スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~ 作:tuna&mayo
「侵入者を呼びます!」
ココが両手を上げた。
凪沙は毛布の上から見上げる。
「どうやって?」
「入口を少し分かりやすくします!」
「それだけ?」
「それだけです!」
「来るの?」
「来ます!」
「自信あるね」
「ダンジョンですから!」
「理由になってない」
エミが淡々と補足する。
『周辺には人の移動痕跡があります。入口の視認性を上げれば、発見される可能性は増加します』
「じゃあ、来るかもってことね」
「はい」
「ココより信用できる」
「マスター!?」
凪沙は起き上がる。
「呼んだとして、何するの?」
「攻略していただきます!」
「何を?」
「ダンジョンを!」
「今、部屋二つしかないよ」
「……」
ココが止まった。
通路一本。
コアルーム。
凪沙の部屋。
それだけだった。
「……増やします!」
「DPないでしょ」
「少しあります!」
「布団で空になるくらいしかないのに?」
「そこは工夫です!」
ココが表示を出す。
《DP残量:■■■■■□□□□□》
「まず通路を少し伸ばします!」
「いくら?」
「これくらいです!」
ゲージの一部が点滅する。
「布団より安い」
「石ですから!」
「布団、高級品なんだね」
「マスター基準です!」
「そうだった」
凪沙は少し考える。
「罠は?」
「落とし穴なら安いです!」
「死なない?」
「深くすれば死にます!」
「浅くして」
「なぜですか!?」
「死体片づけるの面倒」
「そこですか!?」
エミが言う。
『生存状態で長時間滞在させた方が、継続的なDP取得効率は高い可能性があります』
ココが止まる。
「……生きていた方が?」
『滞在時間が増えます』
「……長くいれば?」
『蓄積します』
「……殺さない方が儲かる?」
『条件によります』
ココの目が輝いた。
「マスター!」
「何」
「非殺傷ダンジョンにしましょう!」
「切り替え早いね」
「効率は正義です!」
「昨日まで魔物軍団って言ってたのに」
「昨日の夢です!」
ココは一度だけ、初眷属が倒れた場所を見た。
「それに」
「何」
「あんなふうに、誰かが一瞬でいなくなるのは、もう嫌です」
「じゃあ、死なないのを先にして。効率はその後」
「はい!」
『侵入者の行動不能時間を延ばしつつ、致命傷と恒久損傷の確率を下げる構成を提案します』
エミの提案も、非殺傷へ向いた。理由は違っても、方針は重なった。
「夢、軽いなぁ」
凪沙は表示を見る。
「じゃあ、帰りたくなるくらい嫌な罠にすれば?」
「帰られたらDPが減ります!」
「帰れそうで帰れないくらい」
「……なるほど!」
ココが勢いよく表示を操作する。
「浅い落とし穴!」
「うん」
「滑る床!」
「いいんじゃない」
「行き止まり!」
「あり」
「同じ場所へ戻る通路!」
「嫌だね」
「でしょう!?」
楽しそうだった。
「毒霧!」
「死ぬ」
「眠り霧!」
「起きる?」
「起きます!」
「じゃああり」
「天井から大量の水!」
「服濡れるね」
「最悪です!」
「なんで嬉しそうなの」
「嫌がらせダンジョンです!」
凪沙は少し考える。
「怪我は?」
「軽傷程度に調整できます!」
「じゃ、それで」
エミが口を挟む。
『侵入者の行動不能時間を最大化する構成を提案します』
「エミさんもやる気です!」
『効率化です』
「何するの?」
『入口直後に転倒誘発。回避した場合は進行方向を限定。直後に視界阻害。その先で分岐を錯覚させ、同一地点へ戻します』
「性格悪いね」
『否定します』
「褒めてます!」
『理解できません』
ココが表示を広げる。
二人で罠を並べ始めた。
凪沙は横から見る。
「ココ」
「はい!」
「落とし穴の前、普通の床長くした方がよくない?」
「なぜです?」
「ずっと怪しいと警戒するでしょ」
ココが止まる。
エミも一拍置く。
『合理的です』
「マスター、罠師の才能があります!」
「ないよ」
「あります!」
「人が歩くとこ見れば分かるだけ」
「それを才能と言います!」
「そう?」
通路が伸び、曲がり、少し広がってからまた細くなる。罠も増えた。
豪華ではない。むしろ地味だった。
「完成です!」
《DP残量:■■■□□□□□□□》
凪沙は減ったマスを数える。
「減ったね」
「先行投資です!」
「言葉だけ経営者っぽい」
「ダンジョン経営ですから!」
ココが胸を張る。
「見た目、ただの洞窟だね」
「そこがいいんです!」
「成長したね」
「褒められました!」
「今回は褒めた」
「本当ですか!?」
「うん」
ココが跳ねた。
転びかける。
踏ん張る。
「成長しています!」
「そこもね」
「今日は二回褒められました!」
「数えてるんだ」
「大事です!」
その日の午後。
入口付近の表示が変わった。
《外部反応:3》
「来ましたぁぁぁ!」
「静かに」
「初攻略者です!」
「三人?」
「はい!」
凪沙は入口側の映像を見る。男二人に女一人。装備は剣、盾、杖で、たぶん冒険者だ。
「殺さないでね」
「もちろんです!」
「エミも」
『非殺傷条件を優先します』
「じゃ、見る」
三人が洞窟へ入った。
先頭の男が入口の床を確かめる。
慎重。
罠はない。
二歩。
三歩。
五歩。
少し警戒が緩む。
「今」
凪沙が言った。
足元が滑った。
「うわっ!」
先頭の男が転ぶ。
後ろの二人が止まる。
「成功です!」
「まだ」
盾の男が壁際へ寄る。
そこは安全。
女が先頭を避けて進む。
その先。
浅い落とし穴。
「きゃっ!」
「二人目!」
「違う。三人目」
「細かいです!」
盾の男が二人を助ける。
全員立つ。
また進む。
「帰らないね」
「まだ攻略できますから!」
視界を塞ぎ、曲がり角と分岐を抜けさせ、同じ場所へ戻す。
三人が止まった。
「……ここ、さっき通ったよな?」
映像越しに声が聞こえる。
ココが口元を押さえる。
「笑わないで」
「まだ笑ってません!」
「顔」
「これは喜びです!」
冒険者たちはもう一度進む。
今度は印をつけた。
「頭いい」
「困ります!」
「なんで」
「攻略されます!」
「攻略されるために呼んだんじゃないの?」
「長くいてほしいんです!」
「面倒な店だね」
「ダンジョンです!」
さらに一時間経っても、三人はまだいた。何度か転び、水に濡れ、眠り霧で一人が寝れば、残り二人は起きるまで待った。
目を覚ました一人が、仲間二人の顔を見て笑う。
「置いてかなかったんだな」
「当たり前だろ」
三人の笑い声が監視表示から届いた。
誰も凪沙を見ていない。
凪沙の口元も、ほんの少しだけ緩んだ。
《笑》は動かない。
三人は少しずつ進む。
《DP残量:■■■■■■□□□□》
「増えた」
「増えました!」
ココが飛び跳ねる。
「生きてます!」
「そうだね」
「滞在してます!」
「そうだね」
「儲かってます!」
「嬉しそうだね」
「はい!」
さらに時間が経つ。
攻略者三人は、ついに入口へ戻った。
「帰る?」
「今日は撤退する!」
「地図描き直そう!」
「次は絶対奥まで行くぞ!」
三人が出ていく。
ココが固まった。
「……次?」
「言ってたね」
「また来ます?」
「たぶん」
凪沙は入口の向こうを見る。三人とも、自分の足で帰っていった。
王城の床に残った人たちとは違う。
「……こっちの方がいいね」
エミが淡々と言った。
『同一個体の再侵入が発生した場合、累積取得量は死亡時の一括取得量を上回る可能性があります』
ココが止まる。
「……つまり」
『条件次第では、生かして帰した方が高効率です』
「マスター!」
「何」
「殺さない方が儲かります!」
「じゃ、それでいこ」
「はい!」
ココが両手を上げる。
《DP残量:■■■■■■■□□□》
七つまで戻ったマスを確認する。
「増えたね」
「はい!」
「誰も死んでない」
「はい!」
「また来る」
「はい!」
ココが笑う。
「最高では!?」
「まあ」
凪沙は少し考えた。
「死体ないのは楽」
「そこですかぁ!」
エミが言う。
『運用効率は良好です』
「エミさんも褒めています!」
『評価です』
「今日は記念日です!」
「何の?」
「初攻略者生還記念日です!」
「普通は逆じゃない?」
「うちはこれでいきます!」
ココが胸を張った。
残量表示は、少し増えている。
悪くない。
「じゃあ」
「はい!」
「布団まであとどれくらい?」
ココの笑顔が止まった。
「……まだ遠いです!」
「高いなぁ」
「マスター基準です!」
「布団好きなのかな」
「かなり!」
「知らなかった」
「ダンジョンは知っています!」
「嫌だね、それ」