スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第007話 名前くらいは

 

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

 少女の声が部屋いっぱいに響いた。

 

「後でって言っただけでしょ」

 

「今がいいです!」

 

「眠い」

 

「名前は大事です!」

 

「寝るのも大事」

 

「では寝ながら考えてください!」

 

「無理あるね」

 

 少女は凪沙の前へ回り込んだ。

 まだ歩き方が危なっかしい。一歩ごとに重心が少し揺れる。

 

「お願いします! マスターからいただく最初のお名前です!」

 

「ダンジョンコアでよくない?」

 

「それは種別です!」

 

「コア」

 

「略しただけです!」

 

「じゃあ後で」

 

「戻りましたぁ!」

 

 凪沙は毛布へ座った。

 少女も目の前へ座ろうとして、脚の置き方を間違えたらしい。そのまま横へ崩れる。

 

「……座るのも練習いるんだ」

 

「初日ですから!」

 

「便利な言葉」

 

「事実です!」

 

 もう一つの声が入る。

 

『身体操作の学習効率は低くありません』

 

「ほら! 褒められました!」

 

『現時点では転倒率が高いです』

 

「後半いりません!」

 

 凪沙は横になる。

 少女はまだ何か言いたそうだったが、数秒だけ黙った。

 珍しい。

 

「……寝る?」

 

「いえ」

 

「じゃあ何」

 

「マスターが寝ている間、何をすればいいのかと思いまして」

 

「好きにすれば」

 

「好きに!」

 

 急に目が輝いた。

 

「では、ダンジョンらしいことをしましょう!」

 

「寝るって言ったよね」

 

「静かにやります!」

 

「その宣言、信用できない」

 

「静かに!」

 

 声量は変わっていなかった。

 凪沙は目を閉じた。

 数秒。

 

「マスター!」

 

「ほら」

 

「大変です!」

 

「何」

 

「ポイントが少しあります!」

 

「大変?」

 

「大発見です!」

 

 凪沙は片目だけ開けた。

 

「それで何ができるの?」

 

「低級眷属を一体だけ召喚できます!」

 

「じゃ大発見じゃないじゃん」

 

「ゼロではありません!」

 

「前向きだね」

 

「長所です!」

 

 表示の横に、召喚可能な眷属の一覧が開く。

 

「いらなくない?」

 

「いります!」

 

「なんで」

 

「ダンジョンには魔物です!」

 

「そういうもの?」

 

「そういうものです!」

 

 凪沙は少し考えた。

 この世界のダンジョンがどういうものかは知らない。

 少女は知識だけはあると言っていた。

 

「じゃ、やってみれば」

 

「よろしいのですか!?」

 

「静かにね」

 

「はい!」

 

 一拍。

 

「記念すべき初眷属召喚ですぅぅぅぅ!」

 

「静かに」

 

「努力します!」

 

 努力だけだった。

 

 

 凪沙は毛布から身体を起こした。

 

 どうせ見るなら、最後まで見ておこうと思った。

 

「では参ります!」

 

 部屋の中央、本体コアの前に光が集まる。

 少女は両手を広げ、妙に厳かな顔をした。

 

「初めてですので、基本中の基本からいきます!」

 

「何出すの?」

 

「ゴブリンです!」

 

「名前は知ってる」

 

「さすがマスター!」

 

「創作で」

 

「創作?」

 

「後で」

 

「また後でです!」

 

 少女は気を取り直し、表示へ向き直った。

 

「では参ります!」

 

 光が強くなる。

 床に小さな魔法陣。

 今度の少女は真剣だった。

 表示を何度も確認し、位置を直し、ポイント消費量を見ている。

 

「ここをこうして……あ、違います。こっちです!」

 

「初めてなんだね」

 

「初めてです!」

 

「見れば分かる」

 

「でも成功させます!」

 

 数秒。

 光が収束する。

 小柄な人型。緑がかった肌に尖った耳、粗末な布。

 凪沙の知識にあるゴブリン像と、だいたい一致していた。

 

「できましたぁぁぁぁ!」

 

 少女が飛び跳ねる。

 着地で少しよろける。

 

「見てくださいマスター! 記念すべき第一号です! わたくしの初眷属! ここから我がダンジョンの歴史が始まるのです!」

 

「大げさ」

 

「大事です!」

 

 ゴブリンが周囲を見回し、少女、本体コア、そして凪沙へ視線を移す。

 目が合った。

 

「ギャハッ」

 

《嘲笑を確認》

 

「……あ」

 

 凪沙の身体が、一歩だけ動いた。

 次の瞬間、ゴブリンが倒れた。

 

「…………」

 

 少女の笑顔が止まる。

 床。

 ゴブリン。

 動かない。

 

《敵性対象:残存なし》

 

「…………」

 

 凪沙も見る。

 

「死んだ?」

 

『生命活動を確認できません』

 

「早」

 

「わたくしの初眷属ぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 少女が床へ崩れ落ちた。

 

「名前もまだでしたのにぃぃぃ!」

 

「そっちも名前なかったんだ」

 

「そこじゃありません!」

 

「でも笑ったから」

 

「なぜ笑ったんですかぁ!」

 

「うちに聞かれても」

 

 少女は倒れたゴブリンへ這っていく。

 

「初めてだったんですよ! 初召喚! 初眷属! 初成功! 全部一瞬で過去形になりました!」

 

「成功はしたじゃん」

 

「慰めが雑です!」

 

 もう一つの声が淡々と言う。

 

『同種の眷属を再召喚した場合、同様の事象が発生する可能性があります』

 

「言わないでください!」

 

『合理的な予測です』

 

「今は合理性を求めてません!」

 

 凪沙はゴブリンを見る。

 

「魔物、置かない方がよくない?」

 

「ダンジョンなのに!?」

 

「笑われるたび死ぬなら」

 

「…………」

 

 少女が止まる。

 凪沙を見る。

 次に、姿のないもう一つの存在を探すように周囲を見る。

 

「なんとかできませんか!?」

 

『嘲笑対象の登録後、排除処理が実行されます』

 

「止められます?」

 

『現在の仕様では困難です』

 

「ですよねぇ!」

 

 少女は頭を抱えた。

 

「わたくしの夢の魔物軍団が……」

 

 まだ名前のない少女は、床に伏せたまま動かなくなった。

 凪沙は少し待つ。

 

「……二体目いく?」

 

「行きません!」

 

「そ」

 

「即答に納得しないでください!」

 

「じゃ、罠でよくない?」

 

「罠?」

 

「生き物置かなければ笑わないでしょ」

 

 少女が顔を上げる。

 

「……なるほど!」

 

「単純だけど」

 

「罠のダンジョン!」

 

「うん」

 

「それならいけます!」

 

 復活が早い。

 

「落とし穴! 毒矢! 串刺し! 火炎床! 天井落とし!」

 

「殺意高くない?」

 

「ダンジョンですから!」

 

「死体増えると面倒そう」

 

「そこですか!?」

 

 もう一つの声が言う。

 

『殺傷効率を優先する場合、提案内容は合理的です』

 

「そっちも怖いね」

 

『否定します』

 

 少女が勢いよく指を差す。

 

「そうです! その方です!」

 

「何」

 

「先ほどから普通にお話しされていますけど!」

 

 少女は凪沙ではなく、姿のないもう一つの存在を探すように首を巡らせる。

 

「その方のお名前は何ですか?」

 

「《笑》」

 

「どういうことですか!?」

 

「スキルだけど」

 

「すごいスキル名!?」

 

「確かに」

 

「ですが困ります!」

 

「なんで」

 

「呼びにくいです!」

 

 凪沙は少し考えた。

 確かに、《笑》と呼ぶたびにスキル名を読み上げている感じがする。

 

「あんた、名前いる?」

 

『必要性を認めません』

 

「じゃあいらないって」

 

「必要です!」

 

「本人がいらないって」

 

「呼ぶ側が困るんです!」

 

「強いね」

 

 少女は引かない。

 

「マスター! お願いします!」

 

「うち?」

 

「マスターのスキルですよね!」

 

「たぶん」

 

「ではマスターが!」

 

「……笑」

 

「はい!」

 

「笑み」

 

「はい!」

 

「エミ」

 

 一拍。

 

「……エミ?」

 

「それでよくない?」

 

 もう一つの声が沈黙する。

 

『安直です』

 

「じゃあ《笑》で」

 

『エミを受諾します』

 

「嫌だったんじゃん」

 

『比較の結果です』

 

「そう」

 

 少女が両手を叩く。

 

「決まりですね! エミさん!」

 

『呼称を確認しました』

 

「エミさん!」

 

『二度呼ぶ必要はありません』

 

「嬉しくて!」

 

『理解できません』

 

「これからです!」

 

 凪沙は二人を見る。

 一人は見える。

 一人は見えない。

 でも、呼び分けはできるようになった。

 

「で」

 

 少女が姿勢を正した。

 今度は自分を指す。

 

「次はわたくしです!」

 

「まだやるの?」

 

「当然です!」

 

「コアでいいじゃん」

 

「種別です!」

 

「じゃあ……コア」

 

「変わらないです!」

 

「コ」

 

「短くなりました!」

 

「ココ」

 

 少女が止まった。

 

「……ココ?」

 

「うん」

 

「由来は?」

 

「コアから」

 

「ほぼそのままです!」

 

「嫌?」

 

 少女は数秒考えた。

 その間だけ静かだった。

 

「……いえ!」

 

 笑う。

 

「ココにします!」

 

「じゃ決まり」

 

「はい! わたくし、ココです!」

 

「本人が選んだなら、それで」

 

 もっと格好のいい名前を探すより、凪沙はココの希望を採った。

 ココが胸を張る。

 

「エミさん! ココです! よろしくお願いします!」

 

『認識しています』

 

「もっと歓迎してください!」

 

『必要性を認めません』

 

「マスター!」

 

「ん?」

 

「エミさんが冷たいです!」

 

「前からだよ」

 

「まだ一日も経ってませんよ!?」

 

「長く感じる」

 

「ひどいです!」

 

 ココは騒ぐ。

 エミは淡々と返す。

 凪沙は毛布へ戻った。

 

「寝ていい?」

 

「その前に罠会議を!」

 

「明日」

 

「三分!」

 

「明日」

 

「一分!」

 

「寝る」

 

「マスターぁぁぁ!」

 

 凪沙は目を閉じる。

 名前が二つ増えた。

 エミ。

 ココ。

 それだけだった。

 

「おやすみ」

 

「おやすみなさい、マスター!」

 

『休息を推奨します』

 

「エミさんもおやすみなさいって言いましょう!」

 

『私は休息を必要としません』

 

「そういう話じゃありません!」

 

 うるさい。

 昨日までより、ずっと。

 

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