無欲の聖者 1000万円廃課金男は異世界行っても回してる 作:冬野晴(旧雪野春)
俺の名前は勝屋礼人(かちやれいと)。名前が少し変わっているだけのただのデザイナーだ。
新卒でデザイン会社に就職して10年経って、クライアントからの依頼を社内で打ち合わせして形にしたり、部下の相談に乗ったり、プロジェクトを企画してデザイン展の主催をしたり忙しいけれどそれなりに充実した毎日を送っていた。
そんな俺の唯一の趣味は学生時代から遊んでいるソーシャルゲームのガチャを引く事だ。
実家から離れて一人暮らしをしていた時は普段から楽しくゲームをプレイしているお礼として最低限の生活費までをも削って1000万円のお金を課金した。
会社の給料だけでは足りないと考え、副業も睡眠時間を削ってこなして得た稼ぎを課金に費やしてきた。
回すまで中身が分からないギャンブル性、見事SSRが当たった時の虹色の輝きを見た時の高揚感に夢中になっていた。傍から見ると完全に中毒だ。
しかし両親の介護が必要になって実家に戻った後は一切課金していない。当然だ。こんな局面でガチャを回している場合ではない。両親は悪い事以外には一切俺のやる事に口を出さず今まで自分を大切に育ててくれた代わりのいない大切な人だ。
施設に入れる事も考えたが、両親は共に過ごしてきた家から離れて生活していく事を拒否したため、意思を尊重する事にした。
仕事は会社に相談して基本はリモートワークで行い、どうしても対面する事が必要な時だけ出勤する形になった。
そして実家の家業である農業をする事になった。畑を耕す、種を撒く、枯らさずに水を与える、収穫する、収穫した農作物を選別して計量して袋詰めにして出荷する。
ある程度機械に頼っているとはいえ忙しい。特に春から秋にかけてがとても忙しく、1日の作業が終わった後は体が疲れてぐったりする。
両親の治療にお金を使うために俺は廃課金勢から無課金勢になりゲームを遊んでガチャを回すようになった。
「久しぶりに天井配信するぞー。
今回は待望の推しの水着が出たからな!」
深夜11時。俺は自室のカーテンとシャッターを閉めて明かりをつけて久々に動画サイトのダッシュボードを開き配信準備をしていた。
俺は学生時代から生声でガチャ配信やゲームの実況配信をしている。最初は顔出ししていたが、社会人になってから身バレが怖くなりアバターを配信画面に設定したり声のみで配信をするようになった。
配信準備が終わった後にゲームを起動してホームに移動してガチャを回すために必要な精霊石の数を確認する。10万。このソーシャルゲーム「リフィアンシンフォニア」の天井のための石の個数は250連で5万。2天井分だ。これなら推しの水着だけではなく専用装備のガチャも天井で手に入れる事ができる。待ってろデカパイ。
俺は配信ボタンを押して天井ガチャ配信を開始した。
わこつー。失踪したかと思って心配してた。
ガチャ回神(まわしん)久方ぶりの降臨
こんばんは初見です
配信が始まってから1分後にはチャット欄にコメントがぽつぽつと流れてきた。
馴染みの名前から初見の名前まで色々な人がこの配信を見ているようだった。
俺は生声で挨拶をする。
「登録者の皆様初見の皆様お久しぶりですガチャ回神です!
今回は「リフィアンシンフォニア」の水着ガチャと専用装備ガチャを天井まで回していきたいと思います!
今日はね、もうね、急遽緊急で配信を回しております!
いやマジで実装されてから10年経ってからって遅すぎますよ!
興奮しすぎて喋る時におかしな日本語になるかもしれないですがよろしくお願いします!」
俺は雑談をしながら推しの水着と専用装備の性能を確認していく。
季節限定らしく強い性能だ。性能確認の後は30分くらい推しとの出会いと推しの魅力を語りガチャを回し始めた。
最初の10連。
荘厳な装飾が施された白い扉の前に黄金の鍵が出現して扉の鍵穴が開錠されて開き横向き直線状に10個の宝石のシルエットが並ぶ。1番左は虹色。SSRだ。
「マジで!?」
俺は画面を連打した。次の瞬間、金ビキニを着た豊かな胸を持つ推しが画面にデカデカと出現した。
「嘘だろ!?」
俺は鼓膜が破れるくらいの大きな声を出した。
チャット欄にはおめでとう、愛のパワー、嫉妬するわなどのコメントが飛び交う。
「じゃあ専用装備も───」
回しますか、といいかけたところで頭に強烈な痛みが走り、その次に眩暈が体を襲う。
「うう1?」
俺は頭を押さえて崩れ落ちる。
やばい。
誰か救急車呼んでくれ。
シャレにならんぞ。
チャット欄には次々と心配の声が投稿される。
俺はそれをぼんやり眺めながら意識を失った。
気がつくと俺は暗い空間にいた。暗すぎて何も見えやしない。周りをキョロキョロと見回しても何も見つかりやしない。
俺は驚いて体をまさぐる。服はちゃんと着ている。さっきまで自室でガチャを回していたはずだ。その後一体どうなった?
「ここだ、ここ。」
知らない男の声がした。声のする方向に振り返ると、荘厳な装飾が施された白い扉の前に西洋の伝統的な服のような衣服を着た眉間に皺が深く刻み込まれた男がいた。
「あなたは誰ですか!?」
「初めまして勝屋礼人。
私の名は終わりと混沌の神ガイレウス。地球の神から人口増加に伴い死者が増えて対応するのが大変困難になってきたため善なる魂と悪なる魂の選別をする手伝いをする事になった者だ。」
「閻魔様じゃないんですね。
そういえば、気になる事があるんですが、私の両親は今どうなっていますか?
2人とも病気を患っているのでとても心配なんです!」
「君の両親は意味の死後に施設に入る事になった。
施設に入所するための金は君の遺した財産から払われる。
それと、先ほど君の生前の経歴を文章にして書籍にまとめた結果、君の魂は善なる物と判断された。
善なる魂は一つだけの願いを叶えて天国に送る事に決まっている。
悪なる魂は地獄に、善でも悪でもない魂はまた魂の価値を決定するためにまた転生させる。
君の願いはなんだ?」
「えっと、俺の願いはガチャを回し続ける事です。
後、天国に行くんじゃなくて転生したいです。
天国じゃなくて地球で暮らしたいんですよ。」
「ほう、ガチャを回すというのはあれか。
娯楽の為に作られた架空の世界で強くなるためによく使われている手段の事か。」
ガイレウスと名乗る神様は顔に手を当ててしばらく何か考え込んでいるようだ。
「それなら転生先はマナスフィアにするのはどうだ?」
「マナスフィアとは何ですか?」
「それは私が半分、私の妻である始まりと理の女神メリアがもう半分を支配している世界だ。
ガチャを回す娯楽では、世界を守るために冒険して活躍するんだろう?
だったら地球より異世界に転生した方が楽しいと私は思う。
それと、一つ頼みがある。
私は妻と共にこの世界を作ったが、私達自身よりも私達の7人の子供たちである神の方が民には人気がある。
それが悔しくて仕方がない。
私と妻の名声を高めるために行動してくれないか?」
つまり俺は今から異世界転生をするという事か。
俺は考え込む。
前世では世界を救う冒険なんてフィクション上の話だった。
生活するのが現実で、ゲームの世界は非現実。
俺は子供の頃からファンタジーな世界に憧れていたが、その世界で暮らす事は叶わない夢だった。
でも異世界に転生すればそれが叶えられる。
「分かりました!
ガイレウスさんとメリアさんのためにガチャを引いて英雄になります!」
「さんではなく様だ。
まあいい。
ではこの扉を通ってマナスフィアへ行くと良い。」
ガイレウスは白い扉を黄金の鍵で開錠して、礼人に通るよう促した。