いまその真実が明かされる!
……あ、明かされるのは次回だった。
アルビオン王国での戦いを終えた大賀たちは、ウェールズたちの尽きぬ感謝から逃れるようにして、その地を去った。
帰りの足はタバサの使い魔であるシルフィードだ。
五人の人間を乗せての長距離飛行は風竜であっても大変だろうが、頑張ってくれた。
今回の戦いの発端はそもそもアンリエッタの依頼である手紙の回収という任務であったから、一行は学院ではなくアンリエッタの住む王宮へと直接向かった。
しかしアルビオン滅亡の知らせを受けて、トリステインにも戦火が及ぶのではと王宮周りの警備が強化されていたこともあって、しばらく城の衛士と押し問答をするハメになった。
まぁ騒ぎに気づいたアンリエッタが取り成してくれたので大事には至らなかったのだが。
「ああ、ルイズ! 無事に戻ってきたのね。ルイズ、ルイズ・フランソワーズ……」
「姫さま……」
ルイズはアンリエッタに抱きしめられることでこの任務の終わりを実感し、大きな安堵からぽろりと涙をこぼした。
「件の手紙は、無事、このとおりでございます」
アンリエッタはルイズの言葉と、その取り出した手紙を見て頷くと、ルイズの手を引いて自室へと向かった。
もちろん大賀たちも一緒だ。
ギーシュはアンリエッタの自室に入れるという事実に感激して、卒倒しかけて――いや、卒倒した。
するとキュルケとタバサの二人が、自分たちは他国の人間だからここまででいいわ、とアンリエッタの自室に入るチャンスを逃した哀れなギーシュと共に留守番をしてると告げた。
なのでアンリエッタの自室にはルイズと大賀(+ルーシー)だけが招かれることになった。
「まずは手紙を検めさせてもらうわ」
「はい」
アンリエッタはかつての自分が書いた手紙を、かつての想いを確かめるようにゆっくりと読むと一つ息を吐いた。
「確かに。かつてわたくしが書いた件の手紙で間違いありませんわ。任務ご苦労さまルイズ。あなたには感謝してもしきれないわ」
「いえ……」
でも、とアンリエッタは呟いた。
「この場に、ウェールズさまがいないということは……やはり彼は父王に、国に殉じたのですね」
ルイズはそんなアンリエッタの誤解に苦笑すると、静かに首を振った。
「え、それはどういう……」
「ウェールズ殿下は生きております。すべてはここにいるタイガのおかげです」
「ど、どういうことですかルイズ。あなたの使い魔さんのおかげとは……そういえば、ワルド子爵の姿も見えませんが。別行動を取っているのかしら。それとも、まさか、敵の手にかかって……? 一体何があったのです?」
「……すべて説明いたします。姫さま」
ルイズは若干その表情を曇らせながらも、自分には全てを伝える義務があると、今回の任務の顛末を事細かに語った。
「そんなことが……」
アンリエッタはその全ての話を聞き終えると、かつて自分がウェールズに認めた手紙を見つめながら、はらはらと涙をこぼした。
「姫さま……」
ルイズが、そっとアンリエッタの手を握った。
「では、では……! あの方は今も生きておられるのですね。ああ! ルイズ! あなたを使者として正解でした! そして、何よりタイガ! あなたはわたくしたちの恩人です!」
感極まったように、アンリエッタが大賀に抱きついた。
「ちょっ……! さすがにそれは……!」
キュルケであれば引き剥がせるが、相手がお姫さまということで大賀は焦って腕をバタバタと動かした。
「あ、あら、ゴメンなさい……つい、興奮してしまって……」
アンリエッタはすすっと大賀から離れた。
大賀はあからさまにホッとした表情になって息を吐いた。
そんな風にかなりテンションの上がったアンリエッタだったが、落ち着くと、ルイズに対して気遣わしげな視線を向けながら呟く。
「でも、あの立派な子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……。あまつさえその者を使者に選んでしまうとは……あの方が生きていると言うのにわたくしは合わせる顔がありません……」
「そんなことは」
「いいえ! 一歩間違えれば、わたくしのせいで、あの方が……それを思うと、わたくしの身体は恐怖で震えてしまうわ!」
それに何よりと、そっとルイズを抱きしめる。
「ゴメンなさいルイズ。あなたにはほんとに辛い思いをさせたわね。彼はあなたの婚約者だったのに……」
「そんな、そんな……! 姫さまが謝ることなんてありませんわ。ワルドは人の身にはあまる野望に憑りつかれたのです。ただ一人の人間が、この広い世界をその手にするなんて、できるわけもないのに……」
「……ええ、そうね。ルイズ、人は誰もがちっぽけだわ。だから誰か一人を失うだけのことにも恐怖して、そうでありながらも他人のそれには無頓着になる」
アンリエッタはルイズから身体を放すと、その手を取ったまま愁いを帯びた目でルイズを見つめた。
「わたし、戦争なんて嫌いです」
「わたくしもよ。でも戦争は起こる。一体誰が望んでいるのかしら」
少しの沈黙が流れ、そうだと思い出したルイズが指に嵌めていた“水のルビー”を外した。
「姫さま。これ、お返しします」
アンリエッタは首を振った。
「いいのよ。言ったでしょう。それは今回の報酬だって」
「でも、これって特別な物なのでしょう」
「構わないわ。あなたはわたくしの大切なおともだち。あなたが持っているなら、わたくしが持っていることとそう変わらないもの」
ルイズは頷くと、それを指に嵌めた。
その様子を横で見ていた大賀が、別れ際にウェールズから託されていた指輪を取り出し、アンリエッタに手渡した。
「あのよ、お姫さま。これ王子さまからなんスけど……」
アンリエッタは、その指輸を受け取ると、目を大きく見開いた。
「これは“風のルビー”ではありませんか。ウェールズさまから、預かってきたのですか」
「ああ。お姫さまに渡して欲しいって。伝言も預かってる。“いずれ必ず日の当たる場所で、君に胸を張って会ってみせる”だってよ」
アンリエッタは、じっと、その指輪を見つめると、大賀に対して手を差し出して言った。
「嵌めて下さいますか?」
「いっ!!? いや、それはちょっと……る、ルイズ! お前が嵌めてやってくれよ!」
「……あんた、何を姫さま相手に意識してんのよ。空気読みなさいよね」
「うっせー! (柊以外の相手にそんなことできっかよ……!)」
「あら、フラれちゃいましたわ。ルイズ、代わりにお願いできる?」
「もちろんですわ、姫さま」
アンリエッタはルイズの手でその指に“風のルビー”を嵌めた。
ウェールズの物だったので、指輪のサイズが合っていないようだったが、アンリエッタが杖を持って呪文を唱えると、その指にピッタリなものになった。
「――あの人は、いまも勇敢に戦い、生きているのですね」
「はい。そうです」
ルイズが答え、大賀も頷いた。
その答えを聞くと、アンリエッタは、指に光る“風のルビー”を見つめながら言った。
「ならば、わたくしも……、勇敢に生きてみようと思います」
大賀たちはすぐに魔法学院に帰るのではなく、少し街に寄って行くことにした。
買い物をしたり、食事をしたりと、わずか一戦とはいえ、戦争によって疲弊した心身をリフレッシュさせる。
まぁ戦争とは関係なく燃え尽きて灰のようになってる男もいたが。
「なぜだ……なぜ、ぼくはいつも肝心な時にこうなんだ」
「まぁそういうこともあるぜ。元気出せよ」
「……タイガ、きみのことはもはや戦友だと思っているが、いまはきみの言葉は届かない。姫殿下の部屋に入ったきみの言葉は」
友情とはかくも微妙なもののようだ。
大賀たちが魔法学院に帰還してから3日後に、正式にアンリエッタの婚姻が発表された。
いくらアンリエッタと恋仲であったウェールズが生き残っていても、その事実は変わるものではなかったのだ。
そもそもその妨害を防ぐための任務だったのだから。
式は1ヵ月後に行われる予定だ。
そしてそれに先立ち、トリステインとゲルマニアの軍事同盟が締結されることとなった。
だが、その翌日には貴族派――“レコン・キスタ”とか名乗っていたらしい――によって奪われたアルビオンも新政府の樹立を公布した。
その報せを受けて、同盟を結んだ両国の間には、すぐに緊張が走ったが、神聖アルビオン帝国初代皇帝“クロムウェル”は特使を両国に派遣し、不可侵条約の締結を打診してきた。
あからさまに含みを持った条約ではあったが、両国はそれを受けた。
両国の空軍力を合わせても、空をホームとするアルビオンの艦隊には対抗しきれないと考えられたからだ。
唯一の希望はレコン・キスタの旗艦となっていた、レキシントン号を奪還って、王党派が逃げたとかいう未確認の情報だけだったが、未だに事実は確認できていない。
それというのも、3百の王党派に対してレコン・キスタが受けた損害は2千だとか、そんな眉唾物の話がラ・ロシェールの傭兵たちの間で噂として飛び回っているからであった。
もし、事実なら伝説的な戦いとして後世に語られてもおかしくはない。
それはともかく、誰もがそれが束の間のものだとわかっていた。
けれど、表面上は平和が訪れた。
城勤めの貴族や兵隊たちにとってはじりじりとした時間が流れていたが、普通の貴族や、平民にとってはいつもと変わらぬ日々が待っていた。
――それは、ここ、トリステイン魔法学院でも例外ではなかった。
「タイガ! 宝探しに行かないか?」
かと思えばそうでもなかったのかも知れない。
あるいは大変な任務を終えて、冒険を日常と考えるようにでもなってしまったのか。
大賀と会って開口一番にギーシュはそんなことを言い出した。
「いきなり何を言ってんだよ、ギーシュ」
「いや、ぼくたちは空に至る冒険をしたわけだが、あれは名誉のための冒険だっただろう。その割にはお土産とかやけ食いとか色々と出費はかさんで……要は金欠なんだ」
そういえば、ルイズは“水のルビー”なんて物凄く高そうな指輪を貰ったわけだが、ギーシュには何もなかった。
もちろんそれは大賀もだが、その結末やらに思うことはあっても、困ってる人間の頼みに応えただけだから元々報酬を貰うという気はなかった。
だから名誉のための冒険だといえば、大賀もそれに分類されるのだろう。
まぁ大賀的にはアンリエッタの覚えがめでたくなったところで、別に嬉しいということはないのだが。
しかし、この学院に通う者はみんなお金持ちのお坊ちゃんやらではなかったのだろうか。
大賀は不思議に思って尋ねた。
「貴族なのにか」
「貴族には二種類ある。金を貯める貴族と貯めない貴族だ。そして、我がグラモン家は後者だ。金は天下の回りものだからね」
大賀の疑問にギーシュはしたり顔でそんなことを言った。
「……要はお前みたいに見栄っ張りな家族なんだな」
「気風のいいと言ってくれ。事実、領地の者たちにはすこぶる評判がいい」
それってタカられてるだけじゃねーか? とか思わなくもなかったが、ギーシュは自分の家のことを誇りに思っているようなので、さすがに大賀も言わないでおいた。
「けど、宝探しってなんだよ?」
「それなんだが、キュルケが何やら宝の地図を集めているという噂を聞いたんだ。キュルケに好かれているきみが頼めば、ぼくも一緒に行くことができるだろう。宝は山分けといこう」
「キュルケか……」
大賀はその言葉に悩む様子を見せた。
「きみはキュルケのような強引なタイプは好みではないのかもしれないが、彼女はこの前の冒険も手伝ってくれじゃないか。今度はきみの番じゃないか? 彼女が何か宝を求めてるなら協力してやるべきだ。ぼくはその目当ての物以外の宝をもらうから」
「結局お前が宝が欲しいだけじゃねえか。……ま、面白そうだし話くらいは聞いてみっか」
「そうこなくちゃ!」
そして二人で連れ立ってキュルケを探して学院をうろつく。
そのキュルケはタバサといて、事情を話すと、顔を輝かして大賀に抱きついて来た。
大賀は避ける。
「やっぱりあたしとダーリンは通じ合ってるのね!」
「な、何がだよ」
「そもそもこの宝探しはダーリンのためなのよ」
「俺の?」
「そ。ダーリンってば、あれだけの活躍をしたのに、ルイズの使い魔ってだけで、正当な評価を受けられていないじゃない? それはどうかと思うのよね。だから、トリステインじゃなくてゲルマニアで貴族になっちゃえばいいんじゃないかって思ったのよ」
大賀は何を言ってんだと首を捻った。
「いや、貴族なんて別になりたかねーけど……。そもそもなろうと思ってなれるもんなのか?」
「トリステインじゃ無理よ。この国の連中は頭が固いから。でも、ゲルマニアならお金さえあれば土地を買うことで貴族姓を名乗れるわ」
「はー、それで宝探しを?」
「そゆこと」
大賀は何となく複雑な気分になった。
キュルケはほんとに自分のことを考えてくれているようだ。
大賀もキュルケが強引だったりするだけの性格ではないことはもうわかっている。
でも、やはり恋愛対象ではない。
そういう相手は元の世界の柊愛花だけだ。
しかし、どうしたものか。
そういう相手がいると言ってもキュルケは引くタイプではない。
それならと、さらに自分の良さをアピールすることに情熱を燃やすような、それを燃料としてしまう心の持ち主である。
「……それで宝探しするのはイイとしても、それってどこまで行くんだ? あまり遠いところはマズイだろ」
「一応はトリステイン領内よ。タバサの風竜を使えば、数日で全部回れるんじゃないかしら」
「数日って、また学院をサボる気か? 出席日数とか単位とか大丈夫なのかよ」
「あたしとタバサは優秀だもの」
「ギーシュは?」
「ぼ、ぼくだって大丈夫さ! ……たぶん」
まぁこれでギーシュが留年しても自己責任というやつだろうと、大賀はキュルケから貸してもらった地図を眺める。
「これとかどこのやつなんだ?」
「それは“タルブ”ね。“竜の羽衣”とかいう自由に空を飛べるマジックアイテムがあるらしいわよ。まぁメイジにとっては必要ないものだからお宝のランクとしては低いけど」
「へえ。空を……そういえば、タルブって聞いたことがあるな。確かシエスタの故郷だったか」
「シエスタって誰よ」
大賀の呟きにキュルケが食いついた。
女性の名前だからだろうか。
「学院のメイドだ。洗濯とか手伝ってくれてる」
「なんだ、メイドなら別にいいわ。仮にダーリンを狙っててもさすがに負ける気しないもの」
「そういうんじゃねえよ」
「でも、それならちょうどいいわね。せっかくだからそのメイドも案内役に連れて行きましょうか。道中で食事とかも作ってもらえて便利よ」
キュルケの提案に大賀はちょっと悩んだ。
キュルケの言いようはアレだが、故郷に寄れるということならシエスタにとっても良いことかも知れない。
学院を離れることになるが、貴族に命令されたと言えば許されるだろう。
「じゃー、頼むだけ頼んでみっか」
その後みんなでシエスタにその話をしにいくと、ぜひ同行したいということになった。
そうなると、残る問題は大賀のご主人さまとされるところのルイズだ。
なのでそのままルイズの部屋に行くと、ルイズは何も書かれていない本を前に頭を悩ませていた。
「あんた、何やってんの?」
「わ、何ぞろぞろと勝手に人の部屋に入ってきてんのよ!」
「ちゃんとノックしたわよ。で、それ何?」
「“始祖の祈祷書”よ。……まぁ何も書いてないし、たぶん偽物だけど」
「それで?」
「姫さまの結婚式の詔を頼まれちゃったのよ。だから頭を悩ませていたってわけ。あんたたちと違ってわたしは暇じゃないの。ほら、出て行って」
ルイズはそう言うと、しっしと手を振った。
「あら、じゃあルイズは留守番ね」
「……留守番?」
「あたしたちこれから宝探しに行くのよ。もちろんダーリンも一緒に」
「なっ、わたしは許可してないわよ!」
「だから、一応お誘いに来たんじゃないの。でも、詔を考えるっていうのなら別にいいわよね。ダーリンがいても邪魔になるだけでしょう?」
「む、むぐぐ……」
ルイズは何やら葛藤しているようだ。
しばらくそうして唸っていたが、不意にバン! と“始祖の祈祷書”を閉じるとそれを手に持つ。
「考えるだけならどこでもできるわ。毎回毎回わたしをカヤの外になんてそんなの許さないわよ」
ルイズはアルビオンで一人だけ何も教えられていなかったことを、いまだに根に持っているらしかった。
「無理しなくていいのよ。人数が増えるとシルフィードの負担が増えて、休みを多く入れなくちゃいけなくなるから」
「う、うるさーい! わたしがいいって言ったらいいのよ!」
まるで仲間外れになるのが嫌な子供のような物言いだったが、まぁそんな感じでルイズも宝探しのメンバーに半ば強引に加わることなったのだった。
そして始まった宝探しだったが、その結果は空振りばかりであった。
やはり、世の中そんなに美味い話はないのだろうか。
宝物は見つからないくせに、モンスターやらトラップやらそういうのには翻弄されて、一行はすっかりくたびれていた。
そして最後の一枚。
いよいよ、シエスタの故郷にあるという“竜の羽衣”を見に行くことになった。
しかしシエスタは故郷に寄れるということでついて来たはずなのに、微妙に浮かない顔だ。
「あ、あの、ほんとに期待しないでくださいね。あることだけは間違いないんですけど、ほんと大した物じゃないんで」
「そういうのが意外と値打ち物だったりするのよ、きっと!」
「ぼくは正直もう諦めてるよ。やはり宝の地図が売っているという時点でおかしいよ。普通そんな物を手に入れたら自分で探すだろうに」
「そりゃそうだ」
大賀もいまさらながらにギーシュの意見に同意だと頷いた。
まぁ何か複雑な仕掛けでもあって自分では取りに行けなかったとかなら、せめて地図を売って金を作ろうなんて思うかもしれないが、翻弄はされたものの、そこまで言うほどに大層な仕掛けはなかった。
「諦めたらそこで夢は終わるのよ! あたしは諦めないわ!」
「キュルケ。きみはいつでも情熱的すぎるよ。それはきみの美点であると同時に欠点でもある。きみのお目当てだった“ブリーシンガメル”とかいうお宝だって結局はなかったじゃないか」
キュルケは無言で杖を振った。
「ほわちゃーっ!!? あちゃ、あちゃ!!?」
ギーシュはキュルケの炎に責められ、どこぞの武道家のように辺りを逃げ回った。
一応は熱量を調節しているらしく燃えていないかわりに、ずっと消えずに留まっているのでギーシュはとても大変そうだった。
「なっ……これが“竜の羽衣”だって……!!?」
タルブの村の近くに建てられた寺院の中。
シエスタに案内されてやってきた“竜の羽衣”の前で大賀は目を丸くして驚いた。
“竜の羽衣”の正体が、大賀が生まれるよりもずっと前に作られた元の世界の戦闘機――ゼロ戦だったからだ。
しかもこれはシエスタの曽祖父の持ち物だったという。
日本の神社をこちらの世界で再現したようなこの寺院もまた、その人物が作ったというのだから、当然ながら大賀はその人物に興味を抱いた。
他の者たちはその価値がわからないために大賀が何に驚いているのかわかっていなかったが、とりあえずその行動に続いた。
「海軍少尉 佐々木武雄 異界ニ眠ル……」
「えっ?」
大賀はシエスタに頼み、曾祖父の遺品を見せてもらい、さらにはその墓へとやってきた。
その墓石に刻まれていた文字がこれだった。
日本語だ。
この世界でもなぜか言葉は通じているが、文字は読めなかった。
しかし、その文字は問題なく読める。
代わりにルイズたちこちらの世界の者には読めないようだ。
シエスタによれば、その墓もまた曾祖父が死ぬ前に自分の手で作ったものであるらしい。
完全に決まりだった。
“破壊の杖”の持ち主に続く二人目。
シエスタの曽祖父、“佐々木武雄”――彼もまた大賀と同じ世界から来た、この世界にとっての異世界人だ。
「(これで二人目か……。元の世界に戻れない奴ばっかじゃねーかよ。俺、ほんとに戻れんのかよ……)」
大賀は一人、シエスタの家から近くの草原へとやって来ていた。
珍しく弱気になっていた大賀は、気分転換ができる場所を探して景色の良いその場所にたどり着いたのであった。
だが、どれだけ良い景色であったとしても、その気分は簡単には晴れないようだ。
しかし、世の中というのは不運なことが続くこともあれば、突然好転することもあるのだ。
今回がそれだった。
『――久澄大賀、聞こえるか。ボクだ』
唐突に大賀の頭の中に声が響いた。
突然すぎて意味不明だが、この偉そうな物言いには覚えがある。
聖凪高校の前校長である“花先音弥”だ。
そして、世界が繋がる。
久澄大賀の召喚の真実がいま明かされようとしていた。
ここであえて切るスタイル。
宝探しとかだいぶカットしたのに長くなってしまったので。
次回は当然説明回ですが、それとは別に番外編も投稿する予定。
とはいえ、そっちは読まなくても問題ない感じです。
ある意味で使い回しみたいな話になるので。