スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第015話 話が通じる

 

 昼前。

 

《外部反応:3》

 

「来ました!」

 

 ココが監視表示を開いた。

 

「昨日の三人?」

 

「人数と進行方向は同じです!」

 

『接近対象三名を確認。昨夜の広域反応との一致率は高いです』

 

「今はエミも見えるんだ」

 

『詳細観測範囲へ入りました』

 

 凪沙は毛布へ座ったまま、入口側の監視表示を見る。

 映っているのは男一人と女二人。装備はこれまで来た攻略者より明らかに重く、先頭の男は大剣を背負って腰にも一本差している。後ろの銀髪の女は杖を持ち、もう一人の黒髪の女だけが軽装だった。

 

「強そう」

 

『戦闘能力は過去の侵入者を大きく上回る可能性があります』

 

「やっぱり」

 

「恐怖のダンジョンに相応しい挑戦者です!」

 

「嬉しいんだ」

 

「はい!」

 

 ココは胸を張る。

 

「では歓迎を!」

 

「殺さないでね」

 

「もちろんです!」

 

『非殺傷条件を維持します』

 

「あと、罠弱めなくていい」

 

「初心者ではなさそうです!」

 

「そうだね」

 

 三人が入口へ入る。最初の滑る床を踏んでも、男は止まらなかった。足が滑る直前に重心だけを変え、そのまま進む。

 

「……避けた?」

 

「踏んでます!」

 

「滑ってない」

 

『姿勢制御により転倒を回避しています』

 

「すご」

 

 次の浅い落とし穴では、黒髪の女が一歩前へ出た。床には触れず、壁から天井まで視線を走らせる。

 

「そこ」

 

 短く言う。

 三人が避ける。

 

「見つかりました!」

 

「早いね」

 

「もう少し隠します!」

 

『侵入者の直近区画は変更できません』

 

「分かってます!」

 

「言われる前に言った」

 

「成長です!」

 

 三人は印もつけず、迷わないまま曲がり角と分岐を抜け、戻される通路まで進んだ。そこで銀髪の女が足を止める。

 

「同じ魔力の流れです」

 

「左?」

 

「いえ。壁側」

 

 杖が上がると淡い光が走り、隠していた構造が浮かび上がった。

 

「ばれた」

 

「解析系です!」

 

『高精度です』

 

「エミより?」

 

『比較条件が異なります』

 

「負けず嫌い?」

 

『否定します』

 

「今の間、怪しい」

 

『否定します』

 

「二回言った」

 

 ココが監視表示へ顔を近づける。

 

「マスター、この方たち、全然引っかかりません!」

 

「強いんでしょ」

 

「罠ダンジョンの威厳が!」

 

「訓練所だし」

 

「恐怖のダンジョンです!」

 

 その声は外には聞こえない。

 三人はさらに進む。眠り霧は銀髪の女が杖を振るだけで散り、続く水には男が大剣を盾代わりに構え、黒髪の女がその後ろへ入った。

 

「連携してる」

 

「ですね!」

 

『役割分担が明確です』

 

「慣れてるね」

 

 三人は一度も慌てなかった。罠を見つければ避け、分からなければ止まり、話して決めてから進む。

 

「……普通に強い」

 

「悔しいです!」

 

「楽しそうだけど」

 

「悔しいです!」

 

 口元は笑っていた。

 

 コアルームまで、残り二つ。

 そこで三人が止まった。

 黒髪の女がしゃがむ。

 

「足跡」

 

「誰の?」

 

「小さい」

 

 凪沙は自分の足元を見る。

 

「うちの?」

 

『可能性があります』

 

「消し忘れた」

 

「生活感が出ています!」

 

「ダンジョンなのに?」

 

「恐怖の生活感です!」

 

「何それ」

 

 黒髪の女が立つ。

 

「住人がいる」

 

 男が答える。

 

「コア?」

 

「違う足」

 

「人?」

 

「たぶん」

 

 銀髪の女が壁を見る。

 

「生活魔力の痕跡もあります」

 

「生活魔力って何」

 

「わたくしも知りません!」

 

『日常的な魔力使用痕跡を便宜的にそう呼称した可能性があります』

 

「便利な言葉だね」

 

 三人が進む。

 

「来るよ」

 

「はい」

 

 ココの声量が落ちた。

 凪沙は立つ。

 

「逃げます?」

 

「なんで?」

 

「強いですよ?」

 

「来たら考えるって言ったし」

 

「……はい」

 

 凪沙はコアルームを見る。奥の通路から設備用の狭い出口へ抜ければ、森へ出られる。

 逃げ道はある。それでも、今は動かない。

 

【接触まで約二分】

 

「エミ」

 

『はい』

 

「勝手に動かないで」

 

【条件を確認】

 

「うちが攻撃されたら?」

 

『防御を優先します』

 

「殺さないで」

 

【可能な範囲で非殺傷を優先】

 

「それで」

 

「わたくしは!?」

 

「ココも攻撃されたら守って」

 

「はい!」

 

【保護対象を確認】

 

 ココが凪沙を見る。

 

「マスター」

 

「何」

 

「……ありがとうございます」

 

「普通でしょ」

 

「はい!」

 

 今度は声が戻った。

 

 三人分の足音が、コアルームの手前で止まった。

 

「いるな」

 

 男の声に、銀髪の女が続く。

 

「一人?」

 

「二人」

 

 最後は黒髪の女だった。

 ココが凪沙を見る。

 

「わたくし数えられてます!」

 

「よかったね」

 

「はい!」

 

 足音が近づき、三人が部屋へ入った。武器は誰も抜いていない。

 凪沙はまずそこを確認する。

 男もこちらを見た。それからココ、中央のダンジョンコアと視線を移し、最後にまた凪沙を見る。

 

「佐倉凪沙?」

 

「そうだけど」

 

 名前を知っている。

 王城から来た。

 たぶん。

 

「俺はレオン」

 

 名乗った男が、少し期待するようにこちらを見る。

 

「知ってる?」

 

「知らない」

 

「そうか」

 

 眉尻を下げた、困った顔。

 

「勇者です!」

 

 ココが小声で言う。

 

「レオンのこと?」

 

「知識にあります!」

 

「有名なんだ」

 

「かなり!」

 

「聞こえてるぞ」

 

 レオンが言った。

 ココが固まる。

 

「……外に出てました!?」

 

「普通に喋ってるからな」

 

「そうでした!」

 

「忘れてたんだ」

 

「最近、内輪ばかりでしたので!」

 

 銀髪の女が口元を緩める。

 

「話はできそうですね」

 

「できるよ」

 

「よかった」

 

 凪沙は首を傾げる。

 

「何しに来たの?」

 

 レオンは答える前に、両手を少し広げた。

 武器に触れていないことを見せるように。

 

「話を聞きに来た」

 

「うちの?」

 

「そう」

 

「王城のこと?」

 

「それも」

 

「じゃあ話せば?」

 

 三人が一瞬だけ黙った。

 黒髪の女がレオンを見る。

 

「早い」

 

「俺も思った」

 

「何?」

 

「いや」

 

 レオンは少し笑う。

 

「もっと警戒されると思ってた」

 

「強いんでしょ?」

 

「まあ」

 

「なら、逃げても追えるんじゃない?」

 

「追える」

 

「じゃ同じ」

 

 レオンが黙る。

 銀髪の女が凪沙を見る。

 観察している。

 

「私はセシリアです」

 

「うん」

 

「こちらはクロエ」

 

「よろしく」

 

「軽い」

 

 クロエが言った。

 

「重くする理由ある?」

 

「ない」

 

「そう」

 

 短い返事だったが、嫌な感じはしなかった。

 ココが凪沙の横へ寄る。

 

「マスター、この方たち怖くありません?」

 

「まだ」

 

「まだ!?」

 

「攻撃してないし」

 

 レオンが頷く。

 

「するつもりもない」

 

「なら平気」

 

「少なくとも、今はな」

 

「正直だね」

 

「嘘つく意味ないだろ」

 

「それもそう」

 

 セシリアが一度、息を吸う。

 

「では、確認させてください」

 

「うん」

 

「王城で発動した《笑》というスキルについて」

 

 凪沙の視線が、三人から中央のコアへ移る。

 エミは何も言わない。

 

「それ、今もある?」

 

「あるよ」

 

「意思はありますか?」

 

「ある」

 

「あなたとは別の?」

 

「たぶん」

 

 レオンとセシリアの視線が一瞬だけ合った。クロエだけは動かない。

 

「身体を勝手に動かす?」

 

「動かす」

 

「今も?」

 

「条件次第」

 

「止められる?」

 

「前よりは」

 

 セシリアが慎重に言葉を選ぶ。

 

「あなたは、その存在をどう認識していますか?」

 

「エミ」

 

「名前?」

 

「うん」

 

「あなたが?」

 

「つけた」

 

「本人は?」

 

「安直って言った」

 

『事実です』

 

 勇者たちには聞こえていない。

 けれど、ココはすぐに反応した。

 

「エミさんはもう少し喜ぶべきでした!」

 

『必要性を認めません』

 

 セシリアの表情が変わった。

 ほんの少し。

 

「……今、誰かと話しました?」

 

「エミ」

 

「聞こえません」

 

「そっか」

 

 ココが口を開く。

 

「わたくしには聞こえます!」

 

 三人の空気が変わった。

 

「あなたには?」

 

 セシリアがココへ聞く。

 

「はい!」

 

「なぜ?」

 

「マスター契約後からです!」

 

 レオンの顔から笑みが薄れ、クロエの視線がココから中央のコア、凪沙へと移る。姿のないエミまでは見えない。

 

「つながってる」

 

「はい!」

 

「コア経由?」

 

「たぶんです!」

 

『ダンジョン契約を介した情報経路です』

 

「エミさんもそう言ってます!」

 

 セシリアが静かに息を吐く。

 

「……レオン」

 

「分かってる」

 

「何?」

 

 凪沙が聞く。

 レオンは凪沙を見る。

 

「俺たちは、そのエミって存在を疑ってる」

 

「そうなんだ」

 

「怒らないのか?」

 

「何で?」

 

「お前の……」

 

 言いかけて止まる。

 

「仲間、みたいなものじゃないのか?」

 

 凪沙は少し考える。

 

「仲間?」

 

「違う?」

 

「分かんない」

 

 ココが横から口を挟む。

 

「エミさんはエミさんです!」

 

「それ答えになってるか?」

 

「なってます!」

 

「そっか」

 

 レオンはココへ向き直る。

 

「君自身は、凪沙に残れと命令されているのか」

 

「いいえ!」

 

「離れたいと思ったことは」

 

「ありません。ただ、最初の契約はわたくしが急ぎすぎました」

 

 ココは凪沙を見る。

 

「一時的なら、というお話を最後まで聞きませんでした」

 

「うん」

 

「怒っていますか?」

 

「解除できるかは先に知りたい」

 

「はい……」

 

「でも、ココが出たいなら止めない」

 

 口にしてから、凪沙は気づいた。

 今まで、ココ自身がここを出たいかどうかを聞いたことがなかった。

 

「わたくしは、ここにいたいです」

 

 ココは迷わず答えた。

 

「ダンジョンだから、ではなく?」

 

 レオンが確認する。

 

「マスターと、エミさんと一緒に運営したいからです」

 

 凪沙は、その理由を勝手に別の言葉へ直さなかった。

 レオンが少し笑った。

 セシリアは笑わない。

 

「凪沙さん」

 

「何」

 

「私たちは、あなたがエミという存在に強制されている可能性を疑っています」

 

「うん」

 

「だから、可能なら分離したい」

 

 ココの顔から笑いが消えた。

 凪沙は動かない。

 

「エミを?」

 

「はい」

 

「どうやって?」

 

「まだ分かりません」

 

「じゃ無理じゃない?」

 

「調べさせてほしいんです」

 

「嫌って言ったら?」

 

 レオンが答える。

 

「理由を聞く」

 

「それでも嫌なら?」

 

「危険がない限り、無理にはやらない」

 

「危険だったら?」

 

「止める」

 

「うちを?」

 

「必要なら」

 

「そっか」

 

 凪沙は三人を見る。武器は抜いていないし、少なくとも今までの言葉に嘘もなさそうだった。

 たぶん。

 

「ちゃんとしてるね」

 

「何が?」

 

「話」

 

 レオンが目を丸くする。

 

「王城より」

 

 誰も笑わなかった。

 セシリアが先に頷く。

 

「では、話を続けても?」

 

「いいよ」

 

 凪沙は毛布を指す。

 

「座る?」

 

 三人がまた一瞬止まり、クロエが小さく言う。

 

「警戒心、薄い」

 

「逃げても追えるんでしょ」

 

「そうだけど」

 

「なら座れば?」

 

「……合理的」

 

 レオンが苦笑した。

 

「お前、変わってるな」

 

「よく言われる」

 

「誰に?」

 

「今」

 

「初めてじゃねえか」

 

「じゃあ今から」

 

 ココが笑う。

 セシリアも小さく笑った。

 《笑》は反応しない。

 同時に、ココの輪郭がごく短く揺れた。

 凪沙とエミは気づいた。

 セシリアも、笑みを消してその揺れを見ていた。

 

「現在は安定して見えます」

 

 セシリアは武器にも杖にも触れずに言う。

 

「でも、正規の契約経路ではありません。将来も安全だとは、まだ言えない」

 

「今すぐ何かする?」

 

「いいえ。まず、三人が何を望んでいるかを聞きます」

 

 レオンは剣から手を離した。セシリアは次の問いをエミ本人へ向け、クロエも壁際へ座り直した。

 そのまま、五人と、姿のない一人分の声がコアルームに残った。

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