TS憑依転生強化さやかちゃん 作:愛しのマルゲリータ
昨晩。
俺は家で回復魔法の実験をしていた。
回復とは、悪い状態になったものを元の状態に戻すこと。あるいは、一度失ったものを取り返すことを意味する言葉だ。
そこでふと思ったのだ。
あれ、もしかして回復魔法でソウルジェムの穢れも何とかできるんじゃね?
ソウルジェムとは即ちキュゥべえによって取り出された俺の魂の具現。ならば、魂を悪い状態にする穢れを対象に回復魔法を発動させることができれば、穢れたソウルジェムを元の状態に戻せるかもしれない。
そう考えた俺は、さっそく少しだけ濁っている自らのソウルジェムに回復魔法をかけてみた。
まずは集中して魂の輪郭を知覚しようと試みる。
すると、うっすらとではあるが魂を感じ、知覚することができた。
この観測に成功した魂へと干渉するように回復魔法を発動させる。
「お、成功した」
俺の予想通り。
回復魔法によってソウルジェムに溜まっていた穢れが少しずつ減っていく……がしかし。
「いや、こりゃダメだ。実質プラマイゼロになる」
穢れを回復させるために消費した魔力分の穢れが、新たに俺のソウルジェムに溜まってしまった。
これでは魔法で回復する意味がない。
まあ、他者のソウルジェムの穢れを魔力を消費して回復できる使い道がありはするが。それでも俺が真に求めていた結果ではなかった。
この時既に深夜三時過ぎ。
俺は深夜テンションで大分ハイになっていた。
「そういえば、アラサーマミさんの漫画では、確か重曹で穢れ落とせるんだったな……」
アラサーになった派遣社員のマミさんの日常を描いたアンソロジー漫画『巴マミの平凡な日常』。あの漫画面白かったなあ。
「よし、せっかくだから試してみよ」
なんか思い出したらさっそく試してみたくなった。
「ふむ……、やっぱりダメか」
というわけで実際に試してみたのだが、残念ながら普通の重曹では穢れを落とせなかった。
たぶんキュゥべえが回収ノルマ達成のために重曹対策を施したに違いない(陰謀論)。
おのれ、インキュベーターッ!!
しかし、深夜テンションマックスの俺はそこで諦めなかった。
「……ならば、重曹に回復魔法を込めるまで。邪悪なインキュベーター共に一泡吹かせてやるっ!」
それは、天啓だった。
さっそく重曹に回復魔法を込め、それでソウルジェムを洗ってみると、何とあっという間にソウルジェムに溜まっていた穢れが落ちてしまったのだ。
凄い。凄すぎる。
重曹が対呪い・穢れ限定ではあるが、回復魔法の効果を何倍、何十倍、何百倍……もはやそれ以上に増幅させていた。まるでアラサーマミさん世界の因果がこの世界に持ち込まれたかのように。
これなら一の魔力を消費して回復魔法を込めた大容量の重曹――マジカル重曹を作るだけで、最低でも百回以上ソウルジェムを洗浄できる。このマジカル重曹があれば、もうグリーフシードは必要ない。魔女化する心配も、ほぼなくなったと言っていいだろう。
「魔女……魔女化。あれ、もしかして……」
この時、俺の頭は過去最高に冴えわたっていた。
「このマジカル重曹と回復魔法を組み合わせれば、魔女を魔法少女に戻せるんじゃね?」
だって回復という言葉は、一度失ったものを取り返すことを意味する言葉でもあるのだから。
♪♪♪♪♪♪♪♪
「美樹……さん……」
魔女に左腕を食われて隻腕になった俺の姿を見て、マミさんの顔が恐怖で引きつっていた。
「さやかちゃんッ!」
まどかの悲鳴も聞こえる。
まあ無理もないか。目の前で先輩が死にかけて、友達の腕が魔女に食われたんだから。
「大丈夫」
俺は回復魔法を発動させ、秒で失った左腕を治す。
「この程度の傷なら、すぐ治せるから」
自分の体をここまで本格的に治したのは初めてだったけど、無事成功した。
青髪のシャンクスの時間はもう終わりだ。
こうして腕は元通り。むしろ膂力が少し上がっている気さえした。
なるほど、そういうことか。
たぶん、回復魔法で治した俺の左腕が超回復したのだろう。
超回復とは、傷ついた筋肉が、回復する際以前より強くなる現象のことだ。
つまり俺の回復魔法は、ただ治すだけでなく、治した肉体を以前より強くすることもできるらしい。超回復もまた回復なのだ。
ということは、傷つけば傷つくほど、俺は回復してもっと強くなれるのか。流石は一度切りの奇跡を投資して貰った回復魔法。めっちゃ優秀やね。
さて、改めて現状を確認してみよう。
「あ、ああ……」
ついさっき死にかけたばかりのマミさんは、まだ死の恐怖から立ち直れずにいた。
体を震わせたまま立ち尽くしている。この様子では、暫く戦うのは無理そうだ。
となると、お菓子の魔女の相手は俺が一人でやるしかない。
「マミさんも、まどかも私が絶対に守ってみせる」
剣を召喚し、ベルトに下げているマジカル重曹袋へと手を忍ばせ、中からマジカル重曹を一摘み分取り足す。
「剣にこの回復魔法を込めた最強アイテムを一摘み振りかけて……」
召喚した剣にマジカル重曹を振りかけ、さらに回復魔法を込める。
「よし」
すると、マジカル重曹と回復魔法が共鳴し、眩い輝きを放った。
それはまるで、伝説に謳われる聖剣のように。
俺はこの輝ける剣を聖剣さやカリバーと名付けることにした。
「聖剣……解放」
聖剣さやカリバーを構え、お菓子の魔女を睨みつける。
食いちぎった腕を咀嚼していた魔女も、俺を標的に定めたらしい。咆哮を上げながら、今度こそ捕食しようと高速でこちらに突っ込んで来る。
食いしん坊な魔女め。
だが、奇襲でもなく、咄嗟に誰かを庇う必要もない単調な攻撃に俺がやられるはずもない。
「遅い」
魔女が食らいつこうとした瞬間、地面を蹴り上げ華麗に跳躍回避する。獲物に届かなかった魔女の牙が、ガチンと虚しく空を切った。魔女は慌てて見失った俺の姿を探している。
「こっちだ、ウスノロ」
魔女の真上でしなやかに体を回転させ、虚空に展開した魔法陣を踏み締める。体をくの字に曲げて急激に方向転換し、眼下の魔女へと急降下。
「さや……カリバーッ!!」
そのまま降下する勢いも乗せて、さやカリバーを魔女へと突き立てた。
さやカリバーが突き刺さった瞬間、魔女を対象にマジカル重曹によって増幅された対呪い・穢れ特攻攻撃が発動する。
魔女の巨体が眩い光に包まれた。
魔女の体を覆っていた呪いが消し飛び、微かに残っていた百江なぎさという名前の魔法少女の残滓が在りし日の姿を取り戻す。
「…ズ……チーズ……ケーキ食べたいのです」
光が収まると魔女の姿は綺麗さっぱり消えていた。
代わりにそこにいたのは、意識を失って倒れているウェーブがかかったミルクホワイトの髪を持つ幼女。
そしてグリーフシードの代わりに、彼女のものと思しき薄紫色のソウルジェムが転がっていた。
さて、なぎさのことをマミさんとまどかにどう説明すればいいものか。
♪♪♪♪♪♪♪♪
「やっぱり私の思った通りだ」
俺は詳しい説明役をキュゥべえに押し付けることにした。
「穢れが溜まってソウルジェムが濁りきった魔法少女はどうなるか……その答えが彼女だよね、キュゥべえ」
結界が解除された直後。
意味深に呟きながら、シャフ度でまどかの胸に抱かれているキュゥべえへと視線を送り、言葉のキラーパスを繰り出す。
「ソウルジェムが濁りきった魔法少女は魔女になる。そうでしょう?」
ほら、みんなの前で詐欺契約の真相喋れや
「さやかは気付いていたんだね」
まどかの腕の中からキュゥべえが飛び出し、地面へと着地する。
「美樹さん、一体何を言って……」
「さやかが言った通りだよ、マミ」
混乱しているマミさんの質問を遮るようにキュゥべえが話し始めた。
「この国では、成長途中の女性のことを少女って呼ぶんだろう? だから僕たちは、やがて魔女になる君たちのことを魔法少女と呼んでいるんだ」
キュゥべえがそう告げた瞬間、マミさんの体がわなわなと震え出す。ようやく最悪の事実を理解してしまったのだろう。
「騙していたのね、キュゥべえッ!」
リボンをマスケット銃へと変化させ、照準をキュゥべえへと向けるマミさん。
「君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えたら、決まって同じ反応をする」
そんなマミさんを煽るようにキュゥべえが言う。
「わけがわからないよ」
「ッ!!」
マミさんが衝動的にマスケット銃をぶっ放し、キュゥべえの胴に風穴が空いた。しかしすぐに別のキュゥべえが現れ、胴に風穴が空いた死体を食べてしまった。
「きゅっぷい。代わりはいくらでもあるけど、無意味に潰されるのは困るんだよね。もったいないじゃないか」
「ひっ……!」
今まで可愛がっていたのが嘘のように、まどかはキュゥべえの姿を見て怯えている。
「だ、騙そうとしていたの、キュゥべえ?」
「説明を省略しただけだよ」
まどかにあっけらかんとそう答えるキュゥべえ。
「どうして魔女になることを教えてくれなかったの!」
「聞かれなかったからね」
マミさんに詰められてもキュゥべえはこの調子だ。
説明を押し付けた身だけど、このキュゥべえの畜生さには正直ドン引きした。
「でも驚いたよさやか」
キュゥべえが俺の方を向く。
おい、こっちみんな。
「まさか魔女になった魔法少女を元に戻すなんて。凄いじゃないか」
まさかキュゥべえに褒められるとは。
これは予想外だ。
「君の魔法は実に有用だよ。これで同じ少女から何度でもエネルギーを回収できる」
……褒めた理由それかよ。
つまりあれか。俺に他の魔女たちも魔法少女に戻せって、そう言っているのか? あと、戻した魔法少女たちをエネルギー回収のために再利用する気満々じゃねえか。
人の心ないんかこいつ。あ、そういえば感情なかったわ。
「一度目と比べて、多少回収効率は下がるだろうけど構わない。確実に希望と絶望の相転移は起きるだろうからね」
加えて、俺が魔女たちを助けようと疲弊して、ソウルジェムが濁りきるのも狙っていそうだなこいつは。
最強の魔法少女になることを願った俺は、同時に最強の魔女になる運命にある。俺が魔女になれば、キュゥべえは莫大な量のエネルギーを回収できるはずだ。
「だから君には色々と期待しているよ、さや――」
そんなことを考えていると、いつの間にかキュゥべえが機関銃で蜂の巣にされていた。
「魔女が魔法少女に戻るなんて。こんなこと、今まで一度も……」
コツ、コツという足音を響かせ、機関銃を構えた少女が姿を現す。
「やっぱり、貴女が原因なのね。美樹さやか」
現れた少女――暁美ほむらが、そんな意味深な言葉と共に、力強い目で俺のことを睨みつけた。
ほむら「この状況……とりあえず、キュゥべえを蜂の巣にすればよさそうね」
次回予告
QB「わけがわからないよ。どうして穢れが重曹で落とせるのさ……」
マミさん「美樹さんは、私が守る! 美樹さんに手を出すなら、私があなたを殺すわッ!(ガンギマリ)」
なぎさ「ケーキ買ってくれるから、さやかのことは好きなのです!」
ほむら「この美樹さやかとなら、今度こそワルプルギスの夜にも……」
まどか「私もマジカル重曹を作れるようなったら、さやかちゃんやみんなの役に立てるかな……」
杏子「あんたが噂のスタイリッシュ不良スレイヤーだったのかよおい!?」