メイ・ジュン・ライ・スト
金属板を持ち上げると、その下から細い管が三本転がり出た。
「あ、これいい」
メイがしゃがみ込み、管を拾う。
離れたところに、四輪の台車が置いてある。
その横にいたジュンが、メイの手元を見た。
「メイ、それ売れないよー」
「違うよ、良い管なんだよ」
「ああ、家で使うのね」
メイは管を持ったまま、何か考えるように眺めている。
ライが両手に抱えていた部品を、そのまま台車へ落とす。
「がっしゃーん」
ジュンが台車を覗き込む。
「おお、沢山持ってきた」
「ジュン。使えないのだらけなのに褒めると、私は調子に乗るよ」
「そうだね、こら!」
「ひい、逃げろ~」
「ほんとにつかえないの多いな……」
ライは笑いながら廃材の間へ逃げ込む。
先でしゃがんでいたストが顔を上げた。
「お、ライ良いところに。手伝って」
「えー」
ストが足元の部品を指す。
ライは片側を持ち上げた。
「なにこれ、おも!」
「多分ね、術式入ってる」
「そっか。じゃ、持ってかないとね」
ライが軽くしようと魔法をかけた時、何かが二人の横を通った。
「ん?」
膝より低いくらいの高さで、丸いものが地面すれすれを滑るように進んでいる。
下から伸びた四本の短い脚が、時々地面へ触れていた。
二人の前を、そのまま通り過ぎる。
「……ねえスト、あれ魔物?」
「ぽいね」
魔物の脚が伸び、脚先が地面へ張りつくように広がる。
丸い身体が板材の上へ滑るように寄った。
柔らかい表面が沈み、板材の端が、その中へゆっくり埋まっていった。
「入ってった」
板材がすっかり見えなくなると、魔物の身体は少し膨らんでいた。
魔物は脚を縮めると、そのまま台車の方へ滑っていった。
台車のそばでは、ジュンが集めた部品を分けていた。
近づいてくる気配に顔を上げる。
「あ、持ってき――」
「わあ!」
ジュンは尻もちをついた。
魔物はそのまま台車へ寄っていく。
部品を抱えたメイも戻ってきた。
「なにそいつ」
ジュンは何度も首を振った。
魔物が脚を伸ばし、身体を固定する。
その下から、さっき飲み込んだ板材がゆっくり押し出されてきた。
板材はそのまま台車の上へ載せられる。
メイが魔物を覗き込む。
「……えっと、ありがとうございます」
魔物は何も返さない。
ジュンが台車の板材を見た。
「あ、手伝ってくれたってこと?」
「わかんない。魔物?」
魔物はまた廃材の方へ向かっていった。
ストがライと一緒に追いついてくる。
「なんか魔物いなかった?」
「うん。手伝ってくれた」
ジュンはそう答えながら、メイの方を見た。
メイは少し離れた廃材の陰から、魔物の動きを追っていた。
ストが声をかける。
「あんまり近づくと危ないかもー」
メイは答えず、そのまま魔物を目で追っていた。
「なんか吸い込んだー」
魔物が廃材の間から戻ってきた。
三人が離れて見ていると、魔物は台車のそばで脚を伸ばし身体を固定する。
下から小さな金属片が押し出され、台車の横へ置かれた。
魔物はまた廃材の方へ向かっていった。
ジュンが魔物を指す。
「ほら、手伝ってくれてる」
「へー、ありがたいね」
ライが金属片を手に取った。
ストは台車の中へ目を移す。
「作業員さんのとこのかな」
ジュンはまだ、魔物を見ていた。
「かな」
「まあ、今度聞いてみよっか」
「そろそろ帰るよー」
「あ、待って。これだけ」
メイが最後の部品を拾い、台車へ載せる。
四人が台車を押して歩き出す。
ストが後ろを見た。
「来てる」
さっきの魔物が、少し後ろをついてきていた。
メイは魔物の方を見ず、積んだ部品を見ながら言った。
「ご主人様じゃないよー」
坂道に差しかかる。
ライが台車の前へ回り、取っ手を掴んだ。後ろからジュン、メイ、ストが押す。
「よいしょー」
台車がゆっくり坂を上っていく。
後ろから、魔物が近づいてきた。
「え、なに?」
ジュンが押しながら横を見る。
魔物は台車の横へ並ぶと、脚を地面へ固定した。
柔らかい身体が荷台へ寄り、大きな部品がその中へ沈んで消えた。
急に台車が軽くなる。
「うわっ」
前を引いていたライがつんのめり、地面に顔をぶつける。
「いててて、なーにー? もう」
体勢を戻しながら、後ろを振り返る。
魔物は脚を縮め、台車の横を滑るように進み始めた。
ジュンがライに言う。
「なんか持ってくれた」
「あらあら、やっさしい!」
メイは魔物を観察している。
「持っていくなってわけじゃないのかな」
「わかんないよ。そのまま取られるのかも」
ストの言葉にメイが顔をしかめる。
「え、最悪」
ストは笑った。
ライが取っ手を握ろうとしてやめた。
「なんか三人で押せそうだね」
ライはそのまま先へ歩いていく。
ジュンの声が後ろから飛ぶ。
「まだ重い!」
「その子にもっと持ってもらいな!」
魔物は台車の横に並んだまま進んでいた。
魔物も家までついてきた。
四人が荷物を下ろし始めると、魔物も台車のそばへ寄ってきた。
部品を一つ身体の中へ入れる。
「あ、それこっち」
ジュンが何となく指を差す。
魔物は進み、指された場所とは違うところへ部品を置いた。
「わかんないか」
「馬鹿だ」
メイが言った。
ライが持っていた荷物を置き、家の中へ入っていく。
「じゃ、ご飯作ってくるねー」
「あ、逃げた」
ストが魔物の置いた部品を持ち上げ、別の場所へ置き直す。
魔物はその場で止まっていた。
身体の中から別の部品が押し出される。
今度は細長い部品だった。さっきのものとは形も材質も違う。
魔物はそれを、ストがさっき部品を置き直した場所へ運んだ。
「あ、そこじゃない」
ジュンが部品を置き直した。
「やっぱり馬鹿だね」
ストがメイに金属片を渡す。
「賢いほうじゃない? 一回見ただけで覚えたんでしょ」
「場所だけだよ」
最後の部品を下ろし終える。
魔物はまだ台車の横にいた。
ジュンが魔物へ手を伸ばす。
「今日は助かった」
「駄目。報酬とか要求されちゃう」
メイが遮った。
ストも続ける。
「そうそう。こいつが勝手に手伝ったんだから」
「ストまで何言ってんの」
ジュンが二人を見る。
ストは笑って、家の方へ向かった。
「じゃあね」
メイもその後についていく。
ジュンは一度魔物を見てから、家へ入った。
中からライの声がした。
「終わったー?」
「終わったよー」
料理をしながら、ライが入口の方を見る。
外には、丸い魔物がいた。
「あら、まだいる」
魔物はしばらく、その場にいた。
◇
翌朝。
ジュンが扉を開けた。
「……ん?」
閉める。
もう一度開ける。
丸い魔物が、昨日とほとんど同じ場所にいた。
隣から覗いたメイが、首を傾げる。
「暇なのかな?」