暫定解   作:sososo

28 / 31
良かったと思いますよ

 

 会場へ着くと、入口にいた職員がすぐにニムラへ近づいてきた。

 

「ニムラさんですね。こちらです」

「はい」

 

 案内された先には来賓席が並んでいた。

 行政関係者や地域の代表らしい人たちが座っている。

 ニムラは自分の席を見た。

 

《勇者 ニムラ》

 

 職員はそのまま次の人を迎えに行った。

 ニムラはしばらく席札を見てから座った。

 手元に式次第が置かれている。

 

《西地区開設百周年記念式典》

《来賓挨拶》

《記念演目》

《記念碑除幕》

 

「……」

 

 来賓挨拶の欄に自分の名前があった。

 ニムラが近くの職員を呼ぶ。

 

「すみません。俺、挨拶あるんですか?」

「ありますよ」

「何を言えばいいんでしょうか」

「お祝いの言葉などを」

「など」

 

 開始を知らせる音が鳴った。

 職員が離れていく。

 

「……など」

 

 式典が始まった。

 地域の歴史が紹介され、子供たちの演奏があり、何人かの来賓が壇上へ上がった。

 やがて司会が次の名前を読み上げる。

 

『続きまして、勇者ニムラさんより一言いただきます』

 

 拍手が起きた。

 ニムラは周りを見てから壇上へ上がった。

 

「えー……百周年、本当におめでたいと思います」

 

 また拍手が起きた。

 

「百十一年を目指して頑張って行けたらいいなと思います」

 

 少し静かになった。

 

「……一が三つ並ぶととてもおめでたいので」

 

 少し間があって、もう一度拍手が起きた。

 席へ戻ると、隣の来賓が小声で言った。

 

「勇者らしいですね」

「無理ですよ、俺には」

「良かったと思いますよ」

 

 よく分からなかった。

 

 最後の記念碑除幕では、行政代表と子供、それからニムラが前へ呼ばれた。

 

「俺もですか?」

「お願いします」

 

 三人で紐を持つ。

 司会の合図で引くと、布が落ちた。

 周囲から拍手が上がる。

 そのまま何枚か写真を撮られた。

 終わって帰ろうとすると、今度は子供が寄ってきた。

 

「勇者!」

「はい」

「ほんもの?」

 

 ニムラは少し考えた。

 

「本物だよ」

「かっけえ」

「ありがとう」

 

 子供と一枚撮る。

 その後ろにも人が並んでいた。

 

「次、お願いします!」

 

 ニムラはもう一度、呼ばれた方へ向かった。

 

     ◇

 

 本部の一室で、マイタニが端末を見ていた。

 カテキとサカキも同じ机についている。

 

《勇者ニムラ、西地区百周年を祝う》

 

 記事には、記念碑の前で子供と並んでいるニムラの写真が載っていた。

 

「百十一年ですか」

 

 カテキが言った。

 

「一が三つ並ぶとおめでたいそうです」

「そりゃおめでたいでしょう」

 

 マイタニが画面を送る。サカキがちらりと見る。マイタニは真面目な顔だった。

 カテキがサカキに言う。

 

「これはマイタニさんの冗談です」

「あ、なるほど」

 

 サカキが写真を見る。ニムラが端のほうで笑っていた。

 

「これ何しに行ったんですか?」

「式典です」

「それは分かりますけど」

「勇者がいると皆喜ぶから、とのことです」

 

 マイタニは少し考えてから、サカキを見る。

 

「勇者隊、悪くないと思うんですよね」

「まあ、ニムラも一人でやるよりは楽になるとは思いますけど」

 

 カテキが端末を操作した。

 

「ニムラ本人はどうでしょう? 嫌がってるならやめたほうがいい」

「まあ、嫌っていうより、戸惑いの方がでかいと思います」

 

 マイタニは別の資料を開いた。

 

「なら、そのまま進めたほうがニムラくんも楽ですかね」

「ニムラが隊長ですか?」

「勇者ですから」

「本人にはまだ言ってないんですよね」

「まだです」

「じゃあ黙っときます」

「お願いします」

 

 カテキが資料を送った。

 

「そうなると、第三班ですが」

「ああ」

 

 サカキが椅子にもたれた。

 

「……解体になりますか?」

「君も最近はこちらにいることが多いですし」

「まあ、そうですね」

 

 サカキは少し考えた。

 

「イチノセは?」

「第一か、第二班に行くことになるでしょうか」

「ですよね」

 

 マイタニがサカキを見る。

 

「解体は嫌ですか?」

「いえ、まあ突然だなとは思いますが」

「君が良ければこのまま本部に来て欲しい」

 

 サカキは机の上の資料を見る。

 

「少し、考えさせてください」

「わかりました」

「ニムラにはいつ言うんですか」

「そうですね。もう少し勇者隊の形式を決めてからですかね」

「言うときは教えてください。ニムラとも相談したいので」

 

 マイタニは頷いて、ニムラの記事を開く。

 写真の中で、ニムラは子供の横に立っていた。

 

「では、次の議題」

 

 カテキが資料を閉じた。

 

     ◇

 

 第三班の部屋には誰もいなかった。

 ニムラの席も、サカキの席も空いている。

 

「二人とも最近忙しいな」

 

 イチノセは端末に、ノアから聞いた術式を開いた。

 登録はまだしていない。

 

「まずは転移だけで練習だったよな」

 

 椅子を少し後ろへ下げて立ち上がる。

 術式を組んだ。

 

「……よし」

 

 起動する。

 何も起きない。

 

「ん?」

 

 と思ったところで、身体が少し浮いた。

 すぐに落ちる。

 

「……おお」

 

 もう一度。

 今度は少しだけ横へずれた。

 着地する。

 

「なんだこれ」

 

 もう一回。

 浮く。

 落ちる。

 

「……ちょっと楽しいな。浮遊も入ってるのか」

 

 もう一度。

 今度は何も起きなかった。

 

「ああ、失敗」

 

 もう一回。

 少し浮いた。

 

「お」

 

 着地する前に、もう一度術式を組む。

 不発。

 

「あーだめだ」

 

 もう一度。

 何も起きない。

 さらにもう一度。

 

「……あれ?」

 

 さっき不発になった術式が、まだ少し残っていた。

 新しく組んだ術式が重なる。

 一瞬、術式そのものが横へずれた。

 棚が横へずれて見える。

 イチノセは動きを止めた。

 机の端が、少し横に重なって見える。

 

「え」

 

 音が遠くなった。

 この感覚には覚えがある。

 

「待っ――」

 

 景色が横へずれた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。