エピローグ
ストが机に向かってペンを走らせていた。机の上には、発売されたばかりの参考書があった。
《魔物倫理(暫定) 著者:ノア》
「ねえ、パン切り器使ってよ」
メイが言った。
ライは包丁を動かしたまま答える。
「あれ使いづらいんだもん」
「せっかく作ったのに!」
ストがペンを動かしながら言った。
「肉切り器ならライも使ってくれるよ、きっと」
「スト、あんた料理舐めないでよね」
ジュンが顔を上げた。
「あ、俺シチュー食べたい」
「シチュー切り器か……」
メイが顎に手を当てて考え出すと、ストも顎に手を当てた。
「うーん、それは難しいんじゃないかなあ」
「何言ってんのよ」
ライは少し考えてから、鍋の方を見る。
「ま、今日はシチューにしちゃおうか」
「ラッキー! 肉は!?」
「もうない」
ジュンがしょんぼりした。
「丸いのもう一回来ないかなあ」
「やめてよ、もう離れたくないよ」
メイがジュンに答える。
ストが笑った。
「今度来てくれたらしっかり管理番号取りに行こ」
「だね」
◇
「マイタニさーん、これお願いしますー!」
マミヤが資料を机へ置いた。
「また勇者隊案件ですか……」
「二代目勇者のキタくんは働き者だからねえ。ニムラくんとは大違い」
「ニムラさんの時は楽だったんですが……」
◇
「ニシ! 報告書は!? 逃げんな!」
「だってこんなややこしい報告書初めてですもん……」
ニシは端末を抱えたまま後ずさった。
「こら、キタくん。ニシくんいじめちゃだめ」
ミナミが止める。
「ニムラさんみたいに辞めちゃうでしょ!」
「早くニムラさんの代わりになるのじゃ、ニシよ。励め……」
ソファに沈んだヒガシが言った。
「ヒガシさんまで! 勇者隊、応募するんじゃなかったな……」
「新入りなんだから学べ、ちゃんと!」
◇
「あの野郎! また却下しやがった!」
ノアが端末を机へ置いた。
「まあ、サカキなら却下するでしょうね」
カテキは特に気にした様子もなく答える。
「問題なんてないんだよ!? 金かかるからって!」
「金も大事ですよ」
「あー! 練り直し!」
◇
イチノセは横になって寝ていた。
腹の上をチユが走った。
「ぐふっ」
身体を起こした直後、今度はマエがその上を駆け抜けていく。
「痛いな、もう!」
顔を上げる。
目の前に、白い霧でできたイチノセが笑っていた。
「なに笑ってんだよ」
◇
「サカキさん」
管理局本部で、ニムラがサカキを見つけた。
「あれ? 元勇者のくせに管理局になんできてんのよ」
「別に、魔物が暴れてたので、報告しに来ただけですよ」
「え、暴れる系かあ。なら認知三には進んでんのかなあ。面倒だなあ」
「サカキさんも辞めたらいいじゃないですか。今、副局長でしたっけ。気楽ですよ」
「馬鹿野郎」
ニムラが少し笑った。
「ああ、そうだ」
端末を取り出し、操作する。
『なんですか? ニムラさん』
「あん? イチノセ?」
『え、サカキさん!?』
「イチノセ! お前、魔物なんとかしろよ!!!」
『ちょっとニムラさん、なんでサカキさんと繋げてるんですか!』
「すまん、久々に会ったからな」
「イチノセ、お前、魔物に暴れさせるのもうやめろ! 早く捕まれ!!」
『僕ももう知らないところで暴れてるんですから、わかんないですよ!』
「代表じゃねえのかよ!!」
ニムラが横から言う。
「まあ、イチノセの派閥以外でも、もう認知段階五以上は確認されてますからね」
『そうです! 切っていいですか?』
「では、帰ります」
ニムラは端末を持ったまま立ち上がった。
「また焼肉行きましょ」
「休み取れたらなあ」
『いや行かないですよ』
暫定解 完