『ニコ』を飼い始めて1週間が経った。
『ニコ』はあいも変わらずディニーを稼ぎ続ける毎日を送っている。
落ちているディニーを拾うのはもちろん、野良猫たちからの貢物。
さらには路上ライブで稼ぐかの如く、持ち前の可愛さを最大限に利用して投げ銭まで貰っていた。
俺の貯金していたディニーも含めれば、相当な額のディニーを手にしていることだろう。
「にゃん♡」
そんな『ニコ』は、今日もキャットタワーのてっぺんでディニーを抱きしめながら、甘い声を漏らしている。
天井に届きそうなほど高いキャットタワー。
その周囲にはキャットホイールから高級ペットフードまで揃っており、猫にとってはあまりにも裕福すぎる空間が広がっている。
空で働いていた頃の貯金のおかげで、俺はそれなりに広い一軒家に住むことができた。
だが、その1階のスペースは今やほぼ全て猫用になってしまった。
正直、ここまで買う必要はないと思っていた。
しかし、バイト中は『ニコ』を1匹で家に残してしまうため、寂しい思いをさせてしまうのではないか。
そんな罪悪感から、俺は次々と猫用品を買い揃えてしまったのだ。
だが、よくよく考えてみれば、俺がバイトへ行っている間、『ニコ』は外でディニー稼ぎをしている。
寂しい思いなどするはずもない。
それに気がついたのは、全ての商品を設置した後だった。
後先考えず、とりあえず行動してしまう自分の癖には困ったものである。
ちなみに、高級ペットフードだけは『ニコ』がこれしか食べないため、仕方なく買っている。
……猫のくせに、食へのこだわりが強すぎる。
とはいえ、こうしてキャットタワーに登ったり、キャットホイールで遊んだりしてくれている。
それを見ると、買ってよかったと思う。
……まぁ、1匹の猫に対して過剰すぎたな〜という後悔も、ないと言ったら嘘になるが。
「もういっそのこと、野良猫引き取りまくって猫カフェでも開くか!! な〜んつって」
「……にゃっ」
「…………」
『はっ、アンタ馬鹿なんじゃないの?』言われたような気がするが気のせいだろう。
「さーて、腹も減ったし、何か買いにでも行くかな〜」
そう言って立ち上がった瞬間。
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
「は〜い、今出まーす」
一声かけ、玄関へ向かって歩いていく。
すると、玄関の扉から、
ゴン。
ゴン、ゴン。
「……ん?」
何かが扉を叩くような音が聞こえてきた。
おそらく、来訪者が足で玄関の下を蹴っているのだろう。
なんて失礼な来訪者だ。
……いや。
それとも、不審者か?
もしかしたら、『ニコ』が何かやらかして、その報復に来たとか?
俺は警戒心を高め、玄関横に置いてあった傘を掴む。
そして、恐る恐る玄関を開いた。
「……どちら様……って、誰もいないし」
しかし、そこには誰もいなかった。
周囲を見渡してみても、人の気配はまったくない。
「もしかして、幽霊? ……んなわけないか、ガハハ」
自分で自分を安心させるように笑い声を上げた、その瞬間。
「……にゃん」
「…………」
足元から、猫の声が聞こえた。
それも、『ニコ』の声ではない。
別の猫だ。
俺は、壊れた人形のおもちゃのように、ギギギギギ……とゆっくり首を動かし、視線を下へ向ける。
そこには——
「にゃんにゃん」
「にゃにゃにゃあー!!」
『ピー!! ガタガタ!! ピッピッピー!!』ゴンゴンゴン!!!!
赤いル◯バに乗ったシルバーと黒い毛並みをした2匹の猫が、俺を見上げながら元気よく鳴いていた。
「ごめん。野良猫引き取るかとは言ったけど、本当に引き取るとは言ってない」
猫と猫と家庭補助用高性能多目的設備が現れた!!