暫定解   作:sososo

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第五章 その他
冗談ですよ


 

 物流中継区へ着くと、入口にいた設備保全部の職員がニムラへ近づいてきた。

 

「ニムラさんですね」

「はい」

「来るって聞いてます」

 

 職員は端末を見ながら言った。

 

「本部から、勇者のニムラさんをそちらへ回すので、部署をまたぐ判断が必要な場合はニムラさんに集約するようにと」

「俺が判断ですか?」

「はい」

「……そうですか」

 

 ニムラは自分の端末を開いた。

 少し前に届いた連絡には、

 

《物流中継区で大規模設備事故》

《複数部署対応中》

 

 とある。

 その下に、

 

《できる範囲でいいから、とりあえず勇者が行った方が場がまとまる》

 

 とだけ書かれていた。

 

「……できる範囲ってなんだよ」

 

 職員の後について中へ入る。

 大型の搬送設備が並ぶ区画では、いくつもの警告表示が浮かんでいた。

 

《第三搬送区画 運転制限》

《主供給系統 異常負荷》

 

 頭上ではコンテナを積んだ搬送台が、途中で止まっている。

 少し離れたところで警報音が鳴った。

 

「今どうなってます?」

「第三搬送区画の自動搬送系統で故障です。異常負荷が主供給側へ戻ってます」

 

 設備保全部の職員が端末を操作する。

 中継区の見取り図が表示された。

 

「今のところ大きくやられてるのは第三です。ただ、このまま主電源を入れておくと、第四にも波及します」

「止めればいいんじゃないですか?」

「止めたいです。今すぐ落としたいです」

「でしたら」

「ただ、物流側が待ってくれって」

「なんでです?」

 

 職員が通信をつなぐ。

 

『どうなりました?』

「勇者のニムラさん来ました」

『あ、来ましたか!』

 

 通信の向こうには機械音が混ざっている。

 ニムラは端末を受け取った。

 

「ニムラです。主電源を切れない理由ってなんですか?」

『こっちに作業員が六人残ってます』

「怪我人ですか?」

『いえ。六人とも無事です。もう内側の乗降所に集まってます』

「じゃあ出せばいいんじゃないですか?」

 

『それを今やろうとしてます。搬送を動かせば、二十分くらいで外まで出せます』

「主電源を切ると?」

『搬送設備が全部止まります。こっちから帰れなくなります』

「なるほど」

 

 ニムラは設備保全部の職員を見る。

 

「六人を出してから切るのは?」

「……二十分、いや、まあしょうがないんですけど……」

 

 職員はもう一度、負荷値を見た。

 

「第四までは覚悟しないと駄目なんですよ。今切れば第三だけで止められる可能性が高いですけど」

「直せます?」

「まあ、直せます。……あー、違うんです。勇者さん」

「はい?」

 

 保全部が別の通信を開く。

 

『あ、まだだよ。危ないから絶対出さないで』

「討伐部がこう言ってるんです……」

 

 ニムラが端末を見る。

 

『あれ?』

「ニムラです」

『ああ、勇者さん。魔物討伐部です。搬送動かさないでくださいね』

「なんでです?」

 

『搬送路に魔物出てますんで。二体。今、こっちで止めてます』

「ああ、それで」

『まだ許可しないでくださいね。まじで今そこ動かされたら危ないんで』

「……ええ」

 

 設備保全部の職員は負荷値を見たまま言った。

 

「これなんです……」

「ちなみに、魔物の処理ってどれくらいかかります?」

『三十分もあればいけます』

「三十分」

『はい』

 

 ニムラは設備保全部を見る。

 

「魔物三十分、そのあと搬送二十分。五十分待つことは?」

「無理です」

 

 今度は即答だった。

 

「五十分って、ほぼ一時間ですよ。そこまで主電源維持したら、第四どころじゃなくなるかもしれません」

「どこまで行きます?」

「分かりません。第五側まで負荷が回ったら、人がいる区画にも影響出る可能性あります」

 

「それは駄目ですね」

「はい。ですから、切りたいんですが」

 

 ニムラは物流側の通信へ戻した。

 

「ニムラです」

『どうです?』

「魔物の処理に三十分かかるそうです。そのあと搬送で二十分」

『いや、待つのはいいんですが、主電源切られたらこっちの六人が帰れませんよ』

「はい。情報共有です。少し待ってください」

 

 通信を切り替える。

 

「討伐部」

『はい、まだです!』

「はい。今、何人いますか?」

『えっと、四人ですが』

「移動手段は」

『車ですけど』

「車、了解です」

 

 ニムラは少し考えた。

 

「魔物って、倒さずにそこに抑えておくだけなら何人いります?」

『……はい?』

「搬送路に出てこないようにするだけです」

『……二人いればいけると思いますけど』

「二人」

 

 ニムラは物流側へ切り替えた。

 

「そっちの六人のところまで、討伐部の車で行けます?」

『車ですか?』

「はい」

『……まあ、行けますよ。保守用の地上路がありますから。ただ、かなり道荒れてますけど』

「主電源切っても走れます?」

『車なら関係ないです』

 

「じゃあ、それで六人出せます?」

『出せます。ただ、搬送設備と違って時間かかりますよ。こっちまで来て外へ戻るなら、往復一時間くらいは』

「一人で運転できます?」

『いや、あの道なら二人いた方がいいですね。運転と、外見てる人。何かあったとき一人だと危ないです』

「分かりました」

 

 ニムラは設備保全部を見る。

 

「主電源、落としましょう」

 

 職員が一瞬、ニムラを見る。

 

「いいんですか?」

「討伐部に二人残ってもらいます。残り二人に車で六人を回収してもらいます」

 

 設備保全部の職員が見取り図を見た。

 

「ああ、それなら搬送系統は要らない」

「ですよね」

「切れます」

「では準備をお願いします」

 

 職員はすぐに端末へ向き直った。

 

「主供給停止します。第三系統から順次、切り離し準備」

 

 通信の向こうから討伐部の声がした。

 

『あの』

「はい」

『これ、四人乗りなんですけど』

「往復してください」

 

 少し長い沈黙があった。

 

『……はい』

「ちなみに二人で、三時間は抑えられますか?」

『三時間くらいなら。交代あれば嬉しいですけど』

「わかりました。途中で交代しましょう、無理そうならすぐ報告してください。ではお願いします」

『了解です……』

 

 設備保全部の職員が少しだけ口元を緩めた。

 

「切りますよ」

「お願いします」

 

 操作が入った。

 頭上の搬送設備から、低い駆動音が消えていく。

 警告表示が次々と切り替わる。

 

《主供給停止》

《第三搬送区画 切離》

《第四搬送区画 切離》

 

 照明の一部が落ち、非常灯が点いた。

 設備保全部の職員はしばらく数値を見ていた。

 

「……負荷、下がってます」

「第四は?」

「多少食らってますけど、止まりました」

「そうですか」

 

 職員が小さく息を吐いた。

 

「全部おじゃんになるより全然いいです」

 

     ◇

 

 最初の作業員二人が戻ってきたのは、それから一時間ほど後だった。

 作業員を降ろすと、討伐部の二人はほとんど休まず、また車に乗った。

 二度目、

 三度目。

 車が停まり、作業員二人が降りてくる。

 

「これで六人全員です!」

 

 物流側の職員が人数を確認する。

 

「怪我なし。全員戻りました」

「良かったです」

 

 ニムラは端末の記録を閉じた。

 車から降りてきた討伐部の職員が、肩を回す。

 

「じゃ、魔物討伐行ってきます」

「よろしくお願いします」

 

 さらに一時間ほどして、討伐部の四人が戻ってきた。

 

「お疲れ様です」

「……お疲れ様です」

 

 ニムラは頭を下げる。

 

「すみません。長くなってしまって」

「いや、まあ……」

 

 職員は車を振り返った。

 

「こっちも討伐のことしか考えてなかったんで、お互い様っていうか」

「ありがとうございます。次からはもっと大きい車の方がいいかもしれないですね」

「そういう問題っすかね」

「わかりません」

 

 職員が少し笑った。

 近くにいた設備保全部の職員がこちらへ来る。

 

「第四区画までで止まりました。第三はしばらく使えませんけど、他は順次戻せます」

「はい、わかりました」

 

 ニムラは周囲を見た。

 設備の確認、魔物の処理、作業員の健康確認。

 あとは、それぞれの部署の仕事だった。

 

「……じゃあ、俺帰りますね」

「はい。助かりました」

「じゃ、お疲れ様です」

 

 ニムラは端末をしまった。

 出口へ向かおうとすると、後ろから討伐部の職員が呼んだ。

 

「勇者さん」

 

 ニムラが振り返る。

 

「八人乗りを勇者から勧められたと報告しますね」

「……冗談ですよ」

「ハハ、わかってますよ」

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