「あなたもカードを嗜まれるのですね」
ギャルっぽい淫魔さんからカードゲームを教わってからしばらくしたある日、すっかりこのカードゲームにハマった自分はたまにカードショップに寄っていた。
今日もひとりで席に座って淫魔さんを待っていると、見覚えのある天使さんが話しかけてきた。
「あ、ハンデス種族の」
「……デッキタイプで呼ばないでくださいまし。
こほん。申し遅れました。わたくし、天使族のネゼルですわ」
「知ってるよ。クラスメイトだもん」
「まぁ嬉しい。ご一緒しても宜しくて?」
同意を得る前に自分の隣に座る彼女。
対面じゃないのかよ。
「──対面だなんて。ではそのように」
「ごめん待って。なんか致命的なミスをした気がする。」
ガタッ!と椅子を揺らして立ち上がる天使さんを止めて前の席に座ってくださいと伝えると、不服そうに彼女は前の席に座る。
「なんのデッキ作られてるんですか?」
「秘密ー」
「良ければ一戦よろしいですか?」
「まぁ、いいけど……」
ざわっ、とショップが沸き立った。
1人のインドアそうなサキュバスさんが『普通にフリーしてくれるんだ!?』と叫び、『しゃべりかけるとか無理……』とこれまたインドアそうな魔族さんが言っていた。
「あ、でも罰ゲームはなし……」
「ええ、分かっていますわ」
シャッフルする彼女がそう言い、なら良かったと安堵する。
「デュエルスタート。あ、ちなみに負けたら従うルールにはれっきとした名前がありまして。
契約の儀と言うんです。追加の罰ゲームはしませんが、契約の儀は執り行ってくださいね?」
「………ん?」
それはつまり、負けたら勝者に従うルールはアリってこと?
「ま、待って!」
「問答無用♡です。天使の抱擁を使い1枚ドロー。ターンエンド」
ぐぬぬ。
何はともあれ勝つしか無くなった。
自分もまた、手札から場にユニットを出す。
「スライムを召喚。」
「スライム……?」
ぽよぽよとした可愛い人型のスライムが出現したのを見て、天使さんは首を傾げた。
「……なんですかそのデッキ?」
「さぁね。ターンエンド」
「んー……なんだか分かりませんが、ドロー!
エンジェルを召喚します!自身をコストに相手の手札を一枚破壊!」
テーブルの上に現れた天使が、自分の手札を一枚奪い墓地に送る。
送られたカードは……。
「あれ?破壊なんだっけ?墓地に送るとか、捨てるとかじゃなくて」
「はい。破壊ですが」
「あ、じゃあ効果発動するね。
破壊されたインフィニットスライムの効果。
効果破壊時に墓地から場に出す。その後デッキまたは墓地からもう一枚インフィニットスライムを出す」
ぽよん、ぽよん、とムチムチとしたスライムが場にずらりと並んだ。
これで場には2ターン目にして三体のユニットが並ぶことになる。
まぁ、スライムは種族共通で攻撃力が0なのだが。
「う、運が悪かったですわね」
「そうだね」
自分の手札を見ながら自分も答える。
これなら、割と何とかなるかも。
そう思った時に、後ろから声がかかった。
「お、オタクくーん!なにして……え、いやほんとなにしてんの?」
ニコニコ笑顔だった淫魔さんは、盤面を見た瞬間、ドン引いた顔をして言う。
「騙されたんだ……」
「騙してませんわ!ちゃんと罰ゲームはしません。契約の儀は執り行いますが」
「うわ、これだから天使は……。オタクくん!ボコボコにしてやれ!」
「はっ!負け犬は黙っててください。淫乱が移ります」
「淫魔と天使は羽の色と輪っか以外魔族学的違いはないだろうがよー!!」
ぎゃーぎゃーと自分を差し置いて言い合う2人は、何となく似たもの同士な気がした。
「じゃあ自分のターンね。置物の『スローライフ』。場と墓地のカードのコストを倍にする」
「手札、ではなく?」
「うん。これで自分の場のスライムのコストは2になって、インフィニットのコストは20になる。」
「……意味不明ですわね」
目的不明の作戦ほど怖いものは無い。
自分の展開は概ね理想の動きを見せていた。
スライムデッキはどうやらマイナーらしく、見た感じ、あまり天使さんはこのカードゲームの知識もないようだった。
ブツブツと「ネットで書いてたルートは……えぇと」と言ってることからわかる。
まぁ、自分もこのゲームを初めて日は浅いが、それでも人間界ではそれなりにカードゲームは嗜んでいた。
そこに明確な違いがある。
それに、ハンデスデッキを使うのに、天使さんは1番大事なものが欠けていた。
それから天使さんはハンデスをしつつ盤面処理を展開。ユニットを着実に出していき、こちらの除去カードが軒並み手札からボロボロと落ちていき、ジリ貧になっていた。
しかしスライムの耐久性は高く、ダメージを最小限に抑えていてくれた。
その耐久性を信じて、自分はハンデスされてもいいようにすぐに呪文などをデッキボトムに送り、後半のゲームの調整にかかった。
最終的な盤面としては、こちらはインフィニットが3体にスローライフが3。インフィニットのコストは脅威の30になっていた。
対して天使さんの盤面は除去に耐性のある『ケルビム』や、毎ターンハンデスを行える高打点の『ソロネ』など、錚々たるメンツが顔を揃えていた。
「オタクくん!」
周囲も『やば……』『これって……』『あぁ……』
と、敗北を確信していた。
「ほほほ!どうです!まぁ、どうしてもというのならお婿さんではなくお付き合いからはじめても宜しくて……」
「何勘違いしてるんですか?」
「ひょ?」
そう。全員は敗北を確信していた。
しかしそれは、天使さんの、だが。
盤面的にラストターン。手札はなしだった。
しかし、ボトムにせっせと積み込んだそれが逆転の火種……というか、計画の最後の一ピースだった。
「手札から『他者破産』を発動。場のカード1枚を破壊し、相手はそのカードのコストの半分──」
それを聞き、天使さんは叫ぶ。
「無駄ですことよ!『守護天使』を手札から捨てて、このターンダメージを全て0に……」
「──コストの半分の数、デッキから墓地に送る」
「ほぇ?」
天使さんはちょっとよろしいですか、と自分の発動したカードをまじまじと見つめ、そしてこちらを見る。
とても、青ざめていた。
「15枚?」
「うん」
「私のデッキの残り枚数14なんですけれど」
「うん」
「あの……これ、負け?」
「うん」
自分は頷く。
天使さんの敗因はただ一つ。
デッキ知識がないと、ピーピングハンデスが意味をなさないのだ。
「じゃあ、自分からの命令は、今後契約の儀?をもう二度と自分に挑まないこと。」
「うぅ、はい……。
でも、あなたとまたカードできるなら、嬉しいです」
ぱっ、と、花開くような笑みを見せて、少し照れて顔を背ける。
背けた先には、すごく不機嫌そうな淫魔さんがいた。
「おーやー?なにか不満気ですね淫魔さーん?」
「べつにー?清楚ぶってる天使様が、そーんな性格の悪いデッキを使うなんてねー」
「なんですって!あなた!席に着きなさい!」
「じょーとー!やってやる!」
一触即発の雰囲気が流れる中、お互い激しく火花を散らすが、淫魔さんははたと、なにかに気づいように急に冷静になった。
「あ……でも、ちょっとまっててね。」
「どうしましたの?」
「……キャノンサキュバスが禁止に行ったのと、レッサーサキュバスがエラッタされてゴミになっちゃったから……リペアしてからでいい?」
目を真っ黒にしながら言う淫魔さんの圧のようなものを感じ取ったのだろう。
「いいですよ」
と多分思わず敬語で答えてしまったであろう天使さんが、なんだか面白かった。
スライムデッキ破壊:強さ☆
今回は上手く回っただけであり、非常に弱い。
効果破壊をトリガーにするスライムと合わせていたが、どうせデッキ破壊するなら一発で全部吹き飛ばしたいし、もっと耐久に寄せようと画策中
天使ハンデス:強さ☆☆☆
強かったが、天使さんが主人公くんとカードゲームをしたいあまりデッキプールをあまり理解せず戦ったせいで、プレミが多く敗北した。
本来なら負けることは無い。
サキュバスビートバーン:強さ☆☆
レッサーサキュバスが1/0/1になり、キャノンサキュバスが禁止に行ったせいで環境からは下火に。
ネットでは『順当』『いていいわけが無い』『二度とツラみせるなゴミ』『私はこのカードで彼氏をゲットしたから好き』『◀︎オマエキライ』
と散々である。