会場へ着くと、入口にいた職員がすぐにニムラへ近づいてきた。
「ニムラさんですね。こちらです」
「はい」
案内された先には来賓席が並んでいた。
行政関係者や地域の代表らしい人たちが座っている。
ニムラは自分の席を見た。
《勇者 ニムラ》
職員はそのまま次の人を迎えに行った。
ニムラはしばらく席札を見てから座った。
手元に式次第が置かれている。
《西地区開設百周年記念式典》
《来賓挨拶》
《記念演目》
《記念碑除幕》
「……」
来賓挨拶の欄に自分の名前があった。
ニムラが近くの職員を呼ぶ。
「すみません。俺、挨拶あるんですか?」
「ありますよ」
「何を言えばいいんでしょうか」
「お祝いの言葉などを」
「など」
開始を知らせる音が鳴った。
職員が離れていく。
「……など」
式典が始まった。
地域の歴史が紹介され、子供たちの演奏があり、何人かの来賓が壇上へ上がった。
やがて司会が次の名前を読み上げる。
『続きまして、勇者ニムラさんより一言いただきます』
拍手が起きた。
ニムラは周りを見てから壇上へ上がった。
「えー……百周年、本当におめでたいと思います」
また拍手が起きた。
「百十一年を目指して頑張って行けたらいいなと思います」
少し静かになった。
「……一が三つ並ぶととてもおめでたいので」
少し間があって、もう一度拍手が起きた。
席へ戻ると、隣の来賓が小声で言った。
「勇者らしいですね」
「無理ですよ、俺には」
「良かったと思いますよ」
よく分からなかった。
最後の記念碑除幕では、行政代表と子供、それからニムラが前へ呼ばれた。
「俺もですか?」
「お願いします」
三人で紐を持つ。
司会の合図で引くと、布が落ちた。
周囲から拍手が上がる。
そのまま何枚か写真を撮られた。
終わって帰ろうとすると、今度は子供が寄ってきた。
「勇者!」
「はい」
「ほんもの?」
ニムラは少し考えた。
「本物だよ」
「かっけえ」
「ありがとう」
子供と一枚撮る。
その後ろにも人が並んでいた。
「次、お願いします!」
ニムラはもう一度、呼ばれた方へ向かった。
◇
本部の一室で、マイタニが端末を見ていた。
カテキとサカキも同じ机についている。
《勇者ニムラ、西地区百周年を祝う》
記事には、記念碑の前で子供と並んでいるニムラの写真が載っていた。
「百十一年ですか」
カテキが言った。
「一が三つ並ぶとおめでたいそうです」
「そりゃおめでたいでしょう」
マイタニが画面を送る。サカキがちらりと見る。マイタニは真面目な顔だった。
カテキがサカキに言う。
「これはマイタニさんの冗談です」
「あ、なるほど」
サカキが写真を見る。ニムラが端のほうで笑っていた。
「これ何しに行ったんですか?」
「式典です」
「それは分かりますけど」
「勇者がいると皆喜ぶから、とのことです」
マイタニは少し考えてから、サカキを見る。
「勇者隊、悪くないと思うんですよね」
「まあ、ニムラも一人でやるよりは楽になるとは思いますけど」
カテキが端末を操作した。
「ニムラ本人はどうでしょう? 嫌がってるならやめたほうがいい」
「まあ、嫌っていうより、戸惑いの方がでかいと思います」
マイタニは別の資料を開いた。
「なら、そのまま進めたほうがニムラくんも楽ですかね」
「ニムラが隊長ですか?」
「勇者ですから」
「本人にはまだ言ってないんですよね」
「まだです」
「じゃあ黙っときます」
「お願いします」
カテキが資料を送った。
「そうなると、第三班ですが」
「ああ」
サカキが椅子にもたれた。
「……解体になりますか?」
「君も最近はこちらにいることが多いですし」
「まあ、そうですね」
サカキは少し考えた。
「イチノセは?」
「第一か、第二班に行くことになるでしょうか」
「ですよね」
マイタニがサカキを見る。
「解体は嫌ですか?」
「いえ、まあ突然だなとは思いますが」
「君が良ければこのまま本部に来て欲しい」
サカキは机の上の資料を見る。
「少し、考えさせてください」
「わかりました」
「ニムラにはいつ言うんですか」
「そうですね。もう少し勇者隊の形式を決めてからですかね」
「言うときは教えてください。ニムラとも相談したいので」
マイタニは頷いて、ニムラの記事を開く。
写真の中で、ニムラは子供の横に立っていた。
「では、次の議題」
カテキが資料を閉じた。
◇
第三班の部屋には誰もいなかった。
ニムラの席も、サカキの席も空いている。
「二人とも最近忙しいな」
イチノセは端末に、ノアから聞いた術式を開いた。
登録はまだしていない。
「まずは転移だけで練習だったよな」
椅子を少し後ろへ下げて立ち上がる。
術式を組んだ。
「……よし」
起動する。
何も起きない。
「ん?」
と思ったところで、身体が少し浮いた。
すぐに落ちる。
「……おお」
もう一度。
今度は少しだけ横へずれた。
着地する。
「なんだこれ」
もう一回。
浮く。
落ちる。
「……ちょっと楽しいな。浮遊も入ってるのか」
もう一度。
今度は何も起きなかった。
「ああ、失敗」
もう一回。
少し浮いた。
「お」
着地する前に、もう一度術式を組む。
不発。
「あーだめだ」
もう一度。
何も起きない。
さらにもう一度。
「……あれ?」
さっき不発になった術式が、まだ少し残っていた。
新しく組んだ術式が重なる。
一瞬、術式そのものが横へずれた。
棚が横へずれて見える。
イチノセは動きを止めた。
机の端が、少し横に重なって見える。
「え」
音が遠くなった。
この感覚には覚えがある。
「待っ――」
景色が横へずれた。