スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第022話 勇者との戦闘

 

 

「切って、ください」

 

 ココは床へ手をついたまま、もう一度言った。

 

「わたくしとの仮契約を切れば、マスターへの逆流は止まります」

 

『成功した場合、凪沙とココの生命維持率は上昇します』

 

「ココはどうなる?」

 

『本固定直前の強制切断です。人格領域の損傷率は予測不能です』

 

「消えるかも」

 

『否定できません』

 

「なら、嫌」

 

 凪沙は即答した。

 

「マスター!」

 

「意味は分かってる」

 

 ココが自分を捨てたいわけではない。凪沙へ、生きる方を残そうとしている。

 それでも。

 

「でも、うちのためにココが消える案だけ残して、それを選んでって言うのは違う」

 

「わたくしは、マスターに生きて――」

 

「うちも、ココに残ってほしい」

 

 凪沙は声を上げなかった。

 事実を一つ追加するように言った。

 ココは、それ以上を続けられなかった。

 

     ◇

 

 セシリアの術式が、床の三本の杭へつながった。

 クロエは切断後の逃がし道を開き、レオンは凪沙たちと術式の間に立つ。

 剣先も杖も、凪沙やココではなく床を走る契約線へ向いていた。

 

「凪沙」

 

 レオンが呼ぶ。

 

「今なら、まだ三人とも助かる可能性が高い」

 

「ココの人格が残る保証は?」

 

「ない」

 

 嘘をつかなかった。

 

「でも、待てば君もココも失う」

 

「分かってる」

 

「切断した後、ココを直す方法は俺たちも探す。君がここへ残ることも、帰ることも、その後にもう一度選べる」

 

「それも分かる」

 

 凪沙はレオンを見る。

 

「そっちの判断は、正しいと思う」

 

「なら」

 

「でも、うちは嫌」

 

 正しさを認めても、同じ結論になるとは限らない。

 レオンは目を閉じた。

 一呼吸だけ。

 目を開く。

 

「すまない」

 

 剣を抜いた。

 

「君が拒んだからといって、目の前で救えるかもしれない命を見捨てられない」

 

 剣先は凪沙にもココにも向かない。

 床を走る契約線へ向いた。

 

「恨んでくれていい。それでも、俺たちは切断を行う」

 

 セシリアが杖を上げる。

 

「痛覚遮断と生命保護を優先します」

 

 クロエが短剣を逆手に持つ。

 

「逃げ道は塞がない。離脱するなら追わない」

 

 誰も凪沙を悪とは呼ばない。

 それでも、切断の準備は止めなかった。

 

「そっか」

 

 凪沙は立ち上がる。

 

「エミ。補助」

 

『了解しました』

 

「ココ。殺傷罠は禁止」

 

「この状況でもですか!?」

 

「助けようとしてる人を殺すのは、違うでしょ」

 

「……はい!」

 

 結論は衝突している。

 相手の意図まで敵にする必要はなかった。

 

『両陣営の生命反応を監視します』

 

「エミは、うちの補助だけじゃなくていいの?」

 

『凪沙の希望は、勇者三名を傷つけないことを含んでいます。ただし、監視は私自身の判断でもあります』

 

「分かった。危なくなったら、相手側でも言って」

 

「わたくしは、初心者用の区画を使います」

 

 ココが壁へ手を置く。

 

「あれなら閉じ込めず、入口へ戻す経路があります。威厳は不足しておりますが!」

 

「今は不足したままで」

 

「後で改良します!」

 

 凪沙は二人の選択を聞いてから、床に残る罠の継ぎ目を見た。

 殺傷罠は使わない。初心者用の経路も戻さない。エミは両方を見る。

 それでいく。

 

     ◇

 

 先に動いたのはクロエだった。

 投げられた短剣を右へ避けると、その先にはもうレオンがいる。斬撃ではない。剣の腹が肩を狙った。

 凪沙は床を蹴って壁際へ逃れ、足元からココの粘着床が立ち上がる。だがレオンが踏み込む直前、セシリアの風が床表面だけを乾かした。

 クロエが安全な一点へ足を置いて次の杭を打つと、その周囲へ薄い隔壁がせり上がった。完成すれば一人だけ分断できる。

 けれど閉じる直前、壁の一部が開いた。初心者用へ直した時に作った短い合流路だ。クロエは迷わずそこへ滑り込み、レオンの背後へ戻る。

 

「今、閉じられた」

 

 凪沙が言う。

 

「閉じ込めないと決めましたので!」

 

 ココは昔の罠へ戻さなかった。

 そのため、勇者たちの連携は切れない。

 

『クロエの脈拍上昇。損傷はありません』

 

「なら、次」

 

 凪沙も、その不利を直せとは言わなかった。

 三人が互いの死角を、言葉より先に埋めていく。

 

「……あれ、抜けるんだ」

 

「最高傑作ですよ!?」

 

「今のうちに次」

 

「はい!」

 

 ココは痛みを抱えたまま次の壁を動かす。凪沙はその動きを利用してレオンの背後へ回ったが、拳が届く前にクロエの足払いが入り、避けた先へセシリアの拘束光が来た。

 一人ずつの技なら読める。

 三人が積み上げた時間は読めない。

 

     ◇

 

『《笑》、発動条件不成立』

 

 エミの報告。

 レオンも、セシリアも、クロエも凪沙を笑っていない。嘲る声も表情もなく、三人は契約線を切ることだけに集中している。

 《笑》は沈黙したままだった。

 

「不便」

 

『同意します』

 

「そこは否定して」

 

『不可能です』

 

 短いやり取りの間にも、固定波は進む。

 ココが息を詰めた。

 

「マスター、右!」

 

 凪沙は右から来た拘束光を避ける。

 代わりに、左のレオンが契約線へ踏み込んだ。

 

「取られた」

 

「俺たちも必死だ!」

 

 剣が床へ突き立つ。

 切断術式の第一層が開いた。

 ココの姿が大きく揺らぐ。

 

「ココ!」

 

「まだ、います!」

 

 声は返る。

 けれど、遠い。

 セシリアが叫ぶ。

 

「レオン、あと一層です!」

 

「凪沙、退いてくれ!」

 

「嫌」

 

 凪沙はレオンへ向かう。

 クロエが間へ入る。

 短剣と拳が触れる直前、クロエは刃を返した。

 最後まで非殺傷を崩さない。

 凪沙も急所を外す。

 互いに正しいまま、邪魔だった。

 

     ◇

 

 床の奥で、何かが切れる音がした。

 音ではない。

 凪沙の内側にあった線が、一本ほどけた感覚だった。

 

「ココ」

 

 返事がない。

 

「ココ」

 

 沈黙。

 普段なら、呼ぶ前から返事をする。

 うるさいほどあった声が、どこにもない。

 

『ココの人格応答を確認できません』

 

 エミの声にも、初めて明確な乱れが混じった。

 レオンの剣は、まだ最後の線を切っていない。

 止めれば凪沙が危ない。

 進めれば、ココが消えるかもしれない。

 全員が最善を選んで、この形になった。

 凪沙は、声の消えた場所を見た。

 

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