東方陰陽録~The medium disappeared in fantasy~ 作:Closterium
第九話 人里に混ざる妖
人間の里に来て数日。黄菜子は置いといて、永一は里での生活に多少は慣れ、連日の仕事で割と忙しい毎日を送っていた。ただの家事代行も「現し世の技術」と付ければ客が特別感を感じてくれるのでいい仕事である。
ただ最近は現し世閑話によるボーナスを得る機会が少なくなった。正確にはわざと少なくしたのだが、理由は簡単、ネタ切れ防止である。外来人の永一とてその知識は有限である。不定期開催にして知識を小出しにすることでブームを長く保とうと考えたのだ。
流行は風だ。灼熱の中、一発の強風よりも持続したそよ風の方が涼しいのと同じである。
とある秋の昼下がり。その日はたまたま次の仕事までしばらく時間が空いていたので、永一は黄菜子に留守番を任せて夕飯の買い出しに出ていた。
鯉と野菜が買い得だったので夕飯は鯉濃に決めた。最近になって一気に冷え込んできたので丁度温かい料理が食べたいと思っていた所だった。
買い物を終え大きくなった風呂敷を背負いながら帰る途中、目線の先に魔理沙の姿が見えた。記憶の無い宴会以来会っていなかったので、少し追いかけて声を掛けてみる事にした。
この通りの中央には川が流れており、永一から見て魔理沙は川の対岸にいた。「おーい」と声を上げて呼んでみてもいいだろうが、この辺りは住宅地と店が混在しているせいか人が多くなんとなく気恥ずかしかったので普通に声を掛ける事にした。
永一が橋を渡りかけた時、彼女は人とぶつかっていた。相手の少女は育ちが良さそうだが彼女と比べるとかなり華奢であり案の定軽く突き飛ばされ。「きゃっ」という高い声を上げると同時に持っていた風呂敷から包んでいた古びた書物を散らせた。
その時、一瞬だったが幽かに妖力の波を感じた。一瞬でかつ距離があり、波が極めて微弱だった為か発生源と詳しい場所は判らなかったが、タイミングと感じた方角からして魔理沙と少女の方だった。魔理沙の霊力は知っている。そうなると妖力の主は少女という事になる。人間に化けた妖怪がいるのは日常だが、化けるだけなら妖気まで消す必要は無い。もっとも、妖気を消している妖怪を黄菜子以外に見た事が無いのだが。何か企てて里に進入している妖怪なら曲がりなりにも術師を語っている身としては放って置く訳にはいかない。
彼の流れを見る能力は確実だが、霊感のように物を透過して感じる事はない為、直接対象を見る必要がある。という事で永一はさりげ無く二人の脇を通っていく事にした。
「駄目ですよ。今、返しに行く所です。やっとひとつ本を書き終えたので・・・」
どうやら魔理沙と少女は知り合いのようだ。断片的な会話から少女は物書きで、落とした書物は資料らしい。見た所少女は人間のようだが、その霊力は何故か普通とは異なって不思議と「古めかしい」感覚を覚えた。少女の事も若干気になるが、今は妖力の出所を突き止めるべきである。
その時、少女は一瞬不機嫌そうな表情を浮かべると、魔理沙から離れ早歩きで先へ進んでしまった。永一の予想では恐らく妖力は少女から出ていた。もし妖怪化の片鱗なら危険である。この際魔理沙はどうでもいい、と彼は走り出した。
「お、永一じゃないか。久しいな――」
「悪い。今、急いでるんだ。」
魔理沙は上げかけた腕のままその場にポツリと残された。
「・・・何なんだ?」
やっと少女に追い着いた。永一の作戦はすれ違い様に少女を霊視するというものだったが、実行寸前で少女は予想外に90度左折し、店の暖簾を潜った。
幸い、ぎりぎりのところで何とか成功し、発生源を突きとめた。予想外に妖力は少女ではなく本から出ていたのだ。その場で彼は「なんだ、只の人間か」と安堵したのだが、それからすぐに更に面倒な事も気付いてしまった。
少女は先程、この本は借り物で返しに行く所だと言っていた。とすると、あの妖力を持つ本には持ち主がいて、それは恐らく少女が入っていったこの店の人間だ。本から感じた妖力は決して良性ではない。もし、その本の悪性を知り、意図的に所持しているのなら問題である。
永一は店の入り口を覗いてみたが、目に映ったのは悍ましい光景だった。暖簾が揺れるたびに外に漏れる不自然な妖力霧。そして何より、指では数えきれない数の霊魂や先の本に似た妖力源を感じた。
「鈴奈庵、か。」
永一は鞄からスマホを取り出し、店をその画面に収めシャッターに触れた。
この店は間違えなく黒だ。俺の最初の術師の仕事はここか、と唾を飲み込み武者震いした。
――自宅
永一はこの日の仕事を終えて、夕飯の準備に取り掛かっていた。料理中、黄菜子がずっとつまみ食いの隙を狙ってくるので、彼女には風呂の用意を任せていた。
そんな時、彼は昼間の話を思い出し彼女にその話をしてみた。
「妖力が出る本と危険な店?」
「ああ。食材買いに行った時に見たんだ。店はとりあえず写真で撮ってきた。空気に妖力とか、霊力とか・・・とにかく色々混ざってて、変な霊魂まで沸いてたんだ。あれはヤバイよ。」
「こういう事は霊夢お姉ちゃんや紫様に相談するべきじゃないの?」
霊夢お姉ちゃんとは言っているが歳は確実に黄菜子の方が上だ。
「まあ、確かにそうなんだけどさ。・・・ほら、俺らが解決した方が店の宣伝になるだろ。」
「ふ~ん。ま、自惚れじゃなければいいけどね。」
永一は夕食の調理の片手間で風呂掃除を終えた黄菜子にスマホを投げ渡すと、彼女は小馴れた手付きで写真を画面に表示した。彼女の適応能力にはしばしば驚かされる。
「んー、貸本屋の鈴奈庵・・・?そんなに危険な店には思えないけど。玄光は何か知ってる?」
「(いいえ。人間、妖怪共にこの店の妙な噂は出ておりません。仲間がその婦人に食事の施しを受けたとは聞きますが。)」
「!!・・・何時の間に!?」
永一が振り向くと、玄光は黄菜子の膝の上で寝転んでいた。黄菜子もそうなのだが玄光は永一の霊感と能力を突破する。只の妖怪ではないようだ。
「でも妖力を持つ本なんてそう珍しくは無いと思うよ。本だけに限らず、古~い道具なんかには付喪神が潜んでることもあるよ。」
永一は先日の神玉騒動を思い出し震えた。神の名はあれど、あれはどう見ても妖怪である。
「他には、製本に妖怪が関連している本とか。ほら、魔導書(グリモワール)って言葉ぐらいは聞いた事あるでしょ?後は妖怪の手紙とか小説。一見普通の本でも古い妖怪が封じられてたりもするし。とにかく、そう言う本を総じて『妖魔本』って言うんだよ。」
「妖魔本・・・。」
妖魔本とは、主に昔の妖怪が作成・執筆した書物を指す。古典、手紙、魔導書など種類は様々だが、本来は人間の持ち物ではなく、更に数が少ないが故に稀覯本と呼ばれる。しかしその大半は人間には文字すら読む事が出来ず、供給はもちろん需要も無い。
「解読に凝ってた時もあったっけ。懐かしいなぁ。」
「(何日間も動かない時もありましたね。その度に猫たちが大騒ぎになったものです。)」
「久々にまた読んでみようかな~」
「(お止めください・・・)」
永一に玄光の言葉は判らないが、玄光の嫌そうな表情はわかった。一本次元を超えた内容である事は間違いない。
「今言った中で言うと妖怪が封じられてるってのが近い気がする。と言うか、妖怪が封じられてるような本が普通の人の手元にあったら不味いだろ。」
「う~ん。封じられてるってのは語弊があったかな。永一が見たのは『死んだ妖怪』を記録した本、言いかえれば妖怪の墓だね。実は、この手の妖魔本が一番多いんだよ。妖怪にとっての死は人間に忘れ去られたり存在を否定される事。でも裏を返せば・・・」
「その妖怪の存在が再認識されるようなことがあったらその妖怪は復活するって事か?」
「そう、永一君に座布団一枚!その手の妖魔本はある意味、一度は死んだ妖怪を復活させる為の物、とも言えるね。」
「もしあの店が妖魔本を意図的に集めているとしたら・・・。」
永一は相槌をしながらご飯を盛りつけるとあらかじめ卓上に用意しておいた鍋敷きの上に鍋を置いた。鯉と味噌の良い香りが部屋を制す。この部屋に入った物は鯉濃鍋を食べる事を強いられているのだ。
早速黄菜子が取り皿ひたひたまでそれをよそった。「うまい!」と一喝。料理人冥利に尽きる。
「ま、明日確認に行ってみよう!あたしも気になるし、お仕事の予約も明日は朝の時間帯しか無いからお昼ご飯食べてからが丁度いいね。」
人間の里に来て、初めて術師らしい事が出来そうで腕が鳴る。
「ごめんください。」
玄関口からかすれた小さな声が聞こえる。少々遅い時間の来客は初めてだが依頼だけなら22:00まで受けている為不思議ではない。
自宅の玄関は前住民が残していった椅子と小さな机を並べるだけの極めて簡易的な事務所になっている。玄関は土間と繋がっている為比較的に広く、依頼の受注窓口や待ち合い室はこの空間だけで事足りているのだ。
永一がどうぞと応答すると、客はゆっくりと玄関に入って来た。客は立派な着物を来た貫禄のある老人だった。髪は抜け落ち、眉も長い髭も真っ白でかなりの歳に見えるが、背筋が伸び杖も突いていない。晩秋の暗い道を一人、里外れのここまで徒歩でやって来れるのだからかなりパワフルな老人に違いない。
永一は紫から貰った羽織袴に袖を通すと接客に応じた。袴は仕事着として営業中は必ず身に着けている。
「いらっしゃいませ。猫の手をご依頼ですか?」
「儂は稗田家の者じゃ。少々現し世の知識を貸して頂けないじゃろうか。」
「はい、何でもさせて頂きます。現し世の知識と努力でお客様を満足させるのがうちの看板ですから。」
「これは頼もしい。では、午後の4時頃、稗田邸にお越しくだされ。ではまた・・・。」
「里までお送りしましょうか?」
「いえいえ、お心遣いだけ頂戴致しましょう。」
老人は一度お辞儀するとゆっくりと帰っていった。
いざ夕食の続き、と思った瞬間、威勢のいい「ごちそうさま!」の声。急いで居間に戻った永一の前には空の鍋と寝そべるうわばみの姿が対比するかのように並んでいた。
お返しにあらかじめ炊いてあったご飯と溶き卵を鍋の残り汁に投入しておじやを作り、シメだけに見せしめに喰い尽くしてやった(結局は彼女の全力謝罪に根負けして少しだけ食べさせた)。
お腹いっぱいでいい気分の二人。ただ、それを破壊するかのように胡散臭い悪魔は永一をスキマに飲み込んだ。
「ごきげんよう、永一。今日も嘘の加担に来たわよ。」
しかし、悪魔との契約は自業自得だったのである。
――鈴奈庵
「・・・やっぱり昨日の通り、変な店だなぁ。」
「んまあ、それは納得かな。看板の『庵』が傾いてる所とか。」
「そっちかよ。」
相変わらず気の抜けた会話ではあるが今日の二人は戦闘体勢ではある。黄菜子さておき、永一は昨晩の術の修行を紫に頼んで霊符の作成に変更してもらった事が功を奏し、彼女直伝の強力な霊符と護符を用意できたのだ。対妖怪の戦力も意気込みも十分である。
そして二人は怪しく揺れる暖簾を押し魔境へと潜入した。
暖簾に付いていた鈴の音が鳴ると同時に「いらっしゃいませ。」という店番の少女の声が聞こえた。それに対して軽く会釈するとそそくさと本棚の奥へ身を潜めた。店内は案の定、色々な力が渦巻き、それに引き寄せられたのか、はたまた沸いたのかも判らぬ精霊や弱い神霊がそこかしこに漂っている。数こそ多いがこの程度霊なら彼が出口に向けて少し霊力流を作ればそれに従って流れていくだろう。しかし今日の目的は店の換気ではなく、至って普通の客を装い店の素性を明らかにする事だ。
永一が本棚の影で様子をうかがっていると、黄菜子が近くに積んであった本を手に取るり目を輝かせて激情した。
「永一、すごいよ!!!ネクロノミコンだよ!!!しかも第一漢字の写本、これなら読めるかも!ああ・・・まさかこんな所で出会えるなんて・・・。」
黄菜子のこの表情は空腹からの夕食の時ぐらいしか見ない。喜ぶのは良いが入店30秒で潜入の型を破っていくのは止めて欲しい。
「――黄菜子、自重しろ。よくわからんが今は潜入調査してるんだぞ。」
永一が小声で注意すると、
「よくわからない!?こんな稀覯本を目の前にして平然としてられる神経が判らないわ!!」
と大声で反論された。その声を聞きつけてなのか、店の奥から少女がやってくるのが見えた。
「君、ネクロノミコンなんてよく知ってるね。」
ターゲットに話しかけられてしまった。永一の計画は台無しである。とりあえず挨拶代わりとして愛想笑いに一度のお辞儀を添えてみた。
「何かお探しですか?うちは外来本から子供の絵本まで幅広く取り扱ってますよ。」
「あたしたちね、珍しい本を探してるの。」
「へぇ、どんな本かな?」
黄菜子は暴露確認の為なのか永一の方へ振り返った。
目が合った。彼の「やめろ、はやまるな」のサインは苦しくも彼女の鋼のようなすっとぼけた表情に弾き返された。
「妖怪の事が書いてある本が見たいの。例えば、妖魔本・・・とか?」
黄菜子の目はまっすぐだった。それに対し彼は穏やかな表情のまま静止した。怒りはなかった。むしろ彼女の素直さに称賛し、圧巻されていたのかもしれない。人はそれを諦めと呼ぶ。
「・・・お客さん、お目が高いですね。もちろんございますよ!どうぞ、こちらへ。」
少女の表情は急に明るくなり、楽しそうに二人を店の奥の机まで案内した。すると引き出しの古い本や巻き物を全て机上に放り出しにこにこ笑顔で黄菜子に目を向けた。向けられた方はというと、机上に広がる宝の山に釘付けである。
一方、永一はその宝の山を見るなり一瞬口をへの字にし溜め息を吐いた。
「・・・あった。」
黄菜子の言う通り、妖魔本こそ彼が感じた妖気の正体だった。彼はその一帯を行き交う奇妙な妖力に圧されそうだった。
少女の名前は本居小鈴。この貸本屋の娘で自称、幻想郷一の妖魔本コレクターだという。その自己紹介と腑抜けた表情によって、永一の心配は完全に杞憂に終わったのだった。
「すご~い。よくこんな稀覯本をいっぱい集められたね!」
「いや~それほどでも・・・あるかな!」
永一からすれば、ここまでに感じた危機感と若干の期待を返してもらいたいものである。「よくもこんな本集めてくれたな」という台詞は心にしまっておいた。
「この類の本は集めると危ないかもしれないよ?例えば、この本なんて妖怪化してるし・・・」
「おお!永一さん、よく判りましたね。これは付喪本という本で、本に憑いた付喪神が妖怪化したものらしいわ。」
と、小鈴はその本についての解説を始めた。それを半分聞き流しながら彼は適当に手元にあった本を捲ってみたが、昨夜の黄菜子の話の通り一文字も読めない。小さな子供が描いた意味不明な落書きを集めて羅列したような書物に、何故眼前の少女たちはここまで夢中になれるのか。彼から見れば妖魔本の奇々怪々な文字よりそちらの方が難解である。同じ机上に置かれたレコードの音色に疲れた心を委ねながら小鈴に問う。
「小鈴ちゃんも黄菜子みたいに解読するのが趣味なのか?」
「解読?」
他愛も無い質問に小鈴は首を傾げた。永一は彼女が質問に対して詰まる理由が分からなかった。今までしていた本の解説では確かに、読んでいないと分からないような内容の核となる部分も話していた。
「読んでないの?あたしもてっきり解読するのが趣味だと思ってた。古代天狗文字とかゴエティックなら少しは読めるし。」
「解読して読んでるの!?…黄菜子ちゃんって・・・何者?」
「只の勉強家だよ!」
驚く小鈴に永一が「強欲な」と付け足すと勉強家に思い切り足を蹴られた。
「じゃあ、小鈴お姉ちゃんはどうやって読んでるの?」
「それはね……」
小鈴は本を開くと書面に手を置いた。その時、永一の目は彼女の手、否、本から剥がれるように立ち上る煙のような妖力を捉えた。それこそ、昨日彼が見た妖力霧の正体だった。
「例えばこれは鉄草、”刃のように鋭い葉を持つ草で地獄全域で見られる多年草”って書いてあるわ。」
阿然として小鈴を見る二人に彼女は少し困っているようだった。
「最近目覚めたのよ、こういう力に。」
「あれは、小鈴ちゃんの力だったのか。」
「え?」
二人はこれまでの経緯、そして今日この店に来た理由を彼女に話した。
「なるほど、最近噂に聞いた陰陽師って永一さんと黄菜子ちゃんだったのね。」
「ごめんね小鈴お姉ちゃん。騙すつもりは無かったんだよ。でも本が大好きなのは本当だから。」
「ううん、全然気にしてないよ。むしろ本好きの友達が出来て嬉しいわ。」
「大事じゃなくて本当に良かった。妖怪に取り憑かれてたら危険だからね。」
妖怪騒ぎを解決し、陰陽師としての名声を得ようと思っていたとは口が裂けても言えない。
「でも永一さんにこんな力があったなんてねぇ。しかも外来人ときた。これは阿求が黙ってないわね。」
「阿求?」
チリン・・・
暖簾の鈴が鳴る。振り返ると、いかにもお嬢様という感じの少女がこちらへ向かってきた。よく見ると昨日、魔理沙とぶつかってた少女である。
「いらっしゃいま・・・あら、阿求。」
「今日は『なんだ』じゃないのね。これ、残りの本。」
どさりと数冊の外来本の雑誌を机に置くと、本棚近くのアンティークなソファに腰掛け退屈そうに脚を組んだ。
「確かに、これで全部ね。」
「小鈴に来客なんて珍しいわね。あんた友達少ないから。」
永一は無害そうな少女の口から放たれる魔槍のような猛毒舌に震撼するのを感じた。だが当の小鈴は大して動じる様子が無いのがますます恐い。
「さっき丁度阿求の話題に触れた所だったのよ。」
と小鈴が紹介しているのをよそに、上の空の者が一人。
「あ・・・あの。貴女が九代目阿礼乙女、稗田家当主の阿求先生・・・ですか・・・?」
黄菜子はいつにもなく声を震わせて問う。阿求が少し引き気味で肯定すると一点、黄菜子は目を輝かせて彼女の手を取り勢い良く握手した。
「幻想郷縁起、読みました!あたし、先生の大ファンなんです!!」
「え・・・ええ。ありがとう。」
永一は取り乱した黄菜子の手から阿求を解放し注意すると一度謝罪した。気持ちは分かるが阿求のその分かりやすい愛想笑いもその辺にしてやって欲しい所である。
「聞いて驚かないでよ?永一さんと黄菜子ちゃんはなんと、現し世から来た外来人なのよ!」
「ええ、知ってるわ。」
小鈴には先の毒よりこちらの方が数段堪えたようだ。すると阿求は永一と黄菜子の顔を見てにこりと笑い丁寧に挨拶した。
「初めまして。お二人の事は聞いていますわ。改めまして、私は九代目御阿礼の子、稗田阿求です。」
「え、じゃあ貴女がこの後の依頼の?この後はよろしくお願いします。」
その時、背後から射られた痛い視線が永一の背に突き刺さった。
「永一、依頼なんて初耳なんだけど・・・」
「ああ、ごめん。色々(鍋のシメ作ってた)あったから言い忘れてた。」
「馬鹿なの!?仕事のほうれんそうを怠るなんてありえない!!」
「ほうれん草?」
「報告、連絡、相談の総称、常識でしょ!ていうか永一、最近生活が軌道に乗り始めたからって調子に乗ってない?」
「とりあえず、報連相(報酬(食事)・連絡・相談)は出来てるんだから許せって。」
「は?」
「・・・すみません。」
そんなやり取りを苦笑いで見る少女二人に彼は愛想笑いした。
「・・・少し早いけれど、もし良ければ私の屋敷に来てくれるかしら?ここでは少し狭いかもしれないので。」
流石の小鈴もこれには口を尖らせた。ただ何とも言えず的を得ているので「居心地は良いですよ」とフォローしておいた。
出発前に騒がせたお詫びも兼ねて、一冊だけ本を借りていく事にした。黄菜子が選んだ本は勿論「ネクロノミコン」。詫びにしては高額だった。黄菜子に選ばせたのが間違いだった、という後悔は先に立たない。
依頼の内容を聞いて外来本を多く取り扱う貸本屋の娘が興味を持たない訳も無く、屋敷には四人で向かうことになった。その道中で小鈴が「妖魔本、流行ってきたのかしら」と言ってきたので「それは無い」と永一と阿求は即答で否定した。なんでも午前中、霊夢と魔理沙が妖魔本を見るために訪ねてきたというのだ。恐らく、二人も永一、黄菜子と同じような理由で来たと思われるが、なんとなく黙っておいた。
それから少し歩いていくと塀が真っ直ぐ長く続く道に出た。大きな迷路のように複雑な道が多い人間の里にしては珍しい真っ直ぐな一本道。これ程に妙な圧迫感は初めてだが、なんとなく予想は付いていた。一行は塀の長さに相応しい大門の前で止まった。
「ようこそ。ここが私の屋敷です。ゆっくりしていってくださいね。」
外周を歩いて把握した広大な敷地。そして門の奥に見える大豪邸はその周りに広がる日本庭園に映え、偏に京都の国宝をも彷彿とさせるような荘厳さを感じる。
広い玄関に屋敷の小間使いが主とその客人をその人数以上で出迎えた。
流石に引き気味の永一だっだが、よく見ると以前からの友人且つ得意先でもある小鈴ですら慣れないようだ。
彼らは小間使いの案内で、人数に対して十倍は広い大広間に通された。
「・・・・・・大層なお屋敷ですね。」
「相変わらずね・・・」
庶民感覚は小鈴と合っているようだ。永一は屋敷の空気に圧され畏まっているが、その対称に黄菜子は如何にも慣れているかのように平然としている。
その時、トントンと畳を叩く音が近づいて来た。
「みゃあ」
(あ、猫だぁ)
音の方向には一匹の黒い猫がいた。手入れが良く行き届いているようで、毛並みの美しさは黄菜子といい勝負である。黒猫は永一と目が合った瞬間、全身の毛を逆立て低い唸り声を上げた。それに気づいた阿求が「はっ」と声を上げた時にはもう遅く、甲高い鳴き声を上げながら彼目掛けて飛び付いていた。
「やめろ!痛い、痛…痛だだだだだだ!!!!!!」
飛びつくだけでは飽き足らず、今度は牙に凄まじい殺意を込め彼の腕に思い切り噛み付いた。防御の為、咄嗟にかざした腕だったが、逆に防御される側、そして患部へと変わった。
「こら!止めなさい!」
阿求が猫を引き剥がそうと掴みかかるが、逆に牙が食い込み痛みが襲う。そして距離を取る小鈴。
猫一匹に苦戦する人間たちに痺れを切らしたのか黄菜子は惨状に近づき一言呟く。
「だめだよ。」
―そこのお前。―
その瞬間、猫はピタリと動きを止め、素直に阿求の腕に捕まった。
「あたし、貴方のご主人様に用があるの。だからここは今、私の縄張り。わかった?」
―この者は私の使い、お前の主を傷つける事は無い。それともこの私と知っての不敬であるか?―
黄菜子はにっこり笑って言った。すると猫は阿求の腕から解放されるなり尻尾を地に付くほど下げながら一目散に逃げ去った。
一体何を聞いたらここまで怯えるのか、猫のみぞ知る言語である。
「永一さん、大丈夫!?怪我してるじゃない!誰か、手当てを!」
すると数秒も待たずに二人の女中が救急箱を持って走ってきた。幸い怪我は歯形が付く程度で済んだのだが、女中はご丁寧に消毒と包帯を巻いてくれた。
「ご免なさいね、普段は暴れないのだけど・・・。それにしても黄菜子ちゃん、貴女、猫と会話出来るの?」
「うん!動物ならなんでも意志疎通できるよ。」
「驚いたわ。まさか聞き耳頭巾の力を持つ人間がいるなんてね。」
阿求はすっかり黄菜子に興味深々である。永一は傷がヒリヒリと熱を帯びるのを感じつつ気を取り直して席に着いた。
──数分後・・・
「それでは、いろいろ聞かせてもらいますね。」
「はい。でも、メモ・・・もとい、記録などはなさらないのですか?予定では夕方まで掛かると聞いていますので。」
「ええ、私は一度見聞きした事は忘れませんので。あと永一さん、もう少し力を抜いた方がいいわ。黄菜子ちゃんを見習ってね。」
阿求が持つ能力、求聞持の力とは一度見聞きした物事を忘れない稀代の記憶能力である。
「ありがとう。でも、仕事との切り替えの為、敬語は使いますね。」
永一は最近は人前で話す事が多かったが、改まって説明するとなると相手が少人数だろうと最初は若干緊張した。
それからは時間が経つのが早かった。阿求からの質問に永一が答え、黄菜子が補足し小鈴が笑う。仕事というよりも雑談だ。
彼は幻想郷に来てから運命ほどに曖昧で気まぐれな物は無いと切に思う。土御門永一の人生は神より受けた力によって散々苦しめられた。しかし今はその忌み嫌っていた力がきっかけでこの世界に立っており今に至るのだ。
雑談でこれ程まで自分の話をしたのは初めてだった。人といて楽しいと思ったのも久しぶりだ。もし彼が普通の人間だったのなら当然のような経験で、当たり前の日常として処理されていたのだろう。こんな他愛も無い事に価値を見出せる日常こそ、人間として一番幸せなのかもしれない、と彼は一瞬一瞬を噛み締めるのであった。
気が付けば日は低く沈んでおり、辺りはかなり薄暗かった。
「そろそろお開きにしましょうか。」
「本当だ、もうこんな時間。読書と駄弁ってる時の時間は一瞬で過ぎるよね。」
「駄弁ってるって・・・一応仕事だったんだけどね。」
永一と黄菜子は今、仕事だったことを思い出した。小鈴の言う通り、時間の流れは楽しいほど音速で過ぎていくものである。
「いろいろ参考になったわ。過去に外来人から聞いた話の何倍もね。」
「いえいえ、お役に立てたなら光栄です。」
駄弁っていただけで仕事になっているのだからいい仕事である。
「そういえば二人は幻想入りしてきたばかりで戸籍と住民票の登録がまだじゃない?」
「まだしてないです。やはり幻想郷にもあるんですね。」
「幻想郷でも戸籍や住民票の登録は重要な物よ。里の記録になるだけではなく、それが人間である証明になるの。戸籍は元々あったけど、過去に人間に化けた妖怪が里に潜んで人を襲ったという事件があって、その時から住民票も登録するようになったらしいわ。その事件の時、『阿求』は存在していなかったから言伝だけどね。」
「?」
永一には変な言い回しだと思いつつも最後の言葉の真意は理解できなかった。
「発行の手続きをするから永一さんと黄菜子ちゃんはこちらに来て。」
「なら私は先に帰ってるわ。じゃあまた――」
その時、阿求は帰ろうとする小鈴の首根っこを掴んだ
「ダメよ。夜道は危険だから。すぐ終わるから小鈴は玄関で待ってて。」
「はいはい。全く、あんたってこういう所はお節介よね。」
小鈴は少し口を尖らせながらも阿求のお節介には感謝していた。
阿求は二人を屋敷奥の部屋まで案内すると、その襖に手を掛けた所で動きを止めた。
「永一さん、黄菜子ちゃん。貴方たちは本当に人間なのよね?」
永一は阿求の探りに悪寒が走った。急に土御門家のトップシークレットに触れるのは反則が過ぎる。
「急にどうしたのですか?」
「簡単な確認です。里の人間であることの証明書を作るのですから、この確認は絶対事項なのですよ。里には妖怪もいるようですが、あくまでも人間の里は人間の土地。妖怪が居城を持つ事は許されません。」
「な、なるほど。でも、そんなに心配する事なのでしょうか?妖怪も全員が悪ではないのでは無いでしょう?」
「永一さん幻想郷に来たばかりですから、そう考えるのも無理はありません。ですが・・・」
その時、阿求の表情が一変した。その氷のように冷たい威圧に恐ろしさすら覚えた。
「幻想郷において妖怪は人間の敵。そういうルールという名の真実の中で社会は動いているわ。このルールが破られた時、この世界のバランスは崩壊する。それを踏まえてもう一度問います。二人は人間ですか?」
彼女に圧されながらも永一は即答出来ずせめてもの場繋ぎを図っていた。彼は幸いにもポーカーフェイスは得意だったが残念ながら嘘は苦手である。
とうとう圧に負け真実を吐いてしまいそうになったその時、何故か急に精神が楽になるのを感じた。一種の臨界を突破したのかと不思議に思っていると、胸に黄菜子のオーラが突き刺さっている事に気づいた。霊力とも妖力とも分からない謎の力に驚く最中、彼の背後にいる黄菜子の声が響いた。
「当然。あたしは『人間』の土御門黄菜子。永一の妹で絶世の美少女!なんちゃって。」
「は、はぁ・・・。」
ぽかんと口を開く阿求。黄菜子のテンションに彼女の圧が破られた瞬間であった。この空気の中でここまで堂々と嘘を付けるのは最早才能の域である。
「なら、問題ないわね。ではこちらへ。」
襖を引くとその先は彼女の書斎だった。何とも言えない雰囲気が漂い、それが逆に違和感であった。本棚を初め部屋の至る所に新古様々の書物が積まれている。はっきり言って、ここは「図書館」とは呼べても「女の子の部屋」では無かった。
阿求は机の上に置かれたランプに火を灯すと、棚の引き出しから二種類の書類を二枚ずつ出し目の前の机の上に並べた。
「これが住民票でこっちが戸籍。印鑑は無いでしょうから要項を埋めて下されば結構です。机と筆は一つしかないから、そうね・・・黄菜子ちゃんから書いてくれる?」
その時、永一は阿求の何気ない言葉に何故か引っかかった。何故わざわざ指名する必要があったのか。妙な胸騒ぎに彼は動いた。
「俺はボールペンを持っているのでその点は大丈夫です。戸籍の書類、貰いますね。」
彼はそそくさと書類を回収し確認すると、恐ろしい事が分かってしまった。この紙切れは一見普通の書類に見えるが、触れた瞬間に妖怪を縛る強力な術が仕込まれているのだ。術にはまだ疎い彼が何故一瞬で気づけたのか。それは自分が用意した護符と瓜二つの術だったからである。まさか護符がこんな場面で役立つとは露ほどにも思わなかった。その上周りをよく見ると、壁や天井にまで対妖怪用の術が込められており、人間に紛れ込まんとする妖怪を迎撃し絶対に逃がさない設計になっている。この部屋に入った瞬間感じた妙な違和感の正体である。発動のトリガーは書類の術の発動である。阿求は最初から黄菜子を妖怪だと疑っていたのだ。
「黄菜子!」
「何?」
永一の指摘は一歩遅かった。黄菜子は返事をしながら書類にガッツリと触れ、自分の目の前へと手繰り寄せていた。
青ざめる永一に対して黄菜子は彼の表情に不思議そうな顔をして硯に小筆を付けていた。
「・・・言う事ぐらい整理してから話しかけてよね。あ、もしかして変顔のつもり?面白い面白い。」
黄菜子はそう言い流しながら書類の上に小筆を滑らせた。その達者な筆捌きを見ながら永一はしばらく固まっていたが、書類の術は当然、部屋に施された術も発動されることはなかった。逆に、何故発動しなかったのか不思議ではあったが、兎に角今は安心しておいた。
「阿求さん。折角なので俺も筆で書いても良いですか?外来品は壊れやすいみたいです。」
「ええ、いいですよ。」
阿求の笑顔には少し驚きが混ざっていたが、心なしか安堵しているようにも見えた。
――人間の里・夕方
「今日は楽しかったわ。良かったらまた現し世の事を話しに来てくださいね。」
「じゃあその時は何割か貸し本のサービスして貰おうかな!」
「もし黄菜子ちゃんがうちの常連さんになってくれるなら、そのくらいのサービスはしてあげるよ。」
「む・・・まさかこう来るとは・・・。じゃあ毎日行くしかないね!」
「(小鈴ちゃんの思うツボなのでは・・・?)」
小鈴を鈴奈庵まで送り届け、家路に着く二人。なんだかんだで無事、戸籍と住民票の登録を終え、晴れて人間の里民になり、その上話しているだけで多くの報酬を手に入れられた為、最高の気分である。何処へ行っても金持ちの依頼は太っ腹でありがたいものだ。ただ、永一には所々多くの疑問が生じていた。
「住民票登録の話だけどさ、黄菜子は気づいていたのか?」
「あの紙の事?なんだか細工されてたよね。不良妖怪に人間の証明させちゃ不味いし、あれぐらいのトラップは当然だよね。ていうか、このあたしが気づかない訳ないでしょ。」
「気づいてたのか。なら尚更だけど、よく触ろうと思ったな。」
「んまあ、あたしに効果が無い事はわかってたしね。あの術は多分、生粋の妖怪か『人間が必要』な妖怪にしか効かないんだよ。多分。人間の里は人間の住処で、その他は妖怪の住処。だけど、人間でも妖怪でもない存在だっている。その人たちも出来るだけ引き入れる為のふるいが『住民票の術』。で、そのふるいで弾くのが・・・」
「人を喰うか否か・・・って事か。」
永一の脳裏に森で妖怪に襲われた時の記憶が想起した。もしあの妖怪が人間の心を持っていたとしても、里の人間から見れば恐怖の対象である。
「正解。あたしは人間を食べないから引っかからなかったって事。」
「なるほど・・・って、ちょっとおかしくないか?黄菜子は確かに人間を食べないのかも知れないけど、そもそも猫だし、妖怪化したのなら生粋の妖怪に当てはまるんじゃないか?」
「あー、それね。実はあたしにもよく分からないんだよね~。」
思わぬ返答に永一は少々困惑した。
「?・・・いつの間にか妖怪化したんじゃないのか?」
「その筈なんだけど、未だに自覚が無いんだよねぇ。て言うか、永一の『眼』でも判らなかったんでしょ?」
事実彼は黄菜子を初めて見た時から今に至るまで、妖怪の持つ妖気の流れを感じた事は無かった。オーラと言い、種族と言い、自分の式神である筈の眼前の少女には謎が多すぎるのである。
「ま、分からないものは分からないし。そんな事より夕飯どうするの?」
「あー。じゃあ今日は奮発して肉でも買って帰るか!」
「待ってた。その言葉を待ってたよ永一!」
しかし、謎の少女も彼の料理の前には只の食いしん坊へと成り果てる。永一から見ると、生意気だが自身の手掛けた料理技術を褒めてくれる可愛い同居人である。一旦、彼女の謎は頭の引き出しの隅にでもしまっておく事にした。
――稗田屋敷・書斎・深夜
阿求は書物のいつも通り幻想郷縁起の編纂作業をしていた。幾つもの人生にてライフワークとしてきた作業ではあるが彼女も人間である。座っているとは言え長時間同じ体勢でいると疲労を感じずにはいられず、仕事をそろそろ切り上げて眠ることにした。
自分を中心に散らかる本を一か所に積み上げ、机の端に置いていたランプの蓋に手を掛けた時、永一と黄菜子の書類が目に留まった。重要な書類である為に優先で処理しなければならない筈だったが、仕事が溜まっていたが故にうっかり後回しにしてしまっていた。時間が遅いのもあり今はどうすることも出来ない為、とりあえず忘れないように書類に目を通しておく事にした。
その時、彼女はあることに気づいてしまった。生年月日の記述を永一は現し世の西暦で書いているのに対し、黄菜子は幻想郷特有の紀年法を用いていたのだ。
「・・・これは少し、探ってみる必要がありそうね。」
彼女はランプに蓋を被せると書斎を後にした。闇に包まれる稗田屋敷。そこには少女の足音と着物の擦れる音だけが微かに木霊するのであった。
―To be continued―
猫の手の外来術師
土御門 永一
能力 流れを見る程度の能力
危険度 低
人間友好度 高
主な活動場所 人間の里
☆
外の世界からやってきた人間である。普通の着物に普通の反応。今まで見てきた外来人の中でも極めて特徴の無い部類に入るが、幻想郷に残ったという点では非常に珍しい気質の持ち主なのかもしれない。
最初は不本意にも神隠しで幻想郷に入ってしまったが、幻想郷の空気に見染められ移住を決意したという。その道中で妖怪に追われたり化け物茸の胞子に倒れたりした割には、人間の里外れの魔法の森近辺に住み家を置くのだから相当術の自身があるのだろう。
彼は妹の土御門黄菜子(後述)と共に、外来技術を謳う何でも屋を営んでいる(*1)。外来技術の売り文句にするだけあり仕事の手際が良いと評判で、不定期に行われる現し世閑話は壮大で滑稽な面白さがあり閑話というより漫談のようであった。
性格は極めて温厚で、外来人だけではなく幻想郷の人間の中でも聡明であり、私の知識に無い外の世界の情報を多く得る事ができた(*2)。
≪能力≫
流れを見る能力は主に術などに流れる霊力を肉眼で捉えられる、言わば発達した第六感である。
この世界に起こる全ての自然現象には必ず霊力の源流がある。術や気の流れは勿論、風や音、生き物の生死すらにも霊力循環が一端にあるのである。彼の眼にはこの世の仕組みが映っていると言っても過言では無いのかもしれない。
しかし、彼の話によると、流れを見る力はあくまでも「霊力」という括りに限られており物理的な要因や超自然的な力の流れは見えず、力の種類の見分けまでは付かないのだという。
残念ながら、生ける妖怪探知機には至らなかった。
≪何でも屋・猫の手≫
彼とその妹、黄菜子が営む何でも屋の愛称である。その由来は「人々の生活に最先端で万能な猫の手を貸す」というキャッチフレーズから由来しているらしい。
猫の手は客からの依頼より売り込みによる受注が多いという。不思議な事に、多忙を極める状態、まさに「猫の手を借りたい」ような時に目の前に現れ多忙を解消していくのだという。報酬は基本的に時間制なのだが、彼らの迅速かつ丁寧な対応により財布に優しい値段で済むのだという。
ただ、事務所である彼らの住む家は里から距離があり、忙しい時に足を運べる場所ではない。目の前に現れる事を祈るか、忙しくなることを見越して事前に予約をするのが良いだろう。
ちなみに夕方の大通りにて不定期で現し世閑話を開く事がある。その際は、彼らの前に置いてあるたらいにお金や差し入れに食べ物を入れると良いだろう。
≪目撃報告例≫
・里で店番していると兄妹で走っているのをよく見る。兄の方はいつもヘトヘトである
(豆腐屋)
外の世界では術師をしていたらしい。走り慣れていないだけだろう。
・多忙が極めて依頼をしたら妹は資材運び、兄は昼食を作っていた。普通は逆なのではないか?
(大工)
人には得手、不得手がある。これが顕著なのだろう。特に彼の場合、料理を趣味としているのもある。
・黒い板のような物を持っていた。指先だけで映ってた絵が変わって大変不思議である。
(匿名)
それは紛れもなく外の世界の道具だろう。特徴から察するに、私の知る携帯電話とは違うものなのかもしれない。
*1 同業者と思われる霧雨魔法店との関連性は不明。
*2 六町の巨塔、馬の十倍速く動く乗り物など内容は多岐に渡る。
猫の手の歩く聴耳頭巾
土御門 黄菜子
能力 動物と意思疎通する程度の能力
危険度 不明
人間友好度 極高
主な活動場所 人間の里
☆
兄の土御門永一(前述)と共に外の世界からやってきたらしい。今まで見てきた外来人の中でも秀でた才を持ち合わせ、圧倒的な会話力や行動力にて幻想郷に順応している。幼い見た目に反して極めて礼儀正しく精神も落ち着いており子供とは思えないような佇まい、更には外の世界だけに限らず博識で極め付きには容姿端麗である。もはや人間離れしていると言ってもいい(*1)。
なんでも、彼女は外の世界に住んでいた頃アメリカ(*2)に留学していて、そこで学んだ知識が多いのだとか。
兄妹で何でも屋、通称「猫の手」(*3)を営んでいる。宣伝や力仕事は彼女、家事代行や会計などは兄の永一というように、仕事における役割分担が完璧なのも特徴である。
性格は非常に明るく終始笑顔で楽観的である。読書、古典解読の趣味とするが、それとは格別に食事を人生の楽しみにしている。自らを美食家と自称し数々の料理を食べてきたと言うが、その中でも兄の永一の料理が最高峰だという。是非一度食べてみたいものだ。
≪能力≫
動物と意思の疎通を取ることが出来る。犬や猫は勿論、熊や猪、虫ですら少々の会話が可能なのである。同じように動物と意思疎通をする聴耳頭巾(*4)の話は有名であるが彼女の能力はそれとは少し異なり、「声が聞こえる」のではなく「思いが分かる」のである。サトリの能力(*5)に通じる所があるように思えるが定かではない。
しかし、私たち人間の場合はそうはいかない。彼女曰く、文明を築き繁栄を重ねたが、代償に野生を捨ててしまった結果なのだという。
≪目撃報告例≫
・黄菜子ちゃんが来ると、飼ってる猫が借りてきた猫みたいに大人しくなるの。貸してもいないのに。
(お茶屋の娘)
猫は妖力を持つ動物と知られる。彼女の力を察知したのかもしれない。
・まだ小さいのによく働くよ。俺の身の丈よりも大きな木材を軽々と持ち上げた時は驚いた。
(大工)
まるで童話の金太郎のような怪力乱神である。
・よく店に来るよ。あんなに美味しそうに食べてくれるんだから蕎麦屋冥利に尽きるよな。
(蕎麦屋)
余程食べる事が好きなのだろう。
≪対策≫
人間相手に対策をする必要はない。万民に当てはまる事だが、刺激をすれば怒るしその報復もあるだろう。彼女の場合は間違っても食べ物を奪うようなことをしてはならない。万が一、食事を台無しにしてしまうような事があったなら、詫びた後に色付きで弁償するのが得策である。
*1 あくまで私個人の感想である。
*2 外の世界の異国の地。外の世界の中でもかなり発達している国なのだろう。
*3 土御門 永一を見よ。
*4 稗田家にて所蔵。
*5 古明地 さとりを見よ。
あとがき
どうも、藻です。テスト終わってさいこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
今回は解説不要と思ったのと丁度阿求が登場したという事で、永一と黄菜子の紹介文を稗田阿求・著書風に書いてみました。絵も無いし、やっぱり本家には適わないか・・・?
あくまでも当人からの伝聞という事ですので、当然100%正しいとは限りません。二人の設定は本編にてご確認ください。この辺は二次創作に免じて多めに見て貰えると助かります(逃げ口上)
今回は後書史記を含めて過去最高文字数です。ざっと2.5倍は書きました。テスト期間の合間を縫っての執筆だったので結構大変でしたが、思ったほど時間が空かなかったので私としては満足しています。(書いてて)つまんないゾーンも抜けて楽しかったのもありますが。
さて、今回は前回のあとがきにて話した「原作に近い二次創作」の回だったのですが、どうだったでしょうか?単行本鈴奈庵や記憶する幻想郷を資料として確認し、いろいろ小ネタを挟んだつもりではいるのですが・・・。
とりあえず、これからもこんな感じで執筆していく予定でございますので御贔屓を!
では今回はこの辺で。それでは皆さん、また次回お会いしましょう!