吸血霊鬼のレイカさん   作:ラティーシャ

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第四話【白銀陽向(シロガネ=ヒナタ)・三】

「ヒナが戻ってきてない?」

 

 教室に戻り、ヒナを探していた俺に飛んできた言葉は無情な物だった。

 

「うん。委員長がお弁当持ってカイト探しに教室出ていったきりだね」

「俺らてっきりお前と一緒に戻って来るもんだと思ってたのに、違うのか?」

「ああいや、会いはしたんだが……」

 

 情報をくれたミノとアユに嘘をつきたくはなかったが、かと言って喧嘩した事を伝えても気まずくなるだけだろう。

 ここは一旦誤魔化しておくか。

 

「それより、俺またちょっと出て来るわ」

「は!? もう昼休み終わるぞ!?」

 

 時計を見ると、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴るまでもう何分も無かった。アユが驚くのも当たり前だ。

 だがこの時間にヒナが居ない事こそ異常なのだ。ならば原因になった俺が探しに行かなければならない。

 

「午後はサボり?」

「少なくとも五限はそうなるな。帰りのホームルームまでに戻ってこられるかもわからん」

「そっか」

 

 アユと違い、ミノは冷静に確認を取る。

 少し考え込んだ後、やれやれと言った表情で俺に助言をしてくれた。

 

「多分これから雨が降るから、途中で傘買うといいよ」

「わかった。覚えておく」

「いやいや止めねえの!?」

「カイトの顔見ても止められるの? アユムって変な所で真面目だよね」

「そういうお前は変な所でロックになるよな……」

 

 俺は自分の鞄から財布だけ取り出すと、鞄を置いたまま教室を出ようと歩き出した。

 

「っと、もし俺が戻ってこなかったら帰る時に保健室まで鞄持ってってくれるか?」

「了解、任されたよ」

「頼む。それじゃ」

 

 ミノが頷いてくれた事を確認し、改めて俺は教室を後にした。

 

 

 ◇

 

 

 校門の周囲を巡回している教師の包囲網を軽く抜け、学校の敷地を抜けた俺は空を見上げた。

 

「確かにこりゃ降ってきそうだな。コンビニ寄って傘買っていこう」

 

 近くにあったはずのコンビニを探し、急いで向かった。

 ヒナが教室へ帰っていなかったのは予想外だったが、その場合にヒナが居る場所には心当たりがあった。

 そこにヒナが居た場合、傘が必要になるであろう事も。

 

「早く行ってやらねえと……」

 

 俺の頭の中はその使命感でいっぱいだった。

 ヒナが居なくなったのは間違いなく俺の言葉が原因だ。

 

『お前少し頭に血が上りすぎだ』

『少し、頭冷やせ』

 

 俺の言葉通り頭を冷やそうとしているのなら、間違いなくあの場所に居るはず。

 最後にこんな事があったのはもう何年も前だが、今回も同じはずだと妙な確信があった。

 

「……待ってろ、ヒナ」

 

 俺は買ったばかりの傘を手に、迷いなく走り出した。

 

 

 ◇

 

 

『ぐすっ……えぐっ』

 

 小さな遊具の中、膝を抱えて一人涙を流す。

 

『ヒナーっ!』

『っ……かいと?』

 

 私を探しに来たのか、公園の近くから安心する声が聞こえてくる。

 その気配はどんどん近付き、私の居る遊具のすぐそばで足音が止まった。

 

『やっぱりここか! だいじょーぶか?』

『うえぇ……かいとぉ……』

『わわっ!? なくなって!』

 

 カイトの顔を見て安心した私は、より一層涙を流す。

 それを見て慌てたカイトは一緒に遊具の中へ入り、私に寄り添ってくれた。

 

『なんでないてたんだ? やっぱヒナのかーちゃんのことか?』

『ひっく……うん』

 

 昨日、お母さんが吸血霊鬼に襲われた。

 病院に運ばれたが、まだ意識が戻っていない。

 

『おかあさん、しんじゃうのかなっておもって……わ、わたしも、おそわれるかもしれなくて……』

 

 お母さんの次は自分かもしれない。それが子供の考えすぎでない事は実体験が証明していた。

 今日までに私はもう三回も吸血霊鬼に襲われているのだから。

 

『……だいじょーぶだ! きゅーけつれいきはちがほしいから、ほとんどのひとはいきてかえってくるんだってよ!』

『ずずっ……ほんと?』

『ああ! おれがヒナにうそつくわけないだろ!』

 

 カイトはそう言って私の頭を優しく撫でてくれる。

 カイトの手は私とそんなに変わらないのに、凄く大きく感じて安心した。

 

『だからもうなくな! ヒナのかーちゃんがかえってくるまで、おれがいっしょにいてやるから!』

『……うん!』

 

 

 

「…………嘘つき」

 

 かつてこの場所であったやり取りを思い出しながら、同じ様に膝を抱える。

 小学生の私にはとても広く感じたこの遊具も、この歳ではかなり手狭に感じる。

 それでも膝を抱えて縮こまる分には充分な広さだった。

 

「なによ、あの吸血霊鬼を庇う為に嘘つくんじゃない……」

 

 学校の屋上でカイトに言われた数々の言葉が頭の中で反響する。

 

「……カイトなんか知らない。カイトだって私が吸血霊鬼にどんな目に遭わされたかわかってるくせに」

 

 うずくまって顔も覆い隠す。

 誰が見ている訳でも無いけど、こんな顔を表に出していたくなくて。

 

「……足、痛い」

 

 うずくまりながら、自分の足に手を伸ばす。

 そこには、屋外では普通履いているはずの靴が無く、代わりに学校指定の上履きがその役割を果たしていた。

 上履きも靴とはいえ屋内で履く為の物。屋外のごつごつした地面を長時間歩けるようには出来ていない。

 ゆえに想定外の使われ方をした上履きは私の足裏を守り切れず、後からじわじわと痛みが広がって来たのだ。

 

「……ぽつ、ぽつ」

「……え?」

「ザァーーーーッ…………!!」

 

 足を痛めどうやって帰ろうかと考えていると、土砂降りの雨音が遊具内に響いた。

 

「雨……そっか」

 

 足の痛みは歩けない程ではない。しかしこの土砂降りでは地面はぬかるみ、コンクリートも滑りかねない。上履きで歩くには厳しい環境だと言える。

 

「……罰が当たったのかな」

 

 冷静になった頭で何度も今日の出来事を振り返っていた。

 きっと普段の私でも同じ行動をとったとは思う。他でもないカイトに襲い掛かっていた吸血霊鬼相手なら尚更。

 しかし自分でも納得できるのはここまで。その先、カイトの話を聞こうとしなかったのはやり過ぎだった。

 今思えばカイトがあそこまで怒ったのも理解はできる。腑に落ちない部分もあるが。

 

「……でも、カイトも辛そうにしてたよね」

 

 私に怒鳴った時のカイトの顔が、まぶたの裏にこびりついて離れなかった。

 辛そうで、悲しそうで、それでも私の事を気に掛けてくれている顔。

 そんな顔をさせたのは、私の短気な行動だ。

 

「……ごめんね、カイト」

 

 バシャバシャと道行く人や車が水をはじく音が、私の声をかき消していく。

 この場にカイトは居ない。届く訳が無い。それでも口にせずにはいられなかった。

 

「ごめんね……私が悪かったの……」

 

 冷え切った頭で、ただカイトへの謝罪を繰り返す。

 自分に戒める様に。重い後悔に耐える様に。

 

「……ごめんなさい…………」

 

 言葉だけでは我慢できずに、ぽろぽろと涙も溢れ出す。

 この雨の様な大粒の涙が、私の頬を伝って地面に吸われていった。

 

 

 

 

 

「謝るなら相手の顔見て言えよな」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 幻聴かと思い、バッと顔を上げる。

 聞きたくて、聞きたくなくて、ずっと待ち望んでいた声。

 ここに居るはずの無い、来てくれるはずの無い人の声。

 

「やっぱりここかよ。雨大丈夫か……って、大丈夫な訳ねーか」

 

 そう言って遊具を覗き、私の様子を窺う顔には雨なのか汗なのか、沢山の雫で濡れていた。

 

「……よぉ。迎えに来たぜ、ヒナ」

 

 

 ◇

 

 

「カイト……どうして? っていうかなんでここが……」

「言っただろ、やっぱりって。お前がこういう時に行きそうな場所ぐらいわかってるっつの。まあ優等生で通してるお前が学校サボるのは予想外だったけど……」

 

 私を探し出したカイトは遊具の中に入ってきて、私の隣で同じように座り込んだ。

 

「お前は昔っから嫌な事があると、いつもこの遊具でめそめそ泣いてたからな」

「そんなこと……」

「無いって言えんのか? 俺は覚えてるぞ。たとえば……」

 

 カイトが記憶を辿る様に上を向き、数える様に指を立てた。

 

「小学生の頃、注意した悪ガキに逆恨みされていじめられた時とか」

「……懐かしいね、あの時はカイトがやり返しに行ってくれたっけ」

 

 結局いじめっ子と一緒にカイトも先生に怒られちゃって。

 カイトは悪くないんですって必死に伝えたけど、カイトは気にすんなって言ってて。

 カイトって強いんだなって思った。

 

「あとあれだ。ヒナのお袋さんが入院した時もここで泣いてたろ?」

「そうだね……お母さんが吸血霊鬼に襲われて、命は助かったけど何日も意識が戻らなくて。私もどんどん不安になっていって……」

 

 それでもカイトは毎日私の様子を見に来てくれた。

 お母さんが退院して私を撫でてくれるまで、毎日代わりに撫でてくれていたのはカイトの手。

 カイトって優しいんだなって思った。

 

「あー……それと、俺と喧嘩した時なんかも……」

「…………」

 

 そうだ。

 カイトと喧嘩して飛び出した時、無我夢中で走った先はいつもここだった。

 その度にカイトは私の事を探しに来てくれて。

 

「……俺が悪かった。ごめん、ヒナ」

 

 カイトは私の方を向いて、深く頭を下げる。

 誤魔化す事も、言い訳を並べる事もせず、まっすぐ素直な謝罪。

 驚いて目を見開いてしまった。

 

「レイの事隠してて悪かった。ヒナは吸血霊鬼の話をされるの嫌だと思ったから黙ってたんだ」

 

 何度も聞いた事のある、真剣な時のカイトの声。

 こんな声で話す時のカイトは、いつだってわたしに誠実だった。

 

「……私も、冷静になった今なら落ち着いて聞けると思うから。もう一回だけ聞いてもいい?」

 

 屋上では聞けなかった事を。知りたくないけど、知らないのはもっと嫌だった事を。

 深呼吸して、心を落ち着けて、カイトに訊ねた。

 

「……あれは、誰?」

 

 

 

 カイトは順を追って説明してくれた。

 あの「レイカ」と言う吸血霊鬼が路地裏で弱っていたところを思わず助けてしまった事。

 一人で行く宛も無かった彼女を家に誘った事。

 今では彼女に振り回されながら家族の様に思っている事。

 最初は下心があったって聞いた時は少しむっとしたけど、包み隠さず話してくれた。

 彼女に悪意も敵意も無かった事も。

 

「そっか……」

「やっぱレイの事はまだ気に入らないか?」

 

 カイトにそう聞かれて、返事に困ってしまう。

 私だって、吸血霊鬼と言うだけで見境なく襲い掛かる訳じゃない。保健室の逆月先生みたいに友好的な個体がほとんどだって事ももちろん知っている。

 だけどやっぱり、幼い頃からの経験と、カイトの血を吸おうとしていた光景が、私の理性を押し退けようとしていた。

 

(…………あれ)

 

 そこでふと、自分の中の怒りに疑問が湧いた。

 私は彼女のどこにここまでの怒りを抱いていたのだろう、と。

 彼女がカイトの血を吸おうとしていた事は、私が今まで何度も襲われた事と同じくらい許せなかったのか、と。

 それは、とどのつまり、カイトとの近さに怒っていたのだろうか。

 カイトが彼女を庇った時点で互いに合意の上の吸血だったと理解したはずなのに、それでも怒りが収まらなかったのは。

 

「……ん、ねぇカイト。聞いてもいい?」

「ああ、何でも聞いてくれ」

 

 自分を納得させる為に、とある質問を投げかけた。

 

「あの人と……レイカさんと、どっ……どこまでしたの?」

「ぶっ!? げほっ!! げほ……はぁ!?」

 

 私の質問の内容に、盛大にむせるカイト。

 

「お、おまっ! 何言ってんだ!?」

「お、教えて! 重要な事なの……」

「うっ……ぐっ……」

 

 カイトは恥じらいながらも、コホンと咳払いをした後に震える声で答えてくれた。

 

「レイとは血を与える側ともらう側、触れ合う機会はそんだけだ。用が無きゃ手にも触れないし、色恋的なイベントはなにもねえよ」

「……ふーん」

「……ちゃんと正直に話すと、あいつが勝手に風呂やベッドに潜り込んでくる事はある。あいつ貞操観念緩すぎるから」

「……………………………………ふーん」

 

 前半の内容で、胸がスッと楽になった。

 後半でありえないぐらい怒りが込み上げてきた。

 

「でも……そっか」

 

 これではっきりした。どうしてあそこまで冷静さを欠いてしまったのか。

 妬いていたんだ、彼女に。

 ずっと一緒だったカイトが、そばに居てくれたカイトが奪われたような気がして。

 その事に気付けた瞬間、本当の意味で冷静になる事が出来た気がした。

 

(カイト……)

 

 やっぱり私は、カイトの事が……。

 

 

 ◇

 

 

「さ、そろそろ帰ろうぜ。今なら多分ホームルームまでには帰れるだろ」

 

 カイトはそう言って私に傘を一本渡してくれる。

 だが、ここにきて忘れかけていた靴事情を思い出した。

 

「ってお前……上履きじゃねーか」

「うん。何も考えず飛び出してきちゃったから……」

「まったく、小さい頃から何にも変わってねえなぁ、そういう所」

「……えっ、カイト?」

 

 私の上履きを見てため息をついたカイトは、私の前にしゃがみ込んで背中を向けた。

 

「ほら、おんぶしてってやるから乗れよ」

「おっ、おんぶ!? わっ、私達もう高校生なんだよ!? 外でおんぶなんて……」

「そうせざるを得なくしたのはどこのどいつだって。どうせこの雨じゃ通行人なんかいねえよ」

「そうじゃなくて、いやそれもあるけどっ! ……い、色々当たっちゃうじゃない」

「……気にしないから、だ、大丈夫」

「絶対大丈夫じゃない! むっつりスケベ!!」

 

 普段は自称クールなカイトが、結構むっつりなのはわかっていた。

 自分からそういういたずらをする事は無かったけど、たまたま密着しちゃったりするとちょっとだけ興奮している姿を何度も見た事がある。

 今のこれだって、確かに仕方のない事だけれど。

 

「……仕方なく、だからね?」

 

 私は渋々カイトの背中に寄りかかり、両手が塞がるカイトの代わりに傘を手に持った。

 

「うっし、落ちないようちゃんと掴まってろよ」

 

 カイトは私が背に乗った事を確認すると、軽々立ち上がって学校に向かって歩き出した。

 

 

 

「軽いなー。ちゃんと飯食ってるのか」

「おかげさまで、今日のお昼は抜きだったよ」

「うっ、申し訳ありませんでした……」

 

 カイトは私を背負っていてもスイスイ歩いている。

 昔は私と変わらない子供だったのに、いつの間にか男と女の力の差があって。

 高校生になってから、それを初めて実感したかもしれない。

 

「ねぇ、カイト」

「あん?」

「今日は……ごめんね」

 

 カイトの背中に乗って顔は見えないけれど、いや見えないからかもしれない。

 ようやく、直接謝る事が出来た。

 

「……ああ、わかってるよ。お前がちゃんと反省できる奴だってのは」

 

 カイトにはお見通しだったようだ。

 伊達に幼馴染ではないか。

 

「カイト」

「今度はなんだよ」

「ありがとう、私を見付けてくれて」

 

 謝罪の次は感謝を。

 

「……ったく、わかってるって言ってんだろ。お前が行きそうな場所ぐらい」

 

 きっと私の居場所に気付いてくれるのはカイトだけ。

 私の事を誰よりも見てきたカイトだから。

 

「…………カイト」

「今日は随分おしゃべりじゃねえか。何だ?」

 

 私は、カイトの肩においていた手を彼の前に回した。

 背中にしっかりしがみつく様に。

 後ろから抱き着く様に密着し、カイトの耳元に顔を近付けた。

 

 

 

 

 

「…………カイトが好き。大好き」

 

 

 

 

 

「……ああ」

 

 カイトは脚を止めなかった。

 一瞬だけ呼吸が乱れた気がしたけど、取り乱す様子は無くて。

 

「……わかってたよ」

 

 告白の返事としては赤点の様な、いつも通りの声色で。

 わかっていたと、それだけ答えた。

 

「……ふふっ♪」

 

 それでよかった。予想通りだった。

 今すぐ恋人になってほしいわけじゃないし、厚かましすぎてそんな事言えない。

 ただ、カイトに背負われて、感情が溢れてしまっただけだ。

 

「ありがとう、カイト……」

 

 満足した私は、カイトの背中を強く抱きしめた。

 冷え切った雨の中、カイトの温もりを感じる様に。

 この胸の温度を、どこにも逃がさない様に。

 

 

 ◇

 

 

「で、お前委員長の事足腰立たなくなるまでいじめたってマジ?」

「ぶふあぁっ!!?」

 

 翌日。

 ヒナを背負ったままでは結局ホームルームには間に合わず、教室で俺を迎えてくれたのはアユとミノだけだった。

 叱られずに済んだのは良かったのだが、こいつらにはあらぬ誤解を与えてしまう結果になった。

 

「だから昨日説明したろ!! ヒナが上履きで飛び出しちまって、雨の中歩くには厳しいから俺が背負ってきただけだって!! なんだ足腰立たなくなるまでいじめたって!? バカじゃねえのか!!」

「でも学校抜け出して不良がクラスの委員長と逢瀬ってロマンあるよね」

「ミノまでそんな事……つーか俺別に不良じゃねえよ!!」

 

 友人二人にからかわれながらギャーギャー騒いでいると、教室の扉から見慣れた顔が姿を現す。

 

「あ! 委員長~!」

「おはようございます……? どうかしました?」

「昨日の午後居なかったから心配してたんだよ~! 具合悪くない? 怪我してない!?」

「も、もう! 私は大丈夫ですから……ふふ、ありがとうございます」

 

 クラスの友人達に心配されるヒナを見て、昨日のやり取りを少しだけ思い出す。

 

『…………カイトが好き。大好き』

 

(……聞き間違いじゃ、ねえよなぁあれは)

 

 雨の中、かき消される事無く俺の耳に届いたヒナの告白。

 それが理解できない程鈍感でも、聞き間違える程難聴でも無くて。

 気付けばヒナの事を目で追っていた。

 

「お、嫁来たぞ」

「旦那はお嫁さんが気になって仕方ないみたいだね」

「だから嫁じゃねえって言ってんだろ!!」

 

 間髪入れずに背後からからかう友人(バカ)二人。

 

「って言うかなんだよ今日は!! アユだけじゃなくミノまでからかいやがって……もしヒナに聞こえたらどうすん……」

「私がどうかした?」

「うわぁっ!!!?」

 

 目を離した途端に背後から声がかけられて盛大に飛び退く俺。

 

「大空くん、畑中くん、おはようございます」

「え!? あ、ああおはよう委員長!!」

「おはよう委員長」

 

 まるで矛先を向けられたかのように大人しくなるアユと、普段通りの挨拶を交わすミノ。

 どうしてミノはこんなに肝が据わってるんだ? ミノが動揺した所見た事無いかもしれない。

 

「あーいや委員長!? 今のは別にからかってた訳じゃ無くてぇ!! た、ただほらその、委員長はカイトの面倒よく見てやってるし~!? それっぽいなーってちょっと口が滑っちゃっただけっていうかー!!」

「アユ……」

「アユム……」

 

 アユの下手糞すぎる言い訳にミノと二人で頭を抱える。

 そんな言い訳で納得してくれるほどヒナは甘く……。

 

「ふーん、なるほど」

「あ?」

 

 ……無いと思っていたのだが、何故か機嫌良さそうにこっちを見たヒナがいたずらっぽく微笑んだ。

 

 

 

「私がお嫁さんだって。どうする、カイト?」

 

 

 

「っ…………!?!?!?!?!?」

「はっ!?」

「おぉ……」

 

 ヒナの発言とは思えない言葉に脳がフリーズする。

 俺に釣られてアユもフリーズし、ミノは顎に手を当てて感心していた。

 

「じゃ、またねカイト」

 

 ヒナはそれだけ言って自分の席に戻っていってしまった。

 

「カ、カカカカカカカイカイカカカイカ」

「カカロット?」

「カカカ、カイト!? 何だ今の!!」

「し、知らない! 俺にもわからない!!」

「も、もしかしてお前らやっぱ昨日……」

 

 アユに肩を掴まれてぐらぐら揺らされる。

 いくら振っても俺からは何も出ない。

 本当だ。何が起こったのか俺にだってわからないんだから。

 

 

 

「ほ、本当に何にもなかったんだってば!!!!!!」




逆月紗霧(サカヅキ=サギリ)


自称26歳(に400を足した数)
保健室の先生
吸血霊鬼

身長:160
スタイル:美乳、スレンダー、病的、ダウナー
よれよれの長い金髪、白衣、目の隈、目付きが悪い

一人称:先生、お姉さん、私
二人称:男子生徒、女子生徒、神上君、苗字+生徒

学校内でも有名な吸血霊鬼の先生。
いつも不健康そうな「一番保健室が必要な人」
学内で吸血霊鬼と関係のある生徒や、人のふりをして通学している吸血霊鬼の相談もこっそり受けている。
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