『キミ』と暁山瑞希ちゃんがいつか幸せに辿り着くための物語集 作:橘ありす氏
お待たせし過ぎました。宜しくお願い致します。(この作品に登場するカレーは一部を除き、8月現在セブンイレブンさんで実際に食べることができます。是非。)
今日は、めいっぱいの楽しい誕生日だったと思う。
急に誕生日って言われても皆は困るからって、キミに言われた通りに今日まで宣伝しておいたし。
朝から楽しみにしていたハンドメイドイベントに行って、カワイイものをいっぱい見て、普段ならお店で見かけても「カワイイなぁ」で終わっちゃうようなものまで、今日はなんだか特別に見えて、つい買っちゃったりして、ホットドッグ食べて、プレゼントも貰って解散して、その後はセカイでお菓子とケーキで祝って貰って……。
「楽しかったなぁ……」
浸っていたら時間はあっという間で、そう言えばと今更ちょっとドキドキし直し始める。
キミはどんな顔で待ってるんだろう。もちろんお祝い気分マックスだとは思うんだけど、今が最高潮なのか、それとも一周回って落ち着いてるのか。
でも、考えてても仕方ない。
「ただいまー!」
玄関の扉を開けた瞬間、もう既にカレーの匂い!
当たり前の理想的な歓迎に嬉しくて笑顔になっちゃう。
海のお土産の巨大貝殻を置いた靴箱の隣、姿見の中を、幸せいっぱいの天使が通る。
自分で言うのはくすぐったいけど、キミが毎日言うから……もう天使で良いよ。
外でいっぱい遊んできて帰って来るとこまであるなんて、贅沢だなぁ~、ボク……。
「今日もすっごく楽しかったよ~!」
類がくれたバルーンを棚に置き、靴を脱ぎながら呼びかけて、キミが出て来るのを待つ。ひと眠りしてたのか、まだ頭がハッキリしてなさそうなキミに、まふゆから貰ったサポートクッションとえむちゃんから貰ったぬいぐるみを渡して、紙袋から服をチラ見せ。
「ほら、これ! カワイくない?」
それぞれを受け取りながら、服をボクに合わせて試着みたいにしてくるのがなんだかおかしい。
カワイイ。これを着てるとこもさぞカワイイんだろうな。今すぐ目の前で着替えてくれないかな。そんな顔をしてる。もう、スケベ。
「ね? カワイイでしょー!?」
一先ずやらしい表情は無視するとして、やっぱり、キミはちゃんと分かってくれる。
しっかり上機嫌にされたボクは腕を後ろに組む。犬だったら尻尾を振ってると思う。
これに加えて、キミがいかにも好きそうな前かがみ上目遣いのコンボで、今日の報告をしてあげる。
「今日ね~! 絵名とイベントに行くって言ってたでしょ? でも愛莉ちゃんと雫ちゃんも来てくれてね! あと~~、お昼はホットドッグ食べた!」
ニーゴでケーキを食べたのも知ってるよ、と呆れてるので、
「はいはい、そうですよ~! ケーキも食べました~! 良いじゃんそれぐらい!」
正直に白状しながら、わざとらしく頬を膨らませると、キミもわざとらしく溜息。
バカップルごっこ。お互いに笑い、照れる。
えへへ……。
「でもさ! カレーは食べなかったんだよ! だって……」
キミの反応を伺って、あざとく上目遣い。
「キミの手料理のカレーが食べたいもんねー!」
両ほっぺに指を添えて、にこーっ!
外でいっぱい食べたからって、カレーは別腹!
毎年キミが作ってくれるカレーが一番の楽しみだもん。
一応ボクの好みに合わせてバランスを頑張ってくれてるけど、色々挑戦もしてくれるんだよね。今年はどんなのだろ。
そんなことを考えながら、キミの顔を見る。なんか、ちょっとだけ笑ってる?
「なあに?」
からかってる?
「なにさー!」
ニヤニヤされると気になるじゃん!
キミは耐えきれなくなったのか、笑いを噛み殺しながらキッチンの方を指差した。
食べ比べだよ、と。
……食べ比べ?
あー……。
インドカレーとかだと何個もカレーあるもんね。そう言うこと?
キミの顔を見る。まだニヤニヤしてる。
コンビニでカレーフェスがやってたって?
「あれ!? そうだったっけ!?」
スマホでメニューを確認する。うっかりしてた。ホントだ。そんなのあったら……。
全部商品は残っていたとして……。
「そんなの……」
キミはもはやボクが何を言うか完全に見透かしてる。
ボクはその通り、今日の昼間も言った台詞を引用する。
「全制覇、狙っちゃう……?」
どうぞ、仰せのままに。そう言わんばかりにリビングに通されると、そこには小分けの皿にされたカレーの数々……!?
「……多くない!?」
もう一度見る。
「……ええ?」
おむすび二つ。カレーパン。鶏皮チップス。ブリトー。
二色のカレー。カツカレー。ポークカレー。
ビリヤニ。カレーうどん。スープカレー。
カレーラーメン。カレーメシ。
そして、キミが作ったカレー。
「これ、全部カレー味しかないの?」
見て分かるだろ、の顔。
「そうだけどさ!」
「食べ比べを、します」
ハッキリ言った。
「そんなバトルロイヤルな……。テニスコートの中の王子様じゃないんだから……」
キミはカレーの王子様のパッケージを検索して見せてくるけど、
「そこまではしなくて良いよ! お子様用のカレーじゃん!」
思わず笑ってしまう。でも、まだ疑問がある。
「キミ、何か頼まれてるでしょ」
キミは腕を組んで黙る。
「やっぱり」
じとー。
「さては、またボクの知らないところで借りを作ったな~?」
キミは分かりやすく目を背ける。
「ほら!」
やっぱりだ。キミはこういうところがある。誰かに頼まれると、困った顔をしながらも結局引き受けちゃう。しかも、あとから聞くと結構大きなことをやってたりするから油断できない。
「それで? 今回は?」
言い辛そうに俯いて喋り始める。
「……夏休みの宿題の自由研究になる? 確かにまだ終わってないから共同研究で出してくれるのは有難いよ。でも、他にもあるでしょ?」
女の勘が鋭過ぎる? ……褒めてもダーメ。ちゃんと教えてくれないと。
「咲希ちゃんが『みずきちゃんの好きな味、教えてくれない?』って言って来て、なんなら最新アップデートのデータを取ろうと思ったから……?」
それ、ボクが知っちゃって良かったのかな。まあ、言わせたのはボクだけど。
うーん。まあ、確かに。キミもボクを喜ばせる為に頑張ってくれてるんだし……。
少しだけ考えてから、しょげてるキミを見て、溜息。
「……もう。仕方ないなあ。許すのは奥さんの甲斐性だもんね」
キミが一瞬、目を丸くして、嬉しそうに笑う。
ありがとうございます、奥様、って?
「よろしい」
ちょっと恥ずかしい。でも、悪くない。共同作業、みたいで。
キミがボクの為に一生懸命になってくれているのなら、一週間くらいカレーでも良い、けど……。
それじゃ、一番美味しかったカレーを決めて貰います……?
えっ、なにそれ!?
「キミ、自分のカレーが一番になると思ってるでしょ。トウヤくんに教わった夏野菜の無水カレーは無敵で御座います、って? そんなことあったの?」
冬弥くんとキミってそんなに仲良くなったの?
「夢の中? あやかし? キミが蜘蛛妖怪のボクと一緒に暮らして服作りしてた? ボク、まだアレンジしか出来ないよ? 自分で出した糸に絡まって、人間の力だけじゃ助かるのに苦労するから絵名も呼んで解いて……? 何言ってんの、それ……w」
笑ってしまう。ほんとにもう。こういうところだ。
ボクの為だと言いながら、自分もちゃっかり楽しんでいる。
こう言うのを許しちゃうボクだから、この人と一緒に居る意味がある、よね。
「大変だね、カレーの王子様は……。姫と一緒だから大丈夫?」
思わず笑う。なんだかもう既に大変そうな匂いだけど、終わったら、多分楽しい。
そこで、強力な味方を思い出す。
「でもさ、こんなに辛いやつ、二人でも苦労しそうだし……」
ボクが冷蔵庫を開けると、キミも頷く。
「ラムネ、買って来てあるよ!」
ボクは前々から買ってストックして置いたラムネを見せつける。
すかさずキミも冷蔵庫の下の段を引き出す。そこには二人分のメロンソーダが待ち構えていた。
ぱちくり。瞬きをして、理解が追い掛けてくるのを待つ。
二人揃ってお互いの為に、なんて、ちょっと間抜けな感じで、おかしさが追い付いてきた。
「……あははは! 流石だよ~! キミも備えてたんだ! やっぱり夏は炭酸だよね!」
夫婦は一緒に居ると似てくるって言うけど……、ちょっとボクたちやり過ぎかも!
「あ! そう言えば、キミはお昼何してたの?」
キミは冷凍庫の方を開けて見せて来る。
お祭りで売り子の子供にせがまれてしまってワッフルパフェを買って来た!?
覗き込む。紙コップに入ったワッフルにベリー系とクリームが乗っかった、文化祭で出て来そうなちょっとしたなんちゃってパフェ。
そこに不相応に見える、切り分けメロンが差してある。
量は少ないし、ナマモノだから、と差し出されて、ぱくり。
うん。こう言うのだよね。手作り感が期待通りで良い感じ。
ノスタルジーで胸の奥が、ちょっとだけくすぐったくなって、らしくないもどかしさが湧いてくる。
確かにメロンはマイブームだけど、そんなわざわざ足してくれるほどじゃ……。
「あのさ!」
ちょっと顔が赤くなる自覚がある。それでも言うべきことだから。
「キミさ~~! ボクのことばっか見過ぎ!!」
他の子見たら怒るから?
「そうだけど……。ボクのことばっか。毎日一緒にいるんだから……良いのに」
それでも足らないんだから良いんだって?
「……ほんとにキミはしょうがないなぁ」
ラムネを二本ともキミに渡す。栓を開けくれる。
ぽん、と軽い音の後に、しゅわしゅわ。夏の夜の音。
「あはっ ダーリン素敵〜 やっぱり男の人って頼りになって格好良いな〜! ほら、ボクってか弱い乙女だから!」
あざとくおどけるボクを見ながら、目を細めて撫でてくれるキミ。
ちょっと嬉しくて目を瞑ると、喉から顎まで、つつーっと、ゴロゴロしてくれる。
ホントの猫ちゃんにするやつ……。キミにしかさせないけどね……。
ふぅ。幸せ……。エネルギーチャージ、よし!
「それじゃ、一番美味しいカレー、ちゃんと決めようね!」
さーて、運命のカレーはどれかなー?
XXX
どれも食べられる温度になっているのを確認して、まずは二種のスパイスカレーが乗ったお皿に手を伸ばす。
「公平な審査のために、まずはどっちも一口ずつ……」
長くて一本一本が立っているターメリックライスとキーマカレー。
「ひき肉の粒感があるとこにスパイスがじわじわ追いかけてくる感じ」
次はもう片方、さらりとしたトマト色のカレーをすくって、口に入れる。
「……うん、トマトだね」
見て分かることだって?
「食べて改めて実感したの!」
キミにも一口。もう間接キスとか気にする間じゃないし、一緒に味わいたいから。
全部一口ずつキミにもあげるからね。
さて、今回のお味に戻りますと、ちょっと酸味があって、エスニックっぽい風味。
「こっちはサラサラしてトマトの味が直接来る感じ。たまにチキンが良い仕事してるね」
次。
サラダごはん、と書かれたカレーへ目を向ける。
「これは……」
一口食べて、目を丸くする。
「野菜がほくほくだ!」
かぼちゃ、たまねぎ、白菜、にんじん。
「ちゃんと茹でてあるお野菜がいっぱい入ってるよ! 食べてるだけで健康になりそう! それから~~!」
スプーンの先で指し示す。
「卵! そして、ポテト! やっぱりカレーにもポテトが入ってくれてないとね!」
ポテトとキーマカレーを合わせて一口!
「うん。これは健康! 野菜もいっぱいだし、ポテトもあるし、カレーだし! もはや健康通り過ぎて、カロリーゼロになっちゃってるかも!?」
いやなるかい!
キミのナイスツッコミ。
「えへへ!」
遠慮のない夫婦漫才してくれるの、すき~~!!
次に手を伸ばしたのは、鶏皮チップス。
「これもカレー味なんだ……」
一枚摘まんで、口に入れる。
さくっ。
「ふわふわしてる! 空気と一緒に食べる感じ。おつまみっぽいのに、お菓子よりはちゃんと食べてる感じもする」
もう一枚。
「罪悪感がちょっと減るかも。やっぱり今日はゼロカロリーの日だよ!」
なわけあるかい。
キッチリお言葉を頂きまして、お次はチキンビリヤニ。
「これ、穴開けるって言うよね? もちろん、開けてチンしております? さっすがー!」
ぱらぱらとしたお米は、普段食べるごはんとは全然違う。
「お米が春雨を細切れにしたみたい?」
口の中で、ぱらりとほどけていく。
「なんか、ざらっとして、ハラハラして、ヒリヒリして、汗かかされる!」
じわり、と額に汗が浮いてくる。
でも、その中に甘い飴色の玉葱が混じっていて、時々、ほっとする。
「甘い玉葱~~! このアクセント、もっと欲しい! けど、そう思わせるぐらいが丁度良い塩梅なのかもと思わせる憎さ!」
そしてお楽しみの骨付きのチキンに齧り付く。
「ふふっ」
骨は良いよね~! 齧り付く喜びに思わず笑みが出ちゃって、面白い。
次は冷たいカレーうどん。
一口。
「あっ、これはちょっと不思議かも」
冷たいことで、逆に旨味と辛みが直接来る。
「旨味と辛味の直行便」
シャキシャキの野菜と、軽い挽肉。
「でも爽やかだよ。野菜がシャキシャキしてるからかな。これもゼロカロリー」
次は……?
キミが取り出した容器を見て、首を傾げる。
「カレーみそきん、って、買えたの!?」
蓋を開ける。生姜の香りが、ふわっと鼻に抜けていく。
「おお~!」
麺を持ち上げて、一口。
「……あ、生姜だ。分かるのって? 結構匂いするよ? ほら。麺はね、なんか、ワシワシしてる。荒い麺を食べてるぞーって感じ」
もう一口。白味噌の濃厚さが下から支えている。でも、その中にあるカレーは、思っていたより控えめ。
「なんか、白味噌が出汁を支えてる感じ。カレー味なんだけど、そんなにカレー感は強くないかも。味噌ラーメンの隣に、カレーがいる。ボクとキミみたいって? はいはい」
そして、もう一つ。
「えっ、カレーみそきんメシ!? こっちもあるの!? バトルロイヤル過ぎるよ……」
スプーンを入れて、一口。
「……濃厚だ!」
迷う余地がない味。
「これは分かりやすく美味しい。麺の時より、後味に旨味が残る感じがする。なんか……お蕎麦屋さんのカレーみたい。うん。力強い」
もう一口。
「手放しで美味しいと思うよ。辛くないから、ボクとしてはもうちょっとスパイス欲しいけど」
子供でも食べられるように、じゃないか、と、あーんされながらキミは言う。
「それなら仕方ないかなー。でも、美味しいかどうかだけで言うなら、結構高得点かも」
続いて、おむすび。
「まずはドライカレー」
一口噛む。
「炒飯のおにぎりもそうだけどさ。お米が油でコーティングされてる感じ、罪の味で良いよね。だんだん、粒立ってるお米がほろほろ解けていって、その中に沁みてる旨味が出てくる感じ」
もう一つ。
ディープリッチブラックカレーおにぎり。
一口食べた瞬間、思わず眉を上げる。
「……あ、濃い。深い、って言うのかな」
味噌カツにかかっている味噌みたいに、しっかりした味がする。
他のカレーを食べた後でも、全然負けない。
「これ、主張がすごいね。他のカレーと一緒に食べても、ちゃんと『ボクもいます』って分かる」
少し考える。
「ドライカレーはライダー、ブラックカレーはレンジャーだね。ドライカレーは一人で戦える感じ。ブラックカレーは、他にもいっぱい居る中で存在感を出せる感じだね」
次。
チーズカレーパン。
割るとすぐに中からチーズがとろりと溢れ出す。
「おお~~!!」
二人でそれぞれ手に取って、ぱく。
チーズのクリーミィな旨味。濃厚で、優しい甘み。その奥に、ちゃんとカレーがいる。
「これはすごいよ! 良いものを、より良くしてる」
自分の目が輝いている自覚がありながら振り向くと、キミが少し笑う。
「チーズもカレーも、それぞれだけで完成してるじゃん。でも、ちゃんとお互いを引き上げてる! ハイスタンダードな味わいだよ!」
次はブリトー。
もちもちした生地の中には、バターチキンカレーとモッツァレラチーズ。
「これはもちもち!」
もう一口。
挽肉の肉感がちゃんとある。
「なんか、八つ橋みたいな感じなんだけど、ひき肉の肉感があって、チーズとバターと、とにかく、もちもち……」
次は……。
チーズカツカレーを見て、一瞬警戒してしまう。ちょっと赤い。
「これ、ちょっと怖いかも。笑ってるじゃん。そう言うことじゃん!」
キミがカツを一口。一緒に味わいたいから、おっかなびっくりしながら、ぱく。
「……あ、美味しい、かも」
サクサクしたカツ。なんだか駄菓子のカツみたいで楽しいし、カレーも所謂、もったりしていて悪くない。
「オーベルジーヌとかもこうだよね。良い感じ……」
数秒後。
「……ひっ」
キミがすかさず渡してくれたラムネを、まず舌先でちょっとだけ舐めて、
「ひ、ひ〜〜〜!」
でも残念。舌は大丈夫でも、奥の喉がヒリ、とした。
「辛い〜〜〜! 大丈夫かって、大丈夫じゃないよ!」
浸すのをやめて、喉にラムネをくぐらせる。
なんとか辛さが引いた所で、添えられたピクルスに手を出して、箸休め。
「……あれ? なんか、辛いのが引いたら旨味が来たような……」
なんだか、後味でちゃんとカレーの美味しさがやってきている。
「辛さのおかげで汗の冷たさも分かるって言うか、健康には良いのかも」
少し落ち着いたところで、キミが次の皿を差し出す。
もっと赤い。と言うか、メインの色が赤。
「もう嫌な予感しかしないんだけど……。カシミールカレーでしょ、これ」
赤い。
とにかく、赤い。
「これ、ちょっとずつ食べるね」
文字通り、舌鼓を打つみたいに、少しだけ口に入れる。
「辛いラー油、そのものを食べてるみたい……」
でも、ただ辛いだけじゃない。皮付きのポテトと、形がしっかりした肉肉しい肉がゴロゴロしてて美味しいし、その味の奥から、粉っぽいスパイスと痺れが追いかけてくる。
ちゃんと美味しいよ、その上で、
「本物の赤い辛口だ……。赤い辛さが上がってくる……!」
時間差で、身体が理解する。
じわり。
額じゃないところからも、嫌な汗が出てくる。
「これ、段々……、冷や汗が出てきてからヤバさを認識する感じ……!」
ヤバい時の汗!
「ポークカレー!」
キミも限界だったのか、普通のポークカレーを素早く手に取って、
「混ぜよ混ぜよ!」
普通のポークカレーは、期待通りの普通のカレー。だからこそ安心する。
「はあ……。普通って良いね……。こう言うので良いんだよね」
まだ終わってない事実に苦笑いを交わし、ボクたちは遂にカレーフェスの最後のカレーに取り掛かる。
具材がごろごろしているスープカレー。
スプーンですくって、一蓮托生の覚悟。お互いに、あーん。
「これ、薬膳っぽいのかな? なんか、ぽかぽかする」
野菜は、あえて荒々しく切ってあるみたい。
少し野生味があって、そこに時々混じるベーコンが妙に美味しい。
「ベーコン、良い仕事してるよね! あと、このぷちぷちがちょっと楽しいかも」
もち麦を噛んで、落ち着いてくる。
ふう、と息を吐く。
これでカレーフェスのカレーは終わり。だけど、キミが作ったカレーがまだある。
「キミの自信満々な自信作、行ってみよー!」
夏野菜の無水カレー。添えてあるスプーンを手に取って、まず、大きく一口。
ゆっくり、噛む。もう一口。もう一口。
「やっぱりずるいなあ、キミってば……」
勝負にならない。
味は勿論、ボクの好みに合わせたちょうど良い旨味とスパイスのバランス。
でも料理と言うのはそれだけじゃない。
食べ進めてお皿の底の柄が見える。添えてあるスプーンに付いてるマスコットにも気付いて、合点がいく。
それらは座ってこちらを見る黒猫をモチーフにしたものだった。今日ボクが買ったブラウスの襟にあった猫を思い出させる様に、お皿の淵にも猫の足跡の絵柄がポツポツと付いている。
愛情が一番の隠し味とは言うけど、物理的に隠されてた愛を見つけてしまった。
まあ、キミはいつも隠す気なんてなく直接的過ぎるけど……。
「ごちそうさまでした!」
お腹も心も満たされてしまって、もう何も入らない!
……と思ったんだけど。
甘い匂いが別腹をくすぐる。
「わぁ……!」
思わず声が出る。
「リクエスト通りのチョコケーキだ!」
当然だと言わんばかりのキミの態度。
まずは、ブッシュ・ド・ノエルみたいなチョコロールケーキを、頂きまーす!
「……ん!」
外側が、サクサク。外側のナッツが、良い食感になっている。
中はしっかり濃厚で、塩梅が絶妙!
「これは高評価ですねぇ……」
次は、鉢植えみたいな見た目のケーキ。
「フラワーポットケーキ、みたいに言うよね。カワイイの選んで来たじゃーん!」
スプーンを入れる。
下にはクリームチーズみたいな濃厚なケーキがあって、奥にはチョコレートソース。
「うまうま……」
ようやく癒しに浸ったボクに、キミは笑う。ボクもつられて笑っちゃう。
今日一日、何回目か分からない笑顔の交換。
やっぱりまだ心には想いも思い出も、いっぱい入る余地があるなあ、と思わされてしまった。
XXX
一緒にお風呂に入って出て来ると、キミがプレゼントをくれた。
形に残るプレゼントが良い、とリクエストしてたから、ちょっと頑張ったみたい。
プリザーブドフラワーと、蜘蛛糸柄のハンカチに、クマちゃん。いつもボクがリュックに付けてるのに似てるクマだけど、ちょっと違う。フラワーに付いてるリボンでハンカチをエプロンみたいに首に付けてあげて、玄関に。
旦那さんの帰りを待つ奥さんみたい、なんて……。
それからボクたちは寄り添って横になる。
お互いを見ながら、うとうと。
キミがうつらうつらしながら、ボクを呼ぶ。
なあに?
なーんでーすかー?
カワイイ?
世界一カワイイ?
……。
ふふっ。
そうだよね~~?
大好き? 知ってるよ~。
愛してる? ボクも。
離れたくない? 離さないでね。
何処にも行かないよって? 心配してないよ。
ずっと一緒にいる? うん。
ずっと一緒にいるよ。大丈夫だよ。
ボクたちは焦らなくても良いって?
うん。だって、ずっと一緒だもん。ね。
ちゅき? ありがと。
言葉じゃ足りないよね。もう仕方ないなぁ。
くっついてねんねしようね。おやすみ。ちゅ。
END.