「ねぇーオタクくーん!一緒にカードゲームしよ!」
「いいですけど……」
クラスメイトの淫魔さんが、4つほどデッキケースを持ってきて、机に置いた。
カードゲーム好きというギャルっぽい淫魔さんは、話を聞くに対戦相手に飢えているらしく、こうして自分を沼に引きずり込もうとしている、というわけだ。
「いやー、友達は紙やってくれないしさー。昔からこれ好きなのに、みんな卒業しちゃったしー。オタクくんはノリいいから好きだよー」
「まぁ、カードゲームは好きですから。
で、それぞれ何てデッキなんです?タイプは?」
「話早くて助かるー。
この赤いケースが小悪魔ビートで~~
緑が魔獣ターボでね、黒が天使ハンデス青が人魚パーミッション」
なるほど。
何故天使という光属性っぽい種族がハンデスとかいうこの世の終わりみたいなデッキタイプを担っているのか分からないが、概ねは人間界で親しんできたカードゲームと変わらないようだった。
どのデッキを選ぶかで、人となりが分かる。
個人的な好みはハンデスコントロールだが、初めてやるゲームだ。ルール理解のためには、ビートかターボを選ぶのが安牌な気がする。
「じゃあ魔獣ターボで」
しゃあっっっ!!と教室の隅で咆哮が轟いた。見れば魔獣さんがガッツポーズしていた。
何故?
「ワォ。堅実~~。じゃあ説明するねー」
そう言ってルールを簡単に説明しながらテストプレイしていく。
10分くらいして、だいたい理解した自分はそれから本番やりましょうと告げた。
「いいよー。あ、でも1個だけ伝え忘れがあったかな」
「……?なんです?」
「デュエルスタート!私の先行ねー!」
淫魔さんは伝え忘れたことを何も言わずそのまま始める。
「いやだからなんです?」
「レッサーサキュバスを召喚!」
彼女が場に出したカードから、ぱあ、と光が溢れてテーブルに小さな、それでいて凶悪な顔立ちの豊満なサキュバスが出現した。
「……負けた人は、買った人のお願いを、絶対に聞かなくちゃならないんだよ」
「断ったら?」
「カードの精霊に、食べられちゃう」
淫魔さんは舌なめずりをした。
さすが魔界のカードゲーム。
人間界とは遊びの幅のルールが違う。
気を引き締め、自分は手札とルールを何度も反芻し、勝負に挑んだ。
淫魔さんが使うデッキは「サキュバスアグロビートバーン」のようだ。チクチクとした小型のダメージと小型の早いユニットでライフを削りきる型に見える。
対してこちらは遅いがユニットは大きいターボタイプ。ライフ回復も豊富に入っており、ターボと一緒に削られたダメージを回復しつつ耐久に持ち込む。
しかし──。
「あの、淫魔さん。カードパワー違いすぎません?」
「そうかな?」
「低コストのギラッギラに光る除去カード何枚入ってんですか?」
「えー?わっかんなーい」
明らかに環境デッキっぽい淫魔さんのデッキに防戦一方だった。
「私が勝ったら何してもらおうかなー。付き合ってもらおうかなー」
「カードゲームならいくらでも付き合いますよ」
「……んー。それより先に既成事実かなー」
ぽわぽわとした淫魔さんの目が、妖しく輝いた。
首を傾げると、周囲の目もギラリと光る。
「いくぞー!キャノンサキュバスを召喚!」
現れたのは、キャノンに相応しくでっかい胸とでっかい大砲をもったHな悪魔だった。
「……なんか、コンセプトよくわかんないですね」
「長いことやってるとね。ネタ切れになるから……」
そんなカードゲームあるあるって、魔界にもあるんだなぁ。
「効果!私の場のカードを破壊して、そのユニットの攻撃力分のダメージを与える!」
マズイ!自分のライフは回復で誤魔化していたとはいえ、風前の灯火だった。
急いでライフ回復を発動するが、さらに減ってしまったこのライフでは、次のターンにやられてしまう。
「んふふ。これでターンエンド。きっせいじっじつ!きっせいじっじつ!」
ウキウキしながら、場のユニットと一緒に小躍りする彼女に冷ややかな視線をおくりつつ、この手札で状況打破を考える。
あとひとつ、なにかがあれば……。
山札からカードをドローし、手札に加える。
そのカードは──!
「あ」
「ほえ?」
今引いたカードと、盤面を交互に見て、自分は確信した。
あ、勝てるなこれ。
「召喚。魔獣の女王 ティタノロープ」
現れたのは、これまで溜め込んだコストで現れる、一撃必殺級のカードだった。
攻撃力は相手のライフと同じになるという驚異の性能をするそのカードだったが……
「出るとは思ったよ!でもね!召喚酔いがあるこのゲームじゃ、次のターンまで待つ必要がある!つまり間に合わない!
私の勝ち!諦めて私のお婿さ──」
「何勘違いしてるんですか?」
「ひょ?」
ティタノは、前のターンに既に手札にあった。
しかし、あのギラギラの除去カードを使われた場合、やはりすぐに倒されてしまう。
必須のカードは、すぐ攻撃ができるようになるカード。
前者はデッキを確認した時にあるのを確認した。後者はなかった。
だが、さっき除去のついでのようにデッキトップから3枚墓地に送られ、その中に速攻付与があったのでドローは絶望的だった。
自分の手札はこれと、今引いたカードの2枚。
そして、今引いたこのカードが、逆転のキーパーツとなった!
「呪文!洗脳!相手のユニットをひとつ貰い受けます」
「それは!私がネタで入れたカード!」
初心者に渡すデッキにそんなもん入れんな。
「……あれ?それって」
「キャノンサキュバスを貰います」
頬を赤らめ、白無垢に着替えた盤面のキャノンサキュバスがこちらの場にやってくる。
嫁入り?変なとこ凝ってるな……と関心しながら、効果を宣言する。
「じゃあ、キャノンサキュバスの効果でティタノを破壊します」
「あ」
相手のライフが攻撃力になるティタノを飛ばせば、一撃必殺のコンボになる。
「待ってオタクくん!話し合お!ね!?」
「問答無用!」
射出されるティタノにぶん殴られた淫魔さんが、悲鳴とともに倒れる。
周囲からは『役たたず』『クソボケ』『私らにも見返りくれる約束だったろ!』
『ティタノさまで決着は美しい』『お前に言うこと聞かせて何が楽しいんだよ』『人間くんをぺろぺろしたかった』
と、阿鼻叫喚が轟いていた。
唯一、魔獣さんは自分の頭を撫で、やるじゃないか、と褒めてくれていたが、なんか目がいやらしかった。
「も……もう一戦」
「やりませんよこんな闇のゲーム」
「次!次は絶対勝つから!」
「そりゃ勝つでしょうよ!」
理不尽なカードパワーに引きで勝てただけの話なので、この勝利に再現性はない。
次やれば必ず負けるのは目に見えていた。
「えー。じゃあ仕方ないか。さよならオタクくん」
彼女は儚げな笑顔で手を振った。
──あれ?確か負けたらカードの精霊に食われるって。
命令に従わなかったらって言ってたけど、もしかして、命令しなければそのまま食べられちゃうんじゃ。
現に、白無垢を着たキャノンサキュバスはまだ具現化していて、淫魔さんをじぃ、と睨んでいた。
「あ、わわ!分かりましたよ!じゃあたまにこうしてカードしましょ。闇のゲーム抜きにして!」
「ほんとうに?やったー!」
バンザイした彼女と同時に、こちらを振り向いたキャノンサキュバスがさびしい顔をして消えていく。
少しだけ、悲しい気分になった。
その後、罰ゲームなしで何度かやったが、案の定1度も勝てず、全てキャノンサキュバスによるバーンが敗因だった。
なんだあのカード消しやがれ。
ゲームが終わる度に儚げに微笑むキャノンサキュバスに一切の感動はなく。このゲームを作ってる会社に禁止カードの嘆願書を送る手立てをただただ考えていた。
おまけ
魔族カードゲーム
負けると自分のデッキユニットに犯されるか、勝者の言うことを聞く義務が発生する。
互いに罰ゲームなしの条件を設定した場合はその限りでは無い。
小悪魔ビート:強さ☆☆☆
リリムとか小さいユニットで殴り勝つデッキ。割と強い。
負けるとわらわらと集団で犯される。
魔獣ターボ:強さ☆
遅すぎるのでライフゲインが入っているくらい弱い。最近高額カードでライフゲイン分火力を蓄積するカードが出て評価が上がっている。
負けると力づくで犯される。
天使ハンデス:強さ☆☆☆☆
真価発揮前に潰されるので、どんなデッキにもワンチャン持っていける。ハンデスした数火力をあげるカードがつい最近禁止に行った。
負けると祝福と称して犯される。
人魚パーミッション:強さ☆☆
『渦巻の濁』という無効効果を相手ターンに飛ばせるため、マストカウンターできるなら強い。
負けると海に引きずり込まれて、海中で犯される。
サキュバスビートバーン:強さ☆☆☆☆
軽さと手数を兼ね備えた現環境デッキ。
近々キャノンサキュバスが禁止に行く予定。
レッサーサキュバスはバニラのコスト0で1/1である。強い。
負けると凶悪なまでに犯される。