思わせる工夫をしろということだ。
正直訳がわからない、というのが大賀の本心だった。
「くあー、うめえ! お前ら、毎朝こんなもん食ってんのかよ! 贅沢しすぎだろ!」
ただ出された食事はやたら美味しかった。
朝に食べるには結構ハードなメニューだったが、大賀はその全てを平らげた。
その姿は周囲の者に奇異な目で見られ、ルイズも額に手を当てて溜息を吐いていたが、それらがどうでもよくなるほどに、この世界に来て初めて大賀は満たされていた。
そしていざ授業の時間となり、大賀もルイズに付き添って教室に入った。
魔法学院の教室は大賀が元の世界で通っていた聖凪の――普通の高校的な机が並べられたそれとは違い、大学の講義室のようだった。
石造りの部屋に階段状に長机が並んでいる。
教室内にはすでに他の学生たちの姿も多くあり、連れて来れるようなタイプを召喚した者は使い魔を同伴していた。
教室のあちこちにモンスターの姿があり、大賀はついキョロキョロと周囲を見回していたが、ルイズに脇腹を小突かれて「(やべっ……あまり珍しそうにしてるのもマズイよな)」と我に返った。
まぁ平民を演じてるメイジと見れば、その反応でも問題ないので、ルイズも特に何かを言うことはなかったが。
だが、大賀が周囲を注目しなくなっても、周囲は大賀を注目していた。
やはり人間が使い魔になったというのは相当に珍しいことのようだ。
この感じは1年で教員クラスの“ゴールドプレート”持ちと勘違いされた当時の感じに似ているなと大賀は無遠慮な視線に若干イライラしながらも思った。
そうこうしてる間にふくよかな中年の女性教師が入って来て、授業が始まった。
「みなさん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。この“シュヴルーズ”こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
シュヴルーズが教室内を見回し、そしてやはり大賀でその視線を止めた。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
シュヴルーズのそんなとぼけた言葉に教室中がどっと笑いに包まれた。
「(何だぁ、こいつら……。いくらなんでも笑いすぎだろ。こっちだって来たくて来たわけじゃねーよ。ぶん殴って笑えなくしてやろーか)」
ルイズを直接的に中傷するような言葉はさすがに教師であるシュヴルーズが物理的に――というか、魔法的に粘土で口を塞いで止めていたが、大賀は何となくだが気づき始めていた。
「(……ルイズ、こいつってもしかして落ちこぼれでイジメられてんのか? まぁイジメつってもバカにされてる程度っぽいけど)」
その後は普通に授業が始まり、大賀も“プレート魔法”とは違うその授業を物珍しげに聞いていたのだが、石ころを望む金属に変えるという“錬金”の魔法をシュヴルーズがルイズにやらせようとするとまた教室内が騒がしくなった。
というか、他の生徒たちが必死になって止めようとしていた。
しかし、その声空しくルイズは教壇に立ち、短くルーンを唱えると杖を振った。
「!」
周囲の騒ぎを不審に見ていた大賀もそこに至ってようやく理解した。
そして何とかその範囲から逃れようとしたその瞬間、机ごと石ころは爆発した。
ルイズとシュヴルーズは爆風をモロに受け、黒板に叩きつけられた。
そして大賀は爆発した机の欠片が脳天に直撃して吹っ飛んだ。
「ちょっ……わけわからん……」
使い魔たちも騒ぎ出し、教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる中で騒ぎの元凶となったルイズはむくりと立ち上がると「ちょっと失敗したみたいね」と淡々と呟いた。
魔法成功確率0――“ゼロのルイズ”。
そのあだ名の意味を大賀は身を持って味わったのだった。
大賀とルイズの二人は、教室を滅茶苦茶にしたことの罰として教室の掃除を命じられていた。
しばらく作業は無言で進んでいたが、その雰囲気に耐えられなくなった大賀がもういっそのことと、ストレートに尋ねた。
「ルイズ、お前……魔法使えないのか?」
大賀の言葉にビクッとルイズは身体を震わせた。
そしてかはっと息を吐き出すと絞り出すかのような声で喋りだした。
「そうよ……いつだって失敗ばかり。だからあんたも巻き込んだ。いいのよ、笑っても、怒っても、結局何もかも全部わたしのせいなんだから……!」
ルイズはいまだ煤だらけの長机に両手をついてそう言った。
泣いているかのようにも思える姿だが、それは堪えているようだった。
「……(俺がほんとにメイジだったりしたら落ちこぼれの失敗魔法のせいだって怒りもしたんだろーけどな。俺はルイズにそう言えるだけの資格がない。俺もルイズと同じだ。ほんとは魔法なんて使えない。つーか、文句自体はさんざん言ったしな)」
「何よ。なんで何も言わないのよ。やめてよね! 憐れんでるの? メイジのくせに魔法が使えないからって」
「そうじゃねーよ。そのなんつーか気持ちはわかるっつーか」
「はん、気持ちがわかる? わかるわけないわ! 魔法が使えるあんたにはね!」
「いや俺は――(ってちょっと待て。さすがに魔法が使えないって言うのはマズイか? それで慰めになるかも微妙だし、何より使えないだろーけど、プレートを寄こせとか言われても困る。これは俺にとって生命線だ)」
同情して寄り添って、それで現状を悪化させるようなら意味がない。
大賀はぐるぐると考えて、なんかそれっぽいことを言ってみることにした。
「……まぁ確かにな。魔法が使える俺にはお前も言われたくねーかもしれねーけど、俺も使えるようになるまでは結構努力したんだぜ」
「努力ならいくらだってしてるわよ!」
「ああ、だろーな。でもよ、物事はなんだって考えようだ。お前がどんな魔法でも失敗ばかりで爆発しかさせられないっつーなら、それはもう爆発の魔法ってことでいいじゃねーか。ちゃんと魔法を覚えるまでは、それをお前の武器にすればいい」
「そんなこと……」
「誰もが魔法を使える状態で自分は使えないってのは確かに辛いだろーよ。けど、1個、自分の武器があれば意外と何とかなるもんだぜ。俺が保証する(うーん、こんな言葉で大丈夫か? そもそも爆発の魔法なんてケンカとか限定的な状況でしか使えねーよな)」
大賀的にも爆発の魔法を日常の中でどう活かすのかはよくわかってなかったが、まぁムカツク奴をブッ飛ばすのにはスゴイ使えるだろーなとそんなことを思って説得した。
ルイズはそれで悩みが解決ーみたいな簡単な性格はしてなかったが、とりあえずは落ち着いたようだ。
「とにかく、部屋片付けよーぜ」
「……そうね」
結局、部屋の片付けは昼までかかった。
大賀は“ホッチャー”を使えば楽だろーなと思いながらも、この世界でも魔法香の材料が手に入るかがわからなかったので、温存した。
ルイズにどうして魔法を使わないのかと聞かれたが、俺は極力魔法を使わない主義と元の世界でも言っていた言い訳+平民の使い魔のフリしてんだから、誰かに見られたらマズイだろと言って誤魔化したのだった。
まぁそもそも罰なので魔法の使用は禁止と言われていたのだが。
「諸君! 決闘だ!」
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
なぜこんなことになったのか。
昼休みの“ヴェストリの広場”は大いに賑わっていた。
大賀はその少年“ギーシュ・ド・グラモン”の落とし物である香水の壜を拾ってあげただけだというのに。
まるでセットメニューのように大賀の行動にはトラブルがいつも付いて来るのであった。
「タイガ! あんた、魔法は秘密にしなきゃいけないのに決闘なんて受けてどーすんのよ!」
「え、ああ。まぁ何とかなるだろ。要は使ってるってバレなきゃいいんだろ? ――それに、むしろいつもの逆と言うか、俺はそっちの方が得意だからな」
とはいえ、大賀としてもここらで一発かましておいて、自分の立場というか待遇的なモノを確立、あるいは向上させておきたかったのである意味望むところだった。
そのために拾った壜のせいで二股がバレた――哀れというか自業自得な目の前の少年にはさらなる犠牲になってもらう。
「先手必勝!」
「わ、“ワルキューレ”!」
大賀は決闘の開始と同時に何か魔法を使われる前にギーシュをぶん殴って終わらせるつもりだったが、さすがにそこまで簡単には終わらなかった。
大賀の足元から青銅製の女性型のゴーレムが現れたので、急ブレーキと同時にその頭を蹴って後方に跳んで距離を作った。
「(ちっ……ソッコーで終わらせてやるつもりだったのによ。これがこの世界の、ギーシュの魔法か。けど、こういう魔法なら不良が仲間を呼んだ程度のもんだな。まぁさすがに拳で壊せる感じでもねーけど)」
「ふっ、ぼくの“ワルキューレ”を見ていまさら後悔しても遅いよ」
大賀の素早い行動に一瞬慌てたギーシュだったが、“ワルキューレ”を作り出したことで、もう勝ちが確定したとでも思ってるのか余裕の態度を取り戻していた。
だが――。
「おらぁ!」
気合一発、拳だと痛めそうなので大賀は革靴の底で押すようにして“ワルキューレ”を蹴り飛ばす。
「なっ!!? “ワルキューレ”は軽くないぞ! それを蹴り飛ばすなんてどんな身体能力してるんだ!!?」
“ワルキューレ”相手でも怯む様子がなく、普通に戦う大賀の姿に、ギーシュはまた余裕を失った。
何せ大賀は“ワルキューレ”なんて眼中にないとばかりに、距離を作る度に自分に向かって来ようとするのだ。
「す、少しはやるようだね! だったら数で押し切ってやる! “ワルキューレ”!!!」
「いっ!!?」
ギーシュがその手に持った薔薇を振ると、“ワルキューレ”の数が一気に7体にまで増えた。
ギーシュは7体の“ワルキューレ”使いだったのだ。
その程度の数、例えば不良が相手なら順番に悶絶させていけば問題としない大賀だったが、何せ相手は青銅製だ。
殴る蹴るで壊れて行動不能になってはくれない。
さすがに少し面倒な状況になってきたなと大賀は思った。
「(ちっ、ルーシーに頼んであの杖代わりっぽい薔薇を奪ってもらえば、それで終わるんだろうけど、一応は1対1の決闘として受けてるからな。まぁすでに全然1対1じゃねえけど……)」
ただ勝つだけならいくつか方法は思い付いていた。
ルーシーに頼むというのもそうだし“M0”を使えば“ワルキューレ”を消し去ることもできるだろう。
さらにはいきなり“
だが平民の使い魔を演じるなら、素手で勝った方がたぶんいいのだろう。
その一番のチャンスは先手必勝だったのだが、それは逃してしまい、“ワルキューレ”も7体にまで増えてしまった。
となると残る方法は――。
「(……しゃーねえ。無傷で勝つのは諦めるか。痛いのは嫌だけど――いや、当たる瞬間に集中して“M0”を使えば威力は半減できるな)」
大賀は作戦と覚悟を決めて、その瞬間のために集中する。
“ワルキューレ”の攻撃を何とか避けながら動き回り、ちょうどいいタイミングを計った。
「(ここだ!)」
大賀がそう思うと同時に大賀は“ワルキューレ”に殴り飛ばされた。
青銅製の拳はよほど重かったのか、大賀はバイクにでもぶつかられたのかってくらいに思いっきり吹き飛ばされた。
「やった! ずいぶん逃げてくれたが、これで終わりだな!」
“ワルキューレ”の攻撃が当たったことにギーシュは喝采を上げる。
「た、タイガ!!!」
ハラハラと決闘を見守っていたルイズは悲鳴だ。
しかしその二人の表情はすぐ次の瞬間には反転することになった。
「――俺の勝ちだな」
「「えっ」」
大賀が吹き飛ばされたのは当然のようにわざとだった。
タイミングを計りギーシュの近くに吹き飛ばされてもおかしくない状況を作り上げたのだ。
ギーシュの“ワルキューレ”は吹き飛ばされる前の地点にいた大賀と戦っていたのだから当然その傍にはいない。
仮にいたとしてもギーシュは一瞬で大賀に転ばされ薔薇を奪い取られ、制圧されてしまったのだから、ギーシュの命令で動く“ワルキューレ”が反応することはなかっただろう。
「降参しろよ。それとも思いっきり殴られたいか?」
「……ま、まいった!」
大賀に近場で凄まれてギーシュは震える声で敗北を認めた。
大賀はその言葉を聞き届けると、ギーシュを解放して、自分の腹の具合を確かめる。
「(うん、瞬間的に“M0”で“ワルキューレ”の拳を止めたから、ほとんどダメージはないな。むしろ自分で吹っ飛んだ時に頭うったから、そっちの方がいてーかも)」
大賀は腹に続き後頭部を撫でながらそんなことを思う。
「タイガ! あんた大丈夫なの!!?」
「おー、ルイズ。大丈夫大丈夫。派手に吹っ飛んでみせたのはワザとだよ。ありゃ地面を蹴ってほとんど自分で飛んだんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「何だよ、心配してくれたのか? イイトコあるじゃねーか!」
「ふ、ふん! 別にあんたの心配なんかしてなかったわよ! ただわたしの使い魔であるあんたが無様に敗けるとわたしの評判も落ちるから、そっちを心配してただけよ!」
「……評判ならすでに最下層まで落ちてんだろ」
「う、うう、うっさい、バカ!」
この決闘の後、平民の使い魔に負けたということでギーシュの株は落ちたが、相対的に大賀の株は上がった。
特に平民で構成されている使用人たちの間でのそれは高く、一種の英雄扱いだった。
とにもかくにもそんな感じで――大賀は異世界においても自分の力で状況を改善しながら逞しく生きていた。
大賀には一途であってほしいので、シエスタの出番が作り辛いかも。
そもそもが日常キャラだし、大賀が相手にしなければそのまま話に絡んでこなさそうだ。
タルブに行くために登場させる程度かも知れない。
まぁキャラが増えるとそれだけ執筆時間が増えるからいいんだけど。
でもいないのもそれはそれで寂しい気も……などと悩む優柔不断な作者です。