エム×ゼロの使い魔   作:第7サーバー

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意外と文字数が増えて、切るタイミングに悩む。
とりあえず、アルビオンにはまだ辿り着けずで今回は繋ぎ回。
でも、あと1~2話で一気にって感じになりそうです。


BM5:空に続く道

朝靄の中に三人の人間の影が浮かび上がる。

トリステイン王国の王女さまであるアンリエッタに困難な任務を託された大賀たち三人だ。

正確には大賀以外には見えない形でルーシーもいるが、それはいつものことと言っていいだろう。

大賀たち三人のそばにはそれぞれ馬がおり、彼らは馬具を取りつけていた。

 

「はぁ……また馬に乗るのかよ。これ、普段使ってない筋肉使うみてーで身体痛くなんだよな」

 

大賀は前に城下町に買い物に行った時にも馬に乗っていた。

その時に腰やら尻やらが痛くなり、いい思い出がある移動手段ではなかったので軽く愚痴る。

 

「文句言ってないでよ。歩いていくわけにも行かないでしょ」

「そらそうだけどよ……。免許持ってねーし、運転できるわけじゃねーけど、この世界にも車とかありゃあな……」

「くるま? くるまって馬車のことじゃないの? 今回は急ぎの任務だから馬車はダメよ」

「そうじゃなくて……いや、説明しても仕方ねーからいいわ」

 

大賀は溜息を吐いてルイズとの会話を打ち切った。

こういう会話をしてると、続く思考として、一体いつになれば自分は元の世界に戻れるのかなんて考えてしまう。

たまに学院長のオスマンに確認を取るのだが、その時の答えは決まって「まだ見つかっておらん」だった。

そんなだから、ほんとに元の世界に送還するための方法を探してくれているのか、それ自体を疑ってしまいそうでもある。

 

「それよりもきみたち、ちょっといいかな?」

「あ? 何だよ」

「今回の名誉な任務にぼくの使い魔も連れて行きたいのだが、どうだろう?」

「連れて行きゃいいじゃねーか。そういや、ギーシュ、お前の使い魔って何だよ」

「そうか! いいか! 出ておいで、ぼくの“ヴェルダンデ”!」

 

大賀の肯定の言葉に、ギーシュは嬉しそうに自分の使い魔の名前を呼んだ。

すると大賀たちのそばの地面がボコッと隆起し、中から軽く1m以上はありそうな大きなモグラが顔を出した。

 

「モグラ?」

「“ジャイアントモール”のヴェルダンデさ! 土系統のメイジであるぼくにはピッタリな使い魔だろう? ああ、今日も可愛いよ、ぼくのヴェルダンデ!」

 

ギーシュはそのモグラを溺愛してるようで、頬をすり寄せている。

その様子に大賀は若干引いた。

 

「ねえ、ギーシュ、ダメよ。その生き物、地面の中を進んで行くんでしょう? わたしたちはアルビオンに行くのよ」

「そんな! お別れだなんて寂しいよ、ヴェルダンデ!」

「……どういう意味だ? 役に立つのかどうかはともかくとして、何でこのモグラを連れてけねーんだよ」

「何でも何も……きゃっ、何よこのモグラ!」

 

大賀がルイズの言葉に疑問をぶつけるが、その疑問に答えようとしたルイズに、いまだに引っついていたギーシュを振り払ったヴェルダンデが、グモグモとすり寄った。

 

「なっ……そんなバカな! このぼくよりも、ルイズの方がいいとでも言うのかい、ヴェルダンデ!」

 

ギーシュはよよよ……とまるで悪い男に捨てられた乙女のように、芝居がかった態度でその腕を伸ばしながら泣き縋る。

まぁ実際には鉱物が大好きなヴェルダンデが、ルイズが指に嵌めた“水のルビー”に反応しているだけなのだが、ギーシュにしてみればどちらにしても自分が一番でいられていないことには変わりがなかった。

 

「何バカ言ってんのよ! ちょっ、ちょっと、タイガ! あんた、見てないで助けなさいよ!」

「お、おお……悪ぃ。――って、何だぁ?」

 

ポカーンとその状況を傍観していた大賀がルイズを助けようと動く前に、自然のものとは思えない纏まった風がヴェルダンデを包み浮かび上がらせた。

そして、ぽいってな具合でその主人であるギーシュを押し潰す。

 

「ぶぎゅる……あ、愛が重いよ。ヴェルダンデ……」

 

それでもどこか嬉しそうな様子のギーシュは放っておいて、大賀はこちらに近づいてくる長身の男の気配の方に視線を向けた。

 

「誰だ?」

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、“ワルド”子爵」

「ワルドさま……」

「ワルドさま?」

 

現れたのは羽帽子を被った凛々しい貴族だ。

大賀たちとは10近く年齢が離れているだろうか。

そんな貴族のことを知っているらしいルイズの呟きに、大賀はヴェルダンデから解放されて起き上がったルイズをちらりと横目で見た。

 

「おお! ルイズ! 僕の可愛らしい婚約者!」

 

「…………は、はぁあああああああ~~~っっっ!!?」

 

衝撃の展開である。

 

「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」

 

「な、何だこいつ……(ロリコン?)」

 

大賀はルイズとじゃれるワルドの姿に、先ほどまでのギーシュの姿を簡単にぶっちぎった、出会ってはいけない変態と出会ったような気分になった。

まぁ自分の姉がルイズよりもさらに小柄であることもあって、見た目で判断してはいけないことは骨身に思い知らされているのだが……それとこれとは話が別だろう。

というか、婚約者とは。

そんなのがルイズにいるだなんてファンタジーな世界の中でも飛びぬけてファンタジーな出来事であった。

 

「さて、ルイズ。積もる話は後にするとして、とりあえず彼らを紹介してくれたまえ」

「あ、はい。グラモン元帥の子息であるギーシュと……使い魔のタイガです」

 

ルイズの言葉にワルドはギーシュよりも大賀に関心を持ったようで、ギーシュには視線を一瞥しただけで済まし、大賀と向き合った。

 

「君がルイズの使い魔か。まさか人間だとは思わなかったな。姫殿下も人が悪い。話してくださればよかったのに」

「ども……あんた、何なんスか? ルイズの婚約者ってのはともかく、軍人?」

「そうだ。君たちの極秘任務に同行するように、姫殿下にこれまた極秘で頼まれたのさ」

「助っ人ってことスか?」

「そうなるね。君たちだけだとやはり不安に思ったらしい。そこで姫殿下の護衛としてこの地に居合わせた僕に頼んできたのさ。僕がルイズの婚約者だということは姫殿下も知っていたから、ちょうどいいと考えたのだろう」

 

ワルドの言葉に大賀は納得した。

自分だってどうにも不安に思うこの状況だ。

その元凶であり任務を依頼したアンリエッタの胸中もそれ以上に不安が溢れていることだろう。

だが、それならと大賀は思う。

 

「つーか、何かの部隊の隊長だっていうあんたが行くなら、そもそも俺らは行く必要がねーんじゃねえの?」

「いや、残念ながら幼少の頃からの付き合いであるルイズほどには、僕も姫殿下に信頼されているわけではないんだ。そもそも僕は普段は女王陛下の命令を聞く身だからね。あくまでルイズがいるからこその任務なのだよ。僕はその護衛のようなものさ」

「そうなんスか……(ちっ、押しつけられんならこいつに押しつけて終わりでよかったのに)」

 

すぐに元の世界に帰れると思っていたわけでもないが、この世界での生活も長くなってきた。

その時間でこの世界の魔法も“チャージ”できることがわかったり、“ホッチャー”の魔法香の材料が手に入ることもわかったりして、困難に立ち向かうための術はいくつか用意できていたが、それにしても戦争だ。

日本人の大賀にとっては、とても現実感を感じられるものではないテレビの中のどっか遠い外国の話であった。

ある程度覚悟を決めたいまでも、当然のことながら積極的に行きたい場所ではないことに変わりはない。

 

「どうした? もしかして、アルビオンに行くのが怖いのかい? 大丈夫、僕がついてるし、君はあの、“土くれ”のフーケを捕まえたんだろう? その勇気があれば、なんだってできるさ!」

「はぁ……(あれ、俺がフーケを捕まえたってことは知ってるのか? 俺が人間だってことは知らなかったのに。ああ……ルイズとルイズの使い魔が捕まえたみたいな感じで話を聞いたんかな)」

 

ワルドはルイズへの接し方を除けば、雰囲気もあるし、頼りになる人間のように見える。

そもそもがルイズの婚約者でアンリエッタが寄こした人間となれば身分的なものは信頼していいはずだった。

 

「(にしても……そうか。フーケを捕まえたあの事件がキッカケか! 国の兵隊たちも正体がわからず手こずってた相手を捕まえちまったから、こんな面倒事をルイズに頼もうなんてあのお姫さまも思っちまったわけだな。なんてこった)」

 

これがいわゆる負のスパイラルというやつだろうか。

何かしらの事件に関わったが故に、次々と連鎖的に面倒事が舞い込んでくるという。

元の世界でも、何となく身に覚えのある状況だ。

大賀がそんなことを考えていると、ワルドが口笛を吹いて自身の使い魔である“グリフォン”を呼び寄せた。

鷲の頭に獅子の身体を持った飛行もできる幻獣だ。

ワルドはその使い魔にひらりと跨ると、ルイズに手招きした。

 

「僕の事情はもう理解できただろう? ならば早速だが、出発するとしよう! おいで、ルイズ」

「え、ええっと……」

「何だよ? さすがに三人は乗れないだろ。俺はギーシュと予定通り馬で行くよ。別にルイズたちだけで行かせたりはしないって」

 

何やらルイズがもじもじとしながら大賀を見たので、大賀はルイズを安心させるようにそう言った。

ルイズはそれに対して何か口を開こうとしたが、その言葉が声となる前に、ワルドがルイズをグリフォンの背中へと攫い上げた。

 

「では諸君! 出撃だ!」

 

現れたばかりだというのに、すっかりこの任務の中心に居座ったワルドが号令をかけると、グリフォンが空へと駆け出した。

大賀とギーシュも遅れないように、慌てて馬へと跨る。

ルーシーは大賀の頭の上だ。

この道の先、この空の先、目的地であるアルビオンに彼らは無事に辿りつけるのだろうか。

そしてアルビオンで彼らを待ち受けるものとは……。

 

 

彼らの目的地はアルビオンであるが、そのために彼らはその玄関口である港町“ラ・ロシェール”へと向かっていた。

ラ・ロシェールは普通に行けばトリステインからは馬で2日かかる距離だ。

しかし、ワルドのグリフォンはタフで休まず疾駆させ続けているために、その姿を追う大賀とギーシュの二人もまともに休むこともできずにひたすらに馬を走らせていた。

 

「もう半日以上、走りっぱなしだ。どうなってるんだ。魔法衛士隊の隊長は化け物か!」

「確かに……馬に乗ってるだけっつても、こりゃしんどいぜ……」

 

ぐったりと馬の首に身体を預けている二人。

しかしその甲斐もあって、どうやら2日かかる距離もその半分以上をもう踏破したようだ。

任務自体は順調。

まぁ移動してるだけでいきなり任務が露見するなんてことがあるわけないのだから、トリステインの領内にいる間はそこまで警戒する必要はないのだろうが。

 

「ねえねえ、大賀。ルイズはあの隊長さんと何を話してるんだろうね。婚約者だとか言ってたじゃない」

「さあな……。積もる話とやらをしてるんじゃないか? 別に何でもいいぜ。ルイズも嫌がってるとかって感じでもなかったしよ……。年齢が離れてるからビミョーに見えっけど、こっちはさすがに政略結婚ってわけでもねえだろ」

「そうなのかな? ルイズの年齢で婚約者って、自分で決めたものじゃないと思うけど……」

「あー……まぁそれは確かに。でも親とかが決めたんでも、嫌じゃないなら別にそれはそれで良いだろ。出会いなんてそれぞれだし、少なくともワルドって奴の方は乗り気っぽいしよ。ルイズも満更でもねーんじゃねえの」

 

実際大賀から見るルイズは、恥ずかしがってはいても、ワルドに対して嫌悪感を抱いているなどといった負の感情はないように思えた。

ならそれに関して自分が口出しするようなことはないだろう。

恋愛でも結婚でも好きな相手とすればいい。

 

「(つーか、二人乗りとか羨ましいぜ。俺もとっとと元の世界に戻って柊と……)」

 

疲れたり思考が横道に逸れた時の大賀は愛花の妄想に走りがちだった。

この世界に来た当初は携帯電話にみんなで撮ったような写メが画像データとして残っていたので、それを見たりして元の世界に思いを馳せていたのだが、すぐにバッテリー切れとなって、いまでは妄想頼りになってしまっていた。

しかし時間が経っても離れていても、その想いが薄れるどころか、ますます強くなるのが、大賀が大賀である所以だろうか。

 

「(そうだ。こんな任務だってすぐに終わらせてやる。身体がいてーなんて泣き言を言ってる場合じゃねーぜ!)」

 

愛花への妄想で気持ちを立て直し、さらにそのまま馬を走らせ続けること数時間。

周囲が暗くなって、夜中になってようやく。

ラ・ロシェールへの入り口となる山道に入ることができた。

 

「あのさ、大賀、私たちが向かってる場所って港町じゃなかったの?」

「ああ……そのハズなんだけどな」

 

周囲は険しい岩山で近くに海があるような気配はない。

しかし、峡谷の間に街も見えたし、先行するルイズたちに並走するギーシュも何も言わないのだから、その街がラ・ロシェールであることは間違いないだろう。

大賀が一応ギーシュに確認しようかと考えたその時である。

不意に、大賀たちの跨った馬にめがけて、崖の上から松明が何本も投げ込まれた。

 

「な、何だ!!?」

 

いきなり飛んできた松明の火に、馬が驚き前足を上げて暴れ出す。

大賀は必死に手綱を取った。

その横ではすでに疲れ切っていたギーシュがその状況に脱落し、あっさりと馬上から振り落とされていた。

 

「ぐげっ……き、奇襲だ! 夜盗が襲撃を仕掛けてきたんだ!」

 

ギーシュの言葉通り、続けて何本もの矢が夜風を切り裂いて周囲の地面に突き刺さる。

 

「くそっ、先行してるルイズたちは気づかなかったのかよ!」

「ど、どうする、タイガ!」

「どうするも何もやるしかねーだろ! 襲ってくるってんならよ!」

 

慣れたとは言えない馬に乗っていては逆に不利と、大賀は自分で馬から飛び降りて臨戦態勢になる。

いま大賀のプレートの中に“チャージ”してある魔法は、“ファイアーボール”だ。

ちょっとキュルケの魔法を見てみたいなんて言って、気をよくしたキュルケが見せてくれたのをこっそりと“チャージ”した。

危うく自分が火達磨になる危険な作業だったが、それはいまはいい。

だが、大賀のプレートで発揮できる魔法は、本来のそれの効力の10%である。

つまりこの場合は野球ボール大の火の玉でしかない。

 

「(この“ファイアーボール”一発で崖上の相手を殲滅するのは無理だ……相手の矢が尽きての接近戦に持ち込むしかねーぜ! ギーシュなら魔法使えっけど、いまは動けそうにねー! となるとこれは身を守るために使うべきだ!)」

 

一瞬でそう考えた大賀は“ファイアーボール”を引き伸ばして楯のように使うことを決めた。

キュルケは火球の状態から自由に操作したりしていたから“M0”の形を変化させる時のようなきちんとしたイメージさえあればいけるハズだ。

 

「オープン……!!?」

 

しかし、襲いくる無数の矢に大賀が魔法を発動させるよりも早く、一陣の風が舞い起こり、竜巻となって大賀たちを守った。

 

「大丈夫か!」

 

グリフォンに跨ったワルドが杖を掲げながら、大賀たちの近くまで滑空してくる。

どうやらワルドの魔法に助けられたらしい。

 

「助かった……俺たちは大丈夫だ!」

 

大賀が大声を張り上げてワルドに答える。

 

「ふむ、夜盗の類かな……」

「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業かも……」

「ははっ、貴族なら使うのは魔法さ。弓矢なんて使わないよ」

 

ルイズの言葉にワルドは軽い感じで返す。

どうやらこの状況を危険なものだとは考えていないようだ。

魔法の使えない者が何人集まっても自分の敵ではないとでも思っているのだろう。

実際ワルドにはそれだけの高い実力が備わっている。

 

「では僕が殲滅してくるとしよう――おや?」

 

ワルドがまだ魔法で攻撃していないのに、崖の上から男たちの悲鳴が聞こえてくる。

そして大賀たちのそばにバッサバッサと舞い降りてくる見覚えのある風竜に、その背中に乗った見覚えのある二人のメイジ。

 

「シルフィード! それにキュルケとタバサ!」

「お待たせ、ダーリン」

「お、お待たせってお前ら何でここに……」

「そうよ! キュルケ、あんたたち何しに来たのよ!」

 

シルフィードの背中から地面に降り立った二人の姿に、ルイズもワルドのグリフォンをぴょんと降りて、ズカズカと詰め寄った。

 

「まさか偶然だなんて言わせないわよ!」

「そりゃあね。朝、あんたたちがこそこそどこかに向かうのが窓から見えたから、タバサに頼んで尾けてきたのよ」

 

キュルケはしれっとそんなことを言った。

 

「尾けてきたって……20時間近くずっと上空でか」

「ええ。半日経つ頃にはさすがに飽きてきてたんだけど、なんか意地になっちゃたのよね。だってそこで帰ると完全に時間を無駄にした感じになるじゃない?」

「そりゃそうだろうけど……暇な奴だな」

「違うわ。愛の力よダーリン! ……それはそうと、こちらのお髭の素敵な紳士はどなた? 王女さまの歓迎式典の時にも姿を見かけたけど」

「……ルイズの婚約者の隊長さんだよ」

 

愛の力とか言っておいて、何なんだと思わなくもなかったが、藪蛇になりそうなことは言わずに事実を伝える大賀。

するとキュルケは露骨にがっかりした顔になった。

 

「なんだ……あんたの婚約者なの? はぁ、ただの恋人ならまだしも……あたし、誰かの一番には興味がないのよね。面倒になるから」

「ただの恋人でもダメだろ……」

「あらん、ダーリンってば一途なのね。女は色んな経験をした方が魅力が上がるのよ。まぁダーリンにだったら、あたしも一途になってもいいけど……」

「だーーーっ!!! いちいち引っつくなっての!!!」

 

ワルドにはあっさりと見切りをつけたらしいキュルケのターゲットに再びなってしまったらしい大賀は、すり寄ってくるキュルケに対して腕をぶんぶんと振って距離を取る。

最近ではすっかりお馴染みになってしまったいつもの光景だ。

だが、大事な任務中にそんないつもの光景を繰り広げる二人の姿にルイズは当然キレた。

 

「何をふざけてんのよあんたたちはーーー!!! 大体これはお忍びなのよ、お忍び!!! あんた、何で尾けてくんのよ!!!」

 

お忍びの極秘任務なのは確かだが、それを大声でお忍びお忍び言うのはどうなのだろうか。

しかしキレたルイズはそこら辺には気が回らないようだ。

 

「あら、お忍びならお忍びって言ってくれないとわからないわよ。それともあなたとあたしが言わないでも分かり合える以心伝心の仲だとでも思ってるの?」

「気色悪いことを言わないで!」

「そうよね。あたしも自分で言ってて背筋が寒くなっちゃったわ」

 

お互いに身体を抱きしめるようなポーズをとる二人に、お前らほんとは仲良しだろと大賀は心の中でツッコむ。

 

「―― 子爵、あいつらはただの物取りだと言ってます」

「ふむ、ならば放っておこう」

 

何とこの状況で一番まともに行動していたのは、落馬した衝撃から立ち直ったギーシュであった。

大賀やルイズやキュルケがそんな風に言い争っている間に、ノビていた夜盗たちを拘束し、さらにはその一人を叩き起こして尋問していたのだ。

そのギーシュの報告に、ワルドは頷くとそう決断した。

 

「放っておくって……犯罪者っスよ」

「大事の前の小事だよ」

「でもそれでまた誰か襲われるようなことになったらどうするんスか」

「……ならば、ラ・ロシェールの衛兵にでも伝えておけばよかろう。拘束はしているのだし、あとは彼らが対処してくれるさ」

 

ワルドはそれだけ言うと、ルイズを抱え上げて再びグリフォンへと跨った。

大賀にとっては夜盗とはつまるところ強盗グループで、あっさりやられたとは言っても、かなり危険な犯罪者集団に思えたのだが、普段から犯罪者と戦う職業だからか、それともこの世界では日常茶飯事な出来事なのか、ワルドの態度は素っ気ないものだった。

しかし実際十数人の男たちを引きずっていくことはできない。

ここはワルドの言葉に従うのがいいだろうと、キュルケの抱擁攻撃を躱しつつ大賀も自分の馬へと跨るのだった。

 

 

「ってことは何? アルビオンってのは空にあんのか!!?」

「……タイガ、きみはいまさら何を言ってるんだ。そんなのは当たり前だろう。子供でも知ってる常識だよ。常識」

 

ラ・ロシェールに着いて、一番上等な宿“女神の杵”亭に泊まることにした一行は、一階の酒場で寛いでいた。

そして大賀の港町なのに海はどこにあんだよ発言に、ギーシュは今日の疲れから酒場のテーブルに突っ伏したまま呆れたように答えた。

地上3000m――この世界で言うなら3000メイル――の高さに存在する浮遊大陸。

その地に始祖“ブリミル”の子供の一人が興した、大陸の下半分が雲に覆われているために“白の国”の通称を持つ国、それがアルビオン王国なのである。

 

「つーか、何で大陸が空に浮いてんだよ」

「そんなことぼくが知るもんか。ブリミルの奇跡だよブリミルの。伝説の“虚無”の魔法の名残とかじゃないか?」

「“虚無”?」

「おいおい、きみがいかに異国の平民とはいえ、ちょっと無知すぎるぞ。あらゆる奇跡を顕現することができるという伝説の中にしか存在しない失われた魔法のことさ」

「その魔法で大陸を浮かせたってのか?」

「かも知れんね。ほんとのところは知らないけどね。ぼくが生まれる前からそうだったんだ。そういうものであるとしか言いようがないよ」

「(大陸を浮かせられるスゲー魔法……その系統の魔法なら元の世界にだって帰れるんじゃねーか? つっても、おとぎ話で神様が使ったみたいな感じの魔法じゃあ、探して見つかるってもんでもねーか……)」

 

大賀は伝説のブリミルの魔法に元の世界に戻るための希望を見出してみるが、すぐにそれは無理かと思考をアルビオンのことに戻す。

 

「じゃあ、ルイズと隊長さんが交渉に行った“フネ”ってのは……」

「“風石”の力で海ではなく空に浮かぶ乗り物のことさ」

「へえ、飛行機っていうか、飛行船っていうか、とにかくそういう乗り物は存在してんのか」

 

大賀がなるほどと頷いていると、その二人が“桟橋”での交渉が終わったのか酒場に姿を見せた。

 

「アルビオンに渡るフネは明後日にならないと、出ないそうだ」

「急ぎの任務なのに……」

「あたしはアルビオンに行ったことがないからわからないんだけど、どうして明日はフネが出ないの?」

「明日の夜は月が重なるだろう? “スヴェル”の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンがもっとも、ラ・ロシェールに近づく。フネにはその距離の分の“風石”しか積んでいないらしい」

 

海で言うなら潮の満ち引きとかそういう感じのことだろうか。

でも、それならと大賀は黙々と並べられた食事を食べていたタバサに視線をやりながら言う。

 

「だったら、シルフィードに乗せてもらえばいいんじゃねーか? 浮遊大陸とやらにだってそれなら行けるだろ」

「どうなのタバサ」

「……あの子も今日の移動で疲れてるからすぐには無理。それに人数も少し多い。長距離移動には向かない」

 

ルイズは若干の期待を込めた目を向けたが、タバサの返答にがっくりと肩を落とした。

 

「いや、それでも、隊長さんのグリフォンだってあるし、明後日のフネが出るより前には行けるんじゃねーか?」

「僕のグリフォンもさすがに風竜ほどの飛行能力はないよ。まぁ小回りとかそういう性能ならば上回っているという自負はあるけどね」

「じゃあ結局、明後日まではこの街から動けないってことスか?」

「そういうことになるね」

 

大賀はワルドの言葉に少し考える。

フネは“風石”――要は燃料の関係で、いまは飛べない。

だったら途中まで飛んでもらってそこからシルフィードやグリフォンで飛んで行けばいいのではないだろうか。

 

「(……いや、そんな目立つマネしてられねーか。それじゃあ、あからさまに緊急の用があってアルビオンに行くって宣伝するようなもんだしな。交渉の段階で不審に思われそうだ)」

 

大賀はそう自己完結すると、自分よりもこの辺りのことに詳しい他の者の代案に期待したが、そういった都合の良いものは誰も思いつかないようであった。

そういうわけで足止めは確定事項となってしまった。

まぁ仕方のないことだろう。

この僅かな日数で王党派がやられたりしないことを祈るしかない。

 

「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った」

 

そう言って、ワルドは鍵束をテーブルの上に置いた。

 

「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとタイガが相部屋。最後に僕とルイズも相部屋だ」

「ぶっ!!?」

 

大賀はワルドの直接的すぎる言葉というかアプローチに、反射的に噴いた。

 

「わお、頑張ってねルイズ。ここは素直に応援してあげるわ」

「お、おお、応援って! だ、ダメよ! ワルド! わたしたちまだ結婚してるわけでもないじゃない!」

 

しかしワルドは静かに首を振って、ルイズを見つめた。

 

「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」

 

 

結局ルイズはワルドの真剣な表情にその状況を断り切れず、部屋割りはワルドの言った通りで決定した。

若干大賀に助けを求めるような視線を向けた気もするが、そういう方面では純情な部類に入る大賀もまた何を言えばいいのかわからず、そのまま二人を見送ってしまった。

 

 

そして大賀とギーシュの部屋――。

 

「うーん、タイガ、きみのご主人さまは、今夜、大人の階段を上るのかね」

「し、知らねーって……そりゃルイズの気持ち次第だろ」

「まぁそうだね。いまは任務中だからさすがにそういうことはしないかも知れないね。にしても子爵は大人の余裕というか、さらりと女性を部屋に誘うね。ぼくも見習いたいものだ」

「そういや、お前あの二股はどうなったんだ?」

「……聞かないでくれ」

 

大賀はギーシュの暗い言葉に事情を察した。

もしかしたらそのせいもあって、使い魔のモグラをあんなに溺愛していたのかも知れない。

自業自得とはいえ自分も責任の一端を担ってる気がしないでもないので、とにかくその話題にはこれ以上触れないことにした。

 

「それにしても婚約者か。自由な恋愛を楽しめないのは可哀想だが、ああいう立派な人間が相手なのは、さすがに公爵家の息女なだけはあるね」

「ルイズの家ってスゲーの?」

「もちろん。トリステインでもトップクラスの大貴族だよ」

「へえ、だからお姫さまとも幼馴染なんだな」

「幼少の頃から付き合いがあるなんて羨ましい限りだね。ぼくも可能性としてはなくもなかったんだがなぁ……。父が社交場に連れて行くのは兄たちであることがほとんどだったから、出会いのチャンスを悉く逃して来たんだ」

「ふーん、そうなのか」

「だが、それだけに今回の任務は気合も入るというものさ! ここで姫殿下の覚えめでたくなれば、今後も何かと頼られるかもしれない!」

 

ギーシュは何やら燃えていたが、大賀は「(げっ、そりゃ勘弁だぜ……)」と任務を達成させた場合の今後に漠然とした不安を感じた。

まぁそれも全ては今回の任務を達成させることができてからの話ではあるのだが。

とりあえず急ぎの任務ではあるが、1日休みがあるのはそれはそれでありがたいことだった。

大賀自身ずっと馬を走らせていてかなりの疲労が溜まっている。

アルビオンに入る前に体調を万全にできるならそれに越したことはなかった。

実際その日はこの会話の後すぐ眠りに就いてしまった。

なのでルイズとワルドの間で交わされたであろう会話の内容なども、もちろんまるで知らない。

 

ただ、その日の夢には、愛花が出てきたので、こんな任務の中ではあり得ないほどに幸せそうな顔で大賀は眠っていた。




返信してないけど感想とかは目を通してます。
ありがとうございます。
そういうの返す際は結構悩む方なので、いまは作品で返せばいいかなと思っています。
返信内容で悩んでるうちに執筆に充てようと思ってた時間が終わってたりするタイプなので。
まぁスゴイ余裕があれば返信するかも知れませんが、その時はその時ということでお願いします。
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