スキル(笑)ってとんでもないね……~うちを笑った相手が死ぬんですが、これはうちのせい?~   作:tuna&mayo

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第008話 まずは寝る場所

 

 

「マスターのお部屋を作りましょう!」

 

 朝。

 目を開けて最初に聞こえたのが、それだった。

 凪沙は毛布の中から顔だけ出す。

 

「ここでいいけど」

 

「ここはコアルームです!」

 

「寝られるよ?」

 

「寝室を作りましょう!」

 

「昨日も寝た」

 

「昨日は緊急避難です!」

 

「今日は?」

 

「新生活です!」

 

「そうなんだ」

 

 ココは朝から元気だった。

 昨日より歩き方は少しだけましになっている。

 まだ方向転換のたびに身体は揺れる。

 少なくとも、壁にはぶつからなくなった。

 

「まずはマスター専用居室! 玉座! 天蓋付き寝台! 黒曜石の柱! 豪華な絨毯! 巨大な紋章!」

 

「布団あればいい」

 

「夢がありません!」

 

 エミが淡々と口を挟む。

 

『防衛効率を優先するなら、居室は最深部かつ単一経路で接続する構造が適切です』

 

「エミさんまで夢がないです!」

 

『防衛設備の話です』

 

「夢のある防衛設備もあります!」

 

『即死罠を提案します』

 

「それは夢じゃなくて悪夢です!」

 

 凪沙は起き上がった。

 

「即死罠はいらない」

 

『侵入者対策として合理的です』

 

「ココ踏むでしょ」

 

「マスター!?」

 

『現在のココの身体運用能力では、誤作動誘発の可能性があります』

 

「エミさん!?」

 

 凪沙は毛布を畳んだ。

 ココが何か言い返している。

 エミがそれを一つずつ潰している。

 朝からうるさい。

 

「で、部屋って作れるの?」

 

 ココが止まった。

 

「作れます!」

 

 復活も早い。

 

「ダンジョンポイントを消費すれば、壁! 床! 家具! 設備! いろいろ増やせます!」

 

「ポイントって昨日の?」

 

「はい!」

 

「昨日使った分、まだあんまり残ってない?」

 

「はい!」

 

「残り、どれくらい?」

 

「こうです!」

 

 凪沙の前に、横長の表示が浮かんだ。

 

《DP残量:■■■■■■■□□□》

 

「ゲージなんだ」

 

「ゲージです!」

 

「ざっくりしてるね」

 

「分かりやすいでしょう!」

 

「まあ」

 

 残量は、全体の七割ほど。

 

「ゴブリン高かった?」

 

「ほとんど減ってません!」

 

「じゃ、ココ?」

 

「わたくしです!」

 

「高いんだ」

 

「高品質ですから!」

 

 エミが言う。

 

『人型端末は継続運用可能です』

 

「ほら!」

 

『損傷時には修復費が必要です』

 

「後半いりません!」

 

 凪沙は残量表示を見る。

 

「これで部屋作れる?」

 

「小さいものなら!」

 

「じゃあ小さくていい」

 

「もっと夢を!」

 

「寝られればいい」

 

 ココは両手を振り上げた。

 

「では最低限から始めます!」

 

 表示が切り替わり、壁、床、扉、寝台、棚、机と、いくつかの選択肢が並ぶ。

 

「高いね」

 

「素材と広さで変わります!」

 

「これ」

 

 凪沙は一番小さい部屋を指した。

 

「こんなに小さい部屋ですか!?」

 

「十分」

 

「マスターのお部屋ですよ!?」

 

「一人で寝るだけだし」

 

「夢がぁ!」

 

「まだ言ってる」

 

 結局、部屋は小さくなった。

 コアルームの奥、新しくできた短い通路の先に四角い部屋がある。床は平らで、壁は白っぽい石。窓はなく、入口には簡単な扉がついていた。

 

「……普通」

 

「もっと豪華にできます!」

 

「これでいい」

 

 凪沙は中へ入り、広さを見る。毛布を敷いて、机と棚を置いてもまだ少し余る。

 それだけあれば困らない。

 

「布団は?」

 

「ポイントが足りません!」

 

「え」

 

「部屋を作ったので!」

 

「じゃ、毛布で寝る」

 

「マスターのお部屋なのに!」

 

「昨日もそうだったし」

 

 ココが床へ崩れそうになる。

 途中で踏ん張った。

 

「転ばなかった」

 

「成長しました!」

 

「そこは褒める」

 

「やりました!」

 

 嬉しそうだった。

 凪沙は部屋の中央に毛布を敷いた。

 昨日は木の根元だった。今日は平らな床で、雨も入らない。

 

「ここでいい」

 

「本当に?」

 

「うん」

 

 ココは、壁と床、それから何もない棚を見回す。

 

「……少し寂しくありません?」

 

「別に」

 

「絵とか!」

 

「いらない」

 

「花!」

 

「枯れる」

 

「置物!」

 

「邪魔」

 

「ぬいぐるみ!」

 

「なんで」

 

「かわいいからです!」

 

 凪沙はココを見る。

 

「……足りてるでしょ」

 

「何がです!?」

 

「別に」

 

「マスター! いま絶対何かございましたよね!?」

 

「ない」

 

「エミさん!」

 

『回答を拒否します』

 

「なぜですか!?」

 

『本人が否定しています』

 

「そこだけ尊重するんですか!? そこをなんとか!」

 

「寝る」

 

「まだ朝です!」

 

 凪沙は毛布へ座った。

 ココはまだ騒いでいる。

 エミは記録を消さない。

 部屋は狭い。

 家具もほとんどない。

 でも、雨は入らない。

 床も濡れていない。

 入口からも少し離れた。

 

「まあ、いいんじゃない」

 

 ココがまた止まった。

 

「……本当ですか?」

 

「うん」

 

「では次はお風呂を!」

 

「早い」

 

「その前に、見張り」

 

 凪沙は入口側を見た。

 

「夜はうちが起きる。ココはまだ身体に慣れてないし、エミは外を直接見られない」

 

「却下します!」

 

 ココが即答した。

 

「なんで」

 

「ここはわたくしのダンジョンです。侵入者検知は本体でできます!」

 

『凪沙の連続覚醒は判断精度を低下させます』

 

 エミも別の理由から反対した。

 

「じゃあ、どうする?」

 

「ココの見えてるもの、エミにも渡せないの?」

 

「できます! 三者接続を使えば、わたくしの観測情報を共有できます!」

 

『共有には凪沙の許可が必要です』

 

「うちの?」

 

『接続利用者としての許可です』

 

「じゃ、いいよ」

 

「許可いただきました!」

 

『観測情報の共有を開始します』

 

 ココは凪沙ではなく、姿のないエミへ向く。

 

「エミさん。見えますか?」

 

『共有範囲を確認しました』

 

「では、わたくしが検知を担当します。異常を見つけた後の判断をお願いできますか?」

 

『可能です。ただし、接触対応は凪沙の起床後とします』

 

「はい。緊急時だけ起こします!」

 

『条件を受諾します』

 

 二人だけで役割が決まった。

 凪沙の案は、本人が全部背負う形ではなくなった。

 

「じゃ、それで」

 

「マスターは寝てください!」

 

「まだ朝だけど」

 

「今夜のお話です!」

 

「では、お風呂の話へ戻ります!」

 

「生活には必要です!」

 

「ポイントないんでしょ」

 

「貯めます!」

 

「どうやって?」

 

「そこです!」

 

 ココが勢いよく振り返った。

 

「ダンジョンポイントの稼ぎ方をご説明します!」

 

 凪沙は毛布へ横になった。

 

「後で」

 

「また後でですぅぅぅ!」

 

 朝から、やっぱりうるさかった。

 

     ◇

 

 その夜。

 凪沙は、低い振動で目を覚ました。

 声ではない。

 床から背中へ伝わる、ごく小さな揺れだった。

 目を開ける。

 新しい部屋は暗い。

 入口側から、ココの声が聞こえる。

 昼間より小さい。

 

「右側の水量が増えています。壁を厚くすれば止められます!」

 

『入口を狭めると、退避経路が一つ減ります』

 

「では床を下げます!」

 

『コアルーム側へ水が流れます』

 

「では、どうしましょう!?」

 

『排水先を先に作り、その後で床の傾斜を変更してください』

 

「なるほど!」

 

 二人とも、凪沙を呼ばない。

 凪沙は起き上がり、扉を少しだけ開けた。

 通路の先。

 ココが床へ両手をついている。

 その前に、半透明の構造表示。

 入口の外では、昼から続いていた雨が地面へ溜まり始めているらしい。

 自然の窪地だった場所へ水が集まり、ダンジョン入口へ細く流れ込んでいた。

 

「ここを掘ります!」

 

『深さはその半分で十分です。現在のコア出力では、完成前に停止する可能性があります』

 

「止まりません!」

 

『根拠を提示してください』

 

「気合いです!」

 

『却下します』

 

「早いです!」

 

 ココは頬を膨らませたまま、掘削量を半分へ戻した。

 エミの計算へ従ったのではない。

 表示された残量と、入口までの距離を自分でも見直している。

 

「……こちらなら、間に合います」

 

『同意します。ココの検知情報から、流量変化を追います』

 

「お願いします!」

 

 床がゆっくり沈む。

 できた溝へ雨水が流れ、入口の横へ抜けた。

 振動が止まる。

 

『浸水危険度――低下』

 

 そこで凪沙は扉を開けた。

 

「終わった?」

 

 ココが飛び上がりかけ、途中で姿勢を戻した。

 

「マスター! 起きていたのですか!?」

 

「途中から」

 

「なぜ声をかけてくださらなかったのです!?」

 

「二人でやってたから」

 

『緊急事態には至っていません』

 

「最初に決めた条件どおり?」

 

『はい』

 

 凪沙は排水溝を見る。

 浅い。

 でも、水は入口へ来ていない。

 

「失敗しそうだったら?」

 

『凪沙を起こす予定でした』

 

「失敗しませんでした!」

 

『結果としては』

 

「エミさん!」

 

 ココの声が元へ戻った。

 凪沙はあくびをする。

 

「次から、危ないか分かんない時も起こしていいよ」

 

「分からない時、ですか?」

 

「二人で決められない時」

 

『判断を委ねてもよいという意味ですか』

 

「うん」

 

 守れ、と命令するのではない。

 全部分かってから報告しろ、とも言わない。

 分からないものを、分からないまま持ってきてもいい。

 凪沙はその条件を二人へ渡した。

 

「受諾します!」

 

『私も受諾します』

 

「じゃ、寝る」

 

「はい。今度こそお任せください!」

 

『周辺監視を継続します』

 

 凪沙は部屋へ戻った。

 扉を閉めても、二人が排水量について言い合う声は少しだけ聞こえた。

 それを止める必要はなかった。

 凪沙は目を閉じた。

 

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