作業員は、ニムラの端末を覗き込んだ。
「これですか?」
「はい。この型です」
「ああ。たまに見ますよ」
「こちらで管理している個体ですか?」
イチノセが聞いた。
「いや、違いますよ。前にいた業者のじゃないですか」
「今どうなってるかは?」
「そこまでは。うちのじゃないんで」
作業員は考えてから、建物の向こうを指した。
「廃材置いてるところがあるんですよ。ゴミ持ってく時に、たまにそこで見ます」
「どの辺りですか?」
「結構遠いですよ。古い設備が残ってるとこなんで」
「教えてください」
「あ、はい」
ニムラは端末を閉じた。
「ありがとうございます」
「はい」
◇
「ここかあ」
サカキが辺りを見回した。
人の姿はない。
使われなくなった設備の間に、金属板や配管、壊れた部品がまとめて置かれている。
ところどころに新しく捨てられたものも混じっていた。
「結構あるね」
「定期的には使ってるみたいですね」
「でも今日は誰もいない」
ニムラは廃材の山へ目を向けた。
「見て回ろう」
「はい」
「了解」
三人は手分けして廃材の間を進んだ。
サカキは積まれた資材の脇を歩きながら、何度か足元へ目をやった。
道ではないが、そこだけ妙に物が少ない。
細かな金属片が左右へ寄り、草も同じ方向へ寝ている。
近くでニムラが足を止めた。
「見つけた」
積まれた金属板の陰から、丸い身体が滑るように出てくる。
ニムラが端末の資料と見比べた。
「型は一致、回収準備」
ニムラが回収具を取り出す。
「はい」
イチノセは端末を記録モードに変える。
サカキが足元から先を指した。
「ちょっと待って」
「どうした?」
「いや、これ」
イチノセが言った。
「……道ですか?」
ニムラは首を傾げた。
「道っぽいな」
「ぽいよな」
サカキが言った。
その間に、魔物が動いた。
迷う様子もなく、その細い跡へ入っていく。
「あ、やっぱそこ行くんだ」
サカキが笑った。
ニムラは魔物の進む先を確認した。
「追うぞ」
三人は距離を空けて後を追った。
魔物は廃材置き場を抜けていく。
何度か曲がり、古い設備の隙間を通る。
足元には、さっきと同じような跡が続いていた。
「どこ行くんだろ」
サカキが小声で言う。
「回収場所ではなさそうですね」
「だよなあ」
前を行く魔物が曲がった。
三人も続く。
そこでサカキが足を止めた。
「ん?」
その先に、古びた四輪の台車が置かれていた。
荷台には何も載っていなかったが、車輪には新しい泥がついている。
「台車ですかね」
イチノセが近づく。
ニムラはその横の地面を指した。
「靴跡もある」
泥の上に、魔物の通った跡とは別に、人間の靴跡があった。
三人は顔を上げた。
魔物はそのまま先へ進んでいる。
「住んでんのかね」
「少なくとも来てはいるな」
さらに追うと、古い建物が見えてきた。
壁際には工具が置かれ、箱が積まれている。使いかけの紐や何本かの棒、空の容器もあった。
きれいに片づいているわけではない。
使ったものを、使ったところへそのまま置いているような散らかり方だった。
サカキが建物を見る。
「倉庫かな」
靴跡は、建物の入口まで続いていた。
ニムラが周囲へ目を向ける。
台車。
道具。
廃材。
人の足跡。
その時、建物の横から、もう一体の魔物が出てきた。
さらに奥にも一体いる。
さっき追ってきた個体を合わせて、三体。
最初の魔物が建物の前で脚を伸ばした。
身体の下から、金属片がゆっくり押し出される。
別の一体も、その近くへ廃材を運んできた。
サカキは三体を見て、それから建物を見た。
「あー、家みっけ」
三体の魔物が運ぶ廃材を、家の近くで数人が受け取っていた。
「回収できるかなあ」
イチノセは端末を確認する。
「人が住んでいるという話は、なかったと思いますが」
「なかったな」
ニムラは建物と四人を見た。
「とりあえず話を聞こう。イチノセは上に一度確認してくれ」
「はい」
イチノセがその場を離れ、端末を操作する。
ニムラとサカキは建物へ近づいた。
三体のうち一体が、身体の中から細い金属管を押し出している。
それを見ていたジュンが、ニムラたちに気づいた。
「……え」
ニムラが足を止める。
「失礼します」
「え、なんですか」
「管理局です」
近くにいたライも振り返る。
「失礼ですが、この三体の魔物は、管理個体でしょうか」
ニムラの言葉にジュンの顔が固くなった。
「えっと、友達というか……」
「管理個体ではない、と」
「あ、いや」
ライがジュンの横から前へ出た。
「私たちが管理してます」
「管理番号は?」
「え、と……」
ジュンがライの後ろから小声で言った。
「嘘はよくないよ。多分」
「いやでも」
「で、管理番号ってなんなの?」
「わかんない」
「どっか書いてないのかな」
「見とけばよかったね」
ニムラは黙って待った。
サカキはその横から、戸口の中へ目を向けていた。
床には部品や箱が広がっている。
話している間にも、三体は運んできた物を中へ移していた。
一体が金属片を持って、別の山へ向かう。
「あ、それ今日はいいよ」
メイが言った。
魔物が止まった。
少しして、持っていた金属片をその場へ置く。
サカキが目を細める。
「……結構、言うこと聞いてるね」
「みたいだな」
入口には靴があり、道具が積まれている。中には鍋や布、箱も置かれていた。
「……ここは住居として使っているんですか?」
ライが首を傾げた。
「見れば分かるでしょ?」
「管理者か、所有者は」
ジュンが黙った。
「……昔からここにいます」
「そうですか」
そこへイチノセが戻ってくる。
「あの」
「どうだった」
「この一帯に居住者がいるという記録、確認できません」
「なるほど」
ジュンが少しずつ後ろへ下がった。
そのまま中にいるメイとストのところまで戻る。
「まずいまずい。管理局だって」
「え?」
メイがジュンに聞く。
「どうなるの?」
「分かんない」
ストが入口に目を向ける。
「いや、まず何しにきたのか聞こう。確認だけなら」
「確認だけなら大丈夫なの?」
「多分」
「多分なの?」
「とりあえず聞いてみよう」
ストがニムラに聞く。
「あの」
「はい」
「なんか、移動とかしろってことですか?」
ニムラは間を置いた。
「現在、移動を命じる根拠はありません」
「……ない?」
「はい」
「じゃあ、命令とかはないんですよね」
「ええ。しかし――」
「あ、えっと!」
ライが一歩前へ出た。
「失礼します!」
扉が閉まった。
ニムラは目の前の扉を見る。
イチノセも見る。
「閉められましたね……」
「……ああ」
ニムラは少しだけ息を吐いた。
「報告して、確認だ」
サカキが扉を見たまま言った。
「こりゃあ、ちょっと面倒かもなあ」
◇
ジュンが扉を見る。
「え、閉めてよかったの?」
「え、だって帰ってもらうんでしょ?」
ライが言った。
「まあ、移動する根拠はないって言ってたから」
ストは考えながら言った。
メイが窓から外を覗く。
「帰ったっぽい」
「ほんと?」
ライもそちらを見る。
「うん」
ライが胸を撫で下ろした。
「良かった……」
ジュンが振り返る。
「ライ、管理してるってなんで言ったんだよ」
「だって連れていかれそうだったから!」
ストが口を挟む。
「ちょっと考えたほうが良いかもね」
メイがストに聞く。
「ねえ、管理番号って何?」
「……わかんない」
三体の魔物は、まだ部屋の中にいた。
一体が床の金属片を持ち上げる。
「あ、今日はもう行かなくていいよ」
ライが言った。
魔物が止まる。
「うん。ここにいな」
メイも続けた。
三体はしばらくその場にいた。
外へ向かうものはいなかった。
◇
イチノセは端末を机の上へ置いた。
「ありました」
イチノセが表示を送った。
ニムラは内容を追う。
「管理者がいなくても、自己調整自体は止まらないのか」
「そうみたいですね」
「認識対象の拡大ねえ」
サカキも横から表示を覗く。
「まあ、今どうなってるかは現物見るしかない」
「登録数は書かれてませんね」
「照合してくれ」
「わかりました」
ニムラは端末を閉じた。
「出たよー」
扉が開いて、マミヤが入ってきた。
「四人の方ですか?」
サカキが聞いた。
「うん。まだ全部じゃないけど」
マミヤは空いている席へ座った。
「あの場所、住居登録はやっぱりない」
「やはりそうですか」
「うん。今後どうするかはもうちょっと確認いるけど、三体はその場で回収しちゃって」
「そのつもりです」
「四人の方は……確認施設に回せばまとめて確認できるかな」
マミヤが端末を確認しながら言った。
「そのまま戻せるとは限んないけど、住居登録もないし、魔物の方もどうなってるか分かんないしね」
「いえ。四人には今回は確認と警告を」
「おっと」
マミヤはニムラに目を向ける。
「なんで?」
「三体を回収すれば、現時点で四名を現地から動かす理由はありませんので」
「ま、そうか。じゃあ任せる」
「はい」
サカキが椅子の背にもたれた。
「四人は事情確認ってこと?」
「ああ」
ニムラは机の上の表示を閉じた。
「三体を回収する。四人には、こちらで確認中だと伝える」
「了解」
「はい」