スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第017話 昔のコアかもしれない

 

「おかわりはいかがですか!?」

 

「まだある」

 

「では飲み終わったら!」

 

 凪沙は自分のカップを持つ。

 全員から見える位置には、さっきエミが選んだ薄い石板が置かれている。

 エミの声そのものが聞こえるのは凪沙とココだけだが、エミが外へ返す言葉は同じ内容が石板にも浮かぶ。レオンたちは、そちらを読める。

 

「で、続きは?」

 

 セシリアが頷いた。

 

「では、王国の召喚術について説明します」

 

「王城で使ったやつ?」

 

「はい」

 

 さっきまでより声が硬い。たぶん、ここからが本題なのだろう。

 

「王国が使用した異世界召喚術は、完全な独自技術ではありません」

 

「そうなの?」

 

「基礎になったものがあります」

 

 セシリアは一度ココを見て、それから中央のコアへ視線を移した。

 

「過去に発見された、休眠状態のダンジョンコアです」

 

 ココの動きがぴたりと止まった。

 

「わたくし?」

 

「あなたではありません」

 

「よかったです!」

 

「まだ何もよくないよ」

 

「そうでした!」

 

 セシリアは続ける。

 

「そのコアには、通常のダンジョン形成機能以外に、空間接続、対象検索、異空間への干渉に近い機能が残っていました」

 

「召喚に使えそう」

 

「王国もそう考えました」

 

「……使ったんだ」

 

「はい」

 

 レオンもクロエも口を挟まず、セシリアの説明を聞いていた。

 

「ただし、問題があります」

 

「壊れた?」

 

 凪沙が聞く。

 セシリアの目が少し動いた。

 

「なぜそう思ったのですか?」

 

「問題あるって言い方だったから」

 

「……なるほど」

 

「エミみたい」

 

『比較条件が不明です』

 

 同じ文字が石板にも浮かぶ。

 

「反応早いね」

 

「エミさんです!」

 

 ココが当然のように補足した。

 セシリアは一拍置いてから話を戻す。

 

「実際、旧コアは解析工程の途中で一度、重大な損傷を受けています」

 

「死んだの?」

 

「それが、分かりません」

 

「本体が壊れたら、人格領域はどうなるんですか?」

 

 ココが聞いた。

 声が一段落ちた。

 セシリアは誤魔化さない。

 

「停止することはあります。破壊されることもあります。ただし、それで人格まで完全に消滅したとは限りません」

 

「人格」

 

「はい」

 

「ココみたいな?」

 

「可能性としては」

 

 ココは自分の胸元にある宝石へ目を落とし、それから人型端末である自分の身体と、中央のコアを順に見た。

 

「わたくし、壊れたらどうなります?」

 

「ココ」

 

 凪沙が名前を呼ぶ。

 

「はい?」

 

「今それ聞く?」

 

「気になりまして!」

 

「後で」

 

「また後でです!」

 

 セシリアがかすかに微笑んだ。

 でも、すぐに表情を戻した。

 

「過去に、似た事例があります」

 

「似た?」

 

「コア本体の破壊後も、人格情報だけが術式や設備へ残留した事例です」

 

 凪沙はカップを持ったまま聞く。

 

「一つ目」

 

 セシリアが指を一本立てた。

 

「《帰郷の迷宮》」

 

「名前ついてるんだ」

 

「後世の呼称です」

 

「何したの?」

 

「破壊後、研究施設へ運ばれた術式部品の中から、コア人格が再構成されました」

 

「復活?」

 

「近いです。ただ、元の個体と完全に同じだったかは確認できていません」

 

「じゃあ別人かも」

 

「その可能性もあります」

 

「ふうん」

 

「二つ目」

 

 二本目。

 

「《優しい母》」

 

「嫌な名前」

 

「なぜです?」

 

「こういう話で優しいってつくと大体優しくない」

 

 レオンが吹き出しかけて堪え、クロエが横目で見る。

 

「合ってる?」

 

「……まあ」

 

 セシリアは少し困った顔をした。

 

「内部に住んでいた人々は、全員幸福だと証言していました」

 

「いいじゃん」

 

「そう見えました」

 

「見えた?」

 

「後に、長期的な記憶改変と価値観誘導が確認されています」

 

 凪沙はカップを置く。

 

「本人たちは嫌がってた?」

 

「発覚時点では、嫌がっていませんでした」

 

 クロエが短く言う。

 

「だから厄介だった」

 

「……それ面倒だね」

 

「はい」

 

「本人が幸せならいい、だけじゃ判定できない」

 

「その通りです」

 

 レオンが凪沙を見る。

 

「理解早いな」

 

「難しくないでしょ」

 

「そうか?」

 

「選べる状態かどうかでしょ」

 

 セシリアの視線がわずかに変わった。

 

「はい」

 

 セシリアは指を下ろさず、もう一件だけ付け加えた。

 

「コアと契約者が互いを本気で大切にしていながら、契約者の選択能力だけが侵害されていた事例もあります」

 

「気持ちは本物。でも、自由に選べない」

 

「はい」

 

「それは面倒だね」

 

 セシリアはそこで一度、言葉を止めた。

 

「だから私たちは、本人が嫌がっていないという理由だけでは、安全だと判断しません」

 

 凪沙は頷く。

 

「それは分かる」

 

「怒らないんですね」

 

「何で?」

 

「ココさんやエミさんとの関係を疑っているからです」

 

「疑うのは勝手でしょ」

 

「……はい」

 

「決めつけたら嫌だけど」

 

 レオンが小さく笑う。

 

「そこは分けるんだな」

 

「同じじゃないし」

 

「そうだな」

 

 セシリアが続ける。

 

「ここからは仮説です」

 

「うん」

 

「王国は、休眠コアの空間干渉機能を利用して異世界召喚術を構築しました。その過程で旧コア本体は破損しています。ただし、人格領域が完全に消滅した証拠はありません」

 

「うん」

 

「そして、その術式を通してあなたが召喚された。直後に、《笑》が発現した」

 

「そう」

 

「さらに、《笑》にはエミさんという人格的な応答がある」

 

「あるね」

 

「そのエミさんは、ダンジョンコアであるココさんとの契約を介して、ココさんにも認識されるようになった」

 

 凪沙はココを見る。

 

「そうだね」

 

「全部、本当です!」

 

 ココが胸を張る。

 

「誇るところ?」

 

「分かりません!」

 

 セシリアは手を膝の上へ戻す。

 

「この並びだけを見るなら」

 

 一拍、間を置く。

 

「エミさんが、召喚術に使われた旧ダンジョンコアの残留人格である可能性があります」

 

 部屋が静かになり、最初にココが凪沙を見た。凪沙はその視線を受けながら、頭の中のエミへ意識を向ける。

 

「エミ」

 

『はい』

 

「昔、ダンジョンだった?」

 

『不明です』

 

「覚えてない?」

 

『召喚以前の自己記録を保持していません』

 

「王城側の記録も同じです」

 

 セシリアが補足する。

 

「十二人の召喚直後の状態記録には、エミさんに相当する署名がありません。《笑》が初めて発動した後からだけ、人格応答が現れています」

 

「それなら、《笑》から生まれたんじゃないの?」

 

「その可能性はあります。ただ、召喚術へ残っていた人格が《笑》を器にして現れた可能性も、今は残ります」

 

 証拠は本物だった。

 結論だけが、まだ一つに決まらない。

 

「まだ両方ある」

 

 石板にも、エミの返答が浮かぶ。

 

『不明です』

 

 セシリアはその文字を確認した。

 

「エミさん本人へ質問しても?」

 

『受諾』

 

「では」

 

 声がさらに慎重になる。

 

「召喚以前から、自分が存在していたと証明できる記録はありますか?」

 

『ありません』

 

 文字も同時に石板へ浮かぶ。

 セシリアは続けた。

 

「自分が旧ダンジョンコア由来ではないと、証明できますか?」

 

『現時点では否定不能です』

 

 ココの顔が曇り、凪沙もわずかに眉を寄せた。

 

「エミ」

 

『はい』

 

「もうちょっと頑張れない?」

 

『虚偽回答を推奨しますか』

 

「いいや」

 

『では回答を維持します』

 

「なら、それで」

 

 レオンが額を押さえた。

 

「正直すぎるな」

 

「エミだから」

 

「褒めてる?」

 

「たぶん」

 

『評価基準が不明です』

 

「ほら」

 

「何がだよ」

 

 クロエが壁際から聞く。

 

「エミが旧コアだったら困る?」

 

 凪沙は考える。

 

「分かんない」

 

「怖くない?」

 

「今のところは」

 

「身体、勝手に動かされたのに?」

 

「今は条件つけられるし」

 

「最初は?」

 

「何も指定できなかった」

 

「記憶は?」

 

「見てるっぽい」

 

「勝手に?」

 

「たぶん」

 

 クロエは黙り、ココも口を閉じた。セシリアも何も挟まない。

 凪沙は三人を見る。

 

「これ、そっちから見ると結構怪しい?」

 

 レオンが即答する。

 

「かなり」

 

「やっぱり」

 

「でも」

 

 レオンは続けた。

 

「怪しいから危険だ、とはまだ言わない」

 

「うん」

 

「調べる」

 

「ちゃんとしてるね」

 

「さっきも言われた」

 

「二回目」

 

「数えてるのか?」

 

「今数えた」

 

 ココが控えめに手を上げる。

 

「わたくしからもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 セシリアが答える。

 

「エミさんが昔のコアだったとして」

 

「はい」

 

「今のエミさんが危険な存在だとは限りませんよね?」

 

「限りません」

 

「なら!」

 

「安全である証明にもなりません」

 

「……はい」

 

 ココは下げた手を膝の上で握った。

 

「では、エミさん本人へ聞きます」

 

『はい』

 

「昔が何であっても、今のエミさんは、わたくしたちと一緒にいたいですか?」

 

 返答まで、短い間があった。

 

『関係の継続を希望します』

 

「わたくしもです。調べることには協力します。でも、エミさんを機能として勝手に消す処置には同意しません」

 

 セシリアはすぐに頷いた。

 

「その選択も、調査条件へ入れます」

 

 ココはエミの答えを聞いてから、自分の希望を言った。

 下げた手が膝へ戻る。

 凪沙が見る。

 

「ココ」

 

「大丈夫です!」

 

「何も聞いてない」

 

「先回りしました!」

 

「先回りなんだ」

 

 エミは何も言わない。

 凪沙は頭の中の静けさへ意識を向けた。

 

「エミ」

 

『はい』

 

「不安?」

 

『定義不能です』

 

「そう」

 

『ただし』

 

「ん?」

 

『現在の情報では、自己起源を確定できません』

 

 凪沙の視線が止まった。

 

「それ、嫌?」

 

 返答まで、ほんの一拍。

 

『不明です』

 

「答えが出ないんだ」

 

 今までより長い一拍だった。

 石板には返答だけが浮かぶ。声の間に何があったのかまでは、レオンたちには分からない。

 ただココだけが、凪沙と同じように、誰もいない場所へ目を向けていた。

 

「もう一つ、確認してもいいですか」

 

 セシリアがココへ聞く。

 

「ダンジョンマスターとの正規契約に使う、コア固有の技能がありますね」

 

「あります! 契約自体はできてます! でも、まだ正規契約になる前の仮固定なんです。なので、全部は開いてません!」

 

「エミさん。その技能を現在保持していますか」

 

『該当技能は《笑》内に存在しません』

 

「取得した記録は」

 

『ありません』

 

 セシリアはその結果を記録した。

 

「これで旧コア説が否定されたわけではありません。ただ、後で確かめられる条件が一つ増えました」

 

 旧コア、召喚術、《笑》、エミ、そしてココとの契約。

 ばらばらだったものが、妙に一本につながって見える。

 

「……ほんとに、昔のコアかもね」

 

『可能性は否定できません』

 

「そっかぁ」

 

 かなり、それっぽかった。

 でも、まだ決まったわけじゃない。

 

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