エム×ゼロの使い魔   作:第7サーバー

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作者はちょいレトロゲーや漫画を漁るのが好き。
なので、アルビオンのイメージはバハムートラグーンのカーナ。
今回の話はそんなところをヒントにしました。

ちなみにちょっと(結構)長いです。
だって、今回で決着つけるみたいなことを書いちゃったから。


BM7:ある戦争の結末

「く、空賊だ!!! 空賊が攻めてくるぞー!!!」

 

それはアルビオンの領空内に入ってすぐのことだった。

まぁこの世界ではそこまで正確な取り決めがなされているわけではないが、トリステインよりもアルビオン側に近い場所ということだ。

戦時下の国に行くということで常時見張り台に張りついていた船員が、その旗を出していない所属不明の怪しいフネを見つけて声を荒げた。

それが空賊であるということが事実だと証明するかのように、そのすぐ後には対象のフネから大砲による威嚇射撃がなされた。

 

「なっ……(マジかよ! 魔法以外にも普通にヤベー武器も存在してんじゃねえか!)」

 

魔法であればどんなものであっても、最悪“M0”でかき消してしまえば何とかなると思っていた大賀は、その凶悪な武器の存在に軽くテンパった。

しかしそんな時間はない。

 

「(ヤベェ! 速いぞあのフネ!)」

 

空賊のフネはこちらのフネよりもよほど速度があり、すぐに接舷まで持っていかれてしまう。

大賀がその状況で一番に考えたのは交戦ではなく脱出だ。

そのために甲板に繋がれた空を飛べる使い魔たちに視線を向けるが、使い魔たちの頭が何やら青白い雲に覆われており、まずワルドのグリフォンが眠りに落ちた。

シルフィードは若干その睡魔に対して抵抗の様子を見せているようだが、それでも飛行できる状態にはなさそうだ。

 

「(くそっ、慣れてやがる……! メイジもいるみてーだし、このままじゃ一気に行かれるぞ! 悩んでるヒマはねー!)」

 

大賀は意識を脱出から交戦に切り替えて、素早く魔法香を擦り“ホッチャー”を出現させると、その陰に隠れてそのまま自分も乗り込んでくる空賊たちの下に走る。

 

「なっ、誰の魔法だ!!?」

 

ギーシュが突然現れた“ホッチャー”に驚きの声を上げているのが聞こえたが、それも無視した。

“ホッチャー”が目立つためにその陰に隠れた大賀の存在は目立たない。

一人二人とフネに乗り込んだばかりの空賊たちをその拳によって悶絶させていく。

 

「……そこまでにしてもらおうか」

 

だが、このまま制圧できるかと考えたのも束の間、その声が聞こえた次の瞬間には、大賀は“ホッチャー”ごと風によって吹き飛ばされていた。

あわやフネから落ちるところだったが、身体を捻りなんとか右足の踵をフネの縁に引っかける。

 

「ファイトォ――ッ!」

 

大賀は声を出して右足に力を籠めることで、どうにか甲板に戻ることに成功した。

しかしその頃にはもう、空賊たちはすっかりこちらのフネに乗り移ってしまっていた。

仲間たちもどう対応するべきか迷っているようで、空賊たちと睨み合ったまま動けていない。

 

「これ以上の抵抗はよすんだな。オレたちは問答無用でフネを落とすこともできるんだぞ」

「くっ……(どうする、状況が突然すぎる! まさか空でも襲撃されるなんてよ! 抵抗を止めて相手に従うか? だけどこいつらが任務の妨害者なら――いや、そうじゃなくても、そういう任務中だと知られればどう利用されるかわかったもんじゃねえぞ……)」

 

何せ空賊だ。

それを使って貴族派と交渉するくらいのことはやる可能性がある。

 

「(何をどう選んでも危険しかねー! けど、一番抵抗できるのはいまだ。これでみんなの杖を奪われれば、それだけで一気に不利になっちまう。ならやっぱりやるしかねー! 下手こけばさらにヤバくなるけど、これに賭けるぜ!)」

 

大賀は決断するとダッシュでその場所へと走る。

 

「動くなと言っている!」

 

空賊の頭だと思われる杖を持った薄汚れたいかつい顔の男が、大賀に杖を向けるが、大賀は腕を突き出してその動きを制止した。

 

「おっと、そっちこそ動くなよ。あんたらがフネを盾に取るっつーんならこっちは人質だ。これ以上の略奪行為は止めて引きあげろ。そうしなければこのノビちまってるあんたの仲間をこのフネから突き落とすぜ」

 

大賀は精一杯の虚勢で、先程悶絶させた男の首に腕を回し、自分の身体をその男で守るようにしながらフネの縁へとすり足で移動する。

 

「魔法で防げるなんて思うなよ。こっちにもメイジはいるんだぜ。仲間を助けたければ自分たちのフネに戻るんだ! そうすりゃ、こっちの魔法でこの男もあんたらのフネに戻してやる!」

 

これで空賊の頭が仲間を見捨てるような相手ならアウトだ。

そうなると逆に自分たちの方が、フネを飛び降りて逃げるくらいしか、この状況を切り抜ける方法が思いつかない。

大賀は背中に冷や汗をダラダラとかきながら、相手の出方を待つ。

 

「卑怯な真似を……」

「空賊に言われたくねーよ! 空にまで仕掛けてきやがって……! てめーらもアルビオンの貴族派とやらか!」

「……何?」

 

大賀の言葉に場の雰囲気が少しだけ変わった。

空賊の頭は視線を大賀から移して、他の者たちを順番に見ていく。

 

「まさか、その指輪は……いや、そんなことがありえるのか……?」

 

そして、ルイズにその視線を留めた。

ルイズの指に嵌った“水のルビー”の存在に動揺しているようだ。

 

「おい、どうした! 早く決断しろ!」

 

空賊たちが何を考えているのかわからず、状況に焦れた大賀が声を荒げる。

その声に釣られるように空賊の頭はルイズから再び大賀へと視線を戻すと口を開いた。

 

「……どうやら、我々の間には誤解が存在しているようだ。武器も人質もそのままでいい。ついて来てくれ。話がしたい」

 

 

それから何がどうしたのか。

なぜか大賀たちは拘束されることもなく、空賊たちのフネに迎え入れられていた。

 

「それで君たちは誰だ?」

「つーか、てめーこそ何なんだよ!」

 

当然警戒しながらも、雰囲気の変わった空賊の頭のあとについて来た大賀たちだったが、状況がわからないままなので威嚇するように大賀が声を張り上げる。

 

「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」

 

すると空賊の頭は自らの頭に手をやり、ずるりとそのかつらを取り外し、さらにその顔をキレイに拭って居住まいを正した。

そうなると目の前に立つのはそれまでの空賊の頭などではなく、鮮やかな金髪の、爽やかな微笑みを浮かべた、紛れもなく美形と呼べる青年だった。

 

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……いや、アルビオン王国皇太子“ウェールズ・テューダー”だ」

 

「は、はぁあああああああ~~~!!?」

 

 

空賊のフネの艦長室で、大賀はまじまじとその青年の顔を眺めた。

他の者たちもぽかんと口を開けて、大体が大賀と同じような反応である。

 

「信じられないかね? では証拠を見せよう。見たまえ。これはアルビオン王家に伝わる“風のルビー”だ。君が嵌めているのはアンリエッタが嵌めていた“水のルビー”だろう? 水と風は虹を作る。王家の間に掛かる虹を。このようにね」

 

ウェールズがルイズの手を取り、自分の指輪を近づけると、二つの宝石は共鳴し合い、虹色の光を振りまいた。

 

「こんなことを知ってるのは王家の人間だけだ。これでどうかな?」

「た、大変失礼をば致しました」

 

ルイズが大急ぎで頭を下げた。

 

「いや、いいんだ。こちらもまさかアンリエッタの関係者が乗っているとは思わなかった。出航予定ではないフネが出航したという緊急の知らせを受けてね。これは何か貴族派の重要なモノでも積んでいるのではと思ったのだ」

「それで空賊の真似事を?」

「最近はずっとだよ。恥ずかしながら、もはやまともな方法では物資を手に入れるのも難しくてね。悪いが君たちの乗ってきたフネの物資も使わせてもらうことになる」

「……そんなに戦況は悪いのですか?」

「悪いね。我が軍は3百。敵軍は5万。もう終わりも近い。我々も近々最後の反攻作戦に出るつもりだ。それで戦争は終わりさ」

 

ウェールズはそんな現状を沈鬱な表情になるどころか、むしろ笑って言った。

 

「――それで、そんな滅びゆく我が国に何の用かな。お嬢さん」

「え、あの……」

「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」

 

言葉に詰まるルイズに変わって、ワルドが優雅に頭を下げて言った。

 

「ふむ、姫殿下とな。君は?」

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

 

それからワルドは、ルイズたちをウェールズに紹介した。

 

「使い魔? 君は彼女の使い魔なのか?」

 

ウェールズはやはり大賀の存在に引っかかったようでその紹介時に口を挟んだ。

 

「ま、まぁ……そうっス」

「君はメイジなのかと思っていたが……」

「いや、違います」

「そうか……君たちの事情にも少し興味があるが、とりあえず本題に入ろう。アンリエッタの密書とやらを拝見したい」

 

“ホッチャー”のことに詳しくツッコまれたら、マジックアイテムだと普通に言うか、ルイズ――と言ったら他の者が信じるかが微妙だが――誰か他の奴の魔法だと言って誤魔化すかで大賀は悩んでいたが、幸いなことにウェールズはその部分を流してくれた。

ルイズが胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出して、ウェールズに手渡す。

手紙を受け取ったウェールズは慎重に封を開き、その中から取り出した便箋を真剣な顔で読み始めた。

 

「結婚……姫は結婚するのか……。あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い従妹が」

 

ルイズとワルドが無言で頷いてウェールズの呟きを肯定する。

その横でギーシュが大袈裟に驚いていた気がするが、さすがに場の雰囲気に合わないので大賀はスルーした。

ただ、知っててついて来てたんじゃねーのかよとは思った。

 

「なるほど、了解した。姫はあの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」

 

この任務の終わりが見えたので、大賀とルイズの二人は顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 

「しかし、姫が心配性なところは変わらないな。わざわざ使いの者を寄こさなくても、いざその時になればその前に手紙は処分したというのに」

 

「「…………え?」」

 

「いや、こんな状況だから結婚のことまでは知らなかったが、残しておくと少しでもマズそうな物は処分するつもりだったんだ。まぁ処分せずに済むというのならそれに越したこともない。あとは姫の手に全てを委ねよう」

 

ウェールズは、目の前で苦笑する金髪美形の王子さまは、爽やかに今回の任務の意義を根底からぶち壊した。

 

「(な、何だそりゃぁあああああああ~~~!!? そんなんなら覚悟決めて、ここに来る必要なかったじゃねーか!!! あんの無茶振りプリンセス~~~!!!)」

 

大賀は心の中で絶叫した。

 

「しかしながら、いま手元にはない。空賊をやるのに持ってくるわけにはいかなかったからね。面倒をかけて悪いが、使者の方々にはニューカッスルまでご足労願いたい」

 

ウェールズはそんな大賀の内心にはまるで気づいていない様子でそう言った。

 

 

大賀たちを乗せた空賊船改め軍艦“イーグル”号は、浮遊大陸アルビオンの下側から雲に隠れながら潜りこむようにして、ニューカッスルの城を目指した。

そこに魔法で空けた直径300mほどの大穴、隠れた入口が存在しているらしい。

正面から行かないのは、当然ながら貴族派の部隊が展開しているからだ。

事実、一度、雲の間から遠目に、イーグル号の二倍の長さはある巨艦の輪郭が何となく見えた。

 

「備砲は両舷合わせ108門。おまけに竜騎兵まで積んでいる。あの艦の反乱から全てが始まったんだ。因縁の艦さ」

 

かつては本国の旗艦であった“ロイヤル・ゾウリン”号という名前のフネで、貴族派の手に渡ってからは“レキシントン”号と名前を変えて、王党派の脅威になったのだとウェールズは説明した。

 

 

隠れた入口からアルビオンの大陸内部に入ると、そこには秘密の港があった。

ウェールズの命令によって、船員たちがきびきびとした動きで停船の準備を始める。

そしてウェールズに促されてタラップを降りると、背の高い、年老いた老メイジが近寄ってきて、ウェールズの労をねぎらった。

ウェールズは少しの間それに応えて、話が終わると再び一行を先導して、長い階段を上り、ニューカッスルの城内へと出た。

 

「ようこそ、我が城へ。手紙は僕――あ、いや、私の部屋にある。まずは用件を果たそう」

 

自分の家と呼べる場所に戻ったことで少し地が出たらしいウェールズは、取り繕うとこっちだと言ってまた歩いた。

城の一番高い天守の一角にある彼の部屋は、戦争の影響だろうが、王子さまの部屋とは思えないほどに質素な部屋だった。

その中にあって豪華な宝石の散りばめられた小箱を、机の引き出しから取り出すと、ウェールズは首に提げていた鍵を使って開けた。

 

「宝箱なんだ。これだけは最後まで手放せなかった」

 

そして件の手紙であろう物を取り出し、読んだ。

ゆっくりと読み返し、読み終えると、再びその便箋を封筒に入れてルイズへと手渡す。

 

「これが姫から頂いた手紙だ。この通り、確かに返却したぞ」

「ありがとうございます」

 

ルイズは深々と頭を下げて、その手紙を受け取った。

これをアンリエッタに無事届ければ、今回の任務は達成だ。

 

「明日、非戦闘員たちを乗せて、君たちが乗ってきた“マリー・ガラント”号をラ・ロシェールへと帰す。君たちもそれに乗って帰るといいだろう。メイジはつけられぬが、航行に必要な“風石”はまた補充しておこう。それは結構あまってるんだ」

 

それもこれもロイヤル・ゾウリン号を奪われたせいだけどね、とウェールズは反応に困ることを言って笑った。

 

「いざという時は素直に空賊に扮した我らから解放されたとでも言えばいいだろう。さすがに奴らも非戦闘員には手を出すまいよ。いまは敵であってもかつては同胞だったんだ。そこまで堕ちたとは思いたくない」

 

ルイズはウェールズの話を聞きながら、手渡された手紙をじっと見つめていたが、そのうちに決心したように口を開いた。

 

「あの、殿下はこの後どうするのですか?」

「……ふむ。それは先にも言ったと思うが、最後の反攻に出る。それだけだ」

「それだけというのは、その……」

「死ぬということさ。この国の王子の名に恥じぬようにせめて勇敢に死んでみせるよ」

 

「(死ぬ……? 逃げるんでも降伏するんでもなく死ぬのか、こいつ。戦争するってやっぱりそういうことなのか?)」

 

横でルイズたちの会話を聞いていた大賀は、自分でそう考えるに至っても、その言葉に重みや現実感を感じきれずにいた。

目の前にこうして存在している好青年と言える王子さまが、明日や明後日にはもうどうあっても話すことすらできない思い出の中だけの存在になってしまうだなんて。

年齢だってそこまで変わらない、もっと話す機会があれば友人にだってなれるかもしれない。

それなのに、これで終わりだというのか。

 

「殿下、失礼をお許しください。畏れながら、申し上げたいことがあります……」

「何なりと申してみよ」

「この、ただいまお預かりした手紙の内容、これは……その、わたしは姫さまのことを幼少の頃から知っています。その姫さまがわざわざわたしに頼んだ意味、それと殿下の様子から察しても……姫さまと殿下は……」

 

ウェールズはルイズの言いたいことを察して微笑んだ。

 

「なるほど。君は私とアンリエッタが恋仲であったのではないかと、そう言いたいわけだね」

 

「(え……そうなのか?)」

 

大賀は驚いて他の者の顔を見るが、驚いているのは大賀だけのようだ。

結婚するということには驚いていたギーシュですら、すでに察していたかのようにその状況を見守っている。

大賀は元の世界の愛花一筋なこともあるが、基本的にそういった恋愛事には鈍感だった。

自分に関することはもちろん、他人のことなんてさっぱりである。

大賀の頭の中に存在する小さな恋愛脳はその容量の全てが、愛花に向けられているのだろう。

 

「その通り、私とアンリエッタは恋仲であった。しかし今は昔の話だ。そしてその手紙にはその時の姫の誓いの言葉が書いてある」

 

大賀はつまりどういうことなんだとプチ混乱した。

件の手紙とは要はラブレターで、それは始祖ブリミルに宛てた婚姻届のようなものでもあるらしい。

この世界では始祖の名を使った誓いは最上位のそれとして認識される。

故にアンリエッタとウェールズは事実婚の関係である……ということらしいが。

 

「(落ち着け。最初から整理しよう。俺たちは姫さまに手紙の回収を頼まれた。その手紙はラブレターだった。俺たちはラブレターのために命を懸けてここまでやってきた。いやいや、違う。他人事だと考えるからダメなんだ。俺と柊を当てはめてみよう)」

 

大賀は今回の件を納得するために、自分でもよくわからない思考を始めた。

 

「(まず、俺と柊が、こ、ここ、恋人同士だった!)」

 

その妄想だけで崩れそうになる大賀だが、何とか踏ん張って耐える。

 

「(そして柊から、判子の押された婚姻届が、と、届いた! けど柊父がその婚姻届の存在に気づいた! 柊はそれを知って俺に連絡……俺は柊父から逃げるが追い詰められてピンチ! このままでは柊に迷惑がかかるから、俺は泣く泣く柊にそれを返した……)」

 

大賀はそこまで妄想して頷いた。

 

「(超大変じゃねえか! そりゃ誰か知り合いに助っ人を頼むに決まってる! それも自分が一番信頼できる相手とかに! くっ……お姫さまも、この王子さまもなんて辛い決断を……! 柊父さえ邪魔しなければ、結婚できる年齢になれば結婚できたのに!)」

 

結果として大賀はウェールズに同情するスタンスになっていた。

そして柊父を邪魔者として恨めしく思った。

 

「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」

 

ルイズの熱の籠った言葉に大賀はハッと正気に戻る。

 

「そ、そうだ! 死んじまった終わりだぞ! 柊父――じゃなかった、貴族派だかに邪魔されたくらいで諦めんな!」

 

突然の大賀の加勢に、ルイズは驚いて大賀を見たが、すぐにまたウェールズに向き直って、一緒にトリステインへと説得をする。

 

「君たちは優しいな。だけど、残念ながらそれはできない」

「なぜですか! 姫さまだってトリステインで待っているのに!」

「……だからだよ。これは僕らの国の問題。僕らの未熟故に起こった出来事だ。だからその責任は僕らで取る。それに、僕は男なんだ。好きな相手に責任を押しつけるような真似は――たとえ死んでもできないさ」

 

ウェールズの言葉に、ようやく大賀の中で繋がった。

これが現実の出来事であると。

逃げるんでも降伏するんでもなく、戦う理由が理解できてしまったのだ。

 

「そ、それでも!」

「よしなさいルイズ」

「……そうだ。確かに悲しいことだけど、これは貴族よりもなお誇り高い王族の話だ。ぼくたちが口出しするようなことじゃないよ」

「誰にも止められない」

 

それでも食い下がろうとしたルイズを止めたのは、大賀を除いたルイズの学院の仲間たちであった。

ウェールズは微笑んだ。

 

「いい仲間を持ってるな。アンリエッタのそばに君がいて、君のそばにはこの者たちがいる。僕の心残りはなくなったよ。明日私が死んだとしても、アンリエッタに彼らの杖や刃が届くことはないだろう」

「死ぬ覚悟なんて! それで姫さまが悲しむってわかってるのに……」

「王族として生まれてわかったことは、王族だからと何でも手に入れられるわけではないということだ。でも、王族に生まれなければアンリエッタと出会うこともできなかっただろう。だからこれは運命なんだ。出会いも別れも、始祖ブリミルの導きのままに」

「だったらブリミルなんてブッ飛ばして!」

「ハハハ! そんなことを言う女の子には初めて会ったよ。不敬だが死に逝く僕に免じて許してもらうとしよう。――実はそろそろパーティーがあるんだ。この国の最後の晩餐というやつだな。君たちは我らが王国の迎える最後の客だ。ぜひ参加して欲しい」

 

ウェールズはルイズの慟哭も冗談として笑い飛ばした。

誰にもどうすることのできない、死への覚悟がそこにはあった。

たとえアンリエッタ本人を連れて来ても、ウェールズを止めることはできないであろう。

話を打ち切ったウェールズに、大賀たちは仕方なくそれで退出した。

その際にワルドだけが一人部屋に残って何やらウェールズと話をしていたが、それを気にしてる余裕はなかった。

 

城の廊下を歩く五人(+ルーシー)。

とぼとぼと歩いていたルイズが不意に立ち止まったので、他の者たちも立ち止まる。

 

「……ねえ、ほんとにもうどうしようないの?」

「しつこいわよルイズ」

「だって! だってこんな結末……」

 

ルイズと同じ気持ちは多かれ少なかれその場にいる全員が感じていることだろう。

だけど、誰もどうすることもできない。

だからその場は沈黙が支配することになり、耐えられなくなったルイズは大賀に縋りついた。

 

「――タイガ! あんたならどーにかできるんじゃないの!!? ほんとはまた何か突拍子もないようなアイデアがあるんでしょ? この状況だっていままでみたいに何とかできるわよね?」

 

「……」

 

「タイガ!!!」

 

大賀は何も答えられなかった。

そんな大賀に代わり、キュルケがルイズの手を掴み大賀から引き離す。

引き離されたルイズの目には涙がたまっていた。

それはぽろぽろと零れ――「ばか!」とそれだけ言うと、ルイズは踵を返してどこかへと走り去った。

 

 

大賀は一人廊下に立ち尽くしていた。

正確にはルーシーもいるが、ルーシーは空気を読んで気遣わしげな視線を送るだけだ。

他の三人にはちょっと先に行っていてくれとだけ言った。

 

「くそっ……ルイズのやつ、気軽にどうにかなんて言いやがってよ……(こんな状況で俺にどうしろってんだよ……俺だって魔法はプレート頼みで使えないも同然なんだっつーのによ……)」

 

今回ばかりはいくらなんでも話が重すぎた。

そもそも、死のうとしてる、その覚悟を決めてる人間たちをどうやって助けろというのか。

当然だがウェールズだけの話でもない。

そしてそんな一人一人を説得してる時間があるわけでもない。

 

「(考えろ……俺が持ってる物を使ってできる最善ってなんだ? “BM0プレート”に“ホッチャー”、あとはルーシーやみんなも頼めば協力してくれるだろうけど、これで何ができる? 基本的に俺関連は全部ハッタリ専門だぞ……)」

 

これまでのあらゆる状況を振り返っても、戦争に勝つ方法とかそういうのはない。

漫画とかゲームとか歴史の授業とか、そういうのに考えを向けてみてもまるで思いつかない。

そもそもそれらをマジメに記憶したりはしていなかった。

 

「(……いや、待てよ。ハッタリか。そもそもハッタリしかできねーんだから、ケンカならともかく戦争に勝てるわけないんだ。要は勝てなくても敗けなければいい)」

 

だとするならば、戦うのは敵じゃくて味方じゃないだろうか。

味方を騙して逃がすことができればいいのだ。

しかし、どちらにしても同じことだ。

覚悟を決めてる人間の心をどうやって生きる方向に向かわせればいいのか。

 

「(覚悟を決めてる人間を生かす。助ける……あ、助けるとかじゃねーな。その状況を逃げるためのものだと思わせなけりゃいい。そのためには……そうだ、アレなら。でも、あんなの手に入れられるか? それに結局戦わなきゃいけないじゃねーか……)」

 

しばらく考え続けていた大賀の頭に何やら閃くものは確かに生まれた。

だが、そんな考え通りにいくだろうかとまた悩む。

いつもとは違う命のかかった状況だけに、大賀はどうにも決断しきれずにいた。

 

「(やるしかねーか……そうしなきゃ、死ぬっつってんだからよ。くそっ、でもこれが成功したってさすがに誰も死なないってことはねーよな。俺の考えた作戦で人が死ぬのか。重いんだよ、これだから戦争になんて関わりたくなかったんだ)」

 

そして、大賀はついに決断した。

覚悟を決めてウェールズの下へとその足を向ける。

その結果がどうであれ、いま久澄大賀という男の真価が試されようとしていた。

 

 

「あの、王子さま……ちっと話があるんだけどよ……」

 

ウェールズは知らない。

目の前に立つ黒髪の使い魔だという少年がこれから自分に何を話そうとしているかを。

だからこそ、不思議そうにしながらも、微笑んで彼を自室へと受け入れた。

 

でも、それこそがウェールズの運命を激動のそれへと変化させる。

 

 

「クズミタイガか……」

 

死の間際になればきっと彼のことを思い出すだろう。

ワルドに続き、彼が退出した部屋でウェールズはそう思った。

彼は台風のような男だ。

そして自分はそれに巻き込まれた風。

風の王子ともされる自分が、そんな役割でしかないとは……何だかおかしくなってしまって、ウェールズは笑った。

もはや見つかることがないと思われていた希望が、いまは確かにその手の中にあることを感じていた。

 

 

――そして翌朝。

ウェールズはワルドの願いに応えて、始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、礼装に身を包み、新郎新婦の登場を待っていた。

参列者は大賀たち四人(+ルーシー)だけ。

しばらくそうしていると、扉が開き、新郎新婦ことワルドとルイズがその姿を現した。

ルイズは呆然と突っ立っていたが、ワルドに促され、バージンロードをよたよたと歩いた。

ルイズの反応は当然だった。

何せ朝になっていきなりワルドにそのことを伝えられたのだから。

ワルドは滅びゆく国と勇敢な殿下に対して最後に幸せな贈り物をしたいとか何かそんな感じのことを言っていた気がする。

しかしルイズはその滅びゆく国と勇敢な殿下の悲しい覚悟に中てられて、夜もまともに眠れなかったために、正直いま何が行われているのか正しく理解できていなかった。

 

「では、式を始める」

 

ウェールズの言葉がルイズの耳に届くが、その声もまた深い霧の中から響いてくるようにはっきりとしない。

ふと、参列者の席に大賀の姿もあったことを思い出した。

大賀はなぜこの状況を止めないのだろうと、ルイズはぼんやりと思った。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」

 

ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。

 

「誓います」

 

ウェールズは頷くと、次はルイズに問いかける。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」

 

ルイズの心はなおも霧の中を彷徨っている。

あるいは魔法の才能がないらしいと知った幼き頃からずっと彷徨い続けているのか。

その頃に出会った多彩な魔法を操り、両親にも認められているワルドの姿には憧れを覚えた。

自分もいつかはと。

ワルドが自分の婚約者になった時も普通に喜んでいた気がする。

でも、現実はいつだってルイズを打ちのめして、その時にワルドが手を差し伸べてくれたことはない。

魔法衛士隊に抜擢されて、隊長に出世して、仕事が忙しいのであろうことはわかってた。

それに婚約者というのは結婚する相手であって、恋人とかそういう関係とは微妙に違うのだということも。

 

「新婦?」

 

ウェールズがルイズを見ている。

ルイズは慌てて顔を上げた。

 

「ルイズ、どうしたんだ? 任務のせいで疲れているのかい? だったら、頷くだけでもいい。それだけで僕たちは夫婦になるんだ」

 

ワルドがルイズを気遣うようにそう言った。

 

「頷くだけ?」

「そう。こんな時だ。始祖ブリミルだって多少の略式は許してくれるさ」

 

こんな時……自分はこんな時に何をやっているのだろうとルイズは思った。

自分だけじゃない。

ワルドもウェールズも大賀もキュルケもタバサもギーシュも何をやっているのだろう。

そして何より――。

 

「ブリミル」

「ああ。ブリミルに愛を誓うんだ」

「……ブリミルに誓うことなんてないわ」

「何?」

「ブリミルなんて大嫌い! 何もしてくれないくせに何が始祖よ! 伝説ばかりで何も役に立たないわ!」

 

そう、ブリミルは一体何をやっているのだと、ルイズは会ったこともない神様に八つ当たりをした。

 

「新婦はこの結婚を望まないと言うのか?」

 

ウェールズが確かめるようにルイズにそう聞いた。

 

「望むわけないわ。こんな状況で結婚なんておかしいわよ」

「……何を言ってるんだ、ルイズ。君が僕との結婚を拒むわけがない」

「なぜそう思うの?」

「僕はずっと君を想ってきた!」

「想ってるだけじゃ伝わらないのよワルド。これまであなたがわたしに何かをしてくれたのなんて、夢でしか振り返れない幼少の思い出の中でだけ」

 

そんなルイズの冷めた言葉に、ワルドはルイズの肩を掴むと、対称的に熱っぽく叫んだ。

 

「世界だルイズ! 僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」

 

豹変したワルドに怯えながら、ルイズは首を振った。

 

「……わたし、世界なんていらないもの」

 

ワルドはルイズの肩から手を放して両手を広げる。

 

「僕は欲しい!!! この世界が!!! そして、その真実が知りたくて堪らない!!! そのためには君の力が、君の中に秘められたブリミルにも劣らぬ才能が必要なんだ!!!」

 

「いい加減にしたまえ、子爵……。君はフラれたのだ。潔く身を引いて自分を見つめ直したまえ」

「うるさい! 邪魔者は黙っていろ!」

 

ウェールズが取り成すために間に入るが、激昂したワルドは止まらない。

それまでの凛々しくどんな時でも冷静なワルド隊長はどこかに行ってしまわれたようだ。

 

「わ、わたしはそんな才能あるメイジじゃないわ……」

「だから、それは君が気づいてないだけなんだ! いまにわかる、僕の言っていることが正しいのだと!」

「……どっちにしてもよ。あなた結局欲しいのはわたしじゃなくて、その才能なんじゃないの。そんな侮辱ってないわ!」

「人が人の才能を愛して何が悪い! 君の中に眠る才能が僕をこれほどまでに惹きつけているんだ! それは容姿や性格を褒めることと何ら変わりがない、君の魅力だ!」

「でもわたし嬉しくない! わたしが嬉しいと思わないものをいくら評価されたって、あなたへの好意には繋がらないわ!」

 

ルイズの完璧なる拒絶の姿勢に、ワルドのそれまでの熱がふっと冷めた。

 

「こうまで言ってもダメなのかルイズ。僕のルイズ」

「わたしはあなたのものじゃないわ。さようなら、幼き日の憧れの人」

 

ワルドは天を仰いだ。

 

「こうなっては仕方ない……。ルイズ、君の心は魔法薬の力でも使って手に入れるとしよう」

「なっ……」

「何を言っているのだ子爵!」

 

ワルドの普通ではない言葉をウェールズが非難する。

 

「そして、手紙。これで三つのうち二つの目的は達成される」

「目的って、ワルドあなた……」

 

ルイズは湧き上がってきた不安に慄きながら尋ねた。

 

「最後の三つ目も、せっかくだからこの場で頂いていくとしよう。ウェールズ――貴様の命をな!!!」

 

ワルドが素早くレイピアの形状をした鉄ごしらえの杖を抜いた。

その速さはまるで“閃光”。

しかし、炎と風と青銅の壁がワルドの前に立ち塞がった。

 

「やらせるわけねえだろ……俺たちがいるのによ! おらぁ!!!」

「ぐっ……」

 

ワルドは咄嗟に防御するも、大賀に蹴り飛ばされてよろめいた。

 

「た、タイガ!!?」

 

フーケの時と同様に、大賀はワルドの言動から、ワルドのことを不審に思っていた。

魔法衛士隊の隊長として実力のあるワルドだというのに、それがルイズ一人ならともかく、先行してれば気づいてそうな夜盗を見逃していたり、最初は大賀のことを知らなかったと言っておきながら、逆にフーケの尋問の時に聞いて知っていたとも言い出した。

しかもそのフーケが脱獄してるし、その際に自分たちを分断させるかのような作戦を提案したりと、ちょっとした不審の種はいくつもあった。

だが極めつけはやはりルイズとの結婚式だ。

ルイズのあの姿を見ていて、結婚式を挙げようと提案する婚約者の心境が大賀にはさっぱりわからなかった。

だからこそ、それまでの不審の種が爆発的に育ち、警戒する対象として見るに至った。

なので万が一を考えて、その話をウェールズに聞いた後にその流れで相談しておいたのである。

いや、それはルイズ以外の全員にだ。

だからキュルケは炎の、タバサは風の、ギーシュは青銅の壁を出して、それぞれでワルドの攻撃に対応した。

その結果として、ウェールズへの凶刃は必要以上の防御力で完璧に阻まれたのであった。

 

「まさか僕の正体に気づいていたとはな……」

「隊長さん、俺の考えすぎだったらいいって思ってたぜ。だからルイズには何も話さなかった。そうさ。勘違いだったで笑い話になればよかったのによ!!! ルイズの心を弄びやがって!!!」

「……弄ぶだと? 僕は本気だったさ。本気でルイズと共に世界を手に入れようと思っていた!!!」

「世界征服なんて寝言は――俺の面接の時の失敗だけで充分なんだよ!!!」

 

大賀は裂帛の気合いを放ち、ワルドと対峙する。

 

「愚かな……メイジが平民に絶対的に有利だと証明したのは君じゃなかったか!!?」

「“M0”!!!」

 

ワルドが大賀を切り裂くために巻き起こした風は、“M0”の力によってあっさりと無効化にされた。

 

「――な、何っ!!? 僕の魔法をかき消しただと!!? 貴様、一体何をした!!?」

「わざわざ敵に教えてやると思ってんのかよ。でも、ま、お前にはこう言えば伝わんのか? 伝説の力ってな」

「! ……そうか、やはり貴様は“ガンダールヴ”!!!」

 

とか言っても当然だがそんなわけはない。

大賀はルイズと使い魔の契約自体をしていないのだから。

ただハッタリで勝手にビビってくれるなら、それに越したことはない。

真実から少しでも目を逸らせるし、言うだけならタダだ。

 

「ならば僕も本気で行くしかなさそうだな……!」

 

ワルドが素早く呪文を唱え、レイピア状の杖を軽く振ると、次の瞬間にはワルドの姿が五人にまで増えていた。

 

「いっ!!? 分身した!!?」

 

「“偏在”よ! 魔法で本体と同じ能力を持つ魔法力体を創り出したのよ!」

「同じ能力だって!!?」

 

そりゃいくらなんでも反則だろと大賀は叫ぶ。

その分、精神力の消費も激しいのかも知れないが、だからと言ってそれはない。

大賀がいままで見聞きした色々な魔法の中でもトップクラスにふざけた魔法効果だった。

 

「そうだ。“スクウェア”である僕が五人だ。貴様がいくら伝説でも勝てるものではないぞ!」

「(そうかこいつ。この魔法を使うことで、俺らと行動しながらも、傭兵を雇ったりしてやがったんだな! ってことはフーケと一緒にいた黒ローブの人物もこいつだった可能性が高いな。ならこっちの作戦も筒抜けで追ってこなかったのも納得だぜ)」

 

五人に増えたワルドは、一斉に大賀に仕掛けた。

大賀はそれに対して“ファイアーボール”を薄く広く発動してワルドたちを威嚇して距離を取った。

 

「くっ……炎だと!!? まさか魔法まで使えるとでも言うつもりか!!?」

「どうだろうな!」

 

魔法は全て“M0”で消し去ることができる。

なら大賀的に注意しなくてはならないのはワルドのレイピア状の杖の方だ。

あれに突き刺されれば普通に身体に穴が開くことだろう。

だから距離を取ったが、やはり何でもかんでも消していては残りの“魔法ポイント”が不安になる。

それに大賀自身の攻撃手段もその拳くらいしかない。

相手のタイミングではなく自分のタイミングでもう一度接近戦を仕掛ける必要があった。

だが、大賀も一人ではない。

キュルケにタバサにギーシュに、それからルイズとウェールズも、自分も含めて数だけなら一人多いくらいだ。

あと今回は出番があるか微妙だがもちろんルーシーもいる。

 

「へっ、どっちにしろ本体を倒しちまえば終わりだろ! みんな、俺が本体を倒すまでの間だけだ! 何とか耐えてくれ! 無理に“偏在”を倒そうとしなくてもいい!」

 

大賀の指示にそれぞれが頷く。

ワルドはそれに対して自らをシャッフルするような動きをして見せた。

本体をどれかわからなくしてから戦いに入るつもりらしい。

しかし、大賀は本体であるワルドを見逃しはしない。

“M0”を鎖状にして、どちらか迷った時にはその見えない鎖で確かめるという方法を取ったからだ。

それでわずかでも揺らげば魔法力体、すなわち“偏在”で偽者ということになる。

 

キュルケとタバサとギーシュの三人は、その連携によって“偏在”の動きを妨害する。

ギーシュが“錬金”した油を、キュルケの炎の燃料として、さらにタバサの風の力でより強力にすることでワルドの魔法の力にも対抗していた。

 

一方でルイズは状況に混乱したままにとりあえずみんなを援護しなければと、ひたすら失敗魔法による爆発で攻撃していた。

 

ウェールズはウェールズで魔法の才能こそ“トライアングル”で“スクウェア”のワルドに負けているものの、風の王子さまの意地で“偏在”の一体と熾烈な一騎討ちを繰り広げていた。

まぁワルドが自分を五分割してるとも言える状態だからこそ拮抗できていると言えばその通りなのだろうが、大賀の要望通り、誰もがその状況で脱落することなく耐えていた。

 

だから、あとは大賀がワルドを倒せるかどうかに全てが懸かっていた。

 

「“M0”!!!」

 

大賀は邪魔な“偏在”を一体丸ごと消し去る。

それによってかなりの“魔法ポイント”が失われてしまったかも知れないが、出し惜しみする余裕はなかった。

けど、それは大賀の隙を作るために必要な犠牲とワルドが切り捨てた“偏在”であった。

大賀に何やら魔法を消し去る力があるのはわかっていたから、ワルドは思い切って“偏在”を一体丸ごと使い捨てにしたのだ。

そしてそちらに注意を向けていた大賀へと接近する。

魔法でダメならば、直接この杖で突くだけだと考えたワルドは、呪文によってその杖をさらに強化し、光り輝く杖と風のような速さで大賀の命を貫きにかかる。

それに対して大賀は魔法香を擦って“ホッチャー”を呼び出した。

 

「甘い……!」

 

ワルドはそれが何なのかは置いておいて、その攻撃手段自体はすでに見ていると、風の魔法によって吹き飛ばすと同時に、風を読むことで大賀の位置を、その拡散する煙によって一時的に遮られた視界の中でも正確に捉えた。

その結果、杖は大賀の身体に、その心臓に見事に突き刺さった。

ワルドは自分が伝説に勝ったのだと思った。

しかし次の瞬間には、貫いたはずの大賀の身体は、まるで風のように流れ消えた。

 

「ば、バカな……“偏在”だと……!」

「へっ、それはあんただけの魔法じゃねーんだよ!」

 

そう、大賀はワルドの“偏在”を消し去る前の段階で、相手の攻撃を掠らせることで“チャージ”していたのだ。

効力10%という制限があるから、長時間の使用にはとても耐えられるものではないが、一瞬入れ替わるくらいには使える。

ワルドが本物だと思って倒した大賀は“偏在”で、本人は魔法香で“ホッチャー”を出すと同時――つまりワルドが風を読むよりも前の段階にその“偏在”と入れ替わり、ワルドが風を読んだ前方の範囲内から外れ、こっそりと後ろに回っていたのだ。

大賀の渾身の拳はこうしてワルドの腹に叩きこまれた。

ガタイのいい不良でも悶絶させられるそれだ。

いくら軍人で身体を鍛えており、魔法だけに頼らない戦い方をするとは言っても、魔法寄りの人間であることに変わりはない。

単純な身体能力だけなら大賀の方に分が上がる。

崩れ落ちるワルドから大賀は油断せずにそのレイピア状の杖を奪い取った。

それによりワルドの魔法の効果は失われ、残っていた“偏在”も初めからその場には何もいなかったかのように消え去った。

 

「か、勝ったぁ~……」

 

へなへなと脱力する大賀、それでもワルドを拘束するために身体に力を籠めるが、それでもその一瞬の隙に、今回の戦いで結構ボロボロになっていた礼拝堂の、穴の開いた壁からその影が乱入してきた。

 

「しまった……!」

 

その乱入者の正体はワルドの使い魔であるグリフォンだった。

ワルドにばかり気を取られていたので、その使い魔であるグリフォンのことはまるで考えていなかった。

グリフォンはワルドを銜えると、その場からあっという間に飛び去っていく。

ワルドとの戦いに勝つには勝ったが、捕らえることには失敗した。

自分の手の内をだいぶ晒していたこともあって、大賀は苦々しい思いでその姿を見送った。

しかし切り替えなければならない。

ルイズには悪いが、ワルドとの戦いはもしかしたらあるかもしれない程度の前座、本番はこれからなのである。

 

「逃げられたか……だが、あの状態だ。この後の作戦に支障はないだろう」

「そうスね」

「作戦? 作戦って何よ」

 

大賀の前から逃げ出していた上に、結婚式がどうこうで、嘘が吐けなさそうだからと一人カヤの外状態だったルイズが不思議そうに首を傾げた。

 

 

「行け! “ホッチャー軍団”!!!」

 

これが大賀の考えた奇襲作戦の要でもある。

大賀は魔法香を大量に擦り、無数の“ホッチャー”を出現させると、“ホッチャー”が煙で攻撃を喰らっても霧散するだけなのを良いことに、レキシントン号に乗っている敵のメイジたちの手から杖を奪い取らせていく。

メイジは杖がなければ魔法を使えない。

魔法を使えないメイジはただの人――いや、奇襲を仕掛けられた状態で自分の戦闘手段がなくなってテンパってるだろうからそれ以下だ。

大賀がその状態を作り上げている間に、他の者たちは108あるという砲台を優先して潰していく。

あとで使えるから完全破壊というよりは筒先を魔法で塞ぐなどして一時的に使用不可状態にする方向だ。

もちろん邪魔する者たちは問答無用で戦闘不能になってもらう。

 

「(“ホッチャー”は3分で消えちまう。最初に呼び出した“ホッチャー”が消えるより早く、この3分間で一気にケリをつける!)」

 

そう――大賀たちはタバサのシルフィードに乗ってレキシントン号の遥か上空から一気に接近し、レキシントン号へと少数での奇襲を仕掛けていた。

とはいっても、少数なのは最初のこの段階だけだ。

あとは白兵戦での戦いとなるが、こちらは後詰めとしてウェールズ率いる王党派のメイジたちが控えている。

彼らはすぐに雲間からイーグル号で特攻ともいえる勢いで接舷するはずだ。

王党派3百VS貴族派5万とは言っても、この艦だけなら、どれだけ乗っていても2千以下といったところだろう。

そしてこの奇襲、当然の勝利しか考えていなかった貴族派に対して、これに失敗すれば終わりという王党派の命懸けの気迫など、全てが王党派に優勢な状況を作り上げていく。

 

 

レキシントン――いや、ロイヤル・ゾウリン号の奪還に成功したウェールズ率いる王党派は、当然戦闘には勝ったが、損傷したので一時離脱しますよ風を装って戦場から離れると、その後は全速力で逃げ出した。

その工作としてイーグル号は落としたので信憑性も抜群だ。

敵が気づいた時にはもう遅い。

敵の乗組員は情報を引き出すための何人かを残して外に放り出し、王党派は遥か離れた場所にある浮島を仮の拠点として隠れることに成功した。

ロイヤル・ゾウリン号には敵の物資が山盛りだし、今後はそれを旗艦として貴族派の物資を狙った空賊活動をすることができる。

空賊王の誕生である。

これによりアルビオン王国は滅んだものの王党派は生き延びた。

いや、国を奪還するまでの間とはいえ、ロイヤル・ゾウリン号こそが、彼らの国となったのだ。

勝てなくても敗けない。

自分たちの責任は最後まで自分たちで取る。

この空の希望として、抗い続ける。

そんな感じでウェールズを説得した大賀の考えた作戦がズバリ嵌まった結果となった。

 

 

「まさかこんなに上手くいくなんてね! さすがはダーリン!」

「策士」

「いやはは……」

「この成果を伝えれば、きっと姫殿下も喜んでくれることだろうね!」

「だといいな。あ、俺ちょっと外すわ」

 

この場にいる誰もが大賀のことを褒め称えていた。

しかし大賀の心は別のところにあった。

 

「くそっ……」

 

直接的に自分がやったわけではない。

でも、人が死んだ。

それに王党派が生き残ってこれからも戦いを続けるということは、この先も人が死ぬ可能性を作ったということでもあった。

大賀は宴会の灯から少し離れた場所にある森の木に、縋るように拳を叩きつけ、そのまま俯いて苛立ちを吐き捨てる。

嫌な気分だった。

そんな大賀を気遣わしげに見守る姿は二つある。

一つは大賀のそばで、ふよふよと浮かびその頭を撫でたりして慰めているルーシー。

もう一つは大賀が宴会の場を離れたことで、気になってその姿を探していたルイズだった。

これを機にルイズは大賀をいままでよりも意識するようになってくるのだが、あくまで元の世界の柊愛花一筋の大賀がそこら辺の機微を察せられるかというと、とても微妙であった。

 

これが異世界の少年がもたらした――ある戦争の結末。




ホッチャー無双。
奇襲で杖を奪えば勝利という条件でなら大賀はかなり戦えるっぽく見える。

今回の話については――。
まぁちょっと強引だけどできなくもなさそうな感じに書けてるといいですね。

ただ、今後はいまの大賀の状態だと厳しいかも知れない。
だって、ガンダールヴじゃないし、ゼロ戦とか使えないんだもの。
毎回タバサについて来てもらうのも無理があるっぽい。

というわけで。
今後の展開として一時的に大賀がオリ設定のチート能力を手に入れるかも。
7万の大軍を相手に派手に暴れさせるために。
なので、それが終わったら適当に理由をつけて没収するはず。

くずみたいがはちーとかした!
しかし、ながくはつづかなかった!

って感じになると思いますのでよろしくどうぞ。

あ、一応プレート関係ではあります。(でも予定は未定)。
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