スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第019話 《笑》を調べる

 

 

 エミの警告が消えたあとも、コアルームには短い沈黙が残った。

 

「……」

 

 隣で、ココが胸元を押さえた。

 人型の輪郭が一度だけ薄くなり、すぐ戻る。

 

「今の」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「いつから?」

 

 ココは答えるまでに少し間を置いた。

 

「昨日から、たまに」

 

「先に言って」

 

「マスターもエミさんも、調査中でしたので……」

 

『ダンジョンコア出力に瞬間的な低下を確認しています』

 

 解析が始まる前からある異常。

 凪沙はそれを覚えておく。

 

『申し訳ありません』

 

「謝れるんだ」

 

『必要な処理と判断しました』

 

「そっか」

 

 凪沙は視線を戻す。

 目の前には、レオンたちがいる。

 誰も動いていない。

 剣も抜いていない。

 セシリアは、警告が消えた空間を見たまま動かなかった。

 

「セシリア」

 

 レオンが呼ぶ。

 

「解析を続けるのか?」

 

「はい」

 

 セシリアは頷いた。

 

「ただし、目的を変えます」

 

「変える?」

 

「先ほどまでは、エミさんという存在について確認していました」

 

 セシリアは中央のコアを見る。

 

「今確認すべきなのは、エミさんではありません。《笑》です」

 

 凪沙は瞬く。

 

「スキルの方?」

 

「はい。エミさんという人格と、《笑》という能力を分けて考えます」

 

 クロエが続ける。

 

「能力が危険なのか」

 

「エミが危険なのか」

 

 凪沙は頷いた。

 

「別々に見る」

 

「はい」

 

     ◇

 

 セシリアが準備したのは、さっきまでのような大きな魔法陣ではない。

 攻撃用ではなく、情報を読むための術式だった。

 凪沙にも、それくらいは分かった。

 

「何を見るの?」

 

「発動条件と構造、それに防御機構です」

 

 セシリアが答える。

 

「分かる?」

 

「分からないから調べます」

 

 即答だった。凪沙は、その答えなら理解できた。

 この人は、分からないものを分からないまま放置しない。

 

     ◇

 

「始めます」

 

 セシリアの杖先が光り、魔力が《笑》へ向かう。

 その瞬間だった。

 

『解析を検知しました』

 

 エミの声は前より短かった。

 卓上の石板にも、同じ警告が浮かぶ。

 

【外部干渉と判断】

 

 空気が変わった。

 

「……」

 

 凪沙の周囲へ防御光が立ち上がる。

 その直後、床を走る契約線まで脈打ち、ココの輪郭が一度だけ薄くなった。

 

【自動防御を開始】

 

「解析中止!」

 

 セシリアは自分の術式を即座に消した。

 クロエが杖と凪沙の間へ遮断杭を打ち、レオンが二人を庇う位置へ出る。

 それでも、《笑》が起こした防御光は止まらない。

 

「エミ」

 

【生命保護を優先】

 

 光は凪沙の周囲だけへ広がった。

 レオンが一歩下がる。

 

「防御……」

 

「私たちを狙っていない」

 

 セシリアが言った。けれど、危険であることに変わりはない。

 クロエが周囲を見る。

 

「反応範囲」

 

「広い」

 

「制御は?」

 

『確認できません』

 

 石板にも同じ文字が浮かぶ。

 

【防御処理継続】

 

 ココが慌てて呼ぶ。

 

「エミさん!」

 

 いつもの大きな声にも、今は不安が混じっていた。

 

「止まってください!」

 

『……』

 

 エミは答えない。

 

「エミさん!」

 

 凪沙はその様子を見る。エミが守ろうとしていることは分かる。

 しかし、このままでは勇者たちは動けない。何より、エミ自身も何を危険と判断しているのか分からない。

 

「エミ」

 

『はい』

 

「止まって」

 

 光が揺れ、反応が一拍遅れる。

 

「止まって」

 

 凪沙はもう一度言う。

 命令ではあっても怒鳴らず、確認するような声だった。

 

『……』

 

 一瞬の沈黙。

 

【指示を受諾】

 

【ココおよび来訪者を含む全対象の安全性が低下すると判断】

 

『私の意思で停止します』

 

 その直後、光が消えた。

 

「……わたくしの声も、聞こえていましたか」

 

 ココが、まだ薄い自分の手を見ながら聞いた。

 

『はい』

 

「マスターを守る処理なのに?」

 

『凪沙の生存だけを残し、ココおよび来訪者を危険へ置く結果は、現在の保護目的と一致しないと判断しました』

 

「現在の?」

 

『初期の優先順位から更新されています』

 

 ココが呼び、凪沙が止めた。

 

「聞こえていたなら、返事もしてください!」

 

『処理が競合していました』

 

「後でいいから、返して」

 

『記録します』

 

 命令だけではなく、ココの要求も残る。

 凪沙は消えた光の跡を見て、その違いを覚えておいた。

 

     ◇

 

 誰も動かなかった。

 最初に口を開いたのはセシリアだった。

 

「止まりました」

 

「うん」

 

「凪沙さんの命令で」

 

「うん」

 

 セシリアは表情を変えず、石板と消えた防御光を順に見た。

 

「危険性はあります」

 

 ココの顔が曇る。それでもセシリアは続けた。

 

「しかし」

 

「少なくとも、単純な敵対反応とは一致しません」

 

 凪沙はセシリアを見る。

 

「違うの?」

 

「断定はできません」

 

 セシリアは答える。

 

「ですが、停止要求を受け入れ、自分で防御を閉じています。敵対だけを目的とする反応としては不自然です」

 

 クロエが頷く。

 

「制御不能ではない」

 

「少なくとも、意思疎通は成立している」

 

 レオンは剣から手を離した。

 

「……そうか」

 

 張っていた息を吐く。

 

「なら」

 

「まだ判断は早いな」

 

 セシリアは頷いた。

 

「はい」

 

「危険かもしれない」

 

「でも」

 

「それだけです」

 

     ◇

 

 凪沙はエミへ意識を向ける。

 

「エミ」

 

『はい』

 

「今の」

 

『はい』

 

「分かってた?」

 

『外部解析を危険と判断しました』

 

「なんで?」

 

『マスター保護を優先しました』

 

「それだけ?」

 

『現在確認できる範囲では』

 

 また、分からない。

 凪沙は一拍考える。

 

「そっか」

 

 エミは答えない。いつもの沈黙だった。

 

     ◇

 

 その日の解析は終わった。

 《笑》には自動防御があり、凪沙の生命保護を優先する。ただし、エミ自身もそのすべてを把握しているわけではない。

 分かったのはそれだけだった。それでも、昨日までとは違う。

 ココの輪郭が、また一度だけ明滅した。

 今度はセシリアも見た。

 

「解析は止まっています」

 

「うん」

 

「なら、これは私たちが起こした反応ではない」

 

 レオンの表情が変わった。

 

「接続の方が、先に進んでいるのか」

 

 セシリアはすぐに答えなかった。

 

「その可能性を、最優先で確認します」

 

     ◇

 

「次は」

 

 セシリアが言う。

 

「接続状態そのものを確認する必要があります」

 

 凪沙は頷いた。

 

「分かった」

 

 まだ答えは出ていない。

 けれど、少なくともエミを危険な存在だと決めつける理由もなかった。

 

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