HOLOLIVE IN THE YURARI   作:佐藤ネジ

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捻葉マキは大事件に出くわすようです。



捻葉マキという刑事

 

五月も終わろうとしていた。

 

ロスサントスの朝は、今日も騒がしい。

 

警察署の駐車場では、出勤したばかりの警官がパトカーをぶつけ、その隣では別の警官がなぜか倒れていた。

 

無線からは銀行強盗の通報。

 

その向こうでは、誰かが笑っている。

 

そして署内では。

 

「マキさん! ちょっといいですか!」

 

「んー?」

 

捻葉マキは、パソコンから顔を上げた。

 

「これって、何の罪状つければいいんですか?」

 

「どれ?」

 

新人警官が差し出した報告書を覗き込む。

 

「……ああ、これね。ここはこうして、こっちも確認して。あと、被害者の証言ちゃんと取った?」

 

「あ、まだです」

 

「じゃあ先にそっち。後から食い違ったら面倒だから」

 

「了解です!」

 

ぱたぱたと走っていく新人を見送って、マキは再びパソコンへ向き直った。

 

「……で、これがこうで」

 

「マキさーん」

 

「今度は何!?」

 

振り返る。

 

そこには、にやにやと笑う二十日ネルが立っていた。

 

「いやぁ、すっかり先輩じゃん」

 

「何が?」

 

「マキさん、マキさんって」

 

「……ああ」

 

言われてみれば、確かに。

 

最近、妙に質問されることが増えた。

 

罪状の付け方。

 

罰金の計算。

 

無線の使い方。

 

チェイス中の報告。

 

ほんの一か月ほど前、自分がネルに聞いていたことばかりだ。

 

「……私も最初、こんな感じだった?」

 

「もっと聞いてた」

 

「嘘でしょ」

 

「いや、ほんとほんと。ネルさんこれ何ですか、ネルさんこれどうするんですか、ネルさんこのボタン押していいですかって」

 

「最後のは聞いてない!」

 

「聞いてた聞いてた」

 

「絶対盛ってる!」

 

ネルが笑う。

 

マキもつられて笑った。

 

一か月。

 

たった一か月だ。

 

それでも、この街に来たばかりの頃が、ずいぶん昔のことのように感じられた。

 

「ま、分かんないことあったら、まだまだ聞いていいからね」

 

「もちろん。ネルさんにはこれからもお世話になります」

 

「よろしい!」

 

そこへ、署内の入口から声がした。

 

「おーい、マキ。そろそろ行くかぁ」

 

クワさんだった。

 

「はーい!」

 

マキは立ち上がる。

 

机の上の書類を片づけ、装備を確認し、車の鍵を手に取った。

 

「じゃ、行ってきまーす」

 

「いってらっしゃーい、マキさん!」

 

「だからそれやめてって!」

 

笑い声を背中に受けながら、マキは警察署を出た。

 

⸻

 

「で、今日はどこ回る?」

 

運転席に座ったマキが、シートベルトを締めながら尋ねた。

 

「そうだねぇ。北の方でも行ってみるか」

 

「了解」

 

助手席では、クワさんがのんびりとシートを倒している。

 

「……寝ないでよ?」

 

「寝てねぇよ」

 

「今めっちゃ倒したじゃん」

 

「腰が痛ぇんだよ」

 

「もう、おじいちゃんなんだから」

 

「誰がおじいちゃんだ」

 

エンジンがかかる。

 

白と黒のパトカーが、警察署の駐車場からゆっくりと走り出した。

 

いつの間にか、これが当たり前になっていた。

 

最初はクワさんが運転していた。

 

マキは助手席で地図を開き、道路の名前を覚え、信号を見落とし、無線の操作に悪戦苦闘していた。

 

それが今では、何も考えなくても目的地まで走れる。

 

「いやぁ、マキさんも立派になったもんだ」

 

「クワさんまで!」

 

「何だよ、署内で大人気だったじゃねぇか」

 

「からかわないでよ!」

 

「俺もそろそろ敬語使わないといけねぇなぁ」

 

「ほんとに怒るよ!?」

 

クワさんが笑う。

 

そのときだった。

 

『各員、コンビニ強盗発生。対応可能な警官は向かってください』

 

マキの手が無線へ伸びる。

 

『こちらマキ。クワさんと向かいます』

 

「よし」

 

パトカーが加速した。

 

数分後。

 

二人が到着したコンビニから、一台の車が勢いよく飛び出してきた。

 

「あ、警察だ!」

 

犯人らしき男が叫ぶ。

 

マキはすぐさまサイレンを鳴らした。

 

『前方の車両! 停車しなさい! 警察です!』

 

「マキさん! 今日ちょっと遊んでるだけだから!」

 

『犯罪したんでしょ!?』

 

「いや、そうだけど!」

 

『じゃあ止まりなさい!!』

 

犯人の車が交差点を曲がる。

 

マキも続く。

 

「いやぁ、元気だねぇ」

 

「クワさん! ナンバーお願い!」

 

「はいよ。あ、右曲がるぞ」

 

「見えてる!」

 

「おー、上手い上手い」

 

「実況しないで!」

 

パトカーがタイヤを鳴らして曲がる。

 

『マキさん! ちょっと! そんな本気で来る!?』

 

『本気で来るに決まってるでしょ!!』

 

助手席で、クワさんが腹を抱えて笑っていた。

 

結局、犯人は数分後に逮捕された。

 

「いやぁ、マキさん、今日も元気だねぇ」

 

手錠をかけられた男が、けらけらと笑う。

 

「あなたも元気だね。じゃ、署まで行こうか」

 

「えっ、ほんとに?」

 

「当たり前でしょ!」

 

「冗談通じねぇ!」

 

「通じてるよ! 犯罪は犯罪なの!」

 

クワさんは、また笑った。

 

「ほんと、真面目だねぇ」

 

「仕事だからね!」

 

マキは大真面目だった。

 

犯罪者がふざけているからといって、警察官までふざける理由にはならない。

 

それが、捻葉マキという刑事だった。

 

そして。

 

その真面目さが、笑い話では済まない事件と向き合うことになるのは、もう間もなくのことだった。

 

⸻

 

最初の事件は、猫カフェの店員が襲われたという通報だった。

 

被害者の名前は、プリチィきな子。

 

何者かに誘拐され、山中でナイフによって刺されていた。

 

犯人は、RED RUMを名乗る覆面の男。

 

マキが事件の詳細を知ったのは、署内で報告書を確認していたときだった。

 

「……誘拐して、刺した?」

 

画面を見つめる。

 

「で、山に置いていったの?」

 

クワさんが隣から覗き込む。

 

「物騒だねぇ」

 

「物騒どころじゃないでしょ、これ」

 

マキは眉をひそめた。

 

「被害者の証言は?」

 

「今、集めてるところだってさ」

 

「……分かった。私も確認する」

 

それから数日も経たないうちに、二人目の被害者が出た。

 

雷堂ましろ。

 

救急隊員。

 

北部のコンビニから連れ去られ、ヒューマンラボで刺されていた。

 

ましろは後藤れむと親しい人物だった。

 

事件の報告を受けたれむは、普段とは違う様子を見せる。

 

『救急隊員が襲撃された。犯人はRED RUMの可能性あり』

 

無線が入った瞬間、署内の空気が変わった。

 

「……ましろ?」

 

後藤れむが顔を上げる。

 

「ましろって、あのましろ?」

 

誰かが頷いた。

 

れむはすぐさま立ち上がった。

 

「俺、行ってくる」

 

「れむ、待って。場所は?」

 

「ヒューマンラボ!」

 

「私たちも向かう!」

 

マキはクワさんを振り返る。

 

「クワさん!」

 

「はいよ」

 

二人は駐車場へ駆け出した。

 

⸻

 

病院の廊下。

 

マキが到着した頃には、すでに何人もの警官が集まっていた。

 

れむもいた。

 

いつもなら、何かにつけて軽口を叩いてくる男が、黙って壁にもたれている。

 

「……れむ」

 

「ん?」

 

「ましろ、大丈夫?」

 

「……分かんない」

 

短い返事だった。

 

マキはそれ以上聞かなかった。

 

クワさんが、少し離れたところから二人を見ていた。

 

「……マキ」

 

「うん?」

 

「まずは、できることからやろうや」

 

「……うん」

 

マキは頷く。

 

被害者がいる。

 

犯人がいる。

 

ならば、警察官がやることは決まっている。

 

「……よし」

 

マキは手帳を取り出した。

 

「犯行現場、もう一回確認しよう」

 

⸻

 

捜査は難航した。

 

犯人は覆面を被り、被害者を誘拐し、人目の少ない場所へ連れていく。

 

そして、ナイフで刺す。

 

銃声の通報はない。

 

犯人自身の血痕もない。

 

現場に残されたものは、決して多くなかった。

 

「……きな子さんの件と、ましろの件」

 

マキは署内のホワイトボードに、二つの事件を書き出していた。

 

「誘拐した場所は違う。遺棄した場所も違う。でも、犯行の手口は似てる」

 

「同じ奴だろうなぁ」

 

クワさんが椅子に座りながら答える。

 

「うん。ただ、同じだとしても、何でこの二人なのかが分かんない」

 

マキはペンを走らせる。

 

犯行時刻。

 

被害者の行動。

 

誘拐場所。

 

犯人の服装。

 

使用車両。

 

被害者が聞いた言葉。

 

一つずつ書き出していく。

 

そこへネルがやってきた。

 

「マキ、これ追加の情報」

 

「ありがと!」

 

マキは受け取った資料に目を通す。

 

「……あれ?」

 

「何?」

 

「この証言、ちょっと気になる」

 

「どれ?」

 

二人が資料を覗き込む。

 

クワさんは、少し離れたところで腕を組んでいた。

 

「……マキ」

 

「ん?」

 

「その人、何か隠してるんじゃねぇか?」

 

「え?」

 

「いや、嘘ついてるって話じゃねぇんだけどな」

 

クワさんは資料を指さす。

 

「言いたくねぇことがあるんじゃないかって話」

 

マキは、もう一度証言を読み返した。

 

「……なるほど」

 

証言が正しいことと、その人が全てを話していることは違う。

 

マキは、資料の端に小さくメモを書き足した。

 

「じゃあ、もう一回話聞いてみようか」

 

「はいよ」

 

捜査は、一人で行うものではない。

 

ネルが持ってくる情報。

 

クワさんが気づく違和感。

 

他の警官たちが集めてくる証言。

 

それらを組み合わせることで、ようやく一つの事件が形になっていく。

 

そして、警察とは別に事件を追っていた記者、アイアンメイデン三郎太の調査も進んでいた。

 

やがて、一人の男の名前が浮上する。

 

マイケル・モイヤーズ。

 

⸻

 

「……マイケル・モイヤーズ」

 

マキは、その名前を口にした。

 

署内には、捜査に関わる警官たちが集まっている。

 

「現状、この人物がRED RUMである可能性が高い」

 

報告を聞いていたれむが、腕を組んだ。

 

「じゃあ捕まえようぜ」

 

「待って」

 

マキが資料をめくる。

 

「まだ、決定的な証拠がない」

 

「……は?」

 

「状況証拠はある。でも、それだけじゃ足りない」

 

「いや、どう考えてもこいつだろ」

 

「うん。私も疑ってる」

 

「じゃあ――」

 

「だから、証拠を探すんだよ」

 

れむが黙る。

 

その後、マイケルは任意同行に応じ、事情聴取を受けた。

 

しかし、本人は犯行を否認した。

 

警察は、マイケルを帰すことになる。

 

「……マジかよ」

 

れむが吐き捨てるように呟いた。

 

マキも、決して納得していたわけではない。

 

この男が犯人なら、また誰かが襲われるかもしれない。

 

しかし。

 

疑っているからといって、逮捕していいわけではない。

 

マキは、資料を閉じた。

 

「……分かった。じゃあ、次の証拠を探そう」

 

れむが振り返る。

 

「お前、何でそんな普通にしてられんの?」

 

「普通じゃないよ」

 

「……」

 

「私だって腹立ってる」

 

マキは、れむを見た。

 

「でも、私たち警察官なんだから」

 

れむは何も答えなかった。

 

⸻

 

その日の夜。

 

警察署の駐車場には、もうほとんど車が残っていなかった。

 

マキは、忘れ物を取りに戻ったところだった。

 

「……あれ?」

 

駐車場の端に、人影が見える。

 

後藤れむだった。

 

「れむ?」

 

「……おう」

 

「何してんの?」

 

「別に」

 

マキは隣に立った。

 

「帰んないの?」

 

「……マキさ」

 

「ん?」

 

「警察って、何なんだろうね」

 

マキは、少し驚いた。

 

「……急にどうしたの?」

 

「いや、何かさ」

 

れむは、駐車場の向こうを見つめた。

 

「犯人分かってんのに、証拠ないから捕まえられないって、意味分かんなくない?」

 

「……うん」

 

「ましろ刺されてんだぞ」

 

「うん」

 

「なのに、あいつ普通に街歩いてんだよ」

 

マキは黙って聞いていた。

 

「だったらさ」

 

れむが、小さく息を吐く。

 

「俺、警察辞めて、自分で捕まえた方が早いんじゃねぇかなって」

 

マキは、すぐには答えなかった。

 

れむが、どれほどましろを心配していたか。

 

どれほど怒っているか。

 

それを、マキも知っていた。

 

「……れむ」

 

「何?」

 

「れむはさ、そいつを捕まえたいの? それとも、殺したいの?」

 

れむは黙った。

 

しばらくして、ぽつりと答える。

 

「……分かんねぇよ」

 

「そっか」

 

「……」

 

「私は、捕まえたい」

 

「なんで?」

 

「だって、私警察官だもん」

 

れむが、少し呆れたように笑う。

 

「いや、そういう話じゃねぇだろ」

 

「そういう話だよ」

 

マキは、れむを見た。

 

「れむが警察辞めて、あいつ殺したらさ」

 

「……何?」

 

「ましろは助かるの?」

 

れむは答えない。

 

「次にましろみたいな人が襲われたとき、誰が助けに行くの?」

 

「……俺がいなくても、警察はいるだろ」

 

「うん。いるよ」

 

マキは頷いた。

 

「でも、れむがいた方が、助かる人は多いと思う」

 

「……」

 

「私、まだれむより全然弱いしさ」

 

「今それ関係ある?」

 

「あるよ。だから、もうちょっと一緒にやってほしいんだけど」

 

れむが、思わず笑った。

 

「何だよそれ」

 

「いや、私がれむを追い越すまで辞めないでよ」

 

「お前、それ何年かかんだよ!」

 

「うるさいな!」

 

マキも笑う。

 

いつもの調子が、少しだけ戻ってきた。

 

そして。

 

「……それにさ」

 

「ん?」

 

「まだ終わってないでしょ。この事件」

 

れむは、何も答えなかった。

 

ただ、翌日。

 

彼はいつもどおり、警察署に出勤してきた。

 

⸻

 

RED RUMによる襲撃は、なおも続いた。

 

アイアンメイデン三郎太。

 

山本龍也。

 

そして、MOZUのヘラシギ。

 

被害者は増え続けた。

 

しかし、三郎太が襲われた事件で、捜査は大きく進展する。

 

犯人は、そのとき素顔を隠していなかった。

 

意識を取り戻した三郎太から、マイケル・モイヤーズが犯人だったという証言が得られた。

 

「……よし」

 

マキは、資料を机に置いた。

 

「これで動ける」

 

れむが顔を上げる。

 

「行くか?」

 

「行こう」

 

しかし。

 

警察が動き出した頃には、すでに別の組織も動いていた。

 

MOZU。

 

そのボス、ヴァン・ダーマー。

 

仲間を襲われたギャングは、警察の捜査を待つつもりなどなかった。

 

そして、六月五日。

 

マイケル・モイヤーズは、MOZUによって拉致された。

 

⸻

 

『RED RUMがMOZUに拉致された!』

 

無線が響いた。

 

「……は?」

 

マキは思わず声を上げた。

 

「ちょっと待って。何で!?」

 

助手席のクワさんが、無線を聞きながら答える。

 

「仲間をやられたからだろうなぁ」

 

「いや、だからって!」

 

マキはハンドルを切った。

 

『こちらマキ! 現在地どこ!?』

 

無線から、次々と情報が入ってくる。

 

MOZUの車両。

 

マイケルの身柄。

 

警察車両の位置。

 

マキは、それらを頭の中で整理していく。

 

「……クワさん」

 

「ん?」

 

「これ、犯人を捕まえるために、犯人を助けることになるんだよね」

 

「そういうことだねぇ」

 

「……よし」

 

マキは、アクセルを踏み込んだ。

 

「行こう!」

 

⸻

 

ヒューマンラボ付近での衝突を経て、警察はMOZUを追跡した。

 

そして、軍事基地周辺。

 

警察車両が次々と集結する。

 

『各員、配置を確認。勝手に突っ込まないように』

 

無線から、ジャック馬ウアー署長の声が響いた。

 

マキは、クワさんとともに周辺の警戒へ回る。

 

『こちらマキ。配置につきました』

 

『了解』

 

マキは、車から降りた。

 

銃を構える。

 

少し離れた場所では、れむも配置についていた。

 

その先にいるのは、MOZU。

 

そして、彼らに拘束されたマイケル・モイヤーズ。

 

マキは、奥歯を噛みしめた。

 

自分たちが追い続けてきた犯人。

 

何人もの市民を襲い、ましろを刺し、街を恐怖に陥れた男。

 

しかし、今は。

 

「……絶対、殺させないから」

 

マキは、小さく呟いた。

 

やがて、ジャックとヴァン・ダーマーが対峙する。

 

警察は、マイケルを逮捕し、法によって裁く。

 

MOZUは、自分たちの手で始末する。

 

二つの立場が、真正面からぶつかった。

 

『各員、準備』

 

無線が入る。

 

マキは、銃を握り直した。

 

『了解』

 

そして。

 

銃声が響いた。

 

⸻

 

戦闘は、決して楽なものではなかった。

 

MOZUもまた、ロスサントスで数々の犯罪を重ねてきたギャングだ。

 

警察が一方的に制圧できる相手ではない。

 

『マキ! そっちどう!?』

 

れむの声。

 

『大丈夫! こっちは押さえてる!』

 

マキは、遮蔽物から身を乗り出す。

 

敵の位置。

 

味方の位置。

 

射線。

 

逃走経路。

 

頭の中で、次々と情報を組み立てる。

 

『れむ! そっちお願い!』

 

『了解!』

 

れむが動く。

 

その隙に、マキも位置を変えた。

 

クワさんは、少し後ろから周囲を警戒している。

 

「マキ、左!」

 

「了解!」

 

銃声。

 

無線。

 

エンジン音。

 

そして、ジャックの指示。

 

警察官たちは、それぞれの役割を果たしていく。

 

マキは、目の前の敵を追いながらも、決して一人で突っ込まなかった。

 

この街で学んだこと。

 

自分一人が強くなるだけでは、警察は強くならない。

 

仲間の位置を見て、必要な場所へ動く。

 

それが、今のマキの戦い方だった。

 

やがて。

 

警察はMOZUを制圧し、マイケルの身柄を確保した。

 

ジャックがマイケルを確保する。

 

れむは、ヴァン・ダーマーの護送を担当した。

 

マキは、ようやく銃を下ろした。

 

「……はぁ」

 

大きく息を吐く。

 

隣へ、クワさんがやってくる。

 

「お疲れさん」

 

「……疲れたぁ」

 

「そりゃそうだ」

 

マキは、遠くで警察車両へ乗せられていくマイケルを見た。

 

「……やっと捕まえた」

 

「そうだねぇ」

 

「……絶対、ちゃんと裁いてもらわないと」

 

クワさんは、静かに頷いた。

 

⸻

 

その後、マイケル・モイヤーズは、警察署での事情聴取に応じた。

 

自分がRED RUMであることを認め、連続襲撃事件について供述した。

 

マキは、集めてきた資料を整理しながら、長く息を吐いた。

 

「……終わったぁ」

 

「お疲れ」

 

ネルが声をかける。

 

「いや、ほんとに疲れた」

 

「まだ報告書あるよ」

 

「知ってる! 言わないで!」

 

ネルが笑う。

 

マキも笑った。

 

そこへ、れむがやってきた。

 

「お疲れ」

 

「おー、れむ。お疲れ!」

 

「……捕まったな」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

少しだけ、沈黙が落ちる。

 

やがて、マキが口を開いた。

 

「……れむ」

 

「何?」

 

「明日も出勤する?」

 

れむは、少しだけ笑った。

 

「するわ!」

 

「よし!」

 

「何だよ、それ」

 

「いや、何となく!」

 

マキは、机の上の報告書をれむへ押しつけた。

 

「じゃ、これ手伝って!」

 

「は!? 何で俺が!?」

 

「同じ警察官でしょ!」

 

「都合いいな、お前!」

 

署内に、いつもの笑い声が戻ってきた。

 

⸻

 

六月六日。

 

警察署には、何人かの新しい顔が訪れていた。

 

職場体験。

 

警察の仕事を知りたいという人たちが、署内を見学している。

 

マキは、報告書の整理をしながら、その様子を横目で眺めていた。

 

「……あれ?」

 

一人の女性が、少し困ったように立っている。

 

「どうしたの?」

 

マキが声をかける。

 

「あ、えっと……」

 

女性が振り返った。

 

「牧田ここなです。今日、職場体験に来ました!」

 

「ああ、よろしくね。捻葉マキです」

 

「よろしくお願いします!」

 

「で、どうしたの?」

 

「あの、これって、どうすればいいんですか?」

 

ここなが、手元の資料を見せる。

 

「ああ、それね」

 

マキは隣に立った。

 

「まずここを確認して、それから……」

 

説明を聞きながら、ここなが頷く。

 

「なるほど!」

 

「分かんないことあったら聞いてね。私も最初、全然分かんなかったから」

 

「ありがとうございます、マキさん!」

 

「うん。頑張ってね」

 

それだけの会話だった。

 

マキは、ここなが他の職場体験者たちのところへ戻っていくのを見送り、再び仕事へ戻った。

 

このときのマキにとって、牧田ここなは、警察の仕事を覚えようとしている新人の一人でしかなかった。

 

それ以上でも、それ以下でもない。

 

ただ。

 

「マキさん」

 

そう呼ばれたことが、少しだけくすぐったかった。

 

⸻

 

六月七日。

 

RED RUM事件の裁判。

 

マイケル・モイヤーズには、無期懲役の判決が下された。

 

れむが、ヘリでマイケルをプリズンへ護送する。

 

警察は、ようやく事件を終わらせた。

 

……はずだった。

 

その日のうちに、MOZUがプリズンを襲撃した。

 

警察は壊滅的な被害を受け、マイケルの身柄を奪われた。

 

『RED RUM、連れ去られた!』

 

無線が響く。

 

マキは、思わず立ち上がった。

 

「……は?」

 

耳を疑った。

 

あれほど苦労して。

 

証拠を集めて。

 

ギャングから助け出して。

 

ようやく、法によって裁いた。

 

それなのに。

 

「……ふざけんなよ」

 

マキは、机を握りしめた。

 

しかし、すぐに無線を取る。

 

『こちらマキ。現在地と状況、教えてください』

 

怒っている場合ではない。

 

まだ、警察官の仕事は終わっていない。

 

⸻

 

事件後の現場検証。

 

溶鉱炉周辺から、大量の血痕が発見された。

 

分析の結果、マイケルとヴァン・ダーマーに関連する血痕が多く含まれていた。

 

警察は、マイケルがMOZUによって殺害された可能性が高いと考えた。

 

マキは、報告書を見つめていた。

 

「……結局、こうなっちゃったか」

 

隣で、クワさんが静かに頷く。

 

「……そうだねぇ」

 

「私たち、何のためにあんなことしたんだろ」

 

思わず、そんな言葉が漏れた。

 

クワさんは、すぐには答えなかった。

 

しばらくして。

 

「……でも、あんたらは、ちゃんと仕事しただろ」

 

マキが顔を上げる。

 

「証拠集めて、犯人捕まえて、裁判まで持ってった」

 

「……うん」

 

「それは、なくならねぇよ」

 

マキは、もう一度報告書へ目を落とした。

 

「……そっか」

 

「そうだよ」

 

少し離れた場所では、ジャックが他の警官たちと話していた。

 

署長として、事件の結末を受け止め、次の仕事へ向かおうとしている。

 

マキは、資料を閉じた。

 

「……よし」

 

立ち上がる。

 

「報告書、終わらせよう」

 

「はいよ」

 

クワさんも立ち上がった。

 

その日も。

 

翌日も。

 

ロスサントスでは、事件が起こり続けた。

 

警察官の仕事が、なくなることはなかった。

 

⸻

 

六月が終わり、七月になった。

 

ロスサントスは、相変わらず騒がしかった。

 

銀行強盗。

 

コンビニ強盗。

 

誘拐。

 

交通事故。

 

そして、警察署の駐車場では、今日も誰かがパトカーをぶつけていた。

 

「……何で毎日ぶつけてんの!?」

 

マキが叫ぶ。

 

「マキさん! ちょっと助けてください!」

 

「今度は何!?」

 

「車が動かなくなりました!」

 

「修理してきなさい!!」

 

署内に笑い声が響く。

 

ネルが、その様子を眺めながら呟いた。

 

「……ほんと、変わったなぁ」

 

「何が?」

 

マキが振り返る。

 

「いや、マキが」

 

「私?」

 

「うん。最初なんて、何にも分かんなかったのにね」

 

「それはもういいって!」

 

「今じゃ、みんなマキさん、マキさんって」

 

マキは、少しだけ考えた。

 

確かに。

 

いつの間にか、自分が質問される側になっていた。

 

新人に罪状を教え、無線の使い方を教え、チェイスの基本を教える。

 

それでも。

 

「……私、まだネルさんに聞くこといっぱいあるけどね」

 

「いいよ。いつでも聞きな」

 

ネルが笑う。

 

マキも笑った。

 

そこへ。

 

「おーい、マキ。パトロール行くぞぉ」

 

クワさんの声がした。

 

「はーい!」

 

マキは立ち上がる。

 

「じゃ、行ってきます!」

 

「いってらっしゃーい、マキさん!」

 

「だからそれやめてって!!」

 

⸻

 

七月。

 

ロスサントスの空は、今日も青かった。

 

運転席には、捻葉マキ。

 

助手席には、クワさん。

 

パトカーが、街をゆっくりと走っている。

 

「そういや、マキ」

 

「ん?」

 

「こっち来て何か月だ?」

 

「んー、もう三か月くらい?」

 

「早いねぇ」

 

「ほんとだね」

 

マキは、フロントガラスの向こうを見つめた。

 

三か月。

 

この街に来たばかりの頃は、道路すら分からなかった。

 

ネルに質問してばかりだった。

 

れむの動きを見て、あまりの強さに驚いた。

 

クワさんの助手席で、街の景色を眺めていた。

 

それが今では。

 

「……何?」

 

クワさんが、マキを見た。

 

「いや、何でもない」

 

「何だよ」

 

「……楽しいなって」

 

「何が?」

 

「この街」

 

クワさんは、少しだけ笑った。

 

「……そりゃよかった」

 

そのとき。

 

無線が鳴った。

 

『各員、犯罪通知。対応可能な警官は向かってください』

 

続いて、ネルの声。

 

『こちらネル。現場へ向かいます』

 

別方面から、れむの声も入る。

 

『俺も行くわ』

 

そして、新しく入った警察官たちの声。

 

その中には、ここなの声も混ざっていた。

 

マキは、無線を取った。

 

『了解。私たちが先行します』

 

「クワさん、行くよ!」

 

「はいよ。あんまり飛ばすなよ」

 

「それは無理!」

 

マキは、アクセルを踏み込んだ。

 

サイレンが鳴る。

 

白と黒のパトカーが、ロスサントスの街を駆け抜けていく。

 

かつて。

 

この街へ来たばかりの彼女は、何も分からない新人だった。

 

しかし、今は違う。

 

ネルに教わり。

 

クワさんの隣で現場を知り。

 

れむの背中を追いかけ。

 

ジャックのもとで、警察官としての仕事を学んだ。

 

そして今では。

 

誰かから、自然に。

 

「マキさん」

 

と呼ばれるようになっていた。

 

――ロスサントス警察、捻葉マキ。

 

その名が、街に知られるようになるのは、まだ少し先の話。

 

今はただ。

 

一人の警察官が、今日も街を走っている──。

 





ストグラ編、一旦終わり、ここからマキは出張する予定…

応援として別の街から出張してるのに、さらに出張とは…?
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