TS憑依転生強化さやかちゃん 作:愛しのマルゲリータ
お詫び……ほむほむパートが長くなったので、分けて先出しすることにしました。
繰り返す。私は何度でも繰り返す。
同じ時間を何度も巡り、たった一人の友達――鹿目まどかを、絶望の運命から救い出す道を探るために。
もう何度目になるだろう。
最強の魔女、ワルプルギスの夜に幾度となく敗北した。
誰も信じてくれなかった。
誰も未来を受け止められなかった。
それでも私はこの運命に抗うため、一人時間を遡りこの世界へとやって来た。
しかし、今回の世界には、一人だけ明らかにこれまでの世界とは異なる変化を遂げていた人物がいた。
それが、美樹さやかだ。
この世界の美樹さやかは、私が知っている彼女と明らかに雰囲気が違っていた。
戦いに身を置いている者特有の気配。
銃火器を盗むために侵入した自衛隊や米軍の女性軍人、これまで経験したいくつかの世界で出会った歴戦の魔法少女たちが纏っていた気配を美樹さやかからも感じたのだ。
おかしい。
美樹さやかは幼馴染の上条恭介に片想いをしているごく普通の少女のはず。まだキュゥべえに騙されて魔法少女にもなっていないはずだ。
それなのにどうして……?
気になった私は、まどかのことを見守りながら、このイレギュラーな美樹さやかのことを探ることにした。
とはいえ、これまでの経験則から私と美樹さやかは特に相性が悪いことがわかっている。実際私はこれまでも彼女から一方的に毛嫌いされることが多かった。加えて、美樹さやかは魔法少女になった場合、魔女になってしまう可能性が特に高い。
精神的に脆く、魔法少女の真実を知ると高確率で暴走する巴マミと同様に、彼女との接触は慎重にしなければならない。
まず最初に驚いたのは、この世界の美樹さやかの生身での戦闘力だ。
巴マミが企画した魔法少女体験コースというまどかを危険に晒す催しで、彼女は生身で魔法が込められたバットを振るい、使い魔たちを一方的にぼこぼこにしていた。
やはり戦い慣れている。
いくら巴マミの魔法が込められたバットがあるとはいえ、生身で使い魔たちを圧倒できる実力は明らかに異常だ。本当に一体どうやってこれほどの実力を得たのかしら?
翌日。美樹さやかは早くもキュゥべえと契約して魔法少女になっていた。こんなに早く彼女が契約したのは初めてかもしれない。
願いの方は、おそらく上条恭介の怪我を治すこと。それはこの世界でも変わらないはずだ。とにかく私は短慮な美樹さやかに影響されてまどかも契約しないように、釘を刺しに行くことにした。
意外なことに、美樹さやかは私に敵意を向けず、むしろ私の忠告にかなり肯定的だった。……一方的に毛嫌いされて冷たい態度を取られると思っていたから、正直意外だったわね。
この世界の美樹さやかはかなり理性的で大人びているようね。
魔法少女としての実力も、やはりこの世界の美樹さやかは相当のものだった。
彼女は、これまでに出会ったどの美樹さやかよりも強い。
初の実戦にも関わらず、既に召喚した武器を手足のように操っている。
そういえば、魔法少女としての姿も微妙に違っていた。彼女の背には見慣れたマントではなく、何故か光る翼が生えている。
やはりこの世界の美樹さやかは何かが違う。
そして、私は見てしまった。
彼女が魔女を魔法少女に戻した瞬間を。
一体どうやったのかはわからない。
私を拘束していた巴マミのリボンが解除され、彼女が死んだと思った私は魔女のもとへと急いだ。
このお菓子や医療器具が散乱している結界の魔女との戦いで巴マミは死亡することが多い。
おそらく、もう……。
けれど、結界最奥に辿り着くと巴マミは生きていた。
ただ完全に戦意喪失し、魔女の目の前で立ち尽くしたまま呆然としている。彼女の代わりに、美樹さやかが光り輝く剣を手にして魔女と戦っていた。
そして、彼女がその光り輝く剣を突き刺すと、魔女が眩い光に包まれ、魔法少女だった頃の姿とソウルジェムを取り戻した。
信じられなかった。
こんなこと、今まで一度も起きたことがなかったからだ。
魔女に転じた魔法少女が救済されることはない。そのはずだったのに。
この世界の美樹さやかはそれを覆して見せたのだ。
この瞬間、私は期待してしまった。
この世界の彼女の力を借りることができれば、今度こそ、ワルプルギスの夜に勝てるかもしれない。まどかを、絶望の運命から救えるかもしれない。今度こそすべてにけりをつけられるかもしれない、と。
私は一抹の希望に賭けて、彼女と接触した。
♪♪♪♪♪♪♪♪
美樹さやかとは、巴マミの家で詳しい話をすることになった。
巴マミの家に行くことに躊躇いはあったけれど、美樹さやかが魔女を元に戻した方法を教えてくれるというので、仕方なく了承した。
巴マミの家に入ると、少し懐かしい気分になる。
巴マミ……彼女には昔、とてもお世話になっていた。まだ私が魔法少女になったばかりの頃は、よくここに来ていたわね。
「ベイクドチーズケーキ! バスクチーズケーキ! レアチーズケーキ!」
私の向かい側の席では、奇跡的に魔女から魔法少女に戻り、意識を取り戻した少女が無我夢中でケーキを頬張っている。
彼女の名前は百江なぎさというらしい。
目覚めたばかりの頃は私たちを見ておどおどとしていたけれど、美樹さやかが買って来たケーキを見た瞬間、彼女はすっかり元気を取り戻した。
ただ、なぎさの隣で俯いている巴マミと、私の隣にいるまどかの表情は暗い。
二人はそれぞれキュゥべえに騙されていた、騙されかけた被害者だ。
でもこれで、この世界のまどかがキュゥべえと契約する可能性はほぼなくなった。魔法少女の真実を知って尚、契約しようとは思わないはずだもの。
「みんな、準備できたからこっち来て」
少し準備することがあると言ってキッチンにいた美樹さやかから声がかかる。キッチンでは、ボウルの中に入れた液体に彼女のソウルジェムが浸されていた。
一体何をやっているのかしら?
「今から、マジカル重曹について説明するね」
……今、なんて?
「美樹さやか。あなた、ふざけているの?」
「まあまあ、話は実際に見てから」
そう言って、美樹さやかがボウルからソウルジェムを取り出した。その瞬間、私は違和感に気づく。
取り出されたソウルジェムはピカピカだった。まるでグリーフシードに穢れを移した直後のソウルジェムのように。そして、先ほどまでソウルジェムを浸していた液体には、固形化した穢れのようなものがプカプカと浮いている。
嘘、でしょう……まさか、本当に……っ!?
「というわけで、ソウルジェムの穢れは私の回復魔法を込めた特製重曹――マジカル重曹で落とせることが判明しました!」
美樹さやかが渾身のドヤ顔を披露し、胸を張って自慢するように成果を説明した。
「わけがわからないよ。どうして穢れが重曹で落とせるのさ……」
これには殺しても無駄だからと放置していたキュゥべえも驚いている。
「このマジカル重曹がある限り、魔女になる心配はありません!」
「で、でも、そのマジカル……重曹を作るのには、あなたの魔法が必要なのよね?」
あり得ない。こんな私たちにとって都合が良すぎることがあるはずがない。
そう考えて私は美樹さやかを問い詰める。
「そうだよ。でも大丈夫。少しの魔力で大容量の重曹をマジカル重曹に変えることができるから、私の負担はほぼゼロ!」
美樹さやかが実演とばかりに、目の前で未開封の大容量サイズの激◯くん重曹に回復魔法を込める。すると、ほんの微かに彼女のソウルジェムが濁った。
その濁りも、彼女が数秒マジカル重曹水に軽く浸すだけであっさりと解消されてしまう。
まさか、たったその程度の代償で一キログラム以上の重曹をマジカル重曹に変えたというの!?
「ささ、マミさんもほむらもマジカル重曹の効果を確かめてみて。あ、まどかも洗うの手伝ってあげて」
「う、うん」
私が動揺している間に、美樹さやかに手招きされて、まどかがおずおずとキッチンシンクの方に歩み寄る。
その間に美樹さやかはマジカル重曹水の水面に浮いている固形化した穢れのようなものを集め、ティッシュの上に盛り付けると、
「はい、キュゥべえ」
それをキュゥべえへと差し出した。
「何だいこれは?」
「穢れカス。キュゥべえならこれからもエネルギー抽出できるよね?」
「そうだね。でも、これから抽出できるエネルギーはソウルジェムがグリーフシードに転化する際に発生するエネルギー量と比べて雀の涙にも満たない――」
「塵も積もれば山となる。いいから黙って食えよ。勿体無いだろ」
そう言って、美樹さやかは盛りつけた穢れカスをキュゥべえの顔に押し付けた。
ナイスよ、美樹さやか!
「……きゅっぷい。いきなり酷いじゃないか」
「今日からこれがお前の餌な」
「……わけがわからないよ」
諸悪の根源であるインキュベーターが、いやいや穢れカスを食べさせられている様子を見て正直スカッとした。
ちょうどその時、
「はい、次はほむらちゃんの番だよ」
まどかがこちらに手を差し出してくる。
彼女の後ろでは、ピカピカになったソウルジェムを見て巴マミが感激の涙を流していた。
「私がソウルジェム洗ってあげるね」
どうやらまどかがソウルジェムを洗ってくれるらしい。
「え、えっ……」
魔法少女にとって、ソウルジェムほど大切なものはない。取り出された私の魂そのもの。それを他人の手に委ねるなんて。
……でも、まどかに洗って貰えるのよね。
気づけば、体が勝手に動いていた。
私はまどかにソウルジェムを渡してしまった。
はっ、私は一体何をして!?
「少し待ってて。すぐに綺麗にしてあげるから」
まどかは私のソウルジェムを受け取ると、マジカル重曹水に暫く浸す。それだけで、ソウルジェムを濁らせていた穢れはあっという間に落ちてしまった。仕上げにまどかがソウルジェムを取り上げで、隅々の汚れを歯ブラシでこすって落としていく。
「はい、綺麗になったよ」
キュッキュッと布巾で丁寧に拭いてから渡されたソウルジェムは新品のように輝いていた。おまけに魂そのものであるソウルジェムを洗浄された影響かしら。
ああ、体が軽い。溜まっていた疲労や不安、ストレスも……今はもう、まったく感じない。とても爽やかで心地いい。
「あら、暁美さん……表情が少し柔らいだ気がするわ」
泣き腫らした顔の巴マミからそう言われた。
鏡がないから確認できないけれど、そんなに変わったのかしら。
「さっきまでのほむらは、一人で全部抱え込んで思い詰めている過労死寸前のOLみたいな顔してたのです」
百江なぎさも巴マミの意見に同意している。
そ、そんなに酷かったかしら!?
あとこの子、思った以上に毒舌ね。
「うん。ほむらちゃん、今までもクールでミステリアスでお人形さんみたいな美人さんだったけど……今は、もっと凄く可愛いよっ!」
可愛っ……まどかの真っ直ぐな褒め言葉に私のハートは撃ち抜かれてしまった。ああ、まどか……あなたの方が私なんかよりずっと可愛いわよ。
「ねえ、ほむら」
最後に美樹さやかが話しかけてくる。
「このマジカル重曹があれば、もうグリーフシードを巡って争う必要もないでしょ。だから、これからは私たち、もっと仲良くできると思うんだ」
そう言って、美樹さやかはちらりとまどかの方を見た。
おそらく、美樹さやかは既に私が何か目的を持っていることを察しているのね。その目的に、まどかが関わっていることまで。洞察力も鋭いのね。この世界の美樹さやかは。
確かに美樹さやかの言う通り。
彼女が開発したマジカル重曹のおかげで、もうグリーフシードを巡って争う必要もない。
魔女になる心配も殆どなくなったから、巴マミが暴走して無理心中を図る可能性もほぼなくなった。
そして何より。
この世界の美樹さやかなら、私のことを信じてくれるかもしれないと思ってしまった。
私が話す絶望の未来も受け止めてくれる気がした。
この世界では、さやかや他のみんなを頼りにしてもいいかもしれない。
「……聞いてほしいことがあるの」
私は全てを話すことにした。
※なお、ループしたばかりのほむほむは、まだTS憑依転生さやかが、夜な夜な金属バットで不良をスタイリッシュにしばき回っている不審者であることを知りません……