東方陰陽録~The medium disappeared in fantasy~   作:Closterium

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第十四話 太刀、切れぬ縁(前編)

──土御門家

 

師走に入って猫の手の仕事は多忙を極めていた。仕事に追われながら東奔西走する永一と黄菜子。幸か不幸か書き入れ時に間に合ってしまった通信手段のお陰で、毎日の収入は素晴らしいものだった。

しかし、里の人々の年越しの準備が順調に進む一方で、土御門家の年越し準備は絶望的だった。

鬼門は大掃除である。この家に住み始めて暫くの間、二人は大掃除に徹していた。しかし、その範囲は数日かけても家の一階部分で精一杯だった。真の地獄が潜んでいたのは二階部分であった。

そもそも二階はおろか、階段から大惨事である。

永一は二階の利用を諦めていたのだが、黄菜子は「大掃除で厄払いしないでどうするの!」と聞かなかった。とは言いつつ、彼女も苦い表情を浮かべていた。何者にも屈しない土御門黄菜子が目の前のガラクタの山に屈しようとしているのである。

 

「ということで、私が呼ばれたのね。」

 

「本当に助かるよ、小鈴ちゃん。乗ってくれる人が君しか居なかったんだ。」

 

土御門家の前には頭巾と割烹着を来た小鈴の姿があった。家の前の住人が残した書物を上げる約束で手伝いを頼んだのである。

 

「二人のお願いなら私だけってことも無さそうだけど。『猫の手の兄妹』って最近話題でしょ。」

 

「里のみんなも師走の書き入れ時で人手が少ないんだよ。だからあたしたちも『猫の手を貸す』けど、そのせいで忙しいから家の事が出来ないんだよね……手を貸す猫借りること叶わず、だよ。だから一年を通して売り上げが安定した貸し本屋の小鈴お姉ちゃんしかいなかったの。」

 

「現し世の人でも大掃除は大変なのね。でも、お姉ちゃんが来たからにはもう安心よ!今日1日だけでどんな部屋でも綺麗にしてみせるわ!」

 

そう意気込みながら家に上がった小鈴だったが、

 

「これは……何……?壁?」

 

「……階段です。」

 

思わず絶望を表情に現すのであった。

 

 

──数時間後……

 

三人は壁の階段の者の撤去を終え、二階の廊下部分の掃除に入っていた。

幻想郷では可能な限りリサイクルし、廃棄物を極限まで少なく抑えるのがマナーである。

現し世では粗大ゴミとして廃棄される二本足の机は分解して薪にし、穴の空いた鍋は後で金物屋へ持っていき修理するつもりである。

ただ家の収納は充実しており、空いた本棚に書物を入れたり、雑多に詰め込まれた押し入れも整頓すれば倍以上の物が仕舞えた。

そしてようやく、階段部分の掃除が完了した。

そして露になった二階。まず、部屋に辿り着くまでに小一時間はかかった。

永一はやっと辿り着いた部屋の襖に手を掛けた瞬間、絶望する気がしたので昼食の提案をした。

 

「ご馳走さま。悔しくなるぐらいにご飯美味しかったなぁ。」

 

「永一の唯一の取り柄だからね!」

 

「唯一は余計!とはいえ、喜んで頂けたなら光栄だよ。」

 

「でも片付けが終わる未来が見えないわ……」

 

三人は苦い顔になった。

 

「奇遇だね、俺もだよ。」

 

「……とりあえず、満腹になったことだし、片付けの続きしよっか。」

 

三人は階段を上ると、先程辿り着いた部屋の襖を開いた。

その部屋を見たとき、三人は思わずぎょっとして身を引いた。

部屋の壁や床、置かれている道具には凄まじい枚数の札が無造作に貼られていたのだ。それも一枚一枚貼られたのではなく、ばら蒔かれたように滅茶苦茶で極めて不気味だった。

永一は恐る恐る一枚の札を拾い上げた。札には只の道具に貼り付けるには強力すぎる封印術が込められていた。

黄菜子は平常心を保っていたが、小鈴の方はそうもいかない様子であった。

 

「ラ……ラッキー!貴重なお札ゲットだぜ!」

 

小鈴はポカンとして永一を見た。場を和ませる為に発した言葉だったが、どうも狙った方向には行かないのである。

彼は部屋の四方に護符を施すと、床や壁に無駄にくっついている札を回収した。

散らかっていた札が彼の手中に集まる様は小鈴から見ると手品のようでもあり、彼の掌に厚い紙束が出来た時、彼女は盛大に拍手を送った。

しばらくして、雑巾を絞りながら小鈴が言った。

 

「この部屋……何というか、今まで掃除してきた所とは違った雰囲気を感じる……凄い妖魔本が眠ってる予感がするわ!」

 

「それはどうだろう。壊滅的に散らかってるとはいえ元々一般家庭だしね。30年前のままだろうから珍しい本ならあるかもしれないよ。」

 

「小鈴ちゃんの予感。あながち間違ってないかもよ?この部屋は前の家主が『曰く付きの道具』を保管していた部屋だからね。」

 

「えっ!そうなの!これは探しがいがあるわ!」

 

永一は唖然とした。

何を考えているのか、黄菜子が爆弾発言をしたのだ。彼女の言うことは本当だろう。現にこの部屋の所々に不穏な霊力が溜まっている様が永一の目に映っている。

妖魔本は本来危険な物だ。当然人間が持っていても良いことなど無いだろう。小鈴は友人だが、そんな代物を好き好んで集めている変り者だからこそ注視している。それなのに黄菜子は危険の元凶たる妖魔本の在処をばらしてしまったのだ。

それとも何か考えがあっての事なのか。

 

同時刻、黄菜子は脳内で策を進めていた。

妖魔本の在処を教えたのは当然だがミスではない。あえて事実を伝えることで部屋にある本に特別性を持たせ、普通の本を渡しやすく出来ると考えたのだ。

 

「……?これは何かしら?」

 

一方、小鈴は部屋の隅に転がっていた薄い板状の何かを引っ張り出してきた。それは白い布でぐるぐる巻きにされ、長さは二尺ほどあるのに想像以上に軽い。

 

「呪われた卒塔婆だったりして……」

 

「違うと思うよ。確かに木製っぽいけどさ。」

 

永一は板を持ち上げたところ、板が全くしならない事に少し違和感を感じた。不思議ではあったが、その時は全く気にも止めなかった。

板を調べていると、裏側に札がくっついていた。取り残しの札かと思い、いつも通り術を無効化させ札を剥がした。

 

その時、部屋に冷たい風か吹いた。

 

「うう~寒い~。」

 

黄菜子はそう言うと身震いさせた。木枯らしが吹く時期である。部屋の窓から風が吹き込んだのかと思い窓を確認したが、窓は一寸も空いていなかった。

手元の板に目を向けると、あれだけ強固に巻かれていた布がヒラヒラと解けていた。

 

「え、永一さん。これってもしかして……」

 

「刀……だね……」

 

板の正体は一振りの刀身だけの太刀だった。

驚きを隠せない黄菜子と小鈴だったが、永一は驚きを越えて絶句していた。

太刀は木の板と勘違いする程に軽く薄い。力を込めればすぐに折れてしまいそうなくらいだが実際は全くしならず、木とは対照的に金属のような冷たさもあった。

太刀は鏡のような光沢を放ち、刃紋は日の光に当たると真珠のように淡く輝いた。

 

「とりあえず物騒だし仕舞ったら?それに掃除もしなきゃだし。」

 

永一は黄菜子の指摘でようやく我に返った。元々巻かれていた布を巻こうと試みた。しかし一周巻く度に布は刃に当たり、一切の抵抗もなくはらりはらりと切り刻まれていった。

結局布は使い物にならなくなり、彼はこの部屋で回収した大量の札で刀を覆うと、更に壁に張り付けて封印(物理)した。

 

 

──数時間後

 

「今日はこんなもんだな。小鈴ちゃん、お疲れ様。」

 

長かった掃除も一区切り付けられるところまで進んだ。この一日で階段と二階の一部屋と廊下が半分が片付いた。地獄の廃棄物置き場から絶望の散らかり様まで昇格した。

 

「お疲れ様。さてさて小鈴お姉ちゃんはどんなどの本が欲しい?あたしのおすすめはこの辺だけど。」

 

黄菜子はそれとなく誘導していた書物を並べて見せた。古そうな書物ばかりだが、当然どれも妖魔本ではない。

 

「おおー、どれも気になってた書物ばかり。でもごめんね、もう心に決めた本があるの。」

 

「えっ!?」

 

小鈴は一巻の巻物を見せた。黄菜子はそれをまじまじと見た。

 

「『私家版 百鬼夜行絵巻 最終章補遺』?百鬼夜行絵巻なら読んだことあるけど、そんなのあったかなぁ?」

 

「無いからこそ欲しいのよ!この書物から出る痺れるような雰囲気……たまらないわ!」

 

黄菜子は永一に耳打ちで「何か見える?」と問う。

彼はじっくりと見てみたが、どう見ても古びた書物が古びた紐で結ばれているだけであった。

 

「うん。いいよ!掘り出し物だったらいいね!」

 

「やった!黄菜子ちゃんありがとう!早く帰って早速読まなきゃ!二人とも、お邪魔しました~」

 

小鈴は居間から走り去って行った。

 

「もう暗くなるし、門まで送って行こうか?」

 

永一が呼び止めようとした時には小鈴の姿は米粒に見えるほど遠かった。この速度なら日が沈むまでに里まで着けるだろう。

それにしても、掃除の疲れが吹き飛ぶほど良い書物だったのだろうか。

 

 

──人間の里・門外の田園地帯

 

「はぁ……はぁ……流石に興奮し過ぎたわ……」

 

小鈴は休憩がてら田んぼ道の岩に座った。

 

「そうだ。折角だし、少しだけ貰った本を読んでみようかな。」

 

小鈴は紐を解こうと結び目をつまんだ。しかし、かなりキツく縛られているせいで全く解けない。強情な紐に対して彼女も熱が入る。力任せに引っ張った結果、遂に紐は途中で切れてしまった。

 

「あっ……巻物は傷つかなかったし、まあいいか。……フフフ。それにしても、こんな掘り出し物が手に入るなんて……また掃除の手伝いを頼んでくれないかなぁ。」

 

小鈴は少しだけ巻物を開いてみた。

解いた紐が何枚もの強力な護符を束ねて編んだ物だとは誰にも知るよしは無かったのだ。

 

 

──土御門家・台所

 

「!!!!」

 

永一は不意に持っていた鍋を落としてしまった。居間で寝そべっていた黄菜子はその音に驚き、その状態のままで一瞬浮遊した。

 

「あーびっくりした。気をつけてよね。」

 

「あ……気を付けるよ。」

 

「……どうしたの?」

 

「いや、小鈴ちゃんが持っていった巻物が気になってさ。」

 

「『私家版 百鬼夜行絵巻 最終章補遺』の事?永一が見て何も無かったなら大丈夫じゃないの?」

 

「そうなんだけど、あんなに古い巻物なのに『何も無い』のは不自然だと思ったんだ。付喪神の成り損ねぐらいはいてもおかしくない。『札よりも強力な術』で完全に無力化されてたから見えなかったんじゃないか……?」

 

永一はますます考え込んでしまった。

 

「百鬼夜行絵巻のオチは太陽が出て悪霊退散。その続きは只の蛇足よ。二次創作にここまで考え込むこともないよ。」

 

「そうなのか……?」

 

相槌を打ちながら永一はまな板にネギを並べ包丁を入れた。

永一の料理は上手い。しかし、料理器具の主役とも言える包丁は何もかもが最悪である。

その証拠に今切ろうとしたネギは皮一枚残して切り損ねている。

それもその筈、刃こぼれ、欠けは許容範囲だが、包丁自体が変形しているのだ。

彼が現し世で生活していたとき包丁は毎日研いでいたが、ここまで酷い状態の包丁は使える状態に戻すまで凄まじい時間がかかる。かといって新調したり研ぎ師に依頼するとかなりの費用がかかる上に研ぎ終わるまでの数日間、料理に包丁を使えないのである。

よって泣く泣くこのなまくら包丁を使っているのである。

 

その時、彼の脳裏にある思惑が浮かんだ。彼は早速二階に向かうと刀の封印(物理)を解いた。

 

「……何やってるの?」

 

「料理。」

 

「じゃあこれは何?」

 

「包丁。」

 

永一は刀を構えると慎重にネギの腹に刃を当てた。日本刀は包丁と違って引き切らなければならない。少しコツがいるが、変形包丁との死闘に比べればおちゃのこさいさいである。

案の定、凄まじい切れ味の前にネギは音もなく切断された。

 

「すげぇ……」

 

「何が?」

 

「ネギが切れる。」

 

「それは良かったね。」

 

黄菜子はグルメだが、料理の過程には微塵も興味が無い。

そこで、永一は閃いた。

 

 

──人間の里・鋳掛屋 早朝

 

鋳掛屋とは、鍋やヤカンなどの金物の修理をする店である。

技術発展による大量生産により現し世では衰退した職業だが、人間の里では豆腐屋や焼き芋屋に混ざって鋳掛屋も掛け声を上げて営業し里の生活に馴染んでいる。

 

資材の限られた幻想郷は言わばリサイクル社会である。紙くずや鉄くず、生ごみですらも再利用する社会が形成されている。現し世では数千円で買える包丁も、幻想郷では数倍以上の価格で取引されるが、その代わり道具の修理を受け持つ店も多いので、結果的には買っては捨てを繰り返す現し世よりも安上がりで済むのである。

当然壊れた金物は修理してリサイクル可能だ。二人は先日の大掃除で見つけた使えそうな金物を持参して修理を依頼しに来たのである。

 

「おう、御兄妹。見たところ鋳掛けか?わざわざ店まで来てくれたんだから新品以上にしてやらないとな!」

 

鋳掛屋の主人は黄菜子が持つ鍋を見てそう思ったらしい。しかし、永一が太刀を見せると好奇心を表に出した。

 

「ほう。日本刀か。それにしても薄いな。振ったら折れてしまいそうだ。」

 

「前の住人が残していったみたいで。いい切れ味だから包丁にしてもらおうかと思って。」

 

幻想郷に鋳掛屋はいくつかあるが、この鋳掛屋は鍛冶と研ぎ師も担っているのである。店で売られている包丁は値段は高めだがその分以上に質が高く里ではかなり評判がいい。

 

「ほう。ただ、刀から包丁に打ち直すってなるとお高く付きますぜ。」

 

「ですよね。ただご主人、この刀持ってみてください。」

 

主人は永一から太刀を受け取ると目を丸くした。

 

「軽い……本当に金属なのか?」

 

「気を付けてください。切れ味も抜群なので。」

 

「ふむ……これは噂に聞く、『緋々色金』とやらかも知れん。過去に霧雨ン所の誰かが見つけたという噂があったが、結局わからず仕舞いだ。」

 

そこで永一は交渉を切り出した。

 

「この金属、欲しいとは思いませんか?」

 

「……ほう、見えたぞ。太刀を打ち直す代金を余った端材で払おうって魂胆だな?」

 

「持ってきた金物の修理費用も付くと嬉しいなぁ。」

 

黄菜子が追加で提案をした。抜け目の無い猫である。

 

「商売上手な奴らだ。乗った。ワシの名に懸けて最高の包丁を打ってやるぜ!さて、今日は随分と早いが店仕舞いとさせて貰うかな。」

 

そう言うと主人はまだ早朝なのにも関わらず看板の暖簾をそそくさと仕舞い始めた。

主人は高齢であったが、表情は少年のようにわくわくしていた。しかしその目だけは、平常通りの鋭い職人の目なのだった。

 

 

──翌日 土御門家・早朝

 

二人がいざ仕事へ行こうとしていた時、思わぬ来客が訪れた。

 

「すまない!ワシの手には及ばんかった……」

 

鋳掛屋の主人だった。何の事かと思って見てみると、主人の手には美しい白鞘に入った例の太刀が握られていた。

 

「刀?手に及ばなかったってどういう……?」

 

「そのままの意味だ。火で焼いても、金槌で叩いても形が変わらない。それどころか傷の一つも付かない。悔しいが何も出来なかった。緋々色金の伝説は本当だったようだな……お詫びと言っちゃあ何だが白鞘に納めてきた。」

 

永一は主人から太刀を受け取った。鞘の出来は素晴らしく、太刀の形にぴったりであった。

 

「それよりも聞いてくれよ!巷で噂の幽霊騒ぎの話なんだけどよ。昨日の夜、家で見ちまったんだよ!」

 

「幽霊騒ぎ?黄菜子、知ってるか?」

 

「知らない。最近は東部の仕事が多かったし。」

 

普段の黄菜子なら里の流行から些細なものまで集められるのだが、この時期は仲間の猫たちは多忙を極める為、情報の仕入れを頼まないのである。

 

「なんだ、知らないのか。ここ数日、この辺で美女の幽霊が出るって噂が流れてるんだよ。噂通りの美女だったぜ。それでいて武家の娘みたいな育ちの良い綺麗な格好なんだ。だけど気合いの入った襷掛けして妙に殺気立ってて怖かったなぁ。」

 

「うちで祓いましょうか?出たのが昨日の夜なら霊力を追えるかもしれません。」

 

「おいおい止めてくれ。ワシはどうにかその霊の無念を晴らせないかと思ってここに来たんだ。」

 

「無念を?」

 

「ああ。あの幽霊、殺気立ててウロウロしながらすすり泣いてやがるんだ。一晩中ずーっとだぞ?最初は怖かったが、それを見てたらどうも不憫でなぁ。何とかならないか?」

 

永一はその依頼を受け難かった。本来、幽霊は漂っているだけの安全な存在だが精神的に干渉、つまり無念を晴らすようなことをするのは極めて危険なのである。

 

 

──それは彼が物心すら付かぬ子供の頃の話。同じく霊視が出来る両親から「幽霊には絶対話しかけちゃダメ」と繰り返し教わってきた。

小さな子供にとって親の教えは絶対である。彼はその教えを守り続けた。

しかし小学生の頃、近所の十字路で彼と同い年ぐらいの子供の霊が泣いていた。生きたい、生きたい、と繰り返し電柱に供えられた花や人形に崩れる姿に、幼心の彼は締め付けられるような心苦しくなった。

そして彼は遂に、今まで守ってきた禁を破り幽霊に話しかけてしまった。

その時、あれだけ喚いていた子供はピタリと声を上げなくなった。そして同時に、首を轆轤のように曲げて彼の目を見ると目を見開き、笑いながらいい放った。

 

「待ってたよ。」

 

掠れた声、甲高い声、ドスの聞いた低い声。声は子供だけの声ではなかった。

思えばこの十字路はよく人が死ぬ場所だった。

 

…………

 

 

「要は幽霊の話を聞けば良いって事よね?じゃあこの依頼書に名前と指定時間を──」

 

「申し訳ないのですが、この依頼は受け難いです。」

 

黄菜子は言葉の前に表情から異を発した。

 

「なんでよ!」

 

「未練が強くて成仏出来ない幽霊に無駄に高い霊感を持ってる俺が干渉したらどうなると思う?」

 

「対策しなきゃ取り憑かれると思うけど?」

 

「正解。しかも俺はそれを経験済みなんだ。霊感が高い人間は悪霊にとっては都合のいい受け皿なんだよ。どうなるか知っている以上、受けるのはなぁ……」

 

「でも今は対策の術があるじゃん。あたしの予想だけど、永一に取り憑いた霊は地縛してる集合霊じゃない?強い霊感を察知して乗っ取ろうなんて普通の霊が出来ることじゃないよ。執念が強すぎるもん。で、取り憑かれた永一は無事生還してるから、現し世のお祓いで落とせる程度だったんでしょ?」

 

永一は黄菜子の「超能力者か」と言いたくなるほどの的中の前に言葉を失った。

彼にしたら不安要素しかないが、結局依頼は受けることとなった。

 

「では、お時間はいつからにしますか?午前中なら空いておりますが。」

 

「それなんだが、今すぐって訳には行かないか?」

 

「「?」」

 

鋳掛屋前、まだ早朝なのにも関わらず鋳掛屋にちょっとした人だかりが出来ていた。

注目の的は鋳掛屋の前。例の幽霊が店頭に並ぶ包丁の見本に釘付けになっていた。

二人はギャラリーを解散させると、一旦その幽霊を数枚の札に封じ込めた。

 

二人は札を持ち帰ると、掃除を終えたての二階の納戸へ持っていった。この部屋は永一が護符を施している為、対幽霊には丁度良い場所だろう。

 

「……なあ黄菜子、本当に幽霊と対話しなきゃダメ?」

 

「ダメ。依頼なんだから。それに封じ込めたままじゃ可哀想だよ。」

 

永一は渋々札の術を解いた。すると、札から霊力が煙のように漂い始めた。煙は一点に集中し人の形を作った。長い黒髪を後ろで縛り、古風な着物に襷掛け。そして端正な顔立ち、噂の幽霊と見て間違えない。

永一がまごまごしていると、幽霊は突然立ちあがり部屋をふらふらと徘徊し始めた。

 

「何処……何処へ行ってしまったのです……」

 

永一は満を持して幽霊に声を掛けてみた。

 

「幽霊さん、一体何を探しているのですか?」

 

幽霊は彼の声にピクリとも反応せず、そのまま徘徊を続けた。

 

「見た目ははっきりしてるけど自我が無いな……」

 

「霊力が小さいからじゃない?思いきって永一の霊力を分けてあげれば?」

 

「流石に危険すぎる。自我を保つ霊力を見た目に使ってるだけで弱くは無いんだぞ。しかも完璧に人の形をしてる時点で幽霊の中でもとてつもなく強い部類だし……」

 

その時、背後で鈍い音がした。振り向くと、幽霊が部屋に置いてあった太刀を踏んで思い切り転び棚にめり込んでいた。

自我は無くとも痛みはあるらしく、ぶつぶつと何かを呟きながら涙目でもがく様はこの上なく間抜けであった。

 

「危険そうに見える?」

 

「……ちょっとやってみる。」

 

永一は幽霊の背中の辺りに手をかざすと自らの霊力を流した。幽体を循環する霊力は段々と勢いを増し、しばらくすると幽体の霊力流は生きた人間と同じように流れるようになった。

血色が悪いのは幽霊らしいが、半透明だった全身がガッツリと肉眼で捉えられるようになっていく様は平常ではあり得ない。

 

「終わった?」

 

「一応……だけど不思議だ。霊体だけなのに霊力が全く分散しない。生き物が呼吸をするように、幽霊もその辺の霊力を吸収、放射を繰り返しているんだ。」

 

「んー?それってもしかして、この幽霊には──」

 

その時、幽霊は目を見開き急に立ち上がった。表情から危険を察した永一は驚いて身構えたが、幽霊は何かに気付いたのか辺りを見回した。すると、今度は真っ青な顔になってオロオロしながら叫んだ。

 

「無い……無い、無い!!某の刀が無い!!!」

 

静かだった部屋がどっと騒がしくなった。

それが、真面目で少しおっちょこちょいな亡霊剣士との出会いだった。

 

 

──To be continued……




あとがき

こんにちは、ミカヅキモです。今回は投稿スパンが早くて自分でもビックリしてます。少々長編なのでさっさと書きたいですね(前々回の長編で半年失踪した微生物並感)。
今回の話のプロットも数年前からの物で、遂にここまで来たかって感じです。

土御門家二階の掃除を手伝いに来た小鈴ちゃん。ガラクタの山の中で彼女が発見した掘り出し物『私家版百鬼夜行絵巻最終章補遺』
お気づきの方も多いでしょう。鈴奈庵完結の鍵を握る最強の妖魔本です。
……ちょっと露骨過ぎた気もしますが、作中でも「掘り出し物」としか書かれていないので問題なし!
鈴奈庵の全ては土御門家から始まったと言っても過言ではないですね!ワクワクすっぞ!(一次創作とは言ってない)

そういえば、鈴奈庵は最後、完全解決のハッピーエンドのように終わっていますが、小鈴ちゃんは本当に元の人間に戻れたのでしょうかね……
鈴奈庵って、結構ホラーなイメージがあるんですよね。C62の蓬莱人形のような……

今回はこの辺で
次回は今回の続きの話となります!
皆さん、良いお年を!!
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