スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~ 作:tuna&mayo
三日後。
《外部反応:3》
「来ましたぁぁぁ!」
ココの声で、凪沙は目を開けた。
「朝から元気だね」
「再挑戦です!」
「誰の?」
「この前の三人です!」
凪沙は毛布の中から監視表示を見る。
剣を持つ男。
盾を持つ男。
杖を持つ女。
見覚えがある。
「ほんとに来た」
「来ました!」
『予測範囲内です』
「エミさんはもう少し驚いてください!」
『必要性を認めません』
「そういうところです!」
三人は入口の前で何か相談している。
前回より荷物が多い。
紙。
紐。
小さな杭。
「対策してきてる」
「困ります!」
「いいじゃん」
「なぜですか!?」
「長くいるでしょ」
ココが止まった。
「……なるほど!」
「毎回それ言うね」
「毎回学んでます!」
【学習履歴の蓄積を確認】
「エミさんまで!」
「褒めてないと思う」
三人が入ってくる。
前回、先頭の男を転ばせた床。
今度は止まった。
剣の男がしゃがむ。
手で触る。
「ここだ」
盾の男が頷いた。
「右から行ける」
避けた。
「突破されました!」
「一個だけね」
「一個でもです!」
次。
浅い落とし穴。
三人とも止まる。
杖の女が杖の先で床を叩く。
「ここも」
「覚えてます!」
「そりゃ三日前だし」
「マスター、冷静すぎません!?」
凪沙は表示を見る。
「今から変えられる?」
「侵入者がいる場所は無理です! 少し先なら!」
「じゃあ先だけ変えよ」
「はい!」
『侵入者が存在する区画、および隣接区画の直接変更は制限されています』
「それなら安全そう」
「やります!」
ココが表示を操作する。
前回の分岐。
右へ行けば同じ場所へ戻る。
今回は左へ。
「こっちを少し伸ばして……」
壁が動く。
ほんの少し。
三人には見えない位置。
「できました!」
「楽しそう」
「楽しいです!」
攻略者たちは前回の地図を見ながら進む。
印。
曲がり角。
分岐。
「次、右だ」
三人が右へ曲がる。
知らない通路。
「……あれ?」
止まった。
ココが口元を押さえる。
「笑っていいですか?」
「うちを笑ってないなら平気じゃない?」
「ふふっ」
「普通に笑えるんだ」
「できます!」
【音量上昇を確認】
「エミさん!」
攻略者たちは地図を裏返した。
「前と違うぞ」
「新生ダンジョンって、こんな早く変わるの?」
三人は地図を見直し、何度か戻った。
《DP残量:■■■■■■■■□□》
「増えてる」
「順調です!」
三人は一時間ほど粘った。
前回より奥まで進んだ。
その代わり、前回なかった場所で三回迷った。
最後は水を浴びた。
「またこれか!」
「着替え持ってきて正解だった!」
「次は水対策もいるな!」
「次も来る気だね」
「はい!」
ココはもう嬉しさを隠していなかった。
その翌日。
《外部反応:4》
「また来ました!」
「昨日の人?」
「違います!」
今度は四人。
若い。
装備も前の三人より軽い。
入口でかなり長く話している。
「聞こえる?」
「音声を拾います!」
ココが監視表示を広げた。
「ここだよ」
「本当に魔物いないの?」
「いないって」
「罠だけなんだろ?」
「死人も出てないらしい」
凪沙はココを見る。
「噂になってる」
「恐怖が広がっています!」
「そうかな」
「そうです!」
四人が入ってくる。
一人目。
入口の安全床でやたら慎重に進む。
二人目。
壁を叩く。
三人目。
床へ印をつける。
四人目。
後ろを何度も振り返る。
「前の人たちより遅い」
「慎重ですね!」
『経験が浅い可能性があります』
「初心者?」
『装備状態および行動から、その可能性があります』
「じゃあ罠弱くする?」
「え?」
ココが振り返る。
「なんでですか?」
「怪我しそう」
「軽傷設定です!」
「前の人基準でしょ」
「……」
ココが表示を見る。
「調整できます」
「じゃ少し」
「はい!」
滑る床を弱め、落とし穴を浅くし、眠り霧の濃度を落とす。
「マスター」
「何」
「優しくないですか?」
「死なれたらDP減るでしょ」
「なるほど!」
『合理的です』
「ほら」
「入口で装備を見て、初心者なら目印つけよう」
「目印?」
「難しい区画へ入らないようにする。慣れた人は今まで通り」
「マスターから運営案です!」
「毎回、個別に罠を変えるの面倒だし」
『継続運用上も合理的です』
「エミさんまで!」
四人は何度も罠に引っかかったが、怪我はしなかった。転び、戻され、やがて分断される。
閉じた扉の向こうに、一人だけ残った。
四人の中で、一番後ろを歩いていた少年だった。
ほかの三人より装備が新しい。
剣の柄にも、まだ使い込んだ跡がない。
「開けて!」
少年が扉を叩く。
反対側でも、仲間が同じ扉を叩いていた。
「大丈夫か!」
「こっち、何も見えない!」
分断区画の明かりは、侵入者が止まると暗くなる設定だった。
足を止めさせるための罠。
予定では、五分後に別の通路へつながる。
少年の呼吸が速くなった。
扉を叩く間隔も短くなる。
「予定より早く開けます!」
ココが表示へ手を伸ばした。
『待ってください。現在開放すると、変更中の隣接壁へ負荷が集中します』
「ですが、この方は怖がっています!」
『生命危険値は基準以下です』
「怪我をする前なら、基準以下です!」
ココは凪沙ではなく、エミへ返した。
『……扉そのものではなく、照明を先に戻してください』
「明るくしてから、迂回路を開くのですね!」
『はい。隣接壁を固定するまで、私が開閉順を管理します』
「お願いします!」
暗かった区画へ、淡い灯りが戻った。
少年の手が止まる。
『前方の壁へ矢印を表示します』
床に光の線が走り、矢印を形作る。
少年は何度か息を吸い、示された方向を見る。
「行けばいいのか?」
返事は届かない。
それでも、真っ暗なままよりは動ける。
少年が矢印を追う。
ココは一枚ずつ壁を動かした。
エミが次の壁へ負荷が移らないことを確かめてから、開放の順番を渡す。
三つ目の曲がり角を抜けたところで、最後の扉が開いた。
「いた!」
仲間三人が待っていた。
少年が駆け寄る。
盾を持った仲間が、その肩を両手で掴んだ。
「怪我は?」
「ない。暗くなっただけ」
「よかった……」
四人とも、その場へ座り込んだ。
監視表示の前で、ココも息を吐く。
「間に合いました」
『当初予定より取得DPは低下しました』
「そこは今、言わなくてよくありません!?」
『ただし、負傷および途中離脱は回避しました』
「それを先に言ってください!」
『結果は同じです』
「気分が違います!」
凪沙は二人のやり取りを聞いていた。
「一人になったら、五分待たせない方がいいかもね」
ココが振り返る。
「よろしいのですか? 分断罠の効率が下がります」
「一人で怖くなって暴れたら、怪我するし、次は来ないでしょ」
『長期運用上の損失が大きいと推定します』
「うん。だから変更」
「はい!」
ココはすぐに罠の条件を書き換えた。
四人以上の侵入者を分断した場合、孤立は二人まで。
一人になった場合は照明を維持し、短い迂回路で合流させる。
凪沙が最初から決めた規則ではない。
ココが気づき、エミが別の方法を出し、その結果を見て凪沙が運営条件へ採った。
三人で作った、最初の追加規則だった。
合流する。
また戻る。
「なんだこれ!」
「全然進めない!」
「でも死なない!」
「練習にはなるかも!」
ココの動きが止まった。
「……今」
「言ったね」
「練習って言いました?」
「言った」
「違います!」
ココが監視表示へ詰め寄る。
「ここは恐怖のダンジョンです!」
当然、侵入者には聞こえない。
「罠の練習にいいな」
「次、別のやつ連れてこようぜ」
「地図も作り直せるし」
「違いますぅぅぅ!」
凪沙は耳を塞いだ。
「うるさい」
「マスター! わたくしのダンジョンが訓練所扱いされてます!」
「人気あるね」
「嬉しくありません!」
『侵入者増加はDP取得効率の向上につながります』
「経営目線で納得させないでください!」
「でも増えるよ?」
「マスターまで!」
ココが頭を抱える。
監視表示の向こうでは、四人が楽しそうに罠へ引っかかっている。
《DP残量:■■■■■■■■■□》
「ほぼ満タン」
「……」
「お風呂作れるんじゃない?」
ココが顔を上げた。
「作れます!」
「立ち直った」
「生活改善は別です!」
「夢は?」
「あります!」
「訓練所は?」
「恐怖のダンジョンです!」
「そっか」
「信じてませんね!?」
凪沙は残量の推移を追う。人が来て、長くいて、帰る。また別の人が来る。死体は残らず、掃除も楽だった。
「まあ、悪くないんじゃない」
「何がですか!?」
「この形」
ココが少しだけ黙った。
すぐに胸を張る。
「では! 恐怖のダンジョンとして、さらに発展させましょう!」
今日も入口から、誰かの笑い声が聞こえていた。
《笑》は反応しなかった。
凪沙も、もう笑い声がするたび発動表示を確かめなかった。
攻撃ではない声を、ダンジョンの日常音として聞き流せるようになっていた。