暫定解   作:sososo

26 / 26
では、内緒で

 

 本部の一室で、マイタニは端末に表示された報告書を読んでいた。

 向かいではカテキが別の資料を確認している。

 

《物流中継区設備事故 対応報告》

 

 マイタニは何度か画面を送った。

 

「ニムラ良いですね」

「そうですね。今回は部署に縛られない形にできたのが良かったのかと」

「ええ」

 

 マイタニは報告書を戻した。

 

「まあ、現場で連携が取れていないという欠点も見えましたが」

「設備保全部、物流側、魔物討伐部で、それぞれ必要な情報は持ってはいました」

「今後の課題ですね」

 

 扉が開いた。

 

「失礼します」

「ああ、サカキくん」

 

 マイタニが顔を上げる。

 

「いいところに来ました」

「はい?」

「ニムラ、君の班の班長でしたよね」

「はい。まあ」

「勇者はまだまだ使えそうです」

 

 マイタニが端末の資料をサカキへ送った。

 

「勇者……ニムラですか?」

「ええ」

 

 サカキは自分の端末を開いた。

 

「……ああ」

 

 少し読み進める。

 

「いや、これは勇者っていうより、ニムラがいい判断したってのがでかいんじゃないですかね」

「そうですね。それも大きいです。他には?」

「他ですか?」

「はい」

 

 サカキはもう一度資料を見る。

 

「……役目があったから、ですかね。ニムラ、責任外だったらそんな動かないんで」

 

 マイタニが少し笑った。

 

「素晴らしい。やはり視点がいいですね」

「はあ。ありがとうございます」

 

 マイタニは報告書へ視線を戻した。

 

「部署の連携……」

 

 カテキが呼んだ。

 

「マイタニさん」

「ああ、そうだ。君を呼んだのはそれじゃない」

 

 カテキが資料を切り替え、サカキへ送る。

 

《大量魔物確認事案 調査資料》

 

 サカキは題名を見て、そのまま開いた。

 

「ああ。イチノセの……」

「はい」

 

 マイタニが言う。

 

「この調査なんですが、規模を落とそうと思ってまして」

「なるほど」

「君の意見を聞きたくて呼んだんです」

「俺のですか?」

「ええ」

 

 サカキは少し姿勢を直し、資料を最初から見始めた。

 それを見て、カテキが言う。

 

「別に畏まらなくてもいいですよ」

「はい?」

「本当に現場の意見を聞きたいだけです。イチノセさんとも近いので、それで呼んだだけですから」

「あ、そういうことだったんですか」

 

「あと、マイタニさんがサカキさんのこと気に入ってるみたいなんで」

「え」

「変な意味じゃないです」

「あ、すみません」

 

 マイタニは特に気にした様子もなく、資料を見ていた。

 サカキは画面を送った。

 調査記録がいくつか並んでいる。

 現地の特定には至っていない。

 失踪時の現象も再現できていない。

 

「今のところ、調査はほとんど進んでいません」

 

 カテキが言った。

 

「イチノセさん本人の話以外に、裏付けになるものも見つかっていません」

「なるほど」

 

 サカキは少し考えた。

 

「そうですね、あんまり調査も進んでないですし。規模落とすのは妥当だと思います」

「ですよね」

 

「あ、でもイチノセ、別に嘘とかつくやつじゃないんで」

「ああ、そういうのも聞きたかった。ありがとうございます」

「いえ」

 

 サカキはもう一度資料へ目を落とした。

 大量の魔物。

 残された人間の設備。

 そこでしばらく過ごし、助けられたというイチノセの証言。

 資料の端には、

 

《多数の魔物が継続的に滞在する領域であった可能性》

 

 とある。

 サカキはそこを見たまま、小さく呟いた。

 

「……魔物の集落ね」

 

     ◇

 

 景色が横へずれた。

 

「え」

 

 次の瞬間、イチノセの身体が地面へ叩きつけられた。

 肩から転がる。

 起き上がろうとして、右足に激痛が走った。

 

「痛っ……!」

 

 そのまま座り込み端末を拾う。

 

《通信接続不可》

《現在位置取得不可》

 

 周囲には古い設備が残っていた。

 もう一度通信を試そうとしたところで、物音がした。

 魔物がいる。

 

 イチノセは端末を握ったまま身構えた。

 魔物はそのまま近づいてくる。

 逃げようと立ち上がる。

 右足が痛む。

 

 その隙に、魔物が肩を押さえた。

 腕ごと身体に何かを巻かれる。

 さらにもう一周。

 

 身体を捻るが、今度は反対側から押さえられた。

 足まで巻かれる。

 数秒もしないうちに、ほとんど動けなくなった。

 

「なんだ、これ」

 

 魔物たちはそのままイチノセを持ち上げ、運びだした。

 前方に、薄い板のようなものが浮かんでいる。

 表面に矢印が浮かんだ。

 

《右に行け》

 

 イチノセを運んでいる魔物たちが、その先の角を曲がる。

 少し進むと表示が変わった。

 

《止まれ》

 

 魔物たちが止まる。

 横の通路を、別の魔物たちが大きな物を運んで通り過ぎた。

 表示が消え、イチノセを運ぶ魔物たちはまた進み始める。

 開けた場所へ出た。

 

「……え?」

 

 魔物がいる。道にも、建物の間にも、上の通路にも、古い設備の周りにも。

 さっきまで見ていた数とは比べものにならない。

 

「なにされるんだ、僕は」

 

 身体をぐるぐる巻きにされたまま、その中へ運び込まれていく。

 それでも寄ってくるわけではなく、それぞれ別の場所へ動いていく。

 

 魔物たちはイチノセを運んだまま、建物の中へ入った。

 中には古い人間用の設備が残っている。

 中央に、ベッドのような平たい台があった。

 そこへ置かれる。

 

 身体に巻かれていたものが外され始めた。

 腕が動く。

 イチノセが逃げようとすると、すぐに押さえつけられた。

 

「くっそ」

 

 またぐるぐる巻きにされた。

 別の魔物が近づいてきた。

 腕を触る。

 肩。

 腹。

 背中。

 そのまま足へ移る。

 

「っ!」

 

 イチノセが身を引こうとするが、動けない。

 一体が離れていく。

 

「なにを……」

 

 すぐに戻ってきた。

 棒のようなものを二本持っている。

 イチノセの右足を押さえる。

 棒が足の横へ添えられた。

 反対側にも一本。

 

 その上から、何かが巻かれていく。

 動かないように固定される。

 イチノセは黙った。

 さっきまでより、足が楽だった。

 棒を見る。

 巻かれた布を見る。

 魔物が手を離す。

 

「添え木……?」

 

     ◇

 

 目を覚ますと、寝台の横に魔物がいた。

 昨日からいるやつだった。

 身体を起こす。

 魔物から音が鳴った。

 入口から別の魔物が入ってきた。

 右足を触られる。

 

「痛っ」

 

 魔物はしばらく足を触ったあと、そのまま出ていった。

 そのあと、別の魔物が何かを持ってきた。

 水と、食べ物らしいものだった。

 置いて、出ていく。

 イチノセはしばらくそれを見てから、もう一度眠った。

 

     ◇

 

 何度か眠って起きた。

 飯を持ってくる魔物がいた。

 しょうがないから食べた。

 

 足を触る魔物もいた。

 横にいる魔物は、ずっといた。

 イチノセが起き上がったり、寝台から降りようとしたりすると音を鳴らす。

 そのたびに、どこからか別の魔物が来た。

 

 ある時、目を覚ますと端末がなくなっていた。

 

「あれ?」

 

 少し離れたところに魔物がいた。

 イチノセの端末を触っている。

 

「ちょっと、それ僕の」

 

 すぐに押さえつけられた。

 画面が切り替わる。

 また切り替わる。

 地図が出た。

 魔物はそのまま端末を触っていた。

 

 寝台の上に戻された。

 イチノセは端末を取った。

 通信は繋がらない。

 位置も分からない。

 

「なんなんだよ」

 

 魔物はもういなかった。

 

     ◇

 

 足をかばえば、自分で歩けるようになった。

 最初に外へ出た時も、横にいた魔物はついてきた。

 

「やっぱ見張りかな」

 

 建物を出て、改めて見ると、広かった。

 古い道路が何本も伸びている。

 その両側には、人間が使っていたらしい建物や設備が残っていた。

 倉庫、作業施設、渡り廊下、止まった搬送設備。壊れたものも多い。

 ただ、全部が放置されているわけではなかった。

 

 何かを運ぶ魔物がいる。

 同じ道を何度も行き来している魔物がいる。

 古い設備の前で、何かを動かしているものもいる。

 高いところでは数体が一緒に部材のようなものを持ち上げていた。

 

「……」

 

 イチノセは足を止めた。

 向こうにもいる。

 建物の中にもいる。

 屋根の上にもいる。

 

「こいつら、なにやってんだろう……?」

 

 一体が荷物を置く。

 別の一体がそれを持っていく。

 古い搬送設備が少し動く。

 また別の魔物がそこへ何かを載せる。

 少し先に、見覚えのあるものが浮いていた。

 

「あ」

 

 板のような魔物。

 表示には、

《まつ》

 と出ている。

 その横にいた別の魔物が、以前捕まった時のように、イチノセの足へ何かを巻き付けてきた。

 

「なにしてんの?」

 

 しばらくして、その魔物はイチノセの足から離れ、板の端へ触れた。

 表示が一度消える。

 別の文字に変わった。

《完了》

 イチノセは近づいた。

 もう一度、その魔物が板へ触れる。

 表示が変わる。

《では、内緒で》

「どういう意味?」

 

 魔物がイチノセの腕へ触れる。

 周囲が揺れた。

 景色が横へずれた。

 

     ◇

 

「……え」

 

 目の前に、見覚えのある壁があった。

 横には資材が積まれている。

 宿舎の裏。

 普段ほとんど人が来ない作業スペースだった。

 イチノセは端末を見る。

 

《通信接続》

 

 位置情報も戻っている。

 振り返る。

 魔物はいなかった。

 足には、向こうで巻かれたものが残っていた。

 イチノセはしばらくそれを見ていた。

 

「……え?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。