暫定解   作:sososo

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ぐでーん!

 

 勇者隊ができてから、しばらく経った。

 ミナミが現場へ着くと、入口にいた職員がすぐに頭を下げた。

 

「勇者隊の方ですね。お願いします」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 壁には勇者隊のポスターが貼られていた。

 ニムラの隣にキタとミナミとヒガシも写っている。

 その前を通り過ぎた。

 

     ◇

 

「じゃ、終わりな」

 

 キタが端末へ処理完了を入力する。

 

「ありがとうございました」

 

 現場の職員が頭を下げた。

 

「次から同じことあったら、先にそこ閉めとけ」

「はい」

 

 キタは一人で現場を出た。

 入口の横にある画面では、勇者隊の広報映像が流れていた。

 少し見て、鼻を鳴らす。

 

「俺こんな顔してねえだろ」

 

     ◇

 

 ヒガシが小さな機械を机に並べていた。

 

「これ、使えるよ」

 

 ミナミが覗き込む。

 

「何これ?」

「映像共有するやつ。現場で見てるもの、そのまま送れる」

「作ったの?」

「毎回説明するの面倒だからね。試しに使ってたけど、結構便利だよ」

 

 ヒガシは一つを目元につけた。

 

「いいでしょ。ミナミちゃんもいる?」

「えーモノクルかあ」

「いやなの?」

「眼鏡がいい」

「いいよー、作っとく」

 

 キタが残った一つを見る。

 

「俺そんなの付けたくねえよ」

「でも便利だよ」

「……肩に取り付けられるか?」

「はっはっはっ、便利さに負けたのう。キタよ」

 

 ヒガシがキタの肩へ取り付ける。

 ニムラの端末に映像が出た。

 キタの横顔が大きく映っている。

 

「これで現場の説明しなくて済むね」

 

 ヒガシが満足そうに椅子へ座った。

 

 ニムラは上がってきた報告書を順番に確認していた。

 一つを開く。

 未登録人物、複数名。

 居住していた場所から退去。

 確認施設へ移送。

 担当者にはヒガシの名前。

 

「ヒガシ、確認施設側からは連絡はあったか」

「いんや、ないですねえ」

 

 ニムラは端末を操作する。

 

『はい、確認施設です』

「勇者隊のニムラです」

『え、勇者本人ですか!』

「……はい。今日そっちに送った人たちのことで聞きたいんですが」

『はいはい、何でも聞いてください!』

 

「確認後は本人の希望などは聞いてないんでしょうか」

『本人の希望ですか?』

「はい」

『いやー、聞いてないですねえ。そもそも、そういうのじゃあないんで』

「なるほど」

『ちなみに、勇者さんは聞いたほうがいいと思うってことですか?』

 

 少し間があった。

 

「そうですね、聞いたほうがいいと思います」

『わっかりました! 言っておきます!』

「……確認施設から出たあとの人たちも、もう一度、聞けるなら」

『了解しました、なにか決まりましたら連絡いたしますね!』

「よろしくお願いします」

『いえいえ、いつでもご連絡ください!』

 

 通信を切る。

 ニムラはその報告書を閉じ、次を開いた。

 端末が鳴る。

 

《勇者隊 新規依頼》

 

 さらにもう一件。

 その下にも、処理中の案件が並んでいる。

 

「ミナミ」

「はいはい」

「これいけるか」

「え、今日3件目ですよ!?」

 

 ヒガシが笑う。

 

「モノクルつけてみてよ」

「ヒガシはこっちだ」

 

 ニムラが端末を送る。

 

「私も!?」

「キタ」

「ニムラが行けばいいじゃん、一番喜ばれるんだし……」

「ああ、もちろん俺にもある」

「ぐでーん!」

 

 ヒガシがソファに飛び込んだ。

 また端末が鳴る。

 

「祭りか……」

 

 ニムラが内容を見る。

 ミナミが言った。

 

「お祭りですか!」

「ああ、だが」

「行きたい行きたい!」

「……いや、来月となると」

 

 キタが言った。

 

「今の感じだったらもっと仕事増えそうだな」

「ああ、警備とは書いてるがメインは勇者隊の客寄せだ」

 

 ニムラは予定を確認し、そのまま依頼元へ連絡した。

 

『やっぱり難しいですか』

「すみません」

『そうですかあ……勇者隊に来てもらえたら皆喜ぶと思ったんですけど』

「警備は勇者隊抜きでも足りてるんですよね」

『はい。その辺は予定通りです』

 

「……でしたら、これからは来賓とお書きください」

『はい、すみません。……ちなみに、勇者さん的には、こういう祭りってどうです?』

「どういう意味でしょうか」

『いや、開催すること自体はどう思うのかなと』

「まあ、いいんじゃないでしょうか」

『おお、良かった。じゃあ安心して開催できます!』

 

「……まあ、何かあったらその時に判断してください。俺が決めることじゃないので」

『分かりました。ありがとうございます!』

 

 通信が切れた。

 

「仕事で入らなかったら、個人で行こっと」

 

 ミナミが言うと、ヒガシが答えた。

 

「一緒に行こー」

 

 キタが言った。

 

「多分無理だろ」

 

     ◇

 

 メイが言った。

 

「ねえ、狭くない?」

 

 ストが自分の荷物を開けながら答える。

 

「うん、元々二人用の部屋らしいから」

 

 ライが床に傷をつけようとして言う。

 

「こっからここまで私の陣地ね!」

 

 ジュンが叫んだ。

 

「あああああああ! 新居! だめ!」

 

 メイが天井を見ながら答える。

 

「そうだよ、また雨漏りしちゃったら大変」

「そういう意味じゃないよ!」

「ね、久々だし肉にする!?」

 

 ストが笑った。

 

「節約したいからやめとこ」

 

     ◇

 

 確認施設から経過報告が届いた。

 ニムラは他の報告書と一緒に順番に開いていく。

 希望確認を行った対象者と、その後の対応が並んでいた。

 何枚か送ったところで、手が止まる。

 見覚えのある四人の名前があった。

 続きを見る。

 

《本人希望》

《四名での共同生活を希望》

《承認》

 

 ニムラはしばらく画面を見た。

 

「勇者効果か」

 

 小さく言って、次の報告書を開いた。

 

《祭事広報における勇者名義の使用について》

 

 先日依頼のあった祭りが、広報に《勇者ニムラも開催に同意》という文言を使用していた。

 管理局からすでに修正を求め、現在は削除されている。

 

「開催に同意……」

『あ、見ました? 祭りのやつ』

 

 ヒガシの声が入る。

 

「今見た」

『どうしたの?』

 

 別の通信からミナミが聞く。

 

『いや、なんかね。前の祭りのやつ、勝手にニムラさんの名前使ってたらしいよ』

『ありゃ。まあ、広められるのはいいんだけどね』

『勇者税みたいなもんかな』

『なによそれ』

「勝手に使われるのは駄目だろ」

『酷いよねえ』

 

     ◇

 

 イチノセは端末に保存した案内図を見ていた。

 何度か拡大する。

 

「……やっぱり遠いな」

 

 人間の生活圏までは、かなり距離がある。

 けれど、道は途中で途切れていなかった。

 しばらく画面を眺めてから、端末を伏せる。

 

「いや、でも帰れるな」

 

     ◇

 

 イチノセは荷物をまとめて外へ出ると、マエとチユがいた。

 

「じゃね」

 

 そのまま歩き出す。

 二体もついてきた。

 イチノセが止まる。

 マエとチユも止まった。

 もう一度歩き出す。

 二体もまた動き出す。

 

「来んの?」

 

 ここから先は遠い。

 イチノセは少し考えてから、二体の前にしゃがんだ。

 

「マエ、チユ」

 

 二体が寄ってくる。

 

「転移、おぼえられる?」

 

     ◇

 

 イチノセは自分を指した。

 それから、ケッカイのいる方を指す。

 

「ケッカイの方行ってみて」

 

 マエはしばらく動かなかった。

 次の瞬間、姿が消えた。

 チユだけがその場に残る。

 少しして、マエが戻ってきた。

 

「お、できた」

 

 マエがチユの周りを一周する。

 チユは近づいてくると、そのままマエの背中へ乗った。

 マエの脚が少し沈む。

 

「チユは結局できなかったか」

 

 イチノセは立ち上がった。

 チユはマエの背中に収まっている。

 

「ま、いっつもマエと一緒にいるし大丈夫か」

 

 荷物を持ち直す。

 

「じゃ、行くぞ」

 

 イチノセが歩き出した。

 マエが前へ出る。

 その背中にはチユが乗ったままだった。

 イチノセと二体は古い建物の間を抜け、人間のいる方へ歩いていった。

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