吸血霊鬼のレイカさん   作:ラティーシャ

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第五十話【相容れないもの】

「……カイト、多分あそこ」

 

 レイに導かれるまま辿り着いたのは、町はずれにある廃工場だった。

 

「こんなおあつらえ向きな所に潜んでやがるとか、随分ムードを大事にする大魔族さんじゃねえか」

 

 皮肉のつもりでそう呟いたが、紗霧ちゃんは【銀血】(シルバリオブルート)の事をよくナルシストだの自分に酔っているだの言っていたし、雰囲気作りと言うのはあながち間違っていないのかもしれない。

 

「あの中に、ヒナが……」

 

 そう考えただけで、勝手に足が進みそうになる。

 落ち着け、俺一人で何ができる。ここは紗霧ちゃんが言っていた通り到着を待ってから。

 

「そうだ、落ち着けて偉いぞ神上生徒」

「……………………?」

 

 その判断を褒めたのは紗霧ちゃんだった。

 

「うわ!? 本当に先に着いてたのかよ!?」

「言っただろう、君達が来るのを待っていると。まあ来たばかりだけれど」

「……それがさっき言ってた武装か?」

「いかにも」

 

 紗霧ちゃんの姿を見て俺は首を傾げた。何故なら紗霧ちゃんの姿は普段の白衣と何ら変わりがなかったからだ。

 しかし両手には以前見せてもらった手袋、銀に触れても大丈夫と言っていたものが付けられていたので本当なんだろう。

 

「神上生徒も今のうちに指輪をはめておくんだ。おっと、わかっているとは思うが間違っても私やレイカ君に触れるんじゃないよ?」

「わーってるよ」

 

 俺はポケットに入れていた銀の指輪を全て指にはめた。

 ヒナの荷物とこれが無ければレイに抱えて貰ってもっと早く辿り着けたんだが、これが無ければ何も出来ないんだから仕方ない。

 指輪をはめ、拳を握り締める。

 

「いいかい? 最初は私が【銀血(ヤツ)】にとびかかるから、二人はその隙に白銀生徒を助けるんだ。そうしたら神上生徒は白銀生徒に荷物を渡し、そのままサポートに回ってくれ。神上生徒は白銀生徒を支える様に、レイカ君は神上生徒を守るように動くんだ」

「了解」

「わかった!」

 

 廃工場の入り口を睨みながら、紗霧ちゃんは俺とレイに作戦を伝えた。

 紗霧ちゃんは元々ヒナとの二対一での戦いを想定していた。だからまずはその形に持っていくことを最優先で動く。

 その後はレイに助けてもらいながら、俺がヒナを助ける。

 

「……怖いかい」

「はぁ? 何言って……」

「震えているよ」

「えっ……」

 

 紗霧ちゃんに言われて自分の手を眺め、初めて震えに気付いた。

 寒さに震える様な小さなものじゃない、ガクガクと別の生き物のように震える手。

 いくら虚勢を張ろうと、俺の身体は正直に恐怖を訴えていた。

 

「……怖いよ」

 

 隠しても無駄だと悟り、正直な気持ちを吐露する。

 俺はただのガキだ。喧嘩だってなるべくなら避けたいと思ってるぐらいだ。

 そんな俺が大魔族と対峙しようとしている。怖くない訳がない。

 

「でも、俺は行かないといけねえんだ」

 

 ここで震えていてもヒナは助からない。

 ヒナが奪われ、失う事の方が何倍も怖いんだ。

 俺の帰る日常には、ヒナもレイも居なきゃダメなんだ。

 

「大丈夫だよ」

「レイ?」

「カイトはあたしが守るから、カイトはヒナちゃんを守って」

 

 レイの頼もしい言葉が俺の背中を押す。

 そんなレイの表情だっていつもの余裕はなく、緊張で強張っていたのに。

 負けてられないな、俺も。

 

「安心するといい。私の目が黒い内は誰も傷付けさせやしないよ」

「吸血霊鬼の目は赤いじゃねーか」

「ウィットに富んだジョークだというのに……まあいいさ」

 

 紗霧ちゃんは小さくぼやくと、俺達の前に出て歩き出した。

 

「行くよ」

「……おう」

「はいっ!」

 

 慎重に、周囲を警戒しながら俺達は廃工場へ足を踏み入れた。

 

 

 ◇

 

 

「…………」

 

 音を殺して歩きながら、紗霧ちゃんの後を追う。

 レイと紗霧ちゃんはわずかに浮く事で完全に足音を消せるが、俺はそうはいかない。

 二人から離れない様に、慎重に一歩ずつ進んで行った。

 

(暗いな……)

 

 廃工場の中は真っ暗だった。もちろん電気など通っていない。

 よく目を凝らしていなければ、何かを踏んづけて物音を立ててしまいそうだった。

 その辺りは二人も気を遣って道を選んでくれていたが、頼りきりでもいけないからな。

 

(…………お?)

 

 しばらく進んでいると、天井の穴や割れた窓から月明かりが差し込んでいる場所があった。

 これで少しは動きやすくなる。そう思っていた矢先、前の二人が動きを止める。

 

「…………チッ」

 

 紗霧ちゃんから随分不機嫌そうな舌打ちが響く。

 声を出してバレてしまったらどうするのかと思っていたが、そんな事は俺よりも充分に理解しているはず。

 その紗霧ちゃんが真っ先に声を出したと言う事は。

 

 

 

「我がガレキの城へようこそ、侵入者諸君」

 

 もう隠れるのが無駄だと言う事だ。

 

 

 

「ふむ、三人か。来るのは二人だと思っていたが外したな」

 

 月明かりのスポットライトで照らされたガレキの玉座に座り、パチパチと癇に障る拍手で俺達を出迎えたのは、銀色の長髪を後ろでまとめた長身の男だった。

 実際に見るのは初めてだったが、一目で理解した。

 

「コイツが……【銀血】(シルバリオブルート)」

 

 ヒナを攫った張本人だ。

 

「━━ヒュンッ」

「っ!?」

 

 一瞬、何かが空を切る音だけが聞こえた。

 気付いた時には俺の目の前に紗霧ちゃんの手がかざされていた。

 

「図々しいぞ小僧。貴様の様なガキにコイツ呼ばわりされる筋合いはない」

「なっ……今何が……?」

「ふん、自分の身に何が起こったのかすら判断できんか。未熟な劣等種め」

 

 紗霧ちゃんは俺の前にかざした手を開き、何かを床に落とした。

 落ちたのは一本の釘。その辺りに転がっているただの釘だ。

 でもそれはたった今、目にも留まらぬ速さで俺に向かって放たれていた。

 もし紗霧ちゃんが止めてくれなかったら、今頃……。

 

「それに引き換え、貴様は随分腕が立つ様だ」

「相変わらず聞いてるだけでイライラする話し方だね。ナルシスト野郎」

「私を知っているらしいが、生憎私は自分より美しくないものは覚えない主義でね」

「別にいいよ。その方が気兼ねなくお前を叩き潰せる」

 

 【銀血】と紗霧ちゃんは一言目からハイペースで煽り合っていた。

 だがこれも想定内。俺はレイの方へ視線を向けた。

 

「カイト! 紗霧ちゃん! あそこ!!」

 

 レイは【銀血】の座るガレキの山の近くを指差した。

 

「……!! ヒナ!!」

 

 そこには、妙に豪華なシーツの上に寝かされたヒナの姿があった。

 

「その子に何かしたのかい?」

「少し眠ってもらっているだけさ、貴様達を始末し終わる頃には目も覚ます」

 

 【銀血】の言う通り、ヒナは横たわったままピクリとも動かなかった。

 だがこれでヒナの場所は確認できた。

 後は紗霧ちゃんが【銀血】と戦い始めてから、レイと二人でヒナを起こしに行くだけ。

 

「嗚呼、しかし君だけは傷付けたりはしないよ」

「…………あ?」

 

 そう思って身構えていたら、【銀血】がわけのわからないことを口走った。

 

「何せ君をここへ案内する為に、私の手がかりを残していったのだから」

 

 こいつは何を言っている?

 俺も紗霧ちゃんも、困惑から動き出せずにいた。

 【銀血】の視線の先を辿る。それは紗霧ちゃんでも、もちろん俺でも無かった。

 

 

 

「私と共に来なさい、桜色の髪の君よ」

 

 奴はその気味の悪い視線を、レイに向けていやがったんだ。

 

 

 

「えっ……あたしの事?」

「そうだとも。私には一目見た時から気付いていたよ。君は、今となっては貴重になってしまった純血の同士だと」

 

 突然の言葉にレイもたじろいでいる。

 当たり前だ、今から倒そうとしている相手にそんな事を言われて困惑しないはずがない。

 

「上質な血液を持つ彼女の傍に、君の様な純血が居るだなんて嬉しい誤算だった。ここまで心が躍ったのは数百年ぶりだったよ」

「……な、なんであたしが欲しいの」

 

 困惑しながらも、【銀血】の言葉の意図を訊ねるレイ。

 気味が悪いだろうによく踏ん張っている。

 

「なに、ありふれた話だよ。私に相応しい血を持ち、私に相応しい美貌を持った女性を我が伴侶に。そう思っただけだ」

「ッ!?」

 

 レイの顔が恐怖に歪む。

 それを見て【銀血】はより不気味に微笑んだ。

 

「私と共に来れば、彼女の血も分けてあげよう。どうだ、悪い話ではないだろう? 各地で上質な血液の持ち主を集めながら、私と永劫の時を生きる。素晴らしいとは思わな……」

「やだっ!!」

「……何?」

 

 レイの強い拒絶に【銀血】の表情が強張る。

 

「あたしはカイトと結婚するの。それにあなたはヒナちゃんを攫ったから嫌い。あなたの伴侶になんて……絶対にならない!!」

 

 レイはきっぱりと【銀血】の提案を拒否した。

 言葉の内容には若干気になる点もあったが目を瞑ろう。

 

「……ふむ、何やら勘違いさせてしまったようだが、元より君に拒否権は無いのだ。私を拒絶すると言うなら力ずくで連れて行くまで」

「…………ん!」

 

 ゆっくりと立ち上がりレイを見下ろす【銀血】と、強い拒絶の意思を向け続けるレイ。

 

「……待てや」

 

 だが、流石の俺も黙っていられなかった。

 

「貴様……一度ならず二度までも私を愚弄するか」

「お望みなら何回だって邪魔してやるけどよ、これだけは言わせてもらうぞ」

 

 レイの前に立ち、まっすぐに【銀血】を睨みつける。

 先程の震えが嘘のように止まっていた。

 

「ヒナを攫っただけでなく、レイまで俺から奪おうって言うテメェの魂胆が何から何まで気に入らねえんだよ」

「だからなんだというんだ」

「俺は寂しがり屋らしくてな、俺の周りから大切な人間が離れていくの耐えられねえんだよ。だから……」

 

 相手は最古の大魔族? 何度も人の命を奪った極悪人?

 知らねえ。関係ねえ。

 あいつがどんなに俺より強くても、譲れない思いがあった。

 

 

 

「……俺の女に手ェ出すな」

 

 

 

「かいと……」

「くだらん事を……っ!?」

「━━スパァァァァン!!!」

「よくぞ言った神上生徒!!」

 

 【銀血】の意識が俺に向いた一瞬の隙に、紗霧ちゃんの蹴りが【銀血】を襲った。

 蹴りは受け止められ直撃とはいかなかったが、これで【銀血】は紗霧ちゃんを無視できなくなった。

 

「あの血痕の理由も聞きたかったが、勝手にべらべら喋ってくれたおかげで手間が省けたと言うものだよ」

「チィッ、小癪な!!」

「神上生徒!! 今のうちに白銀生徒を起こすんだ!!」

「おう!!」

 

 紗霧ちゃんが【銀血】を惹き付けている間に、俺とレイは横たわるヒナの下へ走り出した。

 

 

 ◇

 

 

「ヒナッ!!」

 

 横たわるヒナに駆け寄った俺は、慎重にヒナの身体を起こした。

 

「……よく考えたら、ヒナを起こせってどうすりゃいいんだ」

 

 この状況で普通に眠っている訳は無い。となると【銀血】に何かをされたというのは明白だ。

 だがその何かがわからない以上、素人の俺に対策など思い付くはずも無かった。

 

「なあレイ、お前なら誰かを眠らせたいって思った時、吸血霊鬼にしか出来なさそうな何かってわかるか?」

「えっ!? うーん、うーん……」

 

 俺からの突然の質問に首をかしげるレイ。

 急に無理な質問しているのはわかってる。でも人間の俺にわからなくても吸血霊鬼のレイにはわかるかもしれないんだ。

 

「眠らせるって言うなら、やっぱり麻酔なのかな……? でもヒナちゃんに効くのかわかんないし」

「麻酔って言うと、いつも使ってるアレ……前に全身痺れさせてきたアレか?」

「うん。使い方次第で眠らせる事も出来ると思う」

 

 確かに、医療の世界にも全身麻酔って言葉があるくらいだ。普段痛みを無くすための物を全身に回せばどうなるのかは俺も自分の身で体感した。

 ただそれだけでは説明できない部分がある。

 

「ヒナに効くかわからないってどういう事だ? 前に痛みを和らげるために色々したって言ってただろ」

「そうなんだけど……ほら、カイトはあたしのせいで喋れなくなってたでしょ? でもヒナちゃんを連れ帰ってた時は普通に喋ってたし、麻酔が切れるのもちょっと早かったの。体質なのかなって思ったけど、もし今寝てるのも麻酔なんだとしたら余計わかんなくなっちゃって」

「効果に個人差があるかもって事か……」

 

 レイの情報ではヒナは麻酔の利きが悪かった。だが目の前のヒナは明らかにその類のもので眠らされている。

 その原因がわかれば解決方法もわかるかもしれないが、それだけの情報ではどうしようもなかった。

 

「…………んっ、ぅ」

「えっ? ヒナ!?」

 

 その時、俺の腕の中でヒナの身体がわずかに動いた。

 しかしまだ意識を覚醒させるには足りない様子だ。

 

「ヒナが目覚めかけてる……なあ、レイから見て旅行の時のヒナと今のヒナ、何か違う所あるか?」

「違う所……」

 

 レイはヒナを見つめ、自分の記憶との相違点を必死に探した。

 

「……わかんない。十字架(ロザリオ)をつけてないぐらいかな」

「十字架(ロザリオ)か…………いや、案外それかもしれねえぞ」

 

 吸血霊鬼は銀や十字架でダメージを受け、能力を制限される。

 あくまで今思い付いたばかりの仮説だが、ヒナに麻酔が効き辛かったのは今まで常に銀の十字架を身に付けていたからではないだろうか。

 吸血霊鬼に効果があるのなら吸血霊鬼の身体の一部、能力に対しても効果があったっておかしくないはずだ。

 

「物は試しだ、やるだけやってやる!」

 

 俺は持って来たヒナの鞄から十字架を胸の上に乗せ、銀の指輪をはめた右手をヒナの額に、左手をヒナの手に添えた。

 ありったけの銀に触れさせることでヒナが目覚めるのを期待しながら。

 

「レイ、紗霧ちゃんの様子はどうだ」

「すごい殴り合ってる。でも大変そうだよ」

「頼むぜヒナ、紗霧ちゃんの事助けてやれるのはお前だけなんだからな。とっとと目覚ませ!」

 

 腕の中のヒナに必死に語り掛ける。

 本当は戦ってほしくない。でも全員で無事に帰る為にはヒナの力が必要なんだ。

 

「……起きないね」

「ったく、なんだかんだ寝坊助だよな、ヒナって」

 

 いつかの光景がよみがえる。

 あの時はくだらないやり取りばかりしていて、キスしてくれなきゃ起きないだのなんだのと。

 こんな鬼気迫る状況でとてもじゃないがそんな事をしているではないけれども。

 

「……無事に帰ったらキスでもなんでもしてやっから、早く起きろよ。ヒナ」

 

 ヒナを抱き締める手に力が入った。

 このままずっと目覚めないんじゃないかって言う不安すら感じていた。

 

「……ヒナちゃん。起きないんだったら、あたしがカイトにキスしてもらうからね」

「レイさん? 何言ってるんでしょうか」

「ほら、寝てても声は聞こえてるかもしれないから」

 

 確かに聴覚は死んでも最後まで残るって聞くぐらいだし、寝てるだけなら聴覚働いてそうな気もするが。

 寝てる時の外の状況が夢に出てきたりするしな。

 

「あたしからじゃなくて、カイトからキスしてもらっちゃうからね」

「…………」

 

 今心なしか、ヒナの身体に反応があった気がする。マジで言ってんの?

 非常に止めたかったが、この際効果があるなら何でもいい。レイに任せる事にしよう。

 

「優しく抱き締めて貰って、舌も入れて貰っちゃうから」

「………………」

 

 嘘だろ、本当に効果あんのかよ。またヒナの目蓋が動いた気がする。

 

「それでも起きないなら、寝てるヒナちゃん椅子に縛り付けて、目の前で続きしてもらっちゃうからね」

「……………………」

 

 レイさん。それはあまりに人の心がありませんぜ。

 鬼ですかアンタは。そうか、鬼だったか。

 

「……う、ぅん」

「っ……ヒナ!?」

 

 冗談みたいな方法だと思ったのに、マジでヒナの目蓋が開いた。

 銀や十字架とレイの言葉、どっちが効いたのかはわからないが。

 

「……ふざけたこと、言ってんじゃないわよ」

「そっちだったの!?」

 

 マジで後者だったらしい。

 頭を抱えながらヒナはゆっくりと身体を起こした。

 

「って、んな事はどうでも良いんだ! ヒナ、状況わかるか?」

「ま、待って……えっと……」

「起き抜けに悪い、でも急いでくれ!」

 

 ヒナはまだ意識が混濁している様子。わかるよ、俺も寝起きはいつだって頭が働かない。けれど今はそんな事言っていられる状況じゃないんだ。

 

「私……メアリと待ち合わせしてて、あの子が遅刻して……そうだ、【銀血】!!」

 

 【銀血】の事を思い出して一気に目が覚めたのか、ヒナは慌てて周囲を見渡した。

 

「【銀血】ならあそこだ、今紗霧ちゃんと戦ってるがキツそうなんだよ。ヒナの鞄はここにある、急いで紗霧ちゃんを手伝ってやって……」

「くっ……」

「ヒナ?」

「……無理なのよ」

 

 ヒナは小さく呻きながら胸元の十字架を握り締めた。

 

「私じゃ手伝えない……【銀血】に有効打を与えられないの!!」

「なんだ……どういう事だ?」

 

 ヒナの言葉に、戦闘中の紗霧ちゃんもちらりとこちらを見る。

 そんな紗霧ちゃんをあざ笑うかのように攻撃の手を止め、憎たらしい笑みを浮かべる【銀血】。

 

「私の習った退魔術は、力の差がある相手にいかに効率よく十字架や杭を打ち込むかを習うの。でもそれじゃ意味がない……あいつは、【銀血】は……銀(・)が(・)効(・)か(・)な(・)い(・)のッ!!」

「なっ……!?」

 

 俺達は全員、ヒナの語った絶望的な事実に耳を疑った。

 それが嘘では無い事は、ヒナの表情が物語っていた。

 

「あいつは、指輪も十字架(ロザリオ)も付けていた私の右手を素手で受け止めて、銀の杭すら掴んで放り捨てた。当たり前のように触れてたの!」

「……なんだと?」

 

 紗霧ちゃんの表情にも焦りが見える。

 当然だ、俺は紗霧ちゃんが対魔族用の銀製品を大量に持っているのを知っている。あの手袋や装備一式だって、銀が吸血霊鬼に有効だからダメージ覚悟で身に付けているはずだ。

 それが全て無駄だなんて、悪い冗談にもほどがある。

 

「……いや、ありえない。吸血霊鬼である以上、その概念を脅かす弱点だけは克服できないはずだ」

「クククク……ハハハハハハハッ!!」

「何がおかしい!」

 

 紗霧ちゃんの問いに、【銀血】はこらえきれない様子で高笑いした。

 まるで既に勝利を確信しているかの様な腹立つ顔で。

 

「ククク、いや何……この期に及んでまだ私を吸(・)血(・)霊(・)鬼(・)な(・)ど(・)という分類で計ろうとしているのが滑稽すぎてな」

「何を……言っている?」

「いいだろう。無知な貴様らに一つ知恵を授けてやろうじゃないか」

 

 【銀血】は得意気にそう語ると、差し込む月明かりの中高く飛びあがった。

 

「千年以上前、この世には吸血霊鬼などと言う言葉は存在していなかった。それは孤独に耐えられなかった者が劣等種と共存する為に自らを弱く、弱点を増やし、恐れられる存在から親しみのある種族へと己の格を下げた結果辿り着いた敗北者の姿だ。だが……この私は断じて違う!!」

 

 【銀血】が両手を広げると、その動きに連なる様にして大きな影が姿を現す。

 

「はっ…………!? んだよ、アレ……?」

「疑問に思った事は無いかね。吸血霊鬼と言う種族が居ながら、何故吸血鬼と言う概念は消える事無く存在し続けるのか……答えはシンプル、それが本来の姿だからだ!!」

 

 どこから現れたのか、チチチッという音と共に蝙蝠の群れが【銀血】の周りを囲む。

 そして【銀血】は先程までと大きく変わった姿を、その背に生える一対の大きな翼を羽ばたかせ、高らかに叫んだ。

 

 

 

「吸血霊鬼(レヴ・ダンピール)などと言うダンピール(混ざりもの)では無い! 私こそが真なる血族! 真の上位種族、吸血鬼(ヴァンパイア)なのだよ!!!」

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