それではどうぞご覧ください。
昨日から天報市は騒がしい。
それもその筈。今朝から怪人に関するニュースで持ちきりだからだ。
「怪人怪人って、誰もアレが未来人だとは思わないだろうな」
冴月は寂しいキッチンに立ち、豚肉を両面焼いて塩を振っただけの料理を作る。
それを小さな丸いテーブルに持っていき、自分とカナタの前に置く。
「うん、なんだこれは」
「……ああ、そうか。悪いな」
そして冴月は再びキッチンに戻り、パックのご飯と調味料を持ってきた。
彼女が何か言いたげな顔をしていたが、冴月は座って何食わぬ顔で飯を頬張る。
「まぁ質素。質素なのは良しとしよう。醤油と塩……?まさか醤油と塩しかないのかい?」
「ああ」
「ああ……???」
居候の分際であり、彼を生かす為とは言えど戦いに巻き込んでしまった責任もあるにはある。が、あまりにも悲しい食卓にカナタは開いた口が塞がらない。
「君はいつもこの食事をしているのかい?」
「いや、そんな事はない。偶には緑も入れるし、肉だけじゃなくて魚だって食う」
「味は?」
「醤油か塩」
「"さしそすせ"を思い出したまえ!!!!!」
アパート内にカナタの声が響き渡る。
どこかの階が壁をドンと叩く音が聞こえた。連鎖する様に他の壁もドンドンと鳴り始めた。
格安なので壁が薄い。一度叩けばこうした連載反応が起こるという。
「ほら、デカい声出すからだ」
「私がここで突っ込まなければ誰が君を突っ込んだんだい?」
「そんな事言われてもな……」
「私はどちらかと言うとボケ担当なのだから、君は後手に回らないとダメだろう?先に行かないでくれたまえよ」
「ボケってなんだよ……」
少量の飯を食べ終わり、冴月が片付け始めてる最中。
カナタは彼に「身体の調子はどうか?」と尋ねてきた。
「身体?別になんてことはない」
「うまくいったようで何よりだ」
「……あーそうか。1回死んだんだよな」
未来人ことアブゾウル。
冴月は子供を救う為、自らを犠牲にしてアブゾウルによる攻撃を喰らってしまった。
それは心臓部への強烈な一撃だった。致命傷。死ぬか生きるかの瀬戸際。
そこへカナタがボルテクスドライバーに彼を登録した事によって事なきを得た。
「アブゾウル……全く頭がおかしい連中だな。ただそれも一部だけの話だったよな?」
「ああ、善良な市民だってもちろんいるさ。私の様に、ね」
カナタの話によれば未来人全員が狂っている訳ではなく、争いを好まない善良な未来人も存在する。
ただ"アブゾウル"は違う。アブゾウルはその一部の未来人と組織名を表し、今、未来は彼らの手によって完全な支配下に置かれている様だ。
「もちろん逆らった奴らは?」
「皆殺しになるだろうね」
「自分たちの現在でさえも敵に回してるのか……」
冴月は片付けが終わると、丸いテーブルに戻って胡座をかいて座る。
そしてテーブルに肘をつき、カナタに質問を投げかける。
「で、そんな屑の未来人を未来に戻したら処刑されるんだっけ?」
「……ああ」
すると先ほどまでの空気が一転。
冴月の声のトーンが下がる。
「それって実質さ─────俺らが殺してる事にならないか?」
「……っ!」
「あのライダーキックっての放つと未来に強制送還させることができるんだろ?ただそうなると奴らは殺される。ここに滞在するにしろ上からの命令や奴らのプライドもあって大人しくしている筈もない」
「………」
「カナタさん。昨日も言ってたけど、アブゾウルはあの化け物になると寿命が縮まるんだっけ?試作品のボルテクスドライバーによる副作用……それに未来に帰れても処刑が待っている」
「その通りさ」
「未来に帰っても帰らなくても死ぬ運命から逃れられない。未来ってのは俺と同じで今しか見てないみたいだな」
暫く静寂が続いた。壁にかけてある時計の針の音だけが聞こえる。
先に静寂を破ったのは冴月。
「カナタさん。俺は現在の今を守ると誓った。一応あんたに命を救われた身だ。これくらいの事は恩返しさせて欲しいとは思ってる。ただ……どうしてもアブゾウルの奴らが俺のせいで殺されるってなるのは……どうもこう……クズなのはわかってる。死んだ方がいいってのも嘘じゃない。だが、実際自分の手でやると……」
「すまない。君には迷惑をかける」
カナタは真剣な眼差しで彼を見つめる。
「でも、もう君しか頼れないんだ。勝手なのはわかっている。現在も未来も過去も全てを1人に背負わせてしまう訳だからね……こんな重荷を背負わせてくれるなら私が変身できれば良かった。ただ君も知っての通り、ボルテクスドライバーを使用する為には一度死を見る必要がある。私はこのドライバーの唯一の開発者だ。そのリスクを犯して、もし失敗してしまえば私は死に希望は潰えてしまう……」
「カナタさん……」
「何度君に頭を下げても下げ足りないくらいだ。君がもしどうしても嫌だと言うのなら……」
すると冴月は腕を伸ばし、手で彼女の口を塞いだ。
「悪いなカナタさん。ちょっと疑問に思っただけで辞めたいなんて言うつもりはない。変な事言ったな」
「冴月。続けてくれるのかい?」
「ああ、一応な。未来も過去もどうでもいいが、どの時間だろうと善良な市民の今を守れるなら俺も覚悟を決める必要がある」
「……なら、私は君の為に最善のフォローを約束しよう。何か直して欲しい部分があったら言ってくれたまえ!」
「歌と音声認識機能の廃止を求む」
「却下する」
「ふざけんな」
*****
遥か遠い未来・アブゾウル本拠地──────。
巨大なビル群がまるで一塊の建物の様に立ち並ぶ。これら全ての建物及び土地はアブゾウルの所有物である。数多くの支部を各国に点在させており、世界で何があろうともすぐに情報を仕入れる事を可能としている。
未来はアブゾウルこそが世界の法。ルールとはアブゾウルの事。
チリーン。
鈴の音と共に準備が始まる。
ビル群の中でも一際目立つ1番高く立派なビルの地下深くにそこは存在する。
大柄な男2人が、敗北してノコノコと無様に帰ってきたアブゾウルの1人を抑え込み、専用の器具が付いた台に固定する。
「も、もう一度チャンスを!チャンスをくれ!」
その男は必死に叫ぶが淡々と"処刑"の準備は続く。
「まだ私には奥の手があるんだ!本当だ信じてくれ!」
「黙れ。それ以上無様を晒す事は許さん」
大柄な男の1人が彼の頭を鷲掴み、メキメキと音を出しながら睨みつける。
男も最初こそ怯んだものの、生への執着なのかプライドの為なのか何度も訴え続ける。
「貴様……黙れと言ってッ───────」
その時、大柄な男の背後から鈴の音を鳴らすローブ姿の男が1人やってきた。
「こ、これは……」
大柄な男たちは膝をついて頭を下げる。
怪しく不気味な雰囲気を放つその男は明らかに上に立つものであった。
「あなた様はッ!」
「"奥の手"と言ったな。何がある」
「私の全生命を使用して奴を殺します!流石にあのカナタ博士と言えど捨て身の特攻は対処不可能な筈ッ!」
「ほう。自らの命を犠牲とし、大義を成すつもりか。どちらにせよ死ぬのであれば華々しく散りたいもの……よかろう。やってみせよ」
「はい!私にお任せくださいませ!」
そう言って彼は台から下ろされると、すぐにまた過去へとタイムトラベルをしていった。
大柄な男の1人が質問する。
「……どうして奴を過去へ………」
その質問をした後、ローブの男の方を見た彼は思わず自らの口を塞いだ。
滝の様な汗と湧き上がる後悔を胸に謝罪の言葉が咄嗟に出た。
「も、申し訳ございません!出過ぎた真似を致しましたッ……!!」
「ふむ……」
ローブの男はただ静かに台を見つめ軽く触れる。
「あと何億犠牲となれば滅ぶのか」
次回、第4話「カクゴを持つ事」後半
次回もよろしくお願いします!!