アルビオンって意外と最後だけだった。
ようやく次の話でアルビオンの領内に入ってそのまま決着って感じになるっぽい。
「だー……くそっ、超ハッピーな夢だったのに、最後の最後で大門のヤローが出てくるとか何なんだ。俺がいないのをイイコトに柊にちょっかい出してんじゃねえだろーな……」
朝、開口一番で大賀は見たばかりの夢の内容を愚痴った。
せっかく想い人である柊愛花と穏やかな時間を過ごしていたというのに、最後に大門という別のクラスの男子が現れて、魔法執行部の仕事だと言って愛花を連れて行ってしまったのである。
なのでこれはもしかしたら、直感的にそういう事態になっていることを自分の脳が察知した正夢的なものなのでは――なんてもやっとした感情に包まれての目覚めとなった。
そして大賀が気分を切り替えるためにと、備え付けの水瓶の水を桶に移して顔を洗っていると、部屋のドアがノックされた。
ギーシュはよほど疲れていたのかノックの音でも目覚めないようなので、顔を拭きつつ大賀が応対する。
「うーい、誰だぁ……って隊長さんか。どうしたんスか、こんな朝っぱらから。今日は休みだよな?」
「ああ。ちょっと君にお願いがあってね」
「お願い?」
「そう。僕と手合わせをしてくれないか?」
ドアを開けた先に立っていたのはワルドだった。
ワルドは大賀と視線を合わせると、いきなりそんなことを言い出した。
「何でそんなこと……」
「フーケを捕まえたのは君なんだろう? その手段についてルイズは僕にも言葉を濁したが、だからこそ君の実力が知りたいんだ。平民の使い魔だという君が、何をしてフーケを捕らえるのに至ったのかをね」
「……いやでも、いまは任務中だし、昨日の移動で疲れてるんで、そういうのはちょっとイイっスわ。すんません(ったく、そんなことやってられっかよ。こっちはどれも回数制限ある状態でどうにかやりくりしてんだぜ)」
大賀はそれで話を打ち切って室内に戻ろうとしたが、ワルドは大賀の腕を掴んで引き止めた。
「正直に話そう。実は僕はフーケの尋問に立ち会ったんだ。だが、あのフーケですら、何か突然の衝撃にやられたという以上のことがわかっていないようだった。ただの平民がいくら奇襲を仕掛けてもそんなことが可能だろうか?」
「何が言いたいんスか……?」
大賀は内心でちょっと焦った。
まぁ考えてみれば、別に大賀が使い魔のフリをしてるのがバレたところで、基本的にはルイズが留年の危機に陥る程度のデメリットしかないので問題ないとも言える。
もちろん学院内で大々的にバレれば、それに合わせて大賀も放逐ということになって、元の世界へ送還する方法を探してもらえなくなるかも知れないが、まさかルイズの婚約者であるワルドがルイズの不利になるようなことはしないだろう。
しかし、大賀自身もメイジであると思われるのは構わなくても、そこから“BM0プレート”のことまでバレるとなると話は別だ。
生命線であるそれの存在が広まってやりにくくなったり、万が一にも取り上げられたり、失うような事態になるのだけは絶対に避けなければならなかった。
「そう……僕は君が“ガンダールヴ”ではないかと思っているんだ」
「“ガンダールヴ”? なんだそりゃ」
ワルドは大賀の反応を見ているようだったが、その単語にはほんとに聞き覚えがなかったので、何を言われるのかと警戒していた大賀も素で首を捻った。
「始祖が従えたという伝説の使い魔のことだよ。僕はその正体を人間の戦士のことだと推測している。ブリミルは人間を使い魔にしていたんだ。ちょうど君とルイズの関係のように」
「はぁ……(って言われてもな。そもそも使い魔のフリをしてるだけで、使い魔じゃねーっつの。何だこいつメンドくせえ。勘違いで勝負なんて挑んでくるなよ)」
どうやらワルドは大賀が思っていたのとは全然違うところに大賀の力の答えを見出していたようだ。
大賀は安堵すると同時に、呆れてしまった。
「(つーか、伝説の使い魔ってよ……。じゃあこいつはルイズをブリミルとかいう神様と同格だとでも思ってんのかね。いやまぁ……実際異世界から俺を引っ張ってきたんだから、潜在能力みたいのはスゲーんかな?)」
なんてことを思うも、大賀はルイズのこれまでの失敗魔法の数々を思い出して、まさかな……と早々に思考を戻した。
きっと恋は盲目とかそういう類のことだろう。
この凛々しいワルド隊長のその相手がルイズだというのにはいまだに違和感しか感じないが、趣味嗜好は人それぞれである。
どちらにしても、手合わせはないだろうと大賀は結論づけた。
「あの、伝説とかよくわかんねースけど、それはさすがに勘違いじゃねーか? とにかく、そんな理由であんたと勝負とかする気ないんで」
「逃げるのかい、使い魔くん」
大賀がワルドの手を振り払うと、ワルドはそう言って挑発してきたが、そんな挑発で手持ちのカードを減らすなんてバカなことはできない。
「……だから、あんたとこの状況で勝負する意味がわかんねーってんだよ。ただでさえ大変な任務なのにそんなことやってられっか。それこそどこの誰が見てるかもわからねーんだぜ」
「そうか、残念だよ。朝早くからすまなかったね。やはり婚約者の使い魔の実力は知っておきたかったものだから」
ワルドは謝罪の言葉を口にするとその場から去って行った。
大賀はそれでワルドの内心について納得した。
「(ああ、いろいろ言ってたけどそういうことか……。まぁ自分の婚約者のそばに他の男がいりゃ気にもなるよな……。あ、夢のこと思い出しちまった。くそー……柊には笑っていて欲しーけど、俺がいないのに楽しそーにしてたら、それはそれでショックだぜ)」
誰が見てるかわからない――大賀は決闘を断る口実としてそんなことを口にしただけだったが、事実、影は見ていた。
彼らの目的を邪魔しようとする者たちは確かにこの地に存在していたのだ。
「ふん……。意外と慎重だな、クズミタイガ」
「そりゃそうさ。だから教えてやっただろ。あいつはあたしの企みに気づいておきながら、あたしを泳がせておいて、何の反撃もさせずに倒した策士だってね」
「できれば奴の実力をこの目で確かめておきたかったのだがな。……まぁいい。それならあんなお遊びではなくて、戦わざるを得ない状況をこちらで用意するとしよう」
そして影は暗躍する……。
大賀はその後、昼まで宿で寛いで、昼になって起き出してきたギーシュと共に昼食を食べた。
そして、その場で他の者たちとも合流して一緒に街を見て回った。
ラ・ロシェールはそれほど大きな街ではなかったが、だからこそ数時間の観光には向いている場所だとも言えた。
そして、存分にリフレッシュして夜――大賀は宿のバルコニーでルーシーと共に空を見上げていた。
普段はここを異世界だと自覚させるだけの夜空だが、今日は“スヴェル”の月夜とやらで二つの月が重なって一つに見えている。
赤い月が白い月の影に隠れて、地球を思わせる夜空だ。
「はぁ……今頃みんなはどうしてんのかな? 俺って行方不明扱いだよな。姉ちゃんとか学校に乗り込んで暴れてなきゃいいけど……」
「そこはほら、柊センセーとかが上手いことやってくれてるんじゃない? 何せ魔法学校だし、もしかしたら、こっちで還る方法が見つからなくても、突然迎えに来てくれたりするかもよ」
「だといいけどな……。あー、こっちの世界の奴らとも少しは仲良くなったけど、やっぱり早く元の世界に戻りたいぜ」
「愛花がいないから?」
「うっ……ま、まぁそれはかなり大きな理由だけど、そうハッキリ言うなって! それに……柊だけじゃねえよ。観月とか伊勢とか津川とか美国とか乾とか、クラスの連中に魔法執行部の先輩たちに、柊父に校長に俺の家族も、会いたい奴はたくさんいる」
「大賀はみんなに愛されてたもんね」
「どうかな……。でも、聖凪での毎日はキツイことも多かったけど、楽しかった。それまでのガッコー生活とは比べ物にならないくらい充実してたと思うぜ」
大賀はバルコニーの手すりを掴み、両腕を伸ばすような感じで上半身を曲げて俯くと、少しの間だけ目を瞑ってそんな思い出に浸った。
だがまたすぐに勢いをつけて上半身を起こすと、ルーシーに笑顔を向けた。
「けど、ま。いつまでも感傷に浸ってても仕方ねー! とにかく目の前のことを片づけていくだけだ。これはこれで滅多にできない貴重な経験だしな! せっかくだし、思い出話たくさん持って帰ろーぜ!」
「アハハ、そうだね! やっぱり、大賀はそうでなくっちゃ!」
ルーシーはそんな大賀の姿に嬉しそうに笑った。
そうやって笑い合う二人だったが、自分たちに近づいてくる足音と気配にそちらに視線をやる。
その足音の主はルイズだった。
「タイガ……ねえ、いま誰かと喋ってなかった?」
「いっ!!? そ、そんなことねーよ。独り言だよ、独り言!」
「ふーん。まぁそれならそれでもいいけど」
ルイズは大賀の横にちょこんと並ぶと、先程まで大賀がそうしていたように空を見上げる。
「月が一つしかないなんて変な気分よね」
「えっ、ああ、えーっと……」
この世界の住人であるルイズにとっては、月が二つあることが普通で、そういう風に感じるようだ。
「そう言えばタイガの住んでたところって元々月が一つしか見えないとか、召喚されたばかりの頃にそんなこと言って大騒ぎしてたっけ?」
「ま、まぁそんなこともあったような……」
「故郷のことでも思い出してたの?」
「……まぁな」
「やっぱり帰りたい?」
「そりゃあな」
大賀が素直にそう言うと、ルイズは真剣な顔で応えた。
「この任務が終わったらちゃんと還す方法を探してあげるわ」
「そりゃどうも……」
「うん」
「「…………」」
「な、何か今日は優しいな。どうした?」
ルイズの雰囲気がいつもとどうにも違うことに、逆に大賀の方が調子を狂わされる感じになり尋ねた。
「……ワルドにね」
「ワルド?」
「わたしワルドにあんたのことを聞かれても何も答えられなかった。それどころか平民の使い魔だって嘘をついてるわけで……ちょっと慣れてきてたけど、やっぱりこの状況って間違ってるのかなって」
「あー……まぁな。婚約者にもほんとのことを言えないのは辛いかもな(俺も元の世界で“ゴールドプレート”のフリをしてる時に、そのことについて心苦しく思ったことは何度もある。きっといまのルイズはそういう心境なんだろーな)」
大賀にはルイズの気持ちがわかる。
自分もそうだったと、だからルイズのことを励ました。
「まぁなんだ……元気出せよ! 当然元の世界には戻してもらうけどよ。それまではちゃんとお前の使い魔をやってやるから! 今回の任務だって立派に果たしてよ! そうすりゃお姫さまだって、隊長さんだって、お前のことを褒めてくれるさ!」
「タイガ……」
使い魔(ふり)とそのご主人さまの心の交流。
しかし不意に二人を照らしていた月明かりが陰ったと思えば、巨大な影の輪郭が動いた。
「おやおや、何やらイイ雰囲気なところにお邪魔だったかねえ。悪いメイジのお出ましだよ。平民の使い魔くん」
これで三度目。
もはや彼女が現れる際のパターンとも言えるこの状況。
しかし今回は周りに土がないからか岩のゴーレムで、その攻撃力や防御力はさらに上がっていそうだ。
「お、お前は――おわあぁあああああああっっっ!!?」
「きゃぁあああああああっっっ!!?」
巨大ゴーレムの拳でバルコニーの手すりがいともあっさり壊される。
ルイズの襟首を掴んで飛び退いた大賀だったが、その衝撃で足場も崩れ頭を打った。
「ってぇー……。フーケ!!? 何でお前が……」
そう、襲撃者の正体はフーケだった。
大賀が捕らえ、牢屋に叩き込まれたはずの彼女が、いままた目の前に現れた。
「この世には親切な人間がいてね。こんないい女が牢屋の中にいるのは可哀想だって出してくれたのよ」
「脱獄したってことかよ!」
暗くてよく見えないが、ゴーレムの肩にはフーケの他にもう一人黒いローブの人間がいるようだ。
その人物がフーケを手引きしたのだろうか。
「そうさ。それで利害の一致もあって、あたしを牢屋に叩き込んでくれたあんたに復讐でもしてやろうかってね」
「そんなの逆恨みもイイトコだぜ! 盗みをしたのもそうだし、隠れ家に案内した意味もいまだによくわかってねえ!」
「ふん、あれは“ディティクト・マジック”でもわからなかった“破壊の杖”の使い方を確かめてやろうと思ったのさ! ピンチになれば使うことを期待してね! 魔法学院とはいっても、ただ盗むだけなら簡単だってことがわかったからね!」
「あ、なるほど……」
起き上がった大賀はフーケの言葉につい納得してしまった。
実際大賀も、“破壊の杖”と呼ばれるロケットランチャーの使い方がわからなかったからだ。
元の世界の武器だから、たぶん安全装置的な問題なのかなとか思ってはいるが、そもそもそんな武器が存在しないこの世界の人間ではそうなるだろう。
「しかし、あんたみたいな存在は想定外だった。まさかあたしの正体に気づく奴が出てくるなんて思ってなかったからね……」
「へっ……結構バレバレだったぜ、あんた」
「言ってくれるじゃないか。――だが、すでに正体がバレている以上、今回は加減なしだよ!」
「ヤベェ!」
大賀はルイズの手を引いてゴーレムの追撃から逃げた。
もちろんルーシーがちゃんとそばを飛んでついて来てることも確認する。
「ヒィイイイイイイイ!!! む、無茶苦茶やりやがる……!!!」
「ど、どうすんのよ! どうすんのよタイガ!!?」
それにより、宿の被害はさらに酷くなったが、自分のせいじゃないと思いながら、宿の中を必死に走り1階へと駆け降りる。
他のみんなは1階の酒場で明日の出発に備えて英気を養っているはずだった。
「――ってこっちも修羅場ってる!!?」
酒場にはラ・ロシェールの傭兵たちが襲撃を仕掛けていた。
ギーシュ、キュルケ、タバサにワルドが魔法で応戦しているが、ラ・ロシェール中の傭兵たちが出張って来ているのか、傭兵たちの数が多く、状況はよくないようだ。
「何なんだよ、この状況!!?」
大賀とルイズとルーシーの三人は酒場のテーブルを盾にして、その裏から魔法で応戦してるギーシュたちの下に、姿勢を低くして駆け寄って怒鳴り尋ねる。
「そんなこと知るもんか!!! 飲んでいたら突然奴らが襲ってきたんだ!!! ぼくたちの任務が露見したってことじゃないか!!?」
「じゃあ、やっぱり昨日の夜盗も……!」
ルイズが閃いたとワルドを見る。
「参ったね……。まさか傭兵を雇って襲わせるような連中だとは……」
「傭兵だけじゃねえ! フーケだ! あいつ脱獄しやがった!」
大賀の言葉はすぐに証明されることになった。
フーケが宿というか酒場というか、とにかく内部の様子を確かめようとしたのか、いとも簡単にその天井をゴーレムに壊させたからだ。
「きみたちに因縁ある相手をぶつけてきたってことか……タイガ、フーケを捕まえたのは実はきみだって学院では噂されてたぜ。もう一度捕まえてくれよ」
「この状況で簡単に言うなよ……」
ギーシュの言葉に大賀は状況を解決するために頭を悩ませる。
その間に杖を弄っていたキュルケが口を開いた。
「……あいつらメイジとの戦いに慣れてるわ。歴戦の傭兵って感じね。遠くから矢を射かけて、それに対応するための魔法をちびちびとこっちに使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に突撃してくるわよ。そしたらどうすんの?」
「ぼくの“ワルキューレ”で防いでやる」
キュルケの分析に、ギーシュがちょっと青ざめながら言った。
「ギーシュ、あんたの“ワルキューレ”じゃ力不足よ。多少の剣や矢を無効化できても、それだけよ。メイジよりも白兵戦を得意としてるような連中があんなにいるのよ。ロープかなんかで封殺でもされて終わりだわ」
「やってみなくちゃわからない。ぼくはグラモン元帥の息子だぞ! 卑しき傭兵ごときに後れをとってなるものか!」
ギーシュは立ち上がって呪文を唱えようとした。
しかし、ワルドがシャツの裾を引っ張ってそれを制した。
「いいか諸君」
ワルドは低い声で言った。
「このような任務は半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」
ワルドの言葉の意味を一番に理解したのはタバサだった。
自分と、キュルケと、ギーシュを杖で指して「囮」と呟くと、残る大賀とルイズとワルドには「桟橋へ」とそれだけを口にする。
「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」
「えっ、ワルド?」
「いまからここで彼女たちが敵を引きつける。せいぜい派手に暴れて、目立ってもらおう。その隙に、僕らは裏口から出て桟橋に向かう。以上だ」
「(分断……? この状況で? さすがにちょっと早計じゃねーか?)」
タバサは同意するような色を見せているが、ワルドの出した案は大賀にはかなり乱暴なものに思えた。
なので当然、それを止めるために口を開いた。
この状況を解決するための考えはすでに思いついている。
「いや、ちょっと待てよ。敵のメイジってたぶん二人だけだろ。フーケとフーケを手引きしたもう一人。ならパーティーを分断する必要なんてねーよ」
「どういうこと?」
「それこそ空に逃げればいい。役割を分担して矢は炎や風で防ぐ。天井はすでに開いてんだぜ。追って来れるのはメイジである二人だけ。そのうちフーケはゴーレム使いだろ。ほぼ無効化したも同然だ。なら後は一人を全員で相手にするだけじゃねーか」
「……なるほど」
大賀の言葉にタバサが軽く目を見開いて頷いた。
他の者もその数の多さに惑わされて、単純なメイジと平民の差、魔法を使える者と使えない者の差というものを考えられていなかったようだ。
だが大賀はそれを考えざるをえない生活を元の世界でずっとしていたのだ。
「しかし伏兵が潜んでいる可能性もあるのではないか?」
それでもワルドが大賀に可能性を指摘した。
大賀は首を振る。
「フーケやら傭兵やらを雇ってる時点で、敵のメイジにそう数がいるとは思えねー。どっちにしろこっちの予定的には明日出発のはずだったんだ。これで敵が釣れるなら、ここで片付けちまった方がいい」
「確かにそうかも……」
アルビオンまで敵を連れて行き、襲撃に怯えながらウェールズ皇太子を探すよりはとルイズも思ったようだ。
「作戦はこうだ。まずはみんなの魔法で一気に空に上がり、タバサと隊長さんが使い魔を呼ぶ。違う魔法を同時に使うのはムズイんだろ? 足場を確保できれば、それだけこっちが有利だ。仮に敵のメイジが増えるなら、一度そのまま逃げたっていい」
「理に適っている」
「……まったく、ぼくとの決闘の時もそうだったが、きみの機転の利かせ方には驚かされるよ。敵の撃破に加えて自分たちの安全も考えられた素晴らしい作戦だ。ぼくはタイガの案を推す」
「とーぜん、あたしもよ!」
「ワルド……」
「……わかった。それで行こう。確かに咄嗟のことだというのによく考えられている」
大賀とルイズを除いて魔法を使えるメイジは四人。
二人は“フライ”や“レビテーション”で全員を一気にゴーレムの腕も届かない高度までみんなを飛ばす役で、残る二人はそれに反応された際の守り役として魔法を使う。
「よし、作戦開始だ!」
そして作戦は決行された。
襲いくる矢は炎と風の壁によって防がれた。
吹きさらしとなった天井の穴から、上空に飛んできた大賀たちをフーケがゴーレムの腕を振り回させることで、叩き落とそうとするのが一番冷や汗をかく瞬間だったが、それを回避してしまえばもうその腕も届かない。
大賀たちはあっという間にその危険地帯を脱出することに成功した。
傭兵たちは魔法が使えないためにどれだけの数がいても、その姿を見送ることしかできない。
「やった! ごきげんよう傭兵たち! 空を飛べないきみたちが、ぼくたちに挑んだのがそもそもの間違いだったんだ!」
ギーシュが調子に乗ってそんな喝采の声を上げても、恨みがましく睨みつけるだけで、何かしらの方法で追撃してくるなんてことはなかった。
どうやら、それはフーケともう一人のメイジも同じなようで――。
「追ってこないわね……」
「こんな大雑把な奇襲を仕掛ける割には短絡的じゃねーな。こっちの思惑を察っしやがったか」
「でも宿に戻るのは危険よ。どうするの?」
「……仕方ねーな。この状況じゃもう一度フネの交渉をするしかねーよ。最悪途中まででも乗せてもらえれば、あとはシルフィードたちでも大丈夫だろ?」
「あ、そういう方法があったわね」
「できれば、こんなわかりやすく目立つ手段は取りたくなかったんだけどな……」
タバサとワルドの使い魔とも合流し、大賀たちは全員で桟橋に向かった。
そしてすぐさまフネの交渉に入る。
今回はワルドが女王陛下の名前を出すことで、強引に出航と乗船の許可を取りつけた。
こんな襲撃を受けたのだから、正体を隠して慎重にとはもう行かないからこそできる方法だった。
「(それにしても、何で俺たちが襲撃されるんだ? 今回の任務がバレる要素がどこにあった? フーケが単独で恨みを晴らしに来たとかならともかく……ひょっとして隊長さんが顔バレでもしてんのか?)」
大賀はちらりとワルドに視線をやったが、すぐに考え直した。
「(――いや、それでバレるなら、変装くらいしてるだろ。仮にも隊長なんだぜ。俺たちより任務とかそういう状況に慣れてるハズだ)」
とにかく何が原因であったとしても、自分たちの任務が妨害を受けていることはもう間違いがなかった。
夜盗だけならともかく、あんなあからさまな襲撃があって、実は標的は自分たちではなかったとかそんなことはあり得ないのだから。
空を飛ぶフネはいよいよ任務の終着点であるアルビオンの領内へと入る。
フーケを嗾けてくるような相手が、次に一体どんな手段で自分たちを妨害して来るのか、不安は増すばかりだが――……決着の時はすぐそこにまで迫っていた。
大賀は抜け道やハッタリによって戦いを回避するのは達人級。
しかし滅亡不可避の国を前に何ができるのか。
次回……『ある戦争の結末』。
……とか、次回予告風にやってみる。
まぁたぶんこんな感じの内容になるはずですが、実際どうかなー。