『キミ』と暁山瑞希ちゃんがいつか幸せに辿り着くための物語集   作:橘ありす氏

6 / 8
(この前書きと本文は、2026年6月当時、pixivに投稿されたものです。)
今回はいつもと違って明るいラブコメ風です!
リアリティラインを下げてわちゃわちゃ感を目指したので、笑ってください。
書いた理由は、水着を着る瑞希ちゃんが見たいからです!なので夏に先駆けて書いちゃいました!
感想はここにコメントください!
褒めてくださーい!
(6/8、友人に言われて類へのチャット及び終盤の自転車の展開を修正。ご指摘有難う御座います。


夏のヒロイン

 25時。

 最近は寝苦しい熱帯夜だと聞くけれど、ボク達には関係ない。万全を期してクーラーを掛けて、しっかり作業をこなす日々。

 一応、浮き足立つ様な世間の動きは聞こえていて……コンビニには花火が置かれる様になって、雑貨屋には貝殻のアクセサリー、フェニランでは期間限定のウォーターパレードが始まったのも知ってる。

 レオニやモモジャンも夏の曲を出してるし、ビビバスの皆は夏フェスに出ている。

 ボクもちゃっかりラムネを買ってセカイにストックしてるし、すっかり、夏。

 そうなれば当然、こう言う話題になる。

「ナイトプールかぁ……」

 絵名が軽い調子で言った。

 胸の奥がざわつくってほどじゃないけど。

 ちょっとだけ。

 頭の上のリボンの端に引っかかる、ような。

 そんな感覚があった。

 ありながらも、

 

「え〜、いいじゃん! 夏っぽい!」

 

 とは反応する。

 実際、泳ぐのは好きだもん。

 潜るの好きだし。

 水の中って、音が遠くなるしさ。

 ぼんやりした淡い日光の中にいる感じで、自分の輪郭まで曖昧になるみたいで、ちょっと落ち着く。

 寝れない夜に“深海少女”を聴きながら延々水底の映像見てたこともあったし。

 だから、泳ぐのも、プールも好き。

 だけど、

 

「ボクはいいかな〜。絶対人多いもん」

 

 慣れた誤魔化し方!

 誰も気にしないくらい、軽く出来てるでしょ?

 絵名も「ナイトプールだってば。他に理由があるの、誤魔化してるでしょ」と言いつつも、これで終わる話題のはずだった。

 横顔に感じる視線が、マイクをミュートにさせる。

 苦笑いで「なあに?」と嘆息するボクに、ベッドに腰掛けているキミは得意げに、ふ、と鼻を鳴らす。

 なんとかしてやる、とでも言いたげなその顔には、今更ときめかない。

 だって、当然の様に一緒に寝る気で待っている甘えん坊な彼氏がする態度じゃない。

 まあ、それは置いといて……。

 キミには誤魔化さない。

 どうせ見透かされてる。

 着替えはどうするのか。更衣室の問題。

 水着。肌。視線。

 ボクがボクで居ることを、許して貰えない。

 未だにそう言うことを悩む、なんてのはキミからすれば分かりきってることだから。

 さておき、すぐに通話に戻る。

「あー、バレた? 実はボク、流れる水に入れなくて!」

「吸血鬼みたい」

「吸血鬼って、そうなんだ」

「へー、日差しだけじゃないんだ……って、やっぱり冗談で誤魔化して!」

 ボクの冗談にまふゆ、奏、絵名はそれぞれの反応を返すも、みんな笑った。

 キミも笑ってたけど、すごく優しい顔だったから……。

 またボクの為に頑張ってくれるのが明らかで、もう、嫌になっちゃうよ。

 

 ☀

 そんなこともあったなぁ、と思うぐらい経った日。

 キミは用事があるから、と早めに出て行ったから、それならとボクはとっておきの服を引っ張り出してきた。

 しっかりおめかしして、あとは待ち合わせ場所のガラス張りのショーウィンドウの前で待つだけ。

 なんだけど……ボクはそわそわとエンドレスに身嗜みチェックをしていた。

 

「……だ、大丈夫かな」

 

 小さく呟いて、麦わら帽子のつばを、ちょっとだけ下げる。

 夏らしい薄手の生地の白いワンピース。肩のところが開いていて、歩くたび裾が揺れる。

 普段の“盛ったカワイイ”とは違う、引き算の美しさ。

 もっと自然で、柔らかくて、美人にしか許されない、本物の、夏のお嬢さんルック。

 言わば、キミに一言、「今日は特別カワイイ」と言わせる為の、ううん、キミに見せるんじゃなくてもずっと憧れてた一張羅を、ようやく今日、やっと着る勇気が出た。

 本当に落ち着かない。

 ショーウィンドウに映る自分を横から前から要チェック。

 前髪を整え、帽子の角度を直し、少し離れて確認して、また最初から。

 

「うん、カワイイよね……!」

 

 誰に聞くでもなく呟く。

 テンションが上がり過ぎてヤケになりそう。

 スマホを見る。

 まだ待ち合わせより少し早い。

 だけど重要なのは時間じゃなくて……

 ショーウィンドウ越しに、見慣れた姿が映った。

 

「あっ!」

 

 キミだ!

 反射みたいに振り返ろうとした瞬間。

 ショーウィンドウのガラスに、ぱあっ、と顔を綻ばせた満面の笑みの夏のお嬢さんが見えた気がした。

 ようやく待ち望んだ陽が差したひまわりの様に、明るくて、華やかで、眩しくて、嬉しそう。

 恋する少女は無敵。

 その言葉を体現する様な、アニメのヒロイン……。

 

 そこで一瞬、思考が止まる。

 今の、ボク!?

 こんな顔してたら、誰から見てもバカップルじゃん!

 心臓がうるさくて、周りの音が聞こえない。

 慌てて表情を戻そうとするのに、頬が緩む。

 間に合わない。

 全てを包み込む気持ちで、ボクは急いで帽子をぎゅっと被る。

 

「……?」

 

 覗いて伺う感じ。

 ちょっとだけ上目遣いでキミを見る。

 何か言ってよ、と。

 

 キミは一向に言葉を出さない。

 口は開いてるから、何か言おうとはしてる。

 この“間”に、また心臓が鳴りだす。

 永遠にも感じられる時間。

 そして……キミは目を逸らす。

 分かりやす過ぎる答え合わせ。

 

「〜〜〜っ!」

 

 顔が熱くなる。

 こちらも慌ててそっぽ向く。

 でもガラスに映った自分の口元が、また嬉しそうに緩んでるのが見えて、余計に恥ずかしくなる。

 何か言い訳をして誤魔化したい。

 そう思う前に、キミは精一杯格好付けて笑う。

 

「こんなにカワイイ夏のヒロインのエスコートが出来るなんて……光栄だな」

 

 なんてキザな台詞。

 心当たりがある。

 昔、お姉ちゃんがキミに仕込んでた口説き文句のひとつだった気がする。

 その時は呆れながら聞き流してたけど……。

 

「……っ!?」

 

 ちゃんとタイミングを理解して使われると、クリティカルに食らっちゃう。

 だけど、ボクだって負けたくない。

 キミがボクを好きなのと同じぐらい、ううん、ボクの方が絶対キミを好きなんだから!

 

「……ボクがヒロインだったら」

 

 少し熱を帯びた小さい声。

 

「キミはヒーローじゃん……っ!」

 

 反撃を喰らって、キミも動きが止まる。

 夏の日差しをたっぷり浴びて真っ赤に染まって並んでるトマトの様に、ボクたちは青春真っ盛り。

 大きな声で惚気て、注目を浴びて……客観的には甘酸っぱ過ぎる。

 でも今回は自分事。楽しむ余裕はない。

 速やかにキミの腕を取り、絡めて、組んで、歩き始める。

 爽やかな風が吹く。

 麦わら帽子が飛ばない様に押さえるけど、リボンが揺れる。

 寄り添う影。やがて重なる。

 頬への不意打ちに戸惑うキミを置いて、ボクは駆け出す。

 太陽を背に目を細め、笑みを浮かべ、口元に指を立て、感触を思い出させる様に。

 ドギマギしているキミの反応で完全勝利を確信して、やっとボクはいつもの調子に戻れる。

 ニカッ、と満面の笑みで、

「ほら、置いてっちゃうよ!王子様!」

 お転婆なヒロインの夏が始まった。

 

  

 はずだったんだけど……。

 次に気が付いた時には、ボクはキミのエスコートで現地に辿り着いていた。

 屋外プールのプールサイドで、水着でビーチチェアに座らされている。

 水着もキミが用意するって言うから怪しんでたら、これが結構カワイイ。

 ワンピース風なのは予想してたけど、デコルテにはレース、アームカバーやヘッドドレスみたいな小物も付いて、普段のロリィタと変わらないぐらいフリフリ。

 そう言えばバンドの女形でロリィタを着てる人が宣伝してた覚えがあるけど、あとで買おうとして忘れてたんだっけ。

 気が利くんだから~、なんて茶化しながら、どうかな、って聞こうとしたら「俺の嫁は宇宙一カワイイスイング!!」と絶叫しながら写真をパチパチと撮って、すぐ何処かに行っちゃった。

 変なことに使わないでよ、と言おうと思ったけど、別に使ってくれても嬉しいから、良いかな……。

 ばたん……。

 なんでこんなに疲れているのかと言うと、全然実感が追い付いて来てないから。

 流れるプール。大きなパラソル。海の家みたいな屋台に、浮き輪。

 そんな明らかに人の手が普段から入ってそうな場所に、他に誰も居ない。

 おかしいじゃん。

 キミは一体、何をしたの?

 

「好きになったのがボクで……、ホントに良かったよね……」

 

 普通、こんな所に急に連れて来られたら引くと思う。

 ボクだって驚いてはいる。

 けど、キミなら何でもやりかねないと分かってる。

 多分出来る手段は全部尽くして今日まで計画を練ってくれたんだろうから、そのこと自体に感謝もしている。

 でも、やっぱり愛が重過ぎるとも思う……。

 ボク以外にキミを受け止められる子、多分いないよ……。

 色々とぐるぐる考えながら、ボクはキミに持たされたチョコバナナを片付けていく。

 甘くて美味しい。手作り感があるのも、ちょっと好き。

 パリパリ、もむもむと味わいながら、飲み込んで、溜息を吐く。

 こんなとこにボクだけ置いてって、キミは今、どこで何をしているのかな……。

 ボクだって良い子じゃないんだから、あまり退屈にされたら何処かに行っちゃうかもよ?

 あーあ。ホントにさ。キミとボクじゃなかったら成り立たないんだからね……。

 不満を言いたかったのに惚気が混じった自分にも呆れて、もう一度溜息を吐こうかと思ったその時だった。

 

「え、ちょっ、これ、ホントに貸切なの!?」

「そう言う約束でひと夏働いてたんでしょ」

 

 毎日聞いてる、聞き間違えるはずもない声がする。

 

「はぁ……はぁ……。もう、休んで良い、のかな……」

「泳ぎに来たんじゃないの」

「そうだけど、奏には奏のペースがあるんだから……」

 

 奏、まふゆ、絵名。ニーゴの皆だ。

 なんでここに、どうして、どうやって……。

 疑問は湧くけど、全部一旦、食べ終えたチョコバナナの棒と一緒に置いておく。

 ふらつく奏の様子で疲れたボクが見ている蜃気楼じゃないことを確認して、駆け出す。

 まずは我らの大将を労わないと。

 

「皆~~! よくぞいらっしゃいました~~! 奏~~! お疲れ様! さぁさぁ、お席にどうぞ~? 温めておきました~~!」

「暑いから、温かくない方が良いな……」

 

 ボクがおちゃらけて、奏はマジレスする。安心するやりとり~~!

 座ってなかった方のチェアに導いて、ケースからドリンクを出して渡す。

 手こずると困るから、キャップを開けてあげてっと。

 

「どうぞどうぞ、ボクの奢りだよ~!」

「瑞希のじゃないでしょ?」

 

 絵名のツッコミは正しい。

 はい。彼が買っておいてくれたものに違いありません。

 でも彼の物はボクの物。だから問題は無し!

 

「瑞希、サプライズで来たのに、驚いてないの?」

「驚いてる驚いてる! 驚き過ぎて、いっぱいいっぱいになってるだけ……」

 

 でも、なんで皆がいるかなんて、さっきのまふゆの言葉で大体繋がってる。

 学生のボクたちがこんな所を借りさせて貰えてる現実。

 ひと夏働いたとしても絶対お金だけじゃ足りないはずで、それを叶えたのは……。

 

「あとで話は聞くからさ! 絵名! まふゆ! 一緒に泳ごうよ!」

 

 ずっとこうしたかったんだから、楽しまないと!

 

  

 遊んでる時にキミの事情を聞いた。

 実は裏でニーゴの皆に相談していたらしいこと。

 話を聞いた類がえむちゃんに繋いでくれて、夏にフェニランの手伝いをひたすらしたこと。

 司先輩と一緒に類の発明した掃除のマシンの実験になり、協力してこのレジャー施設を丸々綺麗にしたこと。

 各所への根回しが終わって今日ようやく貸切に出来たということ。

 そして、そんな経緯を聞いていく中で、ボクが気になる様な事は全部言わずに、全部「彼女に格好良い所を見せたいからサプライズするんだ」で誤魔化し通したことも読み取れた。

 それで全部繋がる。

 この夏、キミが毎日疲れていたのを思い出す。

 いつもより甘えん坊な日が多かった気もする。

 頼まれてマッサージをしてあげたり、背中を流してあげたり……。

 帰りの遅い日もあったし、寝不足だと言うことも聞いた気がする。

 やりたいことがあるから、とは言ってた気がするけど……これじゃあ、確かにキミがやりたいことではあっても、実際はボクの為みたいなものじゃん。

 

 ボクが軽く見ていたキミの気持ちを、キミは何倍にも何十倍にも行動に変えて、ボクが誰の目も気にしなくていいように、安心して“ボク”でいられるように、本当の意味で守ってくれた。

 胸の奥が、じんわり熱い。

 

「……ずるいよ。格好付け過ぎ……」

 

 思わず零れた声は、自分で思ってるより甘かった。

 多分また、恋する乙女がニヤけてる。

 さっきと違って絵名もまふゆもいるんだから。

 急いで顔を隠さないとバレて弄られる。

 そんなとき、ばしゃん、と文字通りに水を差された。

 

「きゃっ……!」

 

 不意打ちの水飛沫。

 無意識に高いカワイイ声が出て、口を押さえる。

 飛んできたのは浮き輪だ。

 投げられて来た方を見ると、キミがいつの間にか奏を焼きそばで餌付けしていて、ついでかの様にあと二人分も順番に浮き輪を投げて寄越してきた。

 飛んだ雫が夏の日差しに照らされてきらきら砕ける。

 キミはボクの乙女な悲鳴を聞けたからか、ニヤニヤと笑いながら奏から距離を取る。

 

「やったな〜〜?」

 

 ボクも悪巧みをする顔でまふゆたちを離して、浮き輪を構える。

 何を考えているかなんて分かり切ってる。

 

「あははっ! ほらっ、キミもおいで〜っ!」

 

 一応、本当に心配はさせない様に、喧嘩はフリですよ、今からちょっとしたことをしますよ、というアピールを欠かさない。

 キミもわざとらしく、プールサイドで準備運動を始める。

 

「今から準備運動するの!?」

「そう言うギャグなんでしょ」

 

 素直に突っ込む絵名、分かってるまふゆ。

 ちゃんとウケたことをキミは喜びながら、指を立てる。

 3、2、1!

 皆が心の中で唱える中、キミがプールサイドから跳ぶ。

 目指すはボクが掲げた浮き輪の中。

 ハートがあしらわれた、言わば愛のど真ん中へ。

 ドボン!

 …………。

 しばらくキミが浮いて来ない。

 皆が沈黙して見守る中、ボクは潜って、キミに抱き付く。

 一緒に浮き輪の中から出て来て……。

 

「じゃーん! 大成功〜〜!」

 

 悪い顔の金持ちの様な表情のキミと、胸元にすがってお姫様だっこの様にするボク。

 

「おお〜〜……」

 

 素直に感嘆の声をあげてくれる奏。

 

「ありがとう〜! 皆ありがとう〜! 愛してるよ〜!」

「はいはい、すごいすごい……。瑞希だけでも鬱陶しいのに、その願いを叶える王子様が居たらこうなるわけね……」

「知恵を授けた魔法使いさんも居ますので、あとでご感想はそちらにどうぞ~~」

 

 呆れながら拍手はしてくれる絵名。

 えっへん!

 プリンセスと王子様には魔法使いが付き物。

 実はプールに来てキミに一人にされてる間、すぐ類にチャットを送ったのです!

 キミとのこと、プールのことはしれっと完全スルーしながら、すぐにボクたちでも出来そうな面白い演出を考えてくれました〜!

 素晴らしい仲人に特別な感謝を……。

 

「瑞希、楽しそう」

「そりゃね〜! ずっとこんな風に遊びたかったから! まふゆもやってみる?」

「私は……」

 

 目線の先には奏。

 ゆっくり休めたみたいで、少し泳ぐことに。

 まふゆに押さえて貰いながら浮き輪に捕まって、水泳教室の幼児みたいにパタパタと足を動かす。

 絵名はプールサイドでそれを録画するに留まる。録画だけでも十分アウトな気がするけど、奏がそこまでならと許可を出してるんだから、ボクに言えることはない。

 こんな風に、みんな普通に楽しんでる。

 ニーゴが居て、キミが居て、手放しで楽しめる。

 それが嬉しかった。ただ楽しい場所として、みんなが笑ってる。

 その真ん中に、自分がいる。

 良いなあ、としみじみしちゃう。

 はあ、と息を吸って、膝を抱えて、潜ってみる。

 水の中だと、身体が軽い。

 潜って、浮かんで、水面を見上げて、呼吸も、視線も、なんだか全部、ふわっと遠くなる。

 そう言う非現実な感じが良かったはずなのに。

 今日は紛れもなく、現実がいっぱい。

 水面に出ると、青く揺れる水に差す太陽の光の中に、キミの姿がハッキリしてる。

 これが現実であることに、むしろ安心する。

 こんなに楽しいだけでいられる時間を作っちゃうんだから、やっぱりキミには敵わない。

 

  

 一頻り遊んで疲れたボクたちは、キミが一人で切り盛りしてた鉄板に興味を持った。

 まふゆは野菜を切ってくれて、絵名が焼いていくけど……。

 

「焦げてるよ」

「焦げたのは自分で食べるんだから良いでしょ! これくらい香ばしい方が美味しいから!」

 

 キミはその横のスペースで、慣れた手付きで人数分のチョコバナナを用意していく。

 

「なんか瑞希のだけトッピング豪華じゃない?」

「そりゃあそうだよ! 愛の量ですよ、旦那様の!」

 

 そんなやり取りをしながら笑う。

 写真を撮ったり、水を掛け合ったり、浮き輪でゆったりしたり、スライダーで流れたり。

 笑い声が、ずっと続いて、あっと言う間に夕方。

 夏は夜になるのが遅いから、油断してると急に真っ暗になっちゃう。

 だから皆に先に帰って貰う様にキミは促す。

 

「片付け、本当に任せちゃって良いの?」

「良いの良いの! まふゆも結構手伝ってくれたからそんなに無いし! それにほら……」

 

 奏は完全に寝てしまっている。

 

「奏、楽しかったかな」

「……たぶん」

 

 絵名の言葉にまふゆは小さく頷いた。

 それがなんだか、すごく良かった。

 みんなを見送ったあとは……キミと二人っきり。

 帰りの足は、キミがここに前から置いてた自転車があるみたいだから、それで帰るとして……。

 当たり前だけど、一気に静かになった感じ。

 騒がしかった昼間に比べて、今はボクが出す水音だけ。

 ぱしゃ、ぱしゃ、と小さく響いてる。

 余韻を楽しんだら、パラソルの下に並んで座る。

 少し湿った風が火照った肌を撫でる。

 

「……あー! 楽しかった!」

 

 ぐーっと伸びをすると、キミが笑う。

 

「はしゃぎ過ぎだって? だって~~……楽しかったんだもん 」

 

 そう言って、ボクは自然に、ごく自然の様に、キミの肩へ寄り掛かった。

 ぴたり、と体温が触れる。安心するあたたかさ。

 指先を這わせて、そのまま、絡める。

 

「ね、ボクが何言いたいか当てて?」

 

「また来たい? ぶっぶー」

 

「眠い? まだ眠くないよ? アドレナリンがまだ出てる感じするし、火照っちゃってるから」

 

「好き? 改めて言って欲しいってこと? へ~? 好きだよ。好き。ちゅきでちゅよ~ 」

 

 くすくす笑う。

 キミが困った顔しながら付き合ってくれるのが楽しくて仕方ない。

 楽し過ぎて、胸の奥がじわっと熱くなる。

 

「……言葉に出来ない気持ち」

 

 ぽつり、と呟く。

 

「言葉にしたくないって言うか。伝えきれないって言うか」

 

 キミの肩に頬を預ける。

 夏の匂い。水の匂い。キミの匂い。

 甘い気持ち。楽しい気持ち。苦い気持ち。愛しい気持ち。

 恋も愛も、わざわざ言葉にする仲じゃない。

 それを越えたところにある感情が、全部混ざって、くらくらしてきて、分かんなくなる。

 

「……あーあ。お姉ちゃんになんて言おう」

 

 自分の感情に呆れ笑い。

 

「旦那さんが素敵過ぎて来世も一緒になりたいよー、なんて。聞かされても困るよね」

 

 キミが何か言う前に、顔を覗き込んで追い打ち。

 

「今聞かされてるキミは……この重さが嬉しいんだろうけど!」

 

 ニカ、と満面の笑みが浮かんでしまう。

 ちょっとからかいも込めたつもりだったのに、確信を約束する様に、キミの指の絡みがぎゅっと強くなる。

 

「また来ようね」

 

 ボクは夕陽より赤くなった顔色がバレない様に、その手に縋って、いつまでももたれることに……って、違う違う!

 

「そう言えば、これっていくらしたの? 今度はちゃんと相談してよ? 類とえむちゃんに頼って引いてもらった分もあるんでしょ? またやるなら半分出すからね! 聞いてる?」

 

 えななんみたいだな、と聞き流そうとするキミ。

 もう、格好付けちゃって。

 ボクみたいなのに捕まったのが運の尽きなんだからね。

 逃がさないよ、と頬を膨らませる。

 

「だってさ、将来的にはさ、キミだけのお財布じゃなくなるんだからさ……。無駄遣いばっかされたらボクも困っちゃうよ?」

 

 めっ!

 キミのおでこに、つんっ、てしてあげる。

 意地を張っているのか、表情を変えないキミ。

 ボクは溜息を吐く。

 周囲を確認する。

 皆は間違いなく帰っている。

 それなら……。

 ちゅ。

 パラソルの影の下、今度は疑いようもなく、お互いを味わう。

 キミが惚けている間に、畳み掛ける。

 

「だって……こんなカワイイ水着があって、こんな自慢したくなる旦那さんがいて、ニーゴの皆も類もえむちゃん達も協力してくれるのに、ボクだけビビってられないじゃん!」

 

 キミは呆気に取られながら、少し笑う。

 優しい目をして、頷く。

 溜息を吐いて、言葉を選び、喋り出す。

 

「そうだな。今度は皆にちゃんと相談して、イベントに出来ないか掛け合うよ。来年はもっと上手くチョコバナナ作れるようにしとく」

「結構良かったけど、まだ向上心あるんだ……」

「焼きそばもじゃんじゃん焼いてやる」

「屋台のおじさんルート進んでない?」

「看板娘もいることだしな」

 くすくす笑い合う。

 笑ってるうちに、胸の奥が、またじんわり熱くなる。

 こんな夏がまた来ること。ボクはキミの為に、キミはボクの為に生きること。

 その当然が嬉しくて、照れ臭くて、ちょっと泣きそうなくらい、幸せ。

 だからボクは、誤魔化すみたいにキミに寄り掛かる。

 

「……ずるいなぁ」

 

 寄り掛かる力を強めながら、

 

「でも、そういう所が好きだよ。ボクには縁がないと思ってたようなことを、全部当たり前にしてくれるキミが大好き」

 

 キミは困ったみたいに笑う。このくすぐったい空気はムズムズするけど、しばらくこうしていたくなる。

 だから少し黙ったあと、呆れた笑いが出てしまう。

 

「……もう。ボクがしっかりしてないとダメかもね〜」

「頼りにしてる」

「えへへ。任せて? バッチリ離さないから、覚悟してよね♪」

 

 一緒にいるのは前提。その上でしっかり付いてってあげる。

 キミとなら、未来の話をしても怖くない。

 隣にいるのがキミだったから……ボク、幸せだよ。

 そんな思いを込めて絡めた指をぎゅっと握る。

 うっとりして、夢みたいに溶けていく。

 そんな夢見心地が冷めないうちに、キミは片付けを済ませ、お互いに着替えを済ませる。

 ふわふわした足取りで、促されるまま。

 キミの自転車の荷台に用意されたクッションに横座りで乗せられる。

 キミが出発直前に掛け声を出した所で、ようやく違和感に気付いた。

 いや、これ、物理的に……!?

 

「それじゃ、しっかり掴まっててくれ!」

「ちょ、ちょっと! 離さないって、こう言う事じゃないんだけど!?」

 

 急にロマンチックじゃなくなってる!

 そう思いながらも、こう言う青春な感じも欲しかった欲張りなボクはキミの腰に手を回し、背中にしっかり縋って、自分が乙女で居させて貰える充実感に酔う。

 揺れる自転車は夏の夜空を駆け抜ける。

 天の川は見えない。

 ずっと一緒にいるんだから、見えなくて良いし……。

 願いはもう、これ以上ないから。

 

  

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