無欲の聖者 1000万円廃課金男は異世界行っても回してる 作:冬野晴(旧雪野春)
扉を通ると視界が一瞬白くなり俺は意識を失った。
そして目を開けるといつの間にか自分が赤ん坊になっており、揺りかごの中で金髪の母親らしき女性からの穏やかな声の子守唄を聞いていた。
しばらくして子守唄が終わると母親らしき女性は本を開き、俺に向かって読み聞かせをする。
「レイト、今日は創造神話のお話を読み聞かせするわね。
この世界は最初は一つの巨大なマナの塊でした。
マナは長い時の中で次々と形を変え、やがて白い塊と黒い塊に分かれます。
白い塊は女に、黒い塊は男になりました。
二人は競うように次々と動物や植物、山や川や海を作り、こうして作られた世界をマナスフィアと呼ぶようになりました。
最後に二人は神様を7人作ります。
それは太陽と火の神、月と暗闇の神、海と水の神、大地と土の神、森と木の神、空と風の神、雲と雷の神でした。
7人の神様はマナスフィアに暮らすようになり、様々な物を作るようになります。
やがて大地の土の神様を泥で作った人形を使って人間を作り他の6人の神様も真似をします。
そしてできた7つの種族が───」
その時、部屋の扉が開き、大柄で筋肉質な男性が入ってきた。
「ただいまディアナ、レイト!今日も疲れたなあ。
あっ!そういえば帰り道で大猪を狩ったぞ!
この時期は脂が乗っててうめぇんだなこれが!
早速調理するから待ってろ!」
部屋の中にある厨房へズカズカと大きい音を立てながら歩いていく。
「おかえりなさい。ありがとう、あなた。」
俺の転生先の母親らしき女性は穏やかな笑顔で言った。
どうやら俺の転生先の名前は前世と同じくレイトで、今目の前にいるこの男女が今世における俺の親らしい。
部屋の中は木でできており、21世紀の地球の住環境とは大きく異なる。
(平民の生まれかな。でも両親が良い人そうだしまあいいか。
それにしてもさっきの創造神話に出てきた白い塊と黒い塊がメリアさんとガイレウスさんなのかな。)
俺はそんな事を頭の片隅でぼんやり考えていると父親と思われる男性が大皿に乗った焼き猪肉を眼前に持ってきた。
「うまいぞ~食え食え!
たくさん食べて立派に成長するんだぞ!」
「ちょっと!レイトはまだ赤ん坊よ!
食べられるわけないじゃない!」
母親と思われる女性は少し声を荒げて言った。
「それもそうだなあ。
じゃあ余った分は乾燥させて干し肉にすっか!」
この世界に来て最初の頃は赤ん坊だったため、何をするにも両親の助けが必要だった。俺の前世の赤ちゃんの頃にもこうやって両親に迷惑をかけていたんだろうか。
申し訳ないと思いつつ、ドラゴンや魔法がある異世界にドキドキしている。
やがて5歳になった時、異世界もので定番のあれをやってみようかと思い立った。
俺は誰も部屋にいない一人の時を見計らって大声で叫ぶ。
「ステータスオープン!」
しかし何も起こらない。異世界ものではステータスオープンで自分にすごい力があると判明するのが定番の流れのはずだ。しかし何も起こらない。
そういえば俺はガイレウスさんにガチャを回して生きていきたいって言ってたな。
それに関する能力も俺に備わっているんだろうか。俺は再び大声を出す。
「召喚!」
しかし何も起こらない。他にも「ガチャ!」「限定ガチャ!」「ピックアップ!」などと叫んでみるが何も起こらない。
「おかしいなあ。」
俺はぽつりとつぶやく。異世界ものではチートを貰えるはずなんじゃないのか。
これじゃ話が違うじゃないか。
それから更に10年の歳月が経ち、俺は15歳になった。
この世界では15歳は成人の年齢だ。
15歳になった者は始祖神であるメリアとガイレウスを祀る神殿に行き、神官による祝福の儀式で自分だけの特別な能力と魔術を勉強する許可を授かる事ができる。
俺は早朝に一人で神殿の前に並んで自分の番を待った。
神殿は薄緑の外壁に覆われており、まるでギリシャの建築のような4本の柱が印象的な外見だった。入り口である門の左右にリンゴを持った白い女性の像と弓矢を持った黒い男性の像が置かれている。
「レイトさん、貴方の番です。」
神殿の中から白い服を着た下級神官が出てきて俺を神殿の中へと招いた。
神殿の内部は外壁と同じく緑色に覆われていて、壁にはこの世界の創造神話の物語が精緻な絵で表現されている。神殿の奥には祭壇があり、そこには白い服を着た穏やかな顔の神殿長が椅子に座って待っている。
下級神官は祭壇の前で跪き、俺もそれに倣った。
神殿長は二人に言った。
「お二人とも顔を上げてください。
レイトさん、祭壇を上がって礼をして、神に捧げる言葉を言ってください。」
俺はその通りにした。
言い終わると、神殿長は再び口と祭壇上の机にある分厚い本を開く。
その本のページは中央に白い円、外側に黒い文字がびっしりと書かれている。
「では、この書物に手を置いてください。」
俺はその通りにした。神殿長は儀式のための言葉を紡ぐ。
すると、白い円の外側にある黒い文字が蛇行するような動きをし始めて文章を紡ぎ始めた。
俺は内心驚きつつも表面上は平静を保ち、黒い文字の紡ぐ文章を見守った。
文字は最終的にピタリと止まった。
「あなたの祝福は無詠唱の召喚ですね。
まあ、この世界の人間は基本的に無詠唱魔術を使えないので普通の人より少し有利ですね。
それではこれで儀式を終わりとします。」
俺は本の上から手を放した。
その瞬間、俺の目の前にログインボーナス1日目:神髄石200、デイリーミッション、ウィークリーミッション、そして、使徒召喚、使徒装備召喚という文字が飛び込んできた。
まるでゲームのホーム画面のようだ。
「え!?」
俺は思わず大声で叫ぶ。神殿長が耳を押さえ、しかめっ面で言った。
「いきなり人の前で大声を上げないでください!」
「大変申し訳ございません!」
俺はそそくさと逃げるように神殿から出て行った。
家に帰り、両親に神殿で無詠唱の召喚の祝福を授かった事を報告した。
両親は共にすごい祝福だと褒めてくれた。
俺は照れくさそうにしながらスープとパンを口にほおばる。
食事の後に自分の部屋で無詠唱の召喚の祝福とは一体どんなものなのか確認する事にした。
俺は目の前の空間に対して空気の壁があるような感覚で1回指先でタップしてみる。神殿で出現したゲームのホーム画面のようなモノが出現する。2回タップするとホーム画面は消える。
俺は再び空間を指先で1回タップしてゲームのホーム画面を出現させる。
このUIは「リフィアンシンフォニア」にそっくりだ。よく再現できている。
「これが俺のチートか。」
俺は使徒召喚と書かれたガチャバナーを開き、ログインボーナスでもらった神髄石で1回ガチャを回した。どうしても我慢できなかった。前世を去ってから15年、今までずっとガチャを回してなんかいなかった。我慢なんてできない。
ガチャ演出もそっくりそのままである。宝石のシルエットは虹色だ。
「いきなりSSR!」
俺は興奮して叫んだ。
すると、目の前に緑のビキニアーマーとフード付きのマントに身を包んだ褐色のデカパイ弓使いが現れた。
「私の名はダークエルフのデゥーイです。
あなたが私の主となる御方ですか?
どうかこれから───」
「褐色デカパイ来たー!」
俺は大興奮して大声を上げてひっくり返った。
「あの、主様、私はまだ自己紹介の途中なのですが」
デゥーイは困惑した顔で小声を出す。
「どうしたのレイト?大きな声なんか出してって、ダークエルフ!?
あなたは一体誰なんですか!?
もしかして盗賊?
あなた、着て頂戴!憲兵に突き出しましょう!」
この世界における俺の母が俺の大声に驚いて部屋に入ってきた。
どうやらあらぬ誤解が生まれているようだった。
「私は盗賊ではありません。
どうか誤解をしないでいただけないでしょうか?」
デゥーイはますます困惑した。