もう一度ルール説明を行う!
お互いは三人一組となり、それぞれ用意された基地と呼ばれる目標物を撃破してもらう。
そのためには何を行っても構わない、相手機体の半壊、全損、全てが許される。
ただし、武器の持ち込みは禁止だ。しかし、存在しないわけではない。
フィールド内には鍵と呼ばれる武器が意図的に配置されており、それを用いるのは勿論許されている。
更に、お互いの守る目標物は特殊結界により守られ、鍵以外の物理的衝撃を99%吸収する!
つまるところ、勝利条件としては二つ!
相手チームの機体を全て撃破すること!
相手基地を撃破すること!
それでは……
『はっ、ようは全員ぶっつぶせばいいんだろ?』
『ごめん、ちょっとよくわからないんだけど』
『心配するな、アグ。私についてこい!』
『うるせーな、気が散るじゃねえか』
ドゥーベ陣営のルーム内。
三人は、各々用意された遠隔型パイロットポットに入りハンドルを握り締めていた。
唯一用意された物理型デバイスを押し込みさえすれば、即座に機体は起動し、パイロットと機体の同期は完了するだろう。
──さあ、皆さんお待たせしました!ついに始まります。正に因縁の戦い。勝つのは、正義のル・シャ・マスクか。疑惑の皇帝か!
『うっせーな。アグ、誰の声だ?切れ』
『え?あー……んー……と、共通無線?』
『そういえば、歓迎会の時はそれどころじゃなかったからな。まあそう邪険にするな。きっと気に入る』
『知るか。さっさと言え』
『まったく、風情のないやつだ。しょうがない。答え合わせと行こう……』
それに答えたのは、カエデではなかった。
もちろんアグでもない。
答えは無線からつんざくように帰ってきた。
──聖ドゥーベ唯一の公認トリニティスポーツコメンタリー、ファイア様だゼーーーッッッ!
──おおおおおおおおおお!!!
『『な、なんだ!?』』
地響きのおようないななきが響いてくる。
無線越しじゃない。ポットの向こうから、いや学院が響いている。
一瞬怯む様子を見せた男だったが、すぐに持ち直す。
冷静に瞼を開くとそこに広がっていたのは草原だった。メカニックが不在とはいえ上手く同期が完了したようで何よりだ。
しかし、それ以上に目を引くのが視界の隅に映る学園のルームチャンネルだった。
『うわ、凄いよ。第一観覧室から第四観覧室、一般教室まで全部こっち見てるよ』
『ケケケッ、人気者は辛いぜ』
『そ、そうなのかな……?』
『くっちゃべってないでさっさと武器を探しに行くぞ。ドゥーベ、アグ、二人は基地の見回りを頼む!』
『基地?基地……あぁ、この可愛い風車!……あ、凄い、ほんとにダメージはいらない!』
『時々私はお前が恐ろしく感じるよ』
──さぁ、三者三葉、いや、六機六葉出そろいましタ!お互い、定石通りの役割分担で……あーーーッッット!ドゥーベが飛び出たぞぉぉぉおおオ!!!これは短期決着の作戦でしょうカ!!!ややヤッ!それだけではないようでスッ!
『どこへ行く、ドゥーベ!単独行動は慎め、負けて退学になってもいいのか!』
『ケケケッ、退学は嫌だが……お前と組むのはまだ早え!好感度を上げてから出直しな!』
『ふざけたやつめ……!そんなことして囲まれてすぐに……』
男の機体はぐんぐんと伸び、地平線の彼方へと消えていく。
掠れゆく無線の中、男は喜色ににじませた独白を一つ残して。
『ケケケッッッ!読み通りってことか』
『賊人ォォォオオオ!!!』
──と、飛び出していル!!!ル・シャ・マスク陣営も一人、リーダー、ル・シャ・マスク。彼ただ一人飛び出ていル!!!これは本当にフットフリースリーマンセルなんでしょうか!!!示し合わせたように一騎打ちへと流れ込むム!作戦もゲーム性もかなぐり捨ててただやりたいことをしているだケ!
──しかし、これでいイ!いや、これが良イ!!!なぜならみんなこれが見たかっタ!そうだろう?オーディエンス!!!
──おおおおおお!!!!!
──そのまま潰せーーーっ!
──ガシャァァァアアアッッッン!!!
二体の機体の両手ががっしりとつかみ合う。
至近距離、もはや機体内臓のスピーカーから聞こえる範囲でロボットの赤い瞳は交差する。
『賊人、殺してやるぞ!』
『どうやらずいぶんと恨まれてるようで』
『忘れたとは言わさんぞ、貴様の蛮行!その全てを!』
『あほくさ』
──ドンっ!
男の機体がル・シャ・マスクの機体の胴を蹴り上げる。
土ぼこりをあげながら大きく後退するその姿に、しかし、陰りは全く見えなかった。
『ここで……やる!』
『やってみろよ、仮面野郎。俺には残り二体が控えてんだよぉ!』
──……。
再び周囲を土煙が席巻した。
──おっと、忘れちゃいけないゼ。これはチーム戦。激しい個人戦は俺も大好きだが、一人だけじゃ簡単に勝てやしないゼ!んじゃ、名残惜しいが、俺の実況は他二人の美女の元へと移るゼ!
『カ、カエデさん……どうしましょう、足が動きません!』
『落ち着け最初はそんなものだ。両手のレバーをしっかりと強く持って強く意識しろ。歩くという電気信号を想像しろ』
『むむむ……あ、動いた。動けました!』
『そうだろう、そうだろう。意外かもしれないがダイビング式の機体操作は七めんどくさいことを考えない方が上手くいきやすい。最初だって上手くいってただろう』
『うーん……慣れない……』
『まあ、アグは元メカニックと聞いたからな。もしかしたらマニュアル操作の方がやりやすいのかもしれんな』
そこには森の奥に隠れた二体の機体があった。
アグと、カエデ。
二人がまるで教師と生徒のように懇切丁寧にレクチャーしていることを見るに、片方が初心者であることは疑いようもない。
『そういえば基地から離れてよかったんですかね。今はがら空きってことじゃ』
『心配いらん、鍵さえ入手されなければ基地は安全だ。そんなことより一人でも多く生き残ることが先決だ』
『はえーそういうもんなんですか』
『そういうことだ。鍵さえ相手が手に入らなかったら大丈夫だ』
『ははは、そうですよね!しかもこんな早々見つかることなんてないですよね!』
『『ははは!』』
──キューーーーーッッッン!
その瞬間、二人の機体の間に紫色の一条の光が接近する。
カエデの脳に爆発したように警鐘が鳴らされる。
目の前には暢気で居る棒立ちの機体。
一瞬の遅れが致命的になりうる状況。
その予想は当たっていた。
とっさの判断で、機体を無理に捻る。
先ほどまで確かに彼女の機体があった場所を刹那の跡、まるで予定調和のように紫色が繋いだ。
『クッ!』
『な、なんなんですか!?』
カエデはアグを背に森を睨みつける。
『どうやらネズミがいるようだな』
『……ふふふ、ネズミなんて酷いですわ……カエデ?』
──ぬ……っと。
林の隙間から出てきた機体に二人は驚愕することになった。
『ば、バトルアックス……!?鍵……ってこと?そ、そんな、まだ五分もていないのに!』
『五分もあれば十分ですわ。私、そう──
──【閃光】のバッキーヌにかかれば……ですわ!』
『『せ、【閃光】のバッキーヌ…………
だ、誰だ!?』』
『ずこーっ!あんたは覚えてなさいよカエデ!私のライバルでしょう!?』
『し、知り合いですか、カエデさん』
『いや知らん』
『むっきーっ!イラつくムカつく腹が立つですわーっ!いいですわ……そこまで言うなら……!嫌でも思い出させてあげますわ!私の……
【閃光】の由来を!』
『は、早い!』
──おーット!こちらでもさっそく接敵だァ!接敵しているのは…………一年アグ選手、三年カエデ選手と、三年バッキーヌ選手だァ!
──二対一というやや不利な状況……いやしかし……なんということだァ!バッキーヌ選手、既に鍵を拾っていルッ!流石は、【閃光】を異名に持つドゥーベの世話焼きお嬢様!
『なめるな!武器を持ってなかろうと……!』
『チッ、きっめーですわ!なんですの。その反射神経!』
【閃光】、正にその名の通り、バッキーヌの機体は早く、鋭く、そして重い。
しかしカエデも負けてはいない。徒手空拳で互角以上に渡り合う二人の接戦に会場は一層のボルテージを高まらせる!
──凄まじい戦いだァ!先代ドゥーベのチームに入った後その機会はめっきり減っていたから忘れていたやつもいたんじゃないカ?カエデとバッキーヌと言えばドゥーベの誇る二大パイロット!先代が出るまでは次期ドゥーベを巡ってバチバチだったこト。二三年のやつらは忘れていないよナ!?正直言って俺は今、悲しみよりもわくわくがとめられないゼーーーッッッ!
『ほら!聞いた?実況の声!ライバルだったって!』
『あいつ、全然実況しないな』
『私の話を…………聞きなさぁぁぁあああい!』
──カッッッツーーーン!
──入ったぁぁぁああぁァ!バッキーヌ選手のバトルアックスがカエデ選手の胴体を一閃、これは痛イッ!
『やった!入りましたわ!この調し……ふごっ!』
──またまた入ったぁぁぁああア!カエデ選手、お返しとばかりにどてっぱらに蹴りを入れました!
『はははっ思い出したぞ。貴様、お漏らし王女じゃないか。久しぶりだな』
──お漏らし王女?
──え?さっきなんて言った?
──お前らうるさいぞ静かにしろ!大事な話だ!
『な……な……なぁーーーっ!』
『なんだ、忘れたのか?お前小学の頃、年に何回も……』
『わー!わー!わー!うるさいうるさいうるさい!な、何を言い出すかと思えば捏造?捏造なのですわ!?皆様!騙されては行けませんわ!この人は先代ドゥーベ様を弑逆した賊人の仲間なのですわ!信頼するに値しないのですわ!』
がむしゃらにバトルアックスを振るうバッキーヌに突如、悪寒が走る。
しかし、それに気づくほど彼女は冷静ではなかった。
──ガシッ……
『まだまだ甘いな、バッキーヌ』
『へ?』
──シュッ……。
バッキーヌが最後に見た光景は自身を見下ろすかつてのライバルの姿だった。
『や、や、や…………やっぱり覚えていたんですのーーー!』
──バチバチバチッッッ……!
衝撃は遅れて観客席に訪れた。
──ドォォォオオーーーッッッン!
──撃破ァァァアアアーーーッッッ!!!
──な、な、な………………なんとういうことだぁぁぁああア!!!一瞬の隙を突いたカエデ選手、バッキーヌ選手の得物を奪い取るとそのまま一閃!フィールドには勝利の雲が浮かび上がりまス!!!
──終わってみれば、一瞬!正に【閃光】!登場から去り際まで光のごとき速さでしタ!しかし、その実力を疑うやつはいないはずダーーーッ!
──しかし、泣いても笑ってもこれが現実!これにて戦況は三体二!鍵を手に入れたドゥーベチームは圧倒的有利カーーーッッッ!?
『あいつ、後でバッキーヌに絞められるな』
一人、鍵を手に呟いたカエデは一人、ほっと一息をついた。
そんな、彼女に声をかける人(機体)が一人。
『あのー……だ、大丈夫ですか?』
『アグか。お前に被害が及ばないように抑えて戦ったがどうだ?どこか壊れていないか?』
『いやいやいや!そんなことよりカエデ先輩のほうが心配ですよ!ほら、腰とかバチバチ言ってるじゃないですか!』
そう言ってアグが腰のあたりを指し示した。
見てみれば、そこにはまるで壊れかけの家電のようにバチバチと電気を流す己の姿があった。
『あー、あの時か……』
最初の無理な捻りによる過度な負担の集中、更に同じ部位への強打を考えると無難なところだろう。
バッキーヌがそれを狙ってやったとは露とも知ろうとしないカエデは小さく舌打ちをすると、すぐに言葉を返す。
『運が悪いな……心配ない。これくらい犬に噛まれたと思えばいいさ』
『本当ですか?』
『それよりも、お前は基地に戻れ』
『戻る?カエデさんはどこかに行くのですか?』
『決まってるだろう?』
機体越しにきょとんとした表情を浮かべるアグ。
そして、カエデは一人パイロットポットの中で好戦的に口角を挙げた。
『相手のところだ。
条件が変わった。ここに鍵があり数的優位がとれている今、相手が新しい鍵を手に入れる前に──
──こちらから叩くっ!』
──さァ!美女揃いの戦闘に決着がついた後は、皆さんお待ちかネ!この二人だァ!
草原の中央、そこでは二体の機体が激しい戦闘を繰り広げていた。
『しつっこいんだよお前!』
『負けるわけには……負けるわけには……!』
しかし、その様相は拮抗の二文字ではなく蹂躙の二文字が似合っていた。
マスクの操る手は空を切り、男の操る足は的確に相手のウィークピントを抉り取る。
マスクは攻撃を見て避けるのに対し、男はまるで来ることが分かっているように最小の動きで避け続ける。
──これは……どういうことだ?……なんということカ!誰が予想できたのでしょウ、始まってみればル・シャ・マスク氏の防戦一方!ドゥーベの壁はやはり高いのかぁ!?
男は不思議に思う。
思ったよりも、そう……思ったよりも……遥かに、遥かに──
──弱すぎるッ!』
『グハッ!』
──またまた入ったァーーーッッッ!
──ざっけんなーーーっ!
──やられてんじゃねー!
──期待して損したぞこらーーーっ!
『ケケケッどういうことだよ、仮面野郎……弱いにも程があんぞ』
耳に入ってくる観客の声が何よりそれを反映させていた。
『クッ……言わせておけば……!』
マスクの機体は大きく損傷し、放電を始める。
ところどころからはオレンジ色の燃料が漏れだし、いつ爆発してもおかしくない状況。
『はぁ……これじゃあ軽い運動にもなりはしねえよ』
『ほざくなぁ!』
──弱い!弱すぎる!!!しかし!ル・シャ・マスク!まだまだ闘志はまるで消えなイ!果敢に迫る、迫る!それだけは評価しなければなりません!
──ひっこめ雑魚やろーーーっ!
──この目立ちたがりがーーーっ!
──弱いにも限度があるだろうが!
『だぁっ……っから……!しつこいっての!お前弱すぎっ』
『うごっ』
──しかし、またしてもカウンター!もういい、もういいんダ!お前はよくやっタ!そんな観客の悲鳴が聞こえてくるようでス!
──ざっけんな、これは非難の声だよ馬鹿コメンタリー!
──まったく、期待して損したぜ。
──どこのどいつだよ、あんなやつパイロットにしたの。
しかし、観客にさえ見放されても彼は何度も何度も何度も何度も……まるで幽鬼のように立ち上がる。
いつしか観客はその異様な光景に徐々に飲まれていく。
そして、それは男も例外ではなかった。
『…………だ』
『……あん?』
──ん?どうやらル・シャ・マスク氏が共通無線でなにかを話しているようでス!
『嫌だ……!』
『はぁ?てめえ何言ってるんだ?』
『僕は昔から、弱かった……
メカニックの才能も、パイロットの才能も……この学院に入れたのだって親のコネだったんだ……』
『?』
『いつも成績は最下位……聞こえてくるのは陰口ばかり。王都から来た出がらし、ただの七光り、金だけ坊ちゃん……
でも否定できなかった!
ただ、弱いことを認めて現状に甘んじ、僕意外を見つめる伽藍洞な同級生とずっと面白くもない非行に走っていた……』
『……』
『だけど……だけど……!
そんな私はあの日を境に変わった!
初めてだった!初めてだったんだ!!!
あの日見た彼女の黄金に輝く髪も!真っ赤に燃える宝石のような瞳も!忘れたことは一度だってなかった!!!
彼女はこんな私にも手を差し伸べ居場所を与えてくれた、施してくれた。
君が良いと……私がいいと!
手を取ってくれたんだ!!!
これから……そう、これからのはずだったんだ……!
なのに……なのになのになのに!
全部……
全部全部……
全部全部全部……
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部っ!
お前が壊した!
居場所も……仲間も……彼女だって!
居なくなるべきではなかったはずだ!
ずっと、居続けるべきだった!
彼女の隣じゃなくて良かった。私でなくても良かった。
私は彼女の仲間の一人で……
永遠に一員で居たかった!
だけどお前が……
君が壊したんだ!!!
私の気持ちが……僕の気持ちが君に一片くらいでもわかるか!
突然全てを奪われた僕の気持ちが……
彼女の気持ちが…………
ドゥーベの気持ちをわかるかぁぁぁあああ!!!』
──シーン……。
観客席を含め、彼の独白は辺りに静寂を齎した。
──ジジッ。
共通無線のチャンネルが切り替わる。
『…………ケケケッ、知るかよ』
『は?』
──ドッ!!!!!!!!
その瞬間、観客席から割れんばかりの怒号、罵詈雑言が響き渡る。
先ほどまでの静かな落胆じゃない。
矛先は男に代わり、マスクに対する叱咤激励が飛び交う。
──マスクゥ!そいつを殺せぇぇぇえええーーーっ!
──もういい、俺がやる!
──マスク……君の正体は……!
──お、落ち着ケ!落ち着けよオーディエンス!あー!もウッ!聞きゃしなイ!
──って、エ!?おいおイ、待ってくれヨ!ル・シャ・マスク──その点火はまずいゼッ!明らかに許容量オーバーダ!
──いや、まさか……まさかまさかまさカ……!自爆する気カーーーッッッ!?
──ブワッ。
マスクの機体のスラスターから青色の炎がわずかにちらつく。
スクリーンに映る彼の顔はマスク越しでなお、憤怒の様相を成す。
『貴様だけは……貴様だけはぁぁぁあああーーーっ!!!』
そして──
──点火。
青い炎を背に纏い、爆発的な出力を持って音速に迫るスピードで機体が迫る。
当たれば即爆は免れないだろう。
『……ケケケッ……最初からそうすりゃ良かったんだよ』
悟ったように男は一人呟く。
アスリートには、超集中状態。いわゆる【ゾーン】と言う状態があるという。
その状態に入った彼らはまるですべてが止まったかのように世界を認識するらしい。
そして、今この瞬間。
ドゥーベ。
彼は一人、灰色の世界に入り込んでいた。
男はゆっくりと右足を動かすと……
……素早く無駄のない動きで貫手を行い──
──その後、その腕ごと切り離すと、流れるように自身の腕を吹き飛ばした。
その間、およそ0.1秒。
人間の限界に迫る動きであった。
──ゴォォォオオオーーーッッッン!
昼空に大きな花火が打ちあがる。
一瞬の静寂。
──な、何が起こっター!?二体が交差したと思えば、ル・シャ・マスク氏の機体は突然制御を失い転倒!その後、ドゥーベが何かを投げたと思えば空に大きな爆発が引き起りましタ!ややヤッ!よく見ればドゥーベの片腕が損傷しているゾーーー!
『な、何が起こった……くっ、今の転倒で制御が……!』
上手く立ち上がれないマスクの機体に片腕を失ったロボットがゆっくりと迫った。
しかし、その様子は万全な先ほどまでの状態よりもなお恐ろしい。
『よく頑張ったと言いたいが……これで終わりだ。弱いって言ったのは少しだけ訂正してやる』
『クッ!動け……動け!』
『ル・シャ・マスク……次の勝負……待ってるぜ』
『動け、動け……頼む、動いてくれ!』
その瞬間、わずかにだが芋虫のような動きだが、確かに機体は動いたのだ。
その動きに一瞬歓喜に震えたマスクはその拍子に顔の仮面がポロリと落ちた。
しかし、まるで防げる幅ではない。
一瞬その顔に戸惑った男は、しかし、冷静に動力源に腕を突き立て……
『苦戦しているようだな、ドゥーベ』
……その動きをやめた。
『……ケケケッ、もう終わったぜ。クソ獣人。お前の出る幕はもうないってことだ』
『そうか』
そこには、カエデの機体があった。
手には鍵であるバトルアックスが握り締められている。
『アグは?』
『初心者に戦闘は任せられないだろう?』
『そうかよ。じゃあ、さっさと行け。この戦闘は既に終わった』
『そうか……ふふふっ』
『何がおかしい』
『いや、何。ずいぶんボロボロだなと……ドゥーベともあろうものが』
『……ケケケッお前もな』
カエデは無言でバトルアックスを男の機体に投げ渡す。
『攻撃をする側にもダメージは蓄積する。原始人みたいな戦い方をやっているのは結構だが、一つだけアドバイスしてやる。
武器を使ったら手は痛めないぞ』
『チッ』
男は舌打ちをするも素直にその手に武器を担う。
そして、片腕で大きく斧を振り上げる。
──ここで終わってしまうのカーーーッ!ル・シャ・マスク、熱き思いハ!ここで潰えてしまうのカーーーッッッ!
『今楽にしてやる……』
『嫌だ……僕はこんなところで終わらない!終わりたくないんだぁぁぁあああーーーっ!』
見ようによってはそれは残酷に見えるかもしれない。
振り下ろされるギロチンはそのまま重力に身を任され──
──彼の視界は真っ暗に閉ざされたのだった。
遠隔型パイロットポット。
最新のVR機能を用い、まるで自分の体のような感覚で機体を操れる卵型のデバイスだ。
基本的に現代のパイロットはこのデバイスを用いてトリニティスポーツを行うのが常識となっている。
また、安全上の理由、そして複数の種目の裁定から一つのルールが定められている。
──トリニティスポーツの最中に同期を解除した場合は同スポーツ内ではデバイスを起動できない。
これによって、敗北した場合、強制排出されたときに再度同期させるというイカサマは弾かれているという。
そして、今日もまた一人、勝負に負けた人物からパイロットポットから弾かれる。
──プシュゥーーーッ!
白い煙と共に開かれたデバイスは──
──ドゥーベ陣営のものだった。
「は?」