スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第011話 恐怖のダンジョンです

 

 

 三日後。

 

《外部反応:3》

 

「来ましたぁぁぁ!」

 

 ココの声で、凪沙は目を開けた。

 

「朝から元気だね」

 

「再挑戦です!」

 

「誰の?」

 

「この前の三人です!」

 

 凪沙は毛布の中から監視表示を見る。

 剣を持つ男。

 盾を持つ男。

 杖を持つ女。

 見覚えがある。

 

「ほんとに来た」

 

「来ました!」

 

『予測範囲内です』

 

「エミさんはもう少し驚いてください!」

 

『必要性を認めません』

 

「そういうところです!」

 

 三人は入口の前で何か相談している。

 前回より荷物が多い。

 紙。

 紐。

 小さな杭。

 

「対策してきてる」

 

「困ります!」

 

「いいじゃん」

 

「なぜですか!?」

 

「長くいるでしょ」

 

 ココが止まった。

 

「……なるほど!」

 

「毎回それ言うね」

 

「毎回学んでます!」

 

【学習履歴の蓄積を確認】

 

「エミさんまで!」

 

「褒めてないと思う」

 

 三人が入ってくる。

 前回、先頭の男を転ばせた床。

 今度は止まった。

 剣の男がしゃがむ。

 手で触る。

 

「ここだ」

 

 盾の男が頷いた。

 

「右から行ける」

 

 避けた。

 

「突破されました!」

 

「一個だけね」

 

「一個でもです!」

 

 次。

 浅い落とし穴。

 三人とも止まる。

 杖の女が杖の先で床を叩く。

 

「ここも」

 

「覚えてます!」

 

「そりゃ三日前だし」

 

「マスター、冷静すぎません!?」

 

 凪沙は表示を見る。

 

「今から変えられる?」

 

「侵入者がいる場所は無理です! 少し先なら!」

 

「じゃあ先だけ変えよ」

 

「はい!」

 

『侵入者が存在する区画、および隣接区画の直接変更は制限されています』

 

「それなら安全そう」

 

「やります!」

 

 ココが表示を操作する。

 前回の分岐。

 右へ行けば同じ場所へ戻る。

 今回は左へ。

 

「こっちを少し伸ばして……」

 

 壁が動く。

 ほんの少し。

 三人には見えない位置。

 

「できました!」

 

「楽しそう」

 

「楽しいです!」

 

 攻略者たちは前回の地図を見ながら進む。

 印。

 曲がり角。

 分岐。

 

「次、右だ」

 

 三人が右へ曲がる。

 知らない通路。

 

「……あれ?」

 

 止まった。

 ココが口元を押さえる。

 

「笑っていいですか?」

 

「うちを笑ってないなら平気じゃない?」

 

「ふふっ」

 

「普通に笑えるんだ」

 

「できます!」

 

【音量上昇を確認】

 

「エミさん!」

 

 攻略者たちは地図を裏返した。

 

「前と違うぞ」

 

「新生ダンジョンって、こんな早く変わるの?」

 

 三人は地図を見直し、何度か戻った。

 

《DP残量:■■■■■■■■□□》

 

「増えてる」

 

「順調です!」

 

 三人は一時間ほど粘った。

 前回より奥まで進んだ。

 その代わり、前回なかった場所で三回迷った。

 最後は水を浴びた。

 

「またこれか!」

 

「着替え持ってきて正解だった!」

 

「次は水対策もいるな!」

 

「次も来る気だね」

 

「はい!」

 

 ココはもう嬉しさを隠していなかった。

 

 その翌日。

 

《外部反応:4》

 

「また来ました!」

 

「昨日の人?」

 

「違います!」

 

 今度は四人。

 若い。

 装備も前の三人より軽い。

 入口でかなり長く話している。

 

「聞こえる?」

 

「音声を拾います!」

 

 ココが監視表示を広げた。

 

「ここだよ」

 

「本当に魔物いないの?」

 

「いないって」

 

「罠だけなんだろ?」

 

「死人も出てないらしい」

 

 凪沙はココを見る。

 

「噂になってる」

 

「恐怖が広がっています!」

 

「そうかな」

 

「そうです!」

 

 四人が入ってくる。

 一人目。

 入口の安全床でやたら慎重に進む。

 二人目。

 壁を叩く。

 三人目。

 床へ印をつける。

 四人目。

 後ろを何度も振り返る。

 

「前の人たちより遅い」

 

「慎重ですね!」

 

『経験が浅い可能性があります』

 

「初心者?」

 

『装備状態および行動から、その可能性があります』

 

「じゃあ罠弱くする?」

 

「え?」

 

 ココが振り返る。

 

「なんでですか?」

 

「怪我しそう」

 

「軽傷設定です!」

 

「前の人基準でしょ」

 

「……」

 

 ココが表示を見る。

 

「調整できます」

 

「じゃ少し」

 

「はい!」

 

 滑る床を弱め、落とし穴を浅くし、眠り霧の濃度を落とす。

 

「マスター」

 

「何」

 

「優しくないですか?」

 

「死なれたらDP減るでしょ」

 

「なるほど!」

 

『合理的です』

 

「ほら」

 

「入口で装備を見て、初心者なら目印つけよう」

 

「目印?」

 

「難しい区画へ入らないようにする。慣れた人は今まで通り」

 

「マスターから運営案です!」

 

「毎回、個別に罠を変えるの面倒だし」

 

『継続運用上も合理的です』

 

「エミさんまで!」

 

 四人は何度も罠に引っかかったが、怪我はしなかった。転び、戻され、やがて分断される。

 閉じた扉の向こうに、一人だけ残った。

 四人の中で、一番後ろを歩いていた少年だった。

 ほかの三人より装備が新しい。

 剣の柄にも、まだ使い込んだ跡がない。

 

「開けて!」

 

 少年が扉を叩く。

 反対側でも、仲間が同じ扉を叩いていた。

 

「大丈夫か!」

 

「こっち、何も見えない!」

 

 分断区画の明かりは、侵入者が止まると暗くなる設定だった。

 足を止めさせるための罠。

 予定では、五分後に別の通路へつながる。

 少年の呼吸が速くなった。

 扉を叩く間隔も短くなる。

 

「予定より早く開けます!」

 

 ココが表示へ手を伸ばした。

 

『待ってください。現在開放すると、変更中の隣接壁へ負荷が集中します』

 

「ですが、この方は怖がっています!」

 

『生命危険値は基準以下です』

 

「怪我をする前なら、基準以下です!」

 

 ココは凪沙ではなく、エミへ返した。

 

『……扉そのものではなく、照明を先に戻してください』

 

「明るくしてから、迂回路を開くのですね!」

 

『はい。隣接壁を固定するまで、私が開閉順を管理します』

 

「お願いします!」

 

 暗かった区画へ、淡い灯りが戻った。

 少年の手が止まる。

 

『前方の壁へ矢印を表示します』

 

 床に光の線が走り、矢印を形作る。

 少年は何度か息を吸い、示された方向を見る。

 

「行けばいいのか?」

 

 返事は届かない。

 それでも、真っ暗なままよりは動ける。

 少年が矢印を追う。

 ココは一枚ずつ壁を動かした。

 エミが次の壁へ負荷が移らないことを確かめてから、開放の順番を渡す。

 三つ目の曲がり角を抜けたところで、最後の扉が開いた。

 

「いた!」

 

 仲間三人が待っていた。

 少年が駆け寄る。

 盾を持った仲間が、その肩を両手で掴んだ。

 

「怪我は?」

 

「ない。暗くなっただけ」

 

「よかった……」

 

 四人とも、その場へ座り込んだ。

 監視表示の前で、ココも息を吐く。

 

「間に合いました」

 

『当初予定より取得DPは低下しました』

 

「そこは今、言わなくてよくありません!?」

 

『ただし、負傷および途中離脱は回避しました』

 

「それを先に言ってください!」

 

『結果は同じです』

 

「気分が違います!」

 

 凪沙は二人のやり取りを聞いていた。

 

「一人になったら、五分待たせない方がいいかもね」

 

 ココが振り返る。

 

「よろしいのですか? 分断罠の効率が下がります」

 

「一人で怖くなって暴れたら、怪我するし、次は来ないでしょ」

 

『長期運用上の損失が大きいと推定します』

 

「うん。だから変更」

 

「はい!」

 

 ココはすぐに罠の条件を書き換えた。

 四人以上の侵入者を分断した場合、孤立は二人まで。

 一人になった場合は照明を維持し、短い迂回路で合流させる。

 凪沙が最初から決めた規則ではない。

 ココが気づき、エミが別の方法を出し、その結果を見て凪沙が運営条件へ採った。

 三人で作った、最初の追加規則だった。

 合流する。

 また戻る。

 

「なんだこれ!」

 

「全然進めない!」

 

「でも死なない!」

 

「練習にはなるかも!」

 

 ココの動きが止まった。

 

「……今」

 

「言ったね」

 

「練習って言いました?」

 

「言った」

 

「違います!」

 

 ココが監視表示へ詰め寄る。

 

「ここは恐怖のダンジョンです!」

 

 当然、侵入者には聞こえない。

 

「罠の練習にいいな」

 

「次、別のやつ連れてこようぜ」

 

「地図も作り直せるし」

 

「違いますぅぅぅ!」

 

 凪沙は耳を塞いだ。

 

「うるさい」

 

「マスター! わたくしのダンジョンが訓練所扱いされてます!」

 

「人気あるね」

 

「嬉しくありません!」

 

『侵入者増加はDP取得効率の向上につながります』

 

「経営目線で納得させないでください!」

 

「でも増えるよ?」

 

「マスターまで!」

 

 ココが頭を抱える。

 監視表示の向こうでは、四人が楽しそうに罠へ引っかかっている。

 

《DP残量:■■■■■■■■■□》

 

「ほぼ満タン」

 

「……」

 

「お風呂作れるんじゃない?」

 

 ココが顔を上げた。

 

「作れます!」

 

「立ち直った」

 

「生活改善は別です!」

 

「夢は?」

 

「あります!」

 

「訓練所は?」

 

「恐怖のダンジョンです!」

 

「そっか」

 

「信じてませんね!?」

 

 凪沙は残量の推移を追う。人が来て、長くいて、帰る。また別の人が来る。死体は残らず、掃除も楽だった。

 

「まあ、悪くないんじゃない」

 

「何がですか!?」

 

「この形」

 

 ココが少しだけ黙った。

 すぐに胸を張る。

 

「では! 恐怖のダンジョンとして、さらに発展させましょう!」

 

 今日も入口から、誰かの笑い声が聞こえていた。

 《笑》は反応しなかった。

 凪沙も、もう笑い声がするたび発動表示を確かめなかった。

 攻撃ではない声を、ダンジョンの日常音として聞き流せるようになっていた。

 

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