「……チャリティー演劇?」
マケドニア城の執務室。ミシェイルは妹のミネルバが差し出してきた一枚の紙――配役表を眉間にシワを寄せて見つめた。
「そうです。観覧料はすべて孤児院に寄付されます。そこで兄上にも出演してほしいのですが……」
「孤児院への寄付は結構なことだ。マケドニア王室としても協力を惜しむべきではないな。……で、俺はどんな役だ?」
少しだけ乗り気になったミシェイルに、ミネルバは真面目そのものの顔で言い放った。
「パブを経営する美人三姉妹は実は大泥棒で、そうとは知らぬ兄上は三姉妹の次女に恋をし、足しげくパブに通っては警備情報を漏らしてしまう衛兵の役です」
「……何だその役は? 間抜けすぎるではないか!」
ミシェイルは思わず配役表を机に叩きつけた。
「俺はマケドニアの第一王子だぞ!? なぜよりによって、女に鼻の下を伸ばして城の警戒態勢をベラベラと喋り散らかすような無能な衛兵を演じねばならんのだ!」
「役柄ですよ、兄上。劇中では非常に人間味があって愛されるキャラクターです。ちなみに長女役がパオラ、三女役がエスト、そして兄上が恋する次女役は私です」
「は? なぜ次女役がお前なんだ? そこはカチュアだろう?」
「兄上、わかっていませんね。相争う兄妹が惹かれ合う構図に危うい魅力を感じる者もいるのです」
「………………」
――だから何故、我ら兄妹が相争うことが前提なんだ?
暫し言葉を失っていたミシェイルだったが、はっと我に返った。
「……いや、そういう問題ではない! そもそも大泥棒の三姉妹とは何だ! お前は王女、パオラたちとて我がマケドニアの誇り高き白騎士だろうが!」
「まあまあ兄上、そうお堅いことを仰らずに」
ミネルバは胸を張り、朗々と語り始めた。
「夜はレオタード風のぴっちりとした衣装に身を包み、狙った獲物は逃さない『怪盗キャッツ……あ、違った、『怪盗ペガサス』として月夜を舞うのです。実にロマンとスリルに満ちた傑作劇ではありませんか」
「レオタード……!? お前やパオラたちがそんな破廉恥な格好を……!?」
ミシェイルが眩暈を覚えて頭を押さえていると、部屋のドアがバタンと開いた。
「お兄様っ! 私も演劇に出るわ!」
飛び込んできたのは、自作の(?)小さな軍服衣装を抱えた8歳の妹、マリアだった。
「マリア……? お前まで出演するのか?」
「ええ! 私はね、兄様の上司役よ! いつも怪盗ペガサスに逃げられる兄様たちを『お前たち何をやっているんだ!』って叱るのよ!」
「なぜ幼い妹が上司なのだ!?」
ミシェイルの叫び声が執務室に木霊する。完全にマリアの欲望が混じった配役であった。
「兄上、“幼女〇記”なるものもありますし、案外マリアの上司役はウケるかもしれませんよ」
「ウケるか! 俺の尊厳が木端微塵になるだけだ!」
ミネルバの言葉を必死に否定するミシェイルだったが、
「ちなみに三姉妹を見守るおじさん役はグルニアのカミュ殿が快く引き受けてくれました」
続いた妹の言に固まってしまった。
――な、何だと? 俺の情けない姿が他国の名将に見られる、のか……?
そこへ廊下からパタパタと足音が響き、衛兵の衣装を試着したカチュアが顔を出した。
「あの……ミシェイル王子。わ、私も……王子の同僚、優秀でクールな先輩役で出演するので、その、よろしくお願いします」
「お、俺がカチュアの後輩だと!?」
頬を赤らめて申し訳なさそうにするカチュアの姿に、ミシェイルは絶望的な思いで悟った。すでに城内では、この配役で話が通り始めていることを。
――ダメだ……断れば“チャリティー演劇への出演を拒んだ冷酷な王子”にされ、受け入れれば“幼女に怒られ、少女にサポートされる間抜けな王子”になる……!
ミシェイルは天を仰ぎ、深々と溜息を吐いた。
「……ミネルバ。脚本の修正を要求する。せめて……せめて漏らす警備情報はダミーだったという“実は切れ者の衛兵”という設定を追加しろ……!」
「ダメです。ドジで頼りないキャラだからこそ愛されるのです」
「却下するな!!」
こうして、マケドニア第一王子のプライドを犠牲にして、チャリティー演劇は開催されることになったのであった。