三人が再び家の前まで来た。
三体の魔物は、家の脇に集まっている。
ジュンが緊張した顔で立っていた。その後ろに、ライ、メイ、ストもいる。
ニムラが四人へ声をかける。
「先日お話しした件ですが、この三体の回収に来ました」
「……はい」
ジュンが答えた。
前のように、すぐ扉を閉めようとはしない。
ライが口を開いた。
「あの」
「はい」
「その前に、ちょっと聞いてもいいですか」
「どうぞ」
ライは三体を見た。
「私たちが管理するっていうのは、できないんですか?」
ニムラはすぐには答えない。
メイがサカキを見る。
「この子たち、言ったら止まるし。前覗いてたでしょ」
「まあね」
「だったら、使役個体として登録するとか」
ジュンが続ける。
「管理番号とか、そういうのちゃんと取って。俺たちが管理するっていうのは」
サカキが三体へ目をやった。
三体は今のところ動いていない。
ニムラは一度、四人を見た。
「言いづらいのですが、その前に、皆さんについて本人確認等を進める必要があります」
ジュンが眉を寄せた。
「俺たち?」
「はい。現在、この場所を住居として使用している記録も確認できていません」
「でも、俺ずっと住んでるよ」
「そのことも含めて確認中です」
ストが聞いた。
「じゃあ、確認が終わるまでは無理だってことですか?」
「それだけではありません。この場所についても、今後――」
がり、と音がした。
ニムラが言葉を止める。
ライが振り返った。
「……ん?」
三体のうち一体が、家の壁際にいた。
四本の脚が伸び、地面と壁へ張りつくように固定されている。
「何してるの?」
丸い身体の下から、細い器具が伸びた。
壁の外板を留めていた金具へ差し込まれる。
かち、と音がした。
一つ。
もう一つ。
留め具が外れていく。
「え」
ジュンが近づく。
「ちょっと待って、それ――」
外板の端が、わずかに浮いた。
別の一体がその横へ来る。
伸ばした脚で板を支えた。
「え、何してんの!?」
外板がゆっくり壁から離れていく。
最初の一体は次の留め具へ器具を伸ばした。
二体目は外れかけた板を支える。
三体目は、置かれていた部品を動かして場所を空けていた。
いつもと同じだった。
外す。受け取る。分ける。
「待って待って!」
ライが声を上げた。
「それは駄目!」
魔物の動きが止まった。
壁から半分離れた板も、そのまま動かない。
ライが胸を押さえる。
「……止まった」
ストはニムラ、サカキ、イチノセを順番に見て、顔をしかめた。
ライは壁際まで行き、浮いた板を押さえた。
「何してんの、もう……!」
「家、売るつもりだったのかな」
メイが外された留め具を拾って、魔物に言う。
「駄目でしょ!」
「遅いよもう!」
「止まったじゃん」
「そうだけど!」
「あ」
ジュンが三体を見る。
それから、ニムラたちに向き直った。
「ほら、止まった!」
「そう!」
ライがすぐに続けた。
「ちゃんと言うこと聞くんです。今だって止まったでしょ?」
ストは何も言わなかった。
ニムラが言った。
「……この三体は回収します」
「なんで!」
ジュンがすぐに声を上げた。
ライも続ける。
「今、止まったでしょ」
「言うこと聞いてるじゃん」
メイが言った。
「待って」
ストが口を挟んだ。
「無理だよ」
ジュンが振り返る。
「え、なんでストまで」
「もう無理だよ」
ストは壁を見る。
半分浮いた外板。
外された留め具。
その前で止まっている三体。
「家までやったところ、見られたんだよ」
「え、え、でも」
ライが言葉に詰まる。
ジュンが割って入った。
「でも、止まったじゃん!」
「分かってるよ」
「だったらいいじゃん!」
「良くはないでしょ」
ジュンが黙った。
「しょうがないよ。大丈夫、元の生活に戻るだけ」
「いや、そんな……」
「また、自分たちで取りに行こうよ。前みたいに」
三人が黙った。
「……ごめん」
ストがニムラに向き直った。
「ご迷惑をおかけしました。その、住居の登録の方法だけ、教えてもらえたら」
「いえ、四人にも退避してもらいます」
「……は?」
ストがニムラを見る。
「どういう意味ですか」
「確認施設へ移ってもらいます。ここへ戻れるとは、現時点では約束できません」
「それで、俺達はどうなるんですか」
「確認後に決まります」
「……四人、一緒ですか?」
「それも、現状ではお答えできません」
「何、それ」
ストはジュン、ライ、メイを見た。
言葉は出なかった。
ライが周りを見る。
「えっと、何? どういうこと?」
「別々になるってこと?」
ジュンが聞いた。
メイが眉を寄せた。
「やだよそんなの。何いってんの、この人」
ライが聞いた。
「え、この子達が危険って話じゃないの?」
ジュンも続ける。
「そうだよ、魔物は渡すって言ってんじゃん」
ニムラは四人を見た。
「行方不明個体は、三体ではありません。八体です。残りの五体の所在は、まだ確認できていません」
「……? 知らねえよ」
ジュンが言った。
「八体いたから何なんだよ。なんで俺らが出ていくことになるんだよ」
「家壊される前に止めたらいいんでしょ」
メイが言う。
ライがニムラを見る。
「ねえ、どういうこと?」
「問題は、家だけではありません」
「……何が?」
ジュンが聞いた。
「この個体群は、人間も作業対象に入れます」
「……え?」
ジュンがニムラを見る。
メイは三体を見た。
少しだけ後ろへ下がる。
ストが一歩前に出た。
「あの、どうにかなりませんか」
メイが三体を見たまま言う。
「ねえ、もう行こうよ」
「え、いや」
ジュンがメイを振り返る。
ストはニムラを見たままだった。
「ずっとここで暮らしてきたんです」
「怖いよ、私」
メイが言った。
ライの声が重なった。
「待ってよ」
「あ、そうだ俺達も手伝います」
ストはニムラから目を離さない。
ジュンがメイへ言い返す。
「いや、出たあとどうなんの」
「でも行くしかないんでしょ」
「待ってってば」
「仲間呼んできたんです、こいつら。すぐ見つかると思うんです」
「行ってどうすんだよ」
「お願いします。なんでも」
「残れないんでしょって言ってんの」
「まってってば!」
全員が黙った。
ライは全員が黙ったことに驚いた。
ジュン、メイ、ストがこっちを見ていた。
何を言えばいいかが分からない。
第三班の方を見る。
三体が目に入った。
この子達はどうなるんだろう。
「あの、この子達は、どうなるんですか?」
ニムラが魔物の方を向いて答えた。
「再調整が出来れば、管理個体として再登録されるでしょう」
ライはしばらく三体を見ていた。
「……そうですか」
サカキとイチノセが、三体へ回収具を近づけた。
ニムラが端末を確認した。
「迎えの車が、三十分ほどで到着します。それまでに、必要なものをまとめてください」
「……三十分?」
「はい」
◇
四人は家の中へ戻った。
ストは泣いていた。
メイが部屋を見回す。
「えっと、荷物ね」
「……何がいるんだろ」
ライも辺りを見る。
ジュンが言った。
「……え、本当に出てくの?」
ストは袖で目を拭った。
「うん、必要なものをね、持っていかないと」
ジュンは黙って袋を広げた。
四人で、服や金、必要そうなものを詰めていく。
「それ要らないでしょ」
ライが言った。
メイは長い棒を何本かまとめていた。
「いるよ」
「何に使うの」
「レール。皆喜んでたじゃん、次もいるでしょ」
ストが袋の口を閉じた。
「行こう」
四人は荷物を持った。
メイも棒を抱える。
扉を開け、そのまま家を出た。