『キミ』と暁山瑞希ちゃんがいつか幸せに辿り着くための物語集 作:橘ありす氏
「カフェのバイト、なんだかんだ楽しかったな……」
時刻は深夜、25時過ぎ。自室で、つい、独り言。
先日、お洒落なカフェの臨時バイトに誘われた時の話。
ドタバタするカフェのキッチンで、ボクが忙しくて料理の盛り付けを妥協しかけた所に、目ざとく叱ってくれた咲希ちゃん。
彼女は「どんなに忙しくても手を抜かないこと」「お客さんにはその1枚がすべて」と教えてくれた。
実際、ボクには効いた言葉だった。
自分が些細なことだと思っても、相手にはその一回が大事だったりする。
逆に、ボクが大事だと思っていることを、無神経にあしらってしまう人達が沢山いるのは……身に沁みて知っている。
とにかく、ボクはあの時に自分が答えたことに背を向けられない。
「誰かに届けたいものを作る時は全力でやるべきだし、そうしないと作り手の想いも伝わらないよね」って。
それはその場で出たとはいえ本心からの言葉だし、出来れば今後も守っていきたい、けど……。
できることにしっかり全力を注ぐって、分かってるけど難しいよね。
でも、ボクには、まふゆに家から逃げ出す選択肢を与えた責任がある。だから今後はまふゆのお手本として、ボクもちゃんと自分と向き合う為に、いつでも全力を出せるようにしておいた方が良い。それは分かってる、のに。
「ねえ瑞希、聞いてるの?」
作業通話中だったことを思い出させる絵名の声。
余計な心配をかけないように、すぐ返事をする。
「ごめん、ちょっとね! どうしたの?」
「この前言ってたアニメのコラボカフェ、結局ひとりで行ったんでしょ?」
作業の話だったらちゃんと聞いておかないとと身構えたけど、一先ずは大したことない雑談だったので一安心。
誰とも予定が合わず、取り敢えず一人で行ったコラボカフェ。
こちらはあくまで一時的に場所を借りてやっているコンセプトカフェみたいなものなので、バイトした所みたいにお洒落ではなかったはずだけど、どうだったんだっけ。
記憶を掘り起こしていくと……。
「あ~……、思い出した! それがさ~、聞いてよ~。今回は特典カードが付く形式なんだけどね、目当てが出なかったんだよね……。最近は結構良い子にしてたと思うんだけどな~、ボク……」
「瑞希、出るまで注文しそうなのにね」
まふゆの言うことはもっともだし、対象がドリンクメニューだったら実際その通りにしていたと思う。だけど、今回はドリンクが対象外と言う厳しい戦いだった。
注文数の制限はなかったから、ご飯もののメニューの攻略を頑張れたらそれで良いかと言うと、それも難しい。
「見ての通り、結構量あるんだよね~……。だから一人でもう一回は厳しくてさ~」
ボクがホームページのスクリーンショットとお店で撮った写真を並べてアップロードすると、目ざとく絵名は気付く。
「『大人のお子様ランチ』……? これって少し前にSNSで話題になってなかった?」
「あ、そうそう! そうなんだよ! 洋食屋さんで元々やってるお店はあったんだけど、今回コラボカフェで取り上げられてもっと知名度が上がったんだって! お子様ランチで童心に帰るのも良い刺激になると思うし、皆でもう一回行けないかな、なんて……」
屁理屈を捏ねても結局はボクの為に過ぎない。
この論理が通るのかは半分微妙だと自分でも思った。
けど、
「童心に帰る……」
まふゆが反応を示した。
これこそがボクらの最優先。
彼女を救う為に奏は頑張っているのだから。
「ご飯を食べる戦力になれるかは分からないけど、まふゆの為にもなるなら……」
「ホント!? やった~! 他にも気になってる食べ物があるから……前にやったミステリーツアーに続いて、今回はグルメツアーってことで! 今から全力で計画立てるよ!」
こうして、早くも全力を出す機会が訪れた。
行動計画を考え、スムーズにエスコートする。それが今後の本気の練習になる。
例えば、ミステリーツアーの反省を踏まえて、歩き回らなくて済むコースを考える。
トラブルが起きることは前提として、それも込みでちゃんともてなせる様に、とか。
こう言う準備が自分らしくないと言うのは自分が一番分かってるけど……。
逃げてきたことをやらなきゃいけない時がいつか遠くない未来に来てしまう気がする。
有難いことに、もう一人で居られるボクでもない……。
だから、その時が来ても、皆に迷惑をかけない様に……。
「さーて、当日はガイドさんも頑張っちゃうぞ!」
「まったく、調子良いんだから……」
絵名の呆れた相槌。
ここぞと言う時に勘の良い絵名にも今回のボクの心境はまだ見透かされてないみたい。
ちょっと安心した気持ちで……、今夜の作業が始まった。
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当日。皆と決めた集合時間の訪れよりも早くボクは動き出す。
最初に皆と食べたいものが売ってるお店は、シブヤからは少し距離がある。
だから一人で先に行って受け取ってきた方が早いんだよね。
と言うことで、無事に買ってからシブヤへ。
ちゃんと集合時間通りに着いたボク、えらい!
さてさて、皆を探すと……いたいた!
「おはよー! 皆も時間どおり来れたね!」
「皆も、って……朝から寄り道してきたわけ? 元気過ぎでしょ……」
「瑞希、良い匂いがするね」
まだ眠くてダウナーな絵名がぶつくさ言ってる内に、珍しく奏が最初に気付いた。
「ふっふーん! じゃーん!」
ボクが得意げに紙袋から取り出したのは、所謂「推しチュロス」と言うやつ!
事前にwebから予約すると、指定した文字の形のチュロスを作ってくれるサービス。
今朝のボクが早起きだったことの答え合わせ。このお店までひとっ走りしてきたからでした~!
やっぱりボク、えらいでしょ?
「ニーゴ」
厳密には、「ニーゴ♡」と言う形をしているそれを、まふゆはゆっくり回しながら見ている。
「全部だと長いもんね……」
申し訳なさそうな奏。ボクたち、『25時、ナイトコードで。』は確かに長い。
とはいえ、略称にしたのは単に経済的な問題。
「これ、文字数分のお金がかかっちゃうんだよね~~。漢字は割増だし……。代わりにハートマーク付けたんだ! 四文字だと皆で分けられるし、良いでしょ?」
カワイく上目遣いで「ダメ?」と視線を送ると、まふゆは視線をずらす。
「良いと思う」
良い方だった。
ならオッケー!
「肉球型のもあるよ~! カワイイでしょ~!」
こちらは人数分。文字のは結構大きめだけど、肉球は持ってても良さそうなサイズなので、一人ずつ手渡しして、食べながら行くことに。
「本日は皆さん、当グルメツアーにご参加頂き、有難う御座いま~す!」
「はいはい、ガイドさんだったら先導してよね」
「タイムスケジュールはバッチリ任せて! お次はトルネードポテトのお店に~~、しゅっぱーつ!」
「明日からカロリースケジュールの管理が大変そう……」
絵名の一言、ちょっと上手い。
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食べ歩きをして、休憩して、おしゃべりして……楽しい休日はあっと言う間。
スケジュール的に、次がいよいよ夕飯の時間。
ボクたちは無事、予定通りにコラボカフェに向かった。
二回目でありメインターゲットでもあるボクが注文を終えて、乾杯。
皆で一息。
今日のメインメニュー……大人のお子様ランチは、その通り、お子様ランチが大人用に大きくなったもの。
メニューの組み合わせとしては、ハンバーグ、オムライス、エビフライ、ナポリタン、その他色々と言った感じ。
それぞれが洋食屋さんのメインを張れるメニューでありながら、それらが一堂に会するこのプレートは、正に大ボリューム。
正直、ボクも初めて食べ終わった時は敗北に近いドローぐらいの気分になっていたのを思い出す。
でも今回のボクは一味違う。
「お! 来た来た! オムカレーになってるのがボクのでーす! 一回目はデフォルトメニューのオムライスにしたんだけど……やっぱり本命はカレーだよね!」
何より、料理の味が違うから……なんちゃって、えへへ……。
デフォルトとの違いは、ハンバーグとナポリタンが無くなってるみたい。代わりにカレーとメンチカツが乗っている。
量の違いとかは分からないけど、ボクなら好物のカレーは別腹に感じられて、ちょっと余裕ができるんじゃないかなー、なんて甘い考え。
「食べきれるかな……」
「奏がダウンしたらボクとまふゆで頑張るから、ね!」
奏の不安をものともせず、まふゆは当然の様に頷いた。無表情のままだけど。
と言うか、オムカレーにしてもボクに余裕が生まれなかった場合、まふゆが頑張ってくれないとちょっと困ってしまうから、信じたい。
そんな不安を振り払うには、盛り上げるしかない。
「それよりさ、見て見て、この小さい旗! タコさんウインナー! でも、エビフライは大きく! こう言う所が、やっぱり分かってるお店だよ!」
何処から攻略したら良いか悩んでいる二人に、促すように喋っていく。
「ほらほら、ボクは食べ頃に冷めるまで待つから、食べて食べて! 元の洋食屋さんからの影響もあって、ハンバーグとオムライスが絶品なんだよね〜! でも、ボクのここの本命はナポリタンでーす! ぜひぜひ~~」
「アンタが作ったわけじゃないでしょ……」
絵名から有難くツッコミも頂いているお時間で、奏とまふゆがスプーンを手に取った。
「「いただきます……」」
「絵名~、星型のにんじん食べてあげよっかー?」
「もうちょっと角度が……」
皆の食べた反応が待ち遠しいのに、絵名は写真に集中。
まふゆは相変わらず無表情で口を動かしている。
あとは……。
「さあ、奏様~? お味はいかがでしょう~!」
「……」
「奏?」
まだ飲み込めてないのか、ただもぐもぐとしている。
ただ、それでも表情が珍しく緩んでいるのを、ボクは見逃さなかった。
「分かる分かる~! このハンバーグ、美味し過ぎて自然と笑っちゃうよね」
得意げにするボクを横目に、写真を撮り終えた絵名もフォークを構える。
「へぇ……。じゃあ私は本命から……ナポリタン、美味しい……! 悔しいけど、これはホントに美味しいかも……」
「でも、メニューに無いんだね」
まふゆ、流石の着眼点。絵名が引き下がるほどの美味しさなのにね。
「陰の主役と言えるほどの美味しさなのに、単品だと置いてない。それがこのお店の七不思議のひとつ!」
「あと六つもあるんだね」
「勝手に作らないの! まふゆも信じなくて良いから!」
そうしてボクたちがワイワイやっていると、ひと段落した様子の奏が呟いた。
「ありがとう、瑞希。こうして皆で食べてるからかも知れないけど……どこか懐かしい感じがして、美味しいよ。まふゆは……?」
「味は、分からないけど。懐かしさは……悪くない、と思う」
「奏、まふゆ……」
「……! 喜んでくれて良かったよ!」
奏は両親のことを思い出している時の顔。まふゆはボクたちといる時に時々浮かべる優しい微笑。二人からこのリアクションを貰えるなら、ボクは今日の自分に合格を出しても良いのかも知れない。ここまでは。
そう、ボクらにとってはここからが本題。
苦戦する奏の分をまふゆが平らげ、皆が食後のお茶でゆっくりし始めた頃。
ボクはもうひとつお願いをすることにした。
「えっと、それで、そろそろ皆食べ終わったところに聞いて欲しいんだけど……。その~、最後に皆でデザートに挑戦したくて……」
「デザートは嬉しいけど……」
「挑戦って……?」
絵名と奏を差し置いてまふゆが指さすメニューの一箇所。他のページと比べると明らかに浮いている不気味なフォントが踊るそれは……。
「激辛パフェだって」
「えーっと、ドジっ子キャラの子がいるんだけど……いちごソースをハバネロ、砂糖と塩を間違えたっていう設定のメニューで……完食すると、特別なカードが貰えるんだよね。その……、一人だと絶対無理だから、お願い!」
「あーもー! こんなことだろうと思った!」
「やっぱりダメ?」
あざとく舌を出すボク。
絵名は呆れた反応を示すけど、それでも覚悟の決まった溜息を吐いてくれる。
「……良いに決まってるでしょ。ていうか、だったら最初から言いなさいよ。遠慮なんかしてもしょうがないでしょ!」
「えなえも~ん! 心の友よ~!」
「えなえもん言うな! うるさい!」
「絵名が一番うるさい……」
奏は、そんなボクらのやり取りを微笑みながら見守っていた。
その顔のまま、到着したパフェをそれぞれ取り分けたものを真っ先に一口食べて──、
すぐにテーブルに倒れた。
「奏!?」
「見た目はパフェなのに、辛い、酸っぱい……ちょっと甘い……」
「無理しなくて良いからね! 瑞希! 責任取ってもうちょっと取り分けなさいよ!」
他ならぬ奏のピンチ。ボクも力になりたい。
なりたいんだけど、
ピピピピピピピピピ!!
と、ボクのスマホから無慈悲にも鳴るアラーム。
密かにセットしていたそれと、一口食べたパフェの強烈な味が、ボクの行動を決める。
「奏、生きてはいるよね!」
「生きてはいるよ……」
「それじゃ! ボク、ちょっと走ってくる!」
「あ! こら! 胃薬か何か買ってきなさいよ!」
具合が悪そうな奏、感情的に右往左往する絵名、奏とボクの皿を取ってただ食べ進めるまふゆ、そして一目散に走るボク。
店員さんや他のお客さんからはどう見えてたのか、気にならないと言えば嘘になる。
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10分後に帰ってきたボクはテーブルの下から伺う様に、「ただいま~……」と恐る恐る声をかけた。
けど、パフェが無い。あれ?
「パフェは?」
「まふゆがひとりで……」
奏の目線の先には空になったパフェの器。
その奥でまふゆは口元を拭いている。
「え゛っ……。ちょっとボクも食べたけど、あの味だよ?! 大丈夫だったの?」
「りんご酢がちょっと酸っぱくて、いちごハバネロソースが辛かった、かな」
「やっぱり、まふゆもそう思うレベルだったんだね……。ホントごめんね、まふゆ。ちょっと反省……」
そう言えば、絵名の姿が見えない。
もしかして……。
世界は救われた。彼女を失って。
「絵名、先に地獄で待っててね!」
「トイレだって言ってたよ」
聞こえていたら(なんで地獄なわけ!?)と言うだろうだけど、返事はない。
別に地獄耳ではないみたい。
「それで……瑞希は何処行ってたの?」
奏のいつにも増して弱弱しい視線が、ボクの持つ二つの袋に向く。
「あ~……。お薬、買って来たんだ。お土産もあるけど……」
「薬、貰おうかな。お土産は絵名が戻ってきたら、皆で開けよう」
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「それじゃ、絵名も戻ってきたことだし、お詫びと言ってはなんですが……」
じゃかじゃかじゃか、じゃん!
「今日のツアーのお土産がありまーす!」
下から持ち上げた紙袋を、テーブルにゴトッと置く。
明らかに重そうで、実際重さがあったその音に、一同の視線が集まる。
「開けてすぐ食べられる缶詰とかだと助かるな……」
「良いね~! 奏はそう言うと思って、じゃーん!」
ボクはひとつひとつ、紙袋の中から缶詰……と言うとちょっと違うんだけど、缶に入ったケーキを取り出す。
「ケーキ缶だよ~~! 奏のとこは穂波ちゃんの分もあるから、渡してね!」
中が見える缶の中に、層になったケーキが入れられているお土産。
見つけた時に「これだ!」と思ったんだよね~!
「確かに、これなら作業の合間に食べられるかも……」
「ケーキ缶……!? これ、予約が必要なやつじゃない!?」
「ふふ~ん! そうだよ~? 辛さに火を噴いたえななん様のお怒りを鎮める為の捧げもので御座います~! 弟くんの分も持って帰ってください~~! ははぁ~~!」
「……まあ、これなら許してあげるけど……なんで彰人も?」
「二人とも好きだって聞いてたからね! 内緒で二個とも食べないでね?」
「当たり前でしょ! ちょっと見直したらすぐこれなんだから……」
(でも、こんなの見つけてくるなんて……瑞希も頑張って考えてくれたのかもね)
「って顔してる!」
「そこ、うるさい!」
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会計を済ませ、ブラインドパッケージの特典カードを貰ってお店を出る。
座れるベンチを見つけて、いざ、オープン!
果たして、結果は……。
「やった~! コンプリート~! 嬉し過ぎだよ~!」
「瑞希の分はまた被ったんだね」
「あはは……。でも、まふゆが目当てのカードを一発目から当ててくれたのは安心したな~! そこからコンプリート、出来過ぎてて最高だよ! 激辛パフェの特別カードも貰えたし、言うことなしだね!」
「あのパフェ、ほとんどまふゆが食べたんだから、感謝しなさいよね」
「わたしはあんまり力になれなかったから、次があったら頑張るよ」
と言うか、次こそは奏が頑張る必要がない様にしないといけないよね。
「そういう意味だと、ミステリーツアーに続いてまた大変になっちゃってごめん……。今度こそ皆が無理しなくて良いようにしまーす……」
ちょっと反省、ほんとに。
そんなボクを見かねたのか、お姉ちゃんとして見せるような顔で絵名が助け舟。
「……まあ、でも今日は瑞希もガイド頑張ってたもんね。その分があったから、そうやって報われたんじゃない?」
「わたしもそう思うよ。きっと、良い子にしてた瑞希へのご褒美じゃないかな」
「……瑞希、良かったね」
奏、まふゆ……。
自分に直接関係がなくても、喜んで、悲しんで、こうして手を伸ばして、助け合って。
皆とこうして過ごす時間があることが、今のボクには本当に……。
「うん、良かった! 皆、今日はありがとう!」
それに……頑張って褒められると、やっぱり嬉しいな……。
その日が来るまで、小さい所からでも……頑張ろう。
END.