VCR GTA3、二日目。
鴉に、ねじまきゆらりが加入した、その日のこと。
街の路地裏。
叶は葛葉と二人で話していた。
「なあ叶」
葛葉が、いつもの調子で笑う。
「俺たちのギャング、マジ最先端の自信があるから! この街で!」
「最先端?」
「そう。マジで」
葛葉は自信満々だった。
「だからさ、叶も入ろうぜ」
「うわぁ、それ、惹かれるなぁ…!」
そう言いながらも、叶は少し考える。
「…魅力的ではあるね、最先端」
「だろ?」
「うん」
「じゃあ決まりじゃん」
「いや、ちょっと考えさせて」
「なんでだよw」
「いや、ちゃんと考えたいから」
「真面目かよ」
「真面目だよ」
叶が笑う。
「少し考えてから返事する」
「おっけー」
葛葉はあっさり引いた。
「まあ、待ってるわ」
「うん」
そうして二人は別れた。
叶は自分の車に乗り込む。
エンジンをかけ、ゆっくりと街を走り始める。
「……鴉か」
頭の中に、さっきの葛葉の言葉が残っている。
自分としても、かなり魅力的な誘いだった。
今回のVCR GTA。
叶には、一つやってみたいことがあった。
――この街の犯罪を、できる限り全部やってみたい。
昨日から街を回り、いろいろな犯罪に触れてきた。
一人でできることも試した。
そして一通り一人でできる犯罪を終わらせた叶にとって、ギャングに入るという選択肢は、叶にとってかなり魅力的だった。
葛葉たちと一緒なら、もっといろいろなことができる。
何より、絶対に楽しい。
「……入りたいんだよなぁ」
叶は小さく呟く。
それはもう、ほとんど答えが出ているようなものだった。
けれど。
ほんの少しだけ。
心の中に引っ掛かっているものがある。
「……でもなぁ」
叶は車を走らせながら考える。
自分が入ったら。
鴉は、かなり強くなる。
もちろん、それ自体が悪いことではない。
むしろギャングとして活動するなら、強い仲間がいるのは当たり前だ。
ただ――
「……強くなりすぎないかな」
叶はそう呟いた。
今回の街も、ギャングだけではない。
警察もいる。
それぞれが楽しめるように、街全体のバランスもある。
自分が鴉に入れば、確実に戦力は上がる。
それが原因で、何かが偏ってしまう可能性もある。
叶はそういうことを考えてしまう。
それが、自分でも分かっている性格だった。
「……うーん」
答えが出ないまま、しばらく車を走らせる。
すると――
車の調子が少し悪くなってきた。
「……あ」
メーターを見る。
「結構削れてるな」
さすがに一度、修理しておいた方がいい。
叶は近くのメカニックへ車を向けた。
――――――
メカニックに到着する。
車を止め、叶が降りる。
そして、店内へ目を向けた。
「……ん?」
見覚えのある服装が目に入る。
「あれ?」
そこにいたのは――
葛葉。
……ではなかった。
葛葉のような格好をした、ゆらりだった。
「……マッキー?」
「おー、かなかなじゃん!」
ゆらりが振り返る。
「マッキーも車の修理?」
「さっきのフリーカで、警察はまけたんだけど、かなり耐久やられちゃって」
「マッキーも、犯罪頑張ってんだ」
叶はそう言いながらも、さっきから気になっていた服装について言及する。
「マッキー、その服って……」
「ああ、これ?」
ゆらりが自分の服を見る。
「鴉の衣装」
「鴉の?」
「うん」
「葛葉のコスプレ衣装がw?」
「ちなみにこれ、イブが見つけてきた服」
「それは葛葉から聞いたわw、似てるやつをGTA内で見つけてきたってw」
それでさっきは葛葉があまりにもまんまな服装をしていたのに笑っていたのだが──
「じゃあ今の鴉って葛葉のコスプレ集団ってこと?」
「いやそうなんだよねw」
二人で笑う。
「じゃあ、マッキーも鴉なんだ」
「そう」
「いつ入ったの?」
「今日」
「今日なんだ」
「うん」
叶は少し笑う。
「実は僕も、さっき葛葉から誘われたんだよね」
「え?」
ゆらりが顔を上げる。
「かなかなも?」
「うん」
「じゃあ入ればいいじゃん」
あまりにも自然に言われた。
叶は苦笑する。
「いや、それがね」
「うん」
「ちょっと悩んでるんだよ」
「何で?」
「僕が入ったら、鴉が強くなりすぎるんじゃないかなって」
ゆらりの表情が、少し変わった。
「……ああ」
「やっぱマッキーも分かる?」
「分かるよ」
ゆらりは頷いた。
「僕も、そういうの気にしたことあるから」
「まあやっぱりGTA結構やってるとそうなるよね…」
「うん」
ゆらりは少しだけ遠くを見る。
「GTA2でGanGLにいた時、似たようなことあったから」
「あー、そうだったね…」
「強くなりすぎると、色々考えちゃうのわかる」
「うん」
叶が頷く。
すると、ゆらりはあっさり言った。
「でも、入りたいなら入れば?」
「え?」
「今回ぐらい、自分の好きなことやろうよ」
「……」
「僕は好きなことやるよ」
ゆらりは笑う。
「かなかなが気にしてることも分かるけど、それは僕も前回あったことだから今回はフォロー出来ると思うし」
「マッキーが?」
「うん」
「じゃあ……」
叶は少し考えて。
「入ってみようかな」
「うん、それがいいよ!」
「ありがとう、マッキー」
「どういたしまして〜!」
叶は車へ戻る。
「じゃあ、またね」
「またね、かなかな」
――そして。
一人になった叶は、しばらく車を走らせていた。
「……今回くらい、自分の好きなことやるか」
先ほどのマッキーの言葉を思い出す。
自分が入れば、鴉は確かに強くなるかもしれない。
その可能性は、今でも変わらない。
でも。
それを理由に、自分のやりたいことを諦める必要はない。
もし本当に問題が出てきたら。
その時に考えればいい。
マッキーもフォローすると言ってくれた。
「……うん」
叶は頷く。
そしてスマートフォンを取り出した。
葛葉に電話をかける。
数コール。
『もしもし?』
「葛葉?」
『お、叶?』
「今いい?」
『いいけど。どうした?』
叶は少し笑う。
「世話になりたい…!」
一瞬。
電話の向こうが静かになる。
そして――
『マジ?』
葛葉の声が、一気に明るくなる。
「マジ」
『入ろうぜ!』
「うん」
『いや、普通に嬉しいわ〜、じゃあ今から中型やるから、早速こいよ!』
「おっけ、早速ねw、分かった向かうわ」
叶は笑う。
『早速暴れようぜー!待ってるわ!』
「はいよ〜」
電話が切れる。
叶はスマートフォンをしまった。
そして、車の向きを変える。
向かう先は――
鴉のアジト。
その頃。
別の場所を走っていたゆらりの無線に、葛葉から声が入った。
『叶、鴉に来るらしいぞ!』
『急に他人事何?w』
渋ハルがそうつっこむと無線の皆から笑いが起こる。
「いや風の噂だとそうらしい」などと、適当なジョークを飛ばしている葛葉とそれに応える仲間たちの声を聞きながら、ゆらりが笑う。
「よかったじゃん」
「好きなことやろう、やっぱりそれがいいよ」
そう一人ゆらりはつぶやく。
『ということで今から叶、早速中型にぶちこむから!』
『入って速攻中型なのヤバいw』
みんなの笑い声が無線越しに聞こえる。
「まあ、かなかななら大丈夫でしょ!」
ゆらりもそう言って無線に混じる。
「絶対、楽しくなるよ」
そして。
二日目の街に。
また一人、鴉の仲間が増える。
叶が抱えていた、小さな引っ掛かり。
それを解いたのは、たまたま出会った一人の友人だった。
自分がかつて同じように、強さゆえの問題を経験したからこそ。
その悩みを否定するのではなく。
理解した上で――
「その辺は僕もフォローするよ」
そう言ってくれた。
だから叶は。
この街で、自分の好きなことをすることにした。
鴉へ向かう車の中で。
叶は少しだけ笑っていた。
「……楽しみだな」
VCR GTA3、二日目。
鴉に、また一人。
新しい仲間が加わろうとしていた。
鴉初めてのヒューメンラボマジで好き