猫、拾いました   作:ぽこちー

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③

 

「そうは言ってもよ……ウチは見ての通り精密機械を扱っている以上、ペットは飼えねぇんだ。パーツに毛が入ったら、たまったもんじゃないからな。悪いな」

 

「にゃにゃっ」ペシペシ

 

 頭の上に乗って猫パンチを繰り出してくるピンク毛の猫——もとい、『ニコ』をいなしながら、俺はエンゾウさんの言葉を受けて大きなため息を吐いた。

 

 ちなみに『ニコ』という名前は、あの自販機乞食と似ていたため、同じ名前をつけてやった。

 

 俺からすれば、立派な蔑称である。

 しかし、当の本人はどうやら気に入っているらしい。

 

 ペットはもう飼いたくない俺は、エンゾウさんを始め、六分街の知り合いに『ニコ』を引き取ってもらえないかと相談しまくっていた。

 

 だが、結果は全滅。

 みんな揃って「無理だ」と答えてくる。

 これはどうしたものか。

 

「なんでそんなに飼いたがらないんだ? この猫、お前に懐いてるじゃないか」

 

「にゃあ〜」テシテシ

 

「……別れが辛いんスよ」

 

「……そうか」

 

 顔を逸らす俺を見て、エンゾウさんは何かを察したようだった。

 腕を組み、しばらく黙ったあと、小さくため息を吐く。

 

「それに、なんかコイツ気に入らないんスよ」

 

「にゃあああっ!!」ミダレヒッカキ

 

「ぐわああああああ!?!?」

 

 次の瞬間、『ニコ』が俺の顔へ向かって容赦なく爪を繰り出してきた。

 俺は慌てて『ニコ』を掴んで引き離し、そのまま優しく投げ捨てる。

 そして、ディニーを1枚弾いた。

 

「にゃあ♡」

 

 すると『ニコ』は、先ほどまでの怒りなどすっかり忘れたようにディニーへ飛びついた。

 

「……本当に現金なやつだな、お前」

 

 呆れながら『ニコ』を見つめていると、エンゾウさんが俺の肩へ手を添えた。

 

「でもよ、このまま捨てるってわけにもいかねぇだろう?」

 

「まぁ、そうっスけど。というか、捨てても勝手についてくるっていうか……」

 

「……確かに、別れは辛いだろうけどよ」

 

 エンゾウさんは少しだけ間を置いて、優しく続ける。

 

「それでも、それまでの日々は悪くなかったんだろう?」

 

「……えぇ」

 

「なら、答えは分かってるはずだ。あの猫にとって、何が1番最善かをよ」

 

 エンゾウさんは優しい笑みを浮かべ、俺の頭を撫でた。

 その言葉が、胸に静かに染み込んでいく。

 

 ……やっぱり、エンゾウさんは優しい。

 エンゾウさんだけじゃない。

 ティンさんも、チョップ店長も、エイファさんも。

 六分街の人たちはみんな、俺の本心を理解した上で、優しく諭してくれる。

 無理に押し付けるわけでもない。

 俺が抱えているものを察して、それでも俺自身が答えを出せるように背中を押してくれる。

 だから俺は、この街が大好きなんだ。

 

「……そうっスね」

 

 俺は小さく息を吐き、ディニーを抱きしめている『ニコ』へ視線を向ける。

 

「分かりました。俺、『ニコ』を飼います」

 

 すると、エンゾウさんは「よく言った」と言わんばかりに俺の肩を叩き、満面の笑みを浮かべた。

 

「よしっ! よく言った! それでこそ男だ!!」

 

「痛っ、痛いっスよエンゾウさん!」

 

「はははっ、いいじゃねぇか!!」

 

 バシバシと肩を叩いてくるエンゾウさんに、俺は苦笑いを浮かべる。

 

 その横では、『ニコ』が何事もなかったかのようにディニーを抱きしめていた。

 

「にゃあ〜♡」

 

「……お前、絶対俺のこと金づるだと思ってるだろ」

 

「にゃあ〜♡」

 

「否定しろよ。ったく」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 ……やっぱり、この街に来て良かった。

 俺は改めて、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 それから俺は、六分街の人たちに意見をもらいながら、猫を飼うのに必要な道具を探した。

 特にセシリアさんやスージーは真摯に話を聞いてくれて、色々と意見をくれた。

 おそらく、2人とも猫好きなのだろう。

 

 俺は今まで犬しか飼ってこなかったため、猫を飼うために何が必要なのか、いまいち分からなかったのだ。

 

 ある程度必要なものを教えてもらった俺は、ネットで良さげなものを検索することにした。

 

 本当であれば、『ニコ』にどれが良いか聞きながら選びたかった。

 しかし、当の本人——もとい、本猫がどこかへ行ってしまった以上、今のうちに目星だけはつけておこうという考えである。

 

 猫に聞くというのも、おかしな話ではある。

 だが、『ニコ』は俺が思っている以上に賢く、こちらの言葉をよく理解している。

 それに、気に食わないものを買おうものなら、

 

『にゃー! にゃー!』

 

 と、文句を言ってくる未来が容易に想像できる。

 

 ちなみに、『ニコ』がどこかへ行ってしまうのは日常茶飯事だ。

 しかし、晩飯前になると必ず俺の家へ帰ってくる。

 俺があげた巾着袋に大量のディニーを詰めながら。

 

 もはや、どこで何をしているのか考えるだけ無駄である。

 だが、今日は何故だか一向に帰ってこない。

 このまま待っていれば、いずれ帰ってくるだろう。

 そう思っていたのだ、さっさと『ニコ』のための用具を買いたかった俺は、痺れを切らして探しに行くことにした。

 

「お〜い、ニコ〜。どこにいるんだ〜?」

 

 『ニコ』を呼びながら、俺は六分街を歩き回る。

 しかし、一向に返事は返ってこない。

 時間だけが、無駄に過ぎていく。

 

「ったく、あの乞食猫が。今日の餌は減らしてやるからな」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら歩いていると——

 

 

「にゃあ……にゃあにゃあ、ニャーッ!!!!」

 

 

「……『ニコ』?」

 

 聞こえてきた鳴き声に、俺は足を止めた。

 いつもとは明らかに違う。

 妙に切羽詰まった鳴き声だった。

 

 ——脳裏に一抹の不安がよぎる。

 

 もしかしたら、他の猫に襲われているのかもしれない。

 あるいは、事故にでも遭ったのかもしれない。

 

「……っ!」

 

 最悪のビジョンが頭に浮かんだ俺は、『ニコ』の鳴き声が聞こえてきた方向へ走り出した。

 

 壁を登り、狭い路地裏を抜け、必死に『ニコ』の元へと駆けていく。

 走れば走るほど、『ニコ』の声が近づいてくる。

 そして、それと同時に異常な鳴き声であることを、嫌でも理解してしまう。

 

「『ニコ』……!」

 

 俺はドクドクと嫌な鼓動を刻む心臓を押さえながら、曲がり角を曲がる。

 

 そして——

 

「はぁ、はぁ……『ニコ』っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ニャー!! ニャニャニャッ、ニャーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

「「「「「「「「ニャニャーーー!!!」」」」」」」」ドゲザァァァ

 

 

 

「…………は?」

 

 そこには、玉座のように積み上げられた石の上にふんぞり返りながら座り、無数の野良猫たちを見下ろしている『ニコ』の姿があった。

 

 野良猫たちは、『ニコ』を崇めるように地面へ座り込んでいる。

 さらにその前には、どこから拾ってきたのか、貢物としか思えない大量のディニーが並べられていた。

 

「……なにこれ」

 

 脳が理解を拒んでいた。

 

 そんな俺に気づいた『ニコ』は、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、貢物として献上されていたディニーを巾着袋へ詰める。

 最後に、その巾着袋を口に咥えると、ピョンッと軽やかに俺の肩へと飛び乗ってきた。

 

「にゃにゃにゃっ、ニャー!」

 

「あっ、はい」

 

 まるで『何をしてんのよ。早く帰るわよ?』とでも言わんばかりに、俺を顎で使う『ニコ』。

 何故か俺は反射的に敬語で返事をしてしまった。

 

 そして背後からは野良猫たちが、

 

「「「「「ニャーニャーニャー!」」」」」

 

 と、崇めるように鳴いている。

 

 俺はその光景に戸惑いながらも、家へ向かって歩き出した。

 

 ……どうやら猫にもコミュニティが存在しており、『ニコ』はそのコミュニティの親分的な存在らしい。

 というか、完全に親分だった。

 

「……いつもあんな風なの?」

 

「にゃあ〜? にゃにゃにゃっ」

 

 『当然でしょ? アタシを誰だと思っているの?』と言わんばかりに、『ニコ』は堂々と鳴き声を上げる。

 

 肩の上でふんぞり返りながら。

 

「…………」

 

 俺はしばらく無言で歩いた。

 

 ……うーん。

 なんか、知りたくなかったわ。

 

 そんな若干の後悔を抱えながら、俺は『ニコ』と共に家へと帰るのであった。

 

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