雨が朝から降り続いていた。
家の中では、ジュンとライが床いっぱいに部品を広げていた。
外された留め具。短く切られた配線。歯の欠けた歯車。泥のついた金属片。
ライが一つを持ち上げる。
「これ鉄?」
「たぶん。そこ」
ジュンが顎で箱を示した。
がらん、とライが放り込む。
ぽつん。
鍋の中へ水滴が落ちた。
メイが手を止め、天井を見る。
ライが言った。
「雨の日は休みだったのに」
ジュンは部品を分け続ける。
「でも楽になったでしょ」
「仕事してるじゃん」
「取りに行かなくてもよくなったからね」
「仕事してるじゃん」
「偉いじゃん」
「そうじゃなくって」
ぽつん。
メイがまた天井を見た。
「増えてる気がする」
ジュンがそちらを見る。
「そんな気になる?」
「前はもっと少なかったと思うけど」
メイはまた手元へ視線を戻す。
ぽつん。
もう一度、天井を見る。
「ほら」
ライが部品を箱へ放り込む。
「じゃあ屋根が悪いんじゃなーい」
「もっと真剣に考えて」
ジュンが鍋を見る。
「お鍋でっかいの買う?」
「ちょっと違う」
「ストに言っとこ」
「うーん、言うけどさ」
メイは仕分けの山から離れ、鍋のそばにしゃがみ込んだ。
天井と床を交互に見る。
「こう、水をさ、外に出せないかな」
指で鍋の縁をなぞる。
「長いの置いて……ここから外まで」
ジュンが手を止めた。
「それできるの?」
「たぶん」
「じゃあ、いいじゃん」
「でしょ! 作る!」
ライは仕分けを続けたまま言った。
「鍋もでっかくしたら、万全だね」
ジュンがライを見ると、ライは笑っていた。
メイは床に広がった部品を探り出した。
「それはちょっと違う」
その時、家の外で小さな音がした。
ジュンが顔を上げる。
入口の向こうから、丸い魔物が滑るように近づいてきた。
「あ、帰ってきた」
軒下まで来ると四本の脚を伸ばし、その場へ身体を固定する。
いつもより膨らんでいた。
「でかいね」
ライが言った。
身体の下から、金属板がゆっくり押し出される。
続いて短い管。留め具。割れた箱の一部。細長い棒。
「おお」
ジュンが魔物を見る。
まだ出る。
一つ、二つと床へ並んでいく。
ライが増えていく山を見た。
「そんなに持ってこなくてもいいのに……」
「いい子だ」
ジュンは廃材を吐き出し続ける魔物を見ながら言った。
その横で、メイは並んだ部品の中を探っている。
「あ、これ」
「いいのあった?」
「うん。これは良いレールになるよ」
メイが細長い棒を持ち上げる。
「後でやってよ」
「でもさ、後だと雨止んじゃう」
ライは床に増えた廃材を見回した。
「今日中に終わんないって、こんなの」
◇
雨の中を、ストは走っていた。
頭には濡れた袋をかぶっている。
家の脇まで来たところで、足を止めた。
「何してんの?」
魔物が一体、壁際で脚を伸ばしている。
袋の端から覗いても、脚の先が何に触れているのかまではよく見えない。
「入口あっちだよ」
魔物が止まった。
少しして、伸ばしていた脚を引っ込める。
雨に濡れた外板が、わずかに揺れている。
「……?」
魔物はもう別の方向へ滑っていく。
ストはしばらくそれを見てから、扉を開けた。
「最悪だ」
ストが袋を頭にかぶって立っていた。
服の肩から水が滴っている。
ライが振り返る。
「スト、変な格好だね」
「傘が壊れた」
「あら、可哀想に」
メイが棒を持って立ち上がった。
「スト! レール良くない!?」
「またなんか作んの?」
「水を外にね――」
ライは近くの布を取ると、魔法で少し温めてストへ投げた。
「先に服脱ぎな、風邪引いちゃうよ」
「あ、そうだメイ」
ストが傘をメイに手渡す。骨が一本、変な方向へ曲がっている。
「お、見せて」
ジュンが床の部品を一つ手に取った。
「スト、これってさ」
「ん?」
「術式入ってる?」
「多分」
「お、当たり」
ストは濡れた袋を頭から外した。
「そうだ。作業員さんに会ったから聞いてきた」
「魔物?」
ジュンがすぐ顔を上げる。
「うん。作業員さんのじゃないんだって」
「じゃあ誰の?」
「倒産したところのじゃないかって」
ライも手を止めた。
「今は誰のなの?」
「分かんない。作業員さんも詳しくは知らないみたい」
メイは魔物の出した物を仕分けている。
「じゃあ貰っちゃお」
「いいのかな」
ジュンが言った。
ストもそちらを見る。
「まあ、勝手に来るならいいんじゃない?」
魔物はもう、雨の中へ戻っていくところだった。
「会社なくなったんだってー!」
メイがその背中へ声をかける。
「分かんないでしょ」
「一応ね」
ストが脱いだ上着のそばに、小さな包みを置く。
「おやあ?」
ライが素早く拾う。
「肉だー!」
「え!」
ジュンが振り返った。
メイも仕分けを放り出して寄ってくる。
「何よー! 早く言いなよー!」
「サプライズがお上手!」
ジュンが包みを見る。
「え、いくらしたの? 大丈夫?」
「安かったから」
「安いことはないでしょ」
「うん、食べたかったから」
ライが口元だけで笑った。
「……作ってくる!」
肉を抱えて奥へ消える。
ジュンがストに聞く。
「自分で出したの?」
「うん」
メイは魔物の持ってきたものから、使えそうな棒を探している。
「いいよー、私も出すよー」
「高いよ」
ジュンがストを見る。
「高いんじゃん」
「うん、奮発した」
「……共有してよ」
「するよ」
メイは魔物の持ってきた物を探り、細長い棒を一本引き抜いた。
「あ、これ使えそう!」
「レール?」
「うん」
「先に仕事終わらせようよー」
「雨止んだら意味ないじゃん」
「……たしかに?」
ぽつん。
鍋の中へ水滴が落ちた。
「ほらあ!」
「たしかに」
その時、家の外で何かが鳴った。
丸い魔物が軒下へ滑り込んでくる。
「あ、来た」
「早くない?」とジュンが言った。
すると、奥からライの声がした。
「三体になったからじゃないのー?」
一瞬、静かになる。
「……え?」
ストが入口を見る。
最初の一体の後ろ、雨の中に同じ丸い身体が二ついた。
「三体もいたっけ?」
「いたよー」
「いつから?」
「わかんない、仲間呼んできたんじゃなーい」
三体のうち一体が軒下まで来て、脚を伸ばした。
身体が膨らむ。
その横で、もう一体も脚を固定する。
金属片が一つ、二つと押し出されてきた。
「そりゃ多いわ」
奥から肉の匂いが流れてきて、ライの声がした。
「肉、美味しそうだよ~!」
「匂いきてるよ〜!」
ストが返す。
ジュンは入口に増えていく廃材を見た。
「これ、明日でいいかな」
「いいんじゃない?」
ストは机を片付ける。
奥からライの声が飛んできた。
「出来たよー!」
「はや!」
「私の技術を舐めないでよねえ」
メイが棒を抱えたまま、奥の方へ近づいていく。
「美味しそう」
「それ置いてきな」
ライがメイから料理を守った。
「あ、うん」
「じゃ、食べようか」
四人で食卓についた。
「ねえ、レールどうおもう?」
「後でね」